パントン・カラー・インスティテュート(PANTONE COLOR INSTITUTE以下、パントン)は、2026年の「カラー・オブ・ザ・イヤー(Color of the Year)」に“クラウドダンサー(Cloud Dancer: Pantone 11-4201)”を選出した。白を選出したのは、1999年のスタート以来初めて。
暖色でも寒色でもないこのニュートラルな白は、デジタル疲れや情報過多に覆われる現代生活における「静けさ」「再起動」「白紙からのスタート」を象徴する色と位置づけられている。パントンのリアトリス・アイズマン(Leatrice Eiseman)=エグゼクティブ・ディレクターは、これを“囁きのような静穏”や“心を落ち着かせる存在”と表現。SNS上の感情的な投稿やノンストップで流れるニュースによって、一日のスクリーンタイムが平均6時間40分にもなっている現代において、“クラウドダンサー”は雑音を消し、心のリセットを促す色だという。
「“クラウドダンサー”という名前は抽象的に感じるかもしれないが、こうイメージしてみてほしい。その色の名のパンツスーツをまとった女性が雲に向かって手を伸ばしている。彼女は雲をつかみ、その上で踊ろうとしているのだ。“クラウドダンサー”は新たな出発への願望を象徴するまっさらなキャンバスを思わせ、満足感や平和、一体感を体現する色でもある。言葉にするのは難しいが、私たちの“いまの気分”が指し示したのが白だった」とアイズマン=エグゼクティブ・ディレクター。
なぜ今、“白”なのか。雲のような色が持つ意味とは
一方で、パントンが“クラウドダンサー”を発表した後、一部メディアやSNSでは批判の声があがった。その背景に、ドナルド・トランプ(Donald Trump)政権下での政治的議論の高まりやDEI(ダイバーシティー・エクイティー・インクルージョン)プログラムが後退する中、“白”を選んだことへの疑念が投げかけられている。さらには、「白は富裕層やエリート性の象徴ではないか」という指摘も。不都合な事実を隠したり、白人以外の役柄に白人俳優を配役することなどを意味する「ホワイトウオッシング」や、パントンは“音痴(空気が読めない)”と揶揄する「Pantonedeaf」といった言葉もSNSで飛び交った。
アイズマン=エグゼクティブ・ディレクターはこれに対し、「『カラー・オブ・ザ・イヤー』に関して、人々が毎年さまざまな感情を抱くことは理解している。選定プロセスでは、人間性に対する理解に根ざし、世界的な観察やトレンド分析を通じて、デザイン領域で生まれつつある動きを捉えている。色は文脈や視点によって意味が変わるし、色が喚起するムードや、デザインにおける体験を形づくる力も考慮している」とコメント。
また、“クラウドダンサー”という名称について「世界のどこにいても、私たちが雲を見上げてインスピレーションや驚きを感じるという“普遍的な体験”を表している。空を見上げるというシンプルな行動が、人々を雲の漂う軽やかさでつなげる。この普遍性こそ、選定の理由だ」と説明した。