「ちょっと怖かったかな?でも、それが狙いだったんだよ」。「ディーゼル(DIESEL)」での最後のショーを終えたグレン・マーティンス(Glenn Martens)=クリエイティブ・ディレクターは、バックステージでそう語り始めた。人々の感情を揺さぶることが得意なマーティンスには、これまで何度も驚かされてきたが、彼にとってのラストショーとなった2027年春夏コレクションもやはり一筋縄ではいかなかった。「ディーゼル」の根幹にあるセクシーでブレイブな精神を存分に解放し、会場は例に漏れず熱気に包まれた。
クラブを再現した空間
会場は暗闇の中にスモークが立ち込め、クラブを再現したような空間だった。以前、マーティンスはインタビューで「もうレイバーは卒業した」と話していたが、それでもナイトシーンとの距離は近い。彼にとってそこは、「“いま”を敏感に感じているコミュニティーが、時代をどう解釈し、未来に何を期待しているのかを教えてくれる場所」でもあるという。ユースカルチャーの渦中に身を置き続けてきた、彼のルーツを色濃く感じさせる舞台だった。
優等生ルックの裏に潜むトロンプルイユと崩し
序盤は、クラブにはそぐわない端正な細身のパンツにテーラードジャケット、シャツ、ニットを合わせた優等生的なスタイルが軸。とはいえ、王道のクラシックで終わらせないのがマーティンスだ。ストライプシャツとVネックニットは輪郭が溶け合うようにドッキングし、ジャケットの上には別のヘリンボーンジャケットを重ねたかのような柄をプリントして、トロンプルイユを仕掛ける。グレーのジップアップトップに黒のニットを重ねたミニ丈のルックは、裾や胸元がボロボロに裂けたようでもあり、花びらが広がったようにも見えた。
客席で始まるメイクアウト
BGMのドナ・サマーの「Love to Love You Baby」がゆったりと流れ出すと、客席に紛れていたパフォーマーたちが隣り合う人とキスを交わし、身体を絡ませながら身をくねらせ始めた。まるでクラブの片隅で、目の前のカップルが突然メイクアウトを始めたようだった。その熱は瞬く間に伝播し、次第に観客の至る所で濃厚なキスや抱擁が交わされるようになっていった。
「For Successful Living」の精神を感じるラスト
そちらに気を取られている間にも、ランウエイでは服がどんどん乱れていく。シャツのボタンは大きく外され、ニットやTシャツは身体に巻き付くようにねじれ、肌があらわになる。モデルたちの口紅も、激しいキスを終えた後のように崩れていた。身体に張り付くTシャツは下着と一体になるようにドレープされ、暗闇の中で慌てて服を拾い集め、そのまま着て出てきたようでもある。
ラストルックは、マイクロデニムショーツの上に白いシャツをさらりと羽織ったスタイル。乱れた服装とは裏腹に、モデルはどこかすがすがしい表情で歩いていく。そこには、前季に掲げた「Walk of Shame(気まずい朝帰り)」の続きがある。誰かの部屋で夜を過ごし、翌朝、よく分からないまま服を身につけて外へ出る。でも本人は少しも後ろめたくない。むしろ最高の夜を過ごした自信さえも感じさせる。客席ではパフォーマーたちがリズムに合わせて頭を激しく振り、踊り続ける熱気の中、ショーは幕を閉じだ。「For Successful Living」、自分らしく人生を楽しむという「ディーゼル」の精神に観客は拍手を送った。
マーティンスの6年間
貫いた「Fun」な精神
マーティンスは2020年に「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターに就任。以降、デニムを軸にした加工やハイブリッド、トロンプルイユといった服作りを押し広げる一方、巨大なインスタレーションや一般客を巻き込んだショーなどを通して、ブランドの周囲にコミュニティーと体験を作ってきた。若年層顧客の獲得にも成功し、2025年は過去10年で最高収益を記録した。
記者から最後に「『ディーゼル』でのあなたの仕事を、どんなふうに記憶してほしいか?」と聞かれると、マーテインスは「Funかな」と即答。「僕たちがずっと大切にしてきたのは、『ディーゼル』の核に近いところにいること。愛すること、尊重すること、そして人生を最大限に楽しむことだ。僕たちはラグジュアリーブランドを装ったことはない。少しオルタナティブなことをしながら、コミュニティーや人々を大切にしてきた。同時に、服としてちゃんと面白く、何かを語れるものを作ることも大事にしてきた」と振り返る。彼の6年間は、服の面白さはもちろん、「ディーゼル」を着る人たちを巻き込み、コミュニティーをもデザインしながら、時代のアティチュードを生み出すことに貢献しただろう。