ファッション

日本人作家が大賞受賞の「ロエベ財団 クラフトプライズ 2025」 “縄文の記憶”を宿す彫刻に賞賛

ロエベ(LOEWE)」は5月29日、スペイン・マドリードで「ロエベ財団 クラフトプライズ 2025(LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025)」の大賞および特別賞の授賞式を開催した。今年は133の国と地域から昨年を超える4600点以上の応募があり、ファイナリストに選出されたのは18の国と地域から選ばれた30人。日本からは国別最多となる5人が選ばれた。ファイナリストの作品は、マドリードのティッセン=ボルネミッサ国立美術館(Thyssen-Bornemisza National Museum)で、6月29日まで展示されている。同展覧会は、デジタルプラットフォームでも閲覧可能だ。

グランプリは日本人の青木邦眞
縄文土器の輪積み技法を応用

デザイン、建築、美術館の学芸員ら、各界の第一線で活躍する12人で構成される審査員が、ファイナリストの中から大賞と特別賞を選出した。本年度の大賞に輝いたのは、陶土を焼いて固めた彫刻作品を生み出した青木邦眞。日本人の大賞受賞は2023年以来で、3人目となる。埼玉県出身の彫刻家の青木の作品は、紐状に伸ばした粘土を何重にも積み重ねて成形する、縄文土器の輪積み技法を基本とする。特徴的なのは、数cmの粘土の層を圧縮して乾燥させ、さらに積み上げては上から圧力をかけて乾燥を待つなど、力を加える独自の手法だ。これにより素材が歪んだり、うねったり、ひび割れたりの偶発性を含む有機的な形状を探究する。青木は、「力の痕跡や、積み重ねてきた時間を留めて、命を宿したような作品づくりを目指している。長い歳月をかけて成長する珊瑚や、小さな虫による巨大な巣など、微細な力の積み重ねによる自然界の営みがインスピレーションの一つ」と話した。授賞式後は、「まさか自分が大賞を受賞できるとは、想像もしていなかったが、国際的なプライズでの評価は自信に繋がる。なにより素晴らしい作家や審査員と対話でき、素晴らしい経験となった。これを糧に自分自身の殻を破って、挑戦と探究を続けたい」と感想を述べた。審査員らは、伝統的な紐作りの技法を素直に用いている点と、素材が生のままの姿で表現されている点を評価し、「作品から作家の粘り強さと献身を見てとることができる」とコメントを寄せた。大賞を受賞した青木には、賞金5万ユーロ(約810万円)が授与される。

特別賞に選ばれたのは、ナイジェリア出身のニフェミ・マーカス=ベロ(Nifemi Marcus-Bello)と、インド出身のスマクシ・シン(Sumakshi Singh)が主宰するスタジオ スマクシ・シン(Studio Sumakshi Singh)の2人。グローバリゼーションや消費主義の影響といったテーマを掲げるインダストリアルデザイナーのベロは、自動車業界のアルミニウムを再利用して、ベンチとボウルを結合させたコンテンポラリーアート“TM Bench with Bowl”を手がけた。一方シンの作品“Monument”は、インド・デリーに位置する12世紀の歴史的建造物の柱をモチーフに、銅製のザリ糸(純銅とナイロンからなる糸)を水溶性の布地に縫い付け、その布を溶かすことで、繊細な構造体を残す手法を採用。伝統的なインドの組紐、レース編み、刺繍の技法も織り込みながら、イメージの劣化や崩壊、そして記憶の保存に対する一つの考察を示した。

ファイナリストに残った
4人の日本人の作品を紹介

ティッセン=ボルネミッサ国立美術館での展覧会には、大賞を受賞した青木の他に、ファイナリストに選出された4人の日本人の作品も展示される。ガラスアーティストの近岡令の作品は、半透明のガラスのリボンが巻きつけられた動と静の間に繊細な緊張感が漂う。透明なガラス粒子を柔らかいセラミック繊維の間に挟み込むことで、焼成前に自在に形を成形する独自の革新的な技法を用いている。麻生あかりは、細く繊細な竹の裂片を日本の伝統的な四つ目編み技法を用いて染色・編み上げ、角張った多面体の造形作品を生み出した。ジュエリーアーティストの田口史樹は、家紋の伝統、ゴシックの紋章、建築的要素に着想を得た、4点から成るシルバー製ブローチのシリーズが評価を得た。落ち葉を素材に使用した、石黒幹朗の作品も注目に値する。落ち葉を細かく砕いてペースト状にし、それを板の上に広げて乾燥させた後、切り出して組み立てることで、中空の立方体状の彫刻作品を制作した。

シーラ・ロエベ(Sheila Loewe)=ロエベ財団プレジデントは、「大賞作品は、日本のユニークな古代の技法を継承しつつ、独自のアプローチでまったく新しい造形を生み出し、クラフトの未来を切り拓く表現を創出している点が素晴らしいと感じた。『ロエベ財団 クラフトプライズ』が才能を持った方々が作品を発表する場となり、クラフトに対する見方を世界規模で変えていることを、私は非常に誇りに思っている」と話した。また、審査員を務めるオリヴィエ・ガベ(Olivier Gabet)=ルーヴル美術館装飾美術部門ディレクターは、「審査するうえで重視しているのは、作品が”美意識”を宿しているかということ。素晴らしい名匠の技であっても、“美意識”や芸術的発展という点では全く無知な場合がある。“美意識”を磨くことはクラフトに限らず、ラグジュアリーブランドが昨今、非常に注力していること。クラフトの世界では、歴史と文化的背景から東アジアが非常に優勢であるが、アフリカ、南西アジアと、受賞者も応募者も地理的に拡がっている。これは文化的なクラフトの価値がグローバルに高まっていることを示唆しており、本年度の興味深い点だった」と続けた。

「ロエベ財団 クラフトプライズ」は、ロエベ財団が現代の職人らの卓越性や芸術的価値を称える目的で2016年にスタート。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が、クラフトの協働工房であった「ロエベ」の創業形態にインスピレーションを得て発案したのがきっかけだ。アンダーソンはブランドを去っているが、「ロエベ財団 クラフトプライズ」は今後も継続され、次回の作品の応募手続きを間もなく開始する予定だ。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

令和のプレイングマネジャー11人のマネジメントの秘訣とは? 84社の人事部アンケートの結果も公開

7月14日号の「WWDJAPAN」は、「令和のプレイングマネジャー」特集です。 現場と経営層とをつなぐ需要な役割を果たすのが、中間管理職(課長クラス)。プレイヤーでありながら、マネジャーとしてチームメンバーを鼓舞し、成果を出す――ファッション&ビューティ企業で活躍する、そんな「令和のプレイングマネジャー」を紹介します。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。