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香りで企業の価値を高め、問題を解決する“セント マーケティング”とは? 店舗の売り上げアップに寄与も

PROFILE: 浜田剛知(はまだごうち)/Japan Global Association代表取締役

浜田剛知(はまだごうち)/Japan Global Association代表取締役
PROFILE: 1989年生まれ。幼少期を米ワシントンDCで育つ。早稲田大学大学院を卒業。大学在学中の18歳の時に友人たちと起業し、Japan Global Associationを設立。その後、中国の北京大学、カタールのカタール大学、韓国の建国大学、アメリカのカルフォルニア大学にも留学。英語、中国語、韓国語、アラビア語も操るマルチリンガル。留学先の大学は全て主席に相当する成績を修める。MENSA会員でもある PHOTO:MICHIKA MOCHIZUKI

“セント マーケティング”という言葉をご存知だろうか?企業やブランドの考え方や理念、背景を、香りという“非言語的な感情情報”に翻訳する仕事だ。企業やブランドにとってのシグニチャーとなる、いわばロゴマークのような香りをオーダーで一から作る。そのシグニチャーとなる香りをベースに売り上げを上げたい、社員のやる気を向上させたい、生産性をあげたいといった細分化された課題にも処方となる香りを作り出し、ディフューザーを用いて店舗やオフィス、空間などに散布する。それによって実際に売り上げが何倍にも増えた事例もあるという。

Japan Global Association(以下、JAGA)の浜田剛知(ごうち)代表取締役は、現在37歳。大学に在学中に起業し、20年間この分野を開拓してきた。ラグジュアリーブランドやホテル、飲食業界などからオファーが絶えない。これまで裏方に徹し、ほとんどインタビューを受けてこなかったという。しかしここ5、6年で市場が急成長し、既製品でサブスクリプション提案をする他社もある中、本来の“セント マーケティング”を伝えたいという思いで取材に応じた。

調香師たちが一からオーダーメードで作る香り

JAGAは、既製品ではなく天然香料をベースに取引先のニーズ、課題をヒアリングし、すべて一からオリジナル処方の香りを作るのが特徴だ。原料を集めるため、北アフリカやヨーロッパ、オーストラリアなどをスタッフの調香師と飛び回り、クオリティーチェックしたものを買い付ける。「我々しか買い付けられないような原料もある」という。

絶滅が危惧される一部の原料を自社農園で育ててもいる。世界をまわって生産者から直接仕入れたり、自ら栽培したりすることで単なる香料会社という枠を越え、多くのニーズに応える香りを探求し続けている。浜田代表取締役は、「既製品の場合、そこには企業の文化的背景とか思いや理念は到底表現されておらず、本来の意味の課題解決にはならない」と話す。過去には日本を象徴するような権威のある場所で使用するために150万トンもの桜の花びらを集め、800mLしか作れない香料を作り出すなど、原料に並々ならぬエネルギーを注ぎ、こだわり続けてきた。

JAGAには現在7人の調香師が在籍している。日本では臭気判定士やアロマテラピー検定はあるが、調香師の資格取得はないため、フランスの調香師の専門学校で学位を取得した調香師たちが、一から香りを調香している。

このような“香りのマーケティング”はヨーロッパで古くからあり、日本はだいぶ後発だという。「天然香料で例えばセロトニンの分泌やオキシトシンの分泌を促し、ストレス値の軽減や副交感神経を少し優位にしてリラックスさせたり、副腎皮質を刺激してアドレナリンの分泌を促して血管を拡張させたりと、いろんなことができます。ヨーロッパではこれを“メディカルアロマ”ともいい、これは医療行為に準ずる行為で、お医者さんが学ぶことなんです」と浜田代表。

“五感マーケティング”とよく言われるようになってきた中で、嗅覚だけ置き去りだった。「それが今急成長していて、本来の“セント マーケティング”とは離れた商法も増え、それによって『香り、意味ないじゃん』となる企業や、『これじゃだめだ』って気づいて、結局いろんなツテをたどって当社にたどり着いてくれる企業が多かった」という。

“セント マーケティング”で企業の課題解決を

企業からはさまざまな相談が寄せられる。売り上げアップや社長のブランディング、社員のやる気向上や離職率を減らす、株主総会では出席者を怒らせないための“鎮静化”を促す香りなど、相談は実にさまざまだ。売り上げアップに関しては、飲食店では食欲を増大させる香りや、そのほか店舗全般では滞在時間を長くすることで購買の機会を増やすといった施策を行うという。

水を使用するアトラクションや水族館の匂いにおいては、きれいな水の匂いをプロデュースすることで、没入感を増幅させたり、動物臭を消したりもしている。「匂いが気になる場所では無臭化することもあります。例えば、空港などの人種が行き交う場所では、人が感知できない香りにすることで消臭をしたり、飲食店の下水臭など空間に既にある香りと相対する香りをぶつけて香りを消したりもします」。

中にはこんな例もある。「インバウンドの免税手続きの列が大行列で、イライラして帰っちゃう人がいっぱいいるんですよ。その対策で、ストレス値を下げるような香りを出すと、帰らずに手続きしてくれる割合が増えるんです」。

一番難しいのは“気づかせない香り”

“セント マーケティング”のもう1つの本質は、“気づかせない香り”だという。「例えば、ホテルのいい香りって我々もたくさんやっていますが、これって実はそんなに難しくないんですよ。でも一番難しいのって、“気づかせない香り”なんです。例えば精密機器の蓋開けると新品の匂いがすると思うのですが、あれも当社の香りが入っているんです。世界的な企業は地域ごとに担当会社がいて、われわれは日本を担当しているのですが、やっぱりグローバル企業のすごいところは、鼻の構造をすごく研究していて、民族とか遺伝子ごとの違いを細かく研究しているんですよ」。

人間に潜在的に“居心地いいな” とか“こうしたいな”と思うような感覚をプロデュースしていくのが“セント マーケティング”の核であり、一番の大切なところだ。「用途によってはあえて“気づかせる”こともあります。ホテルは居心地が良いなと感じるようにするために気づかせないとだめなのですが、みなさんが室内アトラクションに入っても、誰も香りがあると思わないと思うんですよ。溶け込んでいるから、気づかない。その世界観の没入感を作っているんです。アトラクションの室内の香りをそれぞれの目的に合わせて変えているんです。世界観を再現するのに実は鼻ってすごく大事なんです。海外の一部の一流アーティストは曲ごとやシーンが変わる時にパーンと香りを変え、ライブでの没入感を演出しています」。

YOSHIROTTEN大規模個展でも香りのコラボレーション

2027年1月11日まで虎ノ門ヒルズ ステーションタワー内「TOKYO NODE」で開催中のアーティスト、YOSHIROTTEN(ヨシロットン)の大規模個展「ヨシロットン展 彼方との交信/BEYOND EARTH」では、JAGAが展示空間を香りで演出している。さらに、会場で体感できる2つの香りを自宅でも楽しめる数量限定のリードディフューザー「BEYOND EARTH|彼方の香り(SUN)」と「BEYOND EARTH|彼方の香り(RGB)」をプロデュースした。JAGAはイベントや展示空間における香りのプロデュースや商品化でも多くの実績を持つ。香りを単なる空間の付加価値ではなく、ブランドや作品の世界観を伝えるコミュニケーション手段の一つとして捉えた試みだ。YOSHIROTTENが一貫したテーマとして掲げてきた「見えないものの可視化」は、目には見えない香りによって空間の印象や体験を生み出す“セント マーケティング”にも通じる。

人間の無意識に訴えかけるからこそ

香りという目に見えないものをどう効果測定していくのか。「当社は大学研究機関と連携するなどして、香りのエビデンスも大事にしています。熊本大学や、杏林大学などの先生方にも協力を仰ぎ、いろんな香りの成分の分析をしてもらっています。医療レベルではないのですが、ビジネス商用レベルのエビデンスの確保をしているので、それを企業側に開示することもあります。例えば元々の検証データで、従来の平均滞在時間で女性:4分49.2秒、男性:2分56.8秒のところを男女合算データで6分22.3秒滞在時間を延ばすことができる成分があり、小売業だとその滞在時間が伸びやすくなることによって、商品接点時間が伸びるので、商品購入件数が増えやすいというのが一例です」。

人間をコントロールするとまではいかないものの、ある程度、香りで無意識に働きかけられる“セント マーケティング”において必ず遵守していることがある。「まず大前提でIFRA(International Fragrance Association)という国際香粧品香料協会の国際規格を遵守しています。法律ではないので遵守してない日本の企業は実際多くあります。我々は外資系のお客さまが多いので、必ず証書を提出しています。そこから外れるようなものは使いません。独自研究を進めてく中で、香りの香気成分中にあるさまざまな機能性もあれば、中毒になってしまうような毒性のものもいっぱいあるんですよ。独自で把握しているものもいっぱいあるので、使わないようにしたり、その毒性だけ抜いたりしています。しかも、そのIFRAの基準も変わることがあるのでその都度チェックして、変更が必要な場合には変更します。店舗数が多い取引先もありますが、その際には全ての店舗で変更します」。

天然と合成で分かれている日本の香料業界

日本の香料業界は天然と合成で分かれているという。「でもこれって良し悪しで、天然香料の魅力は、例えば自然のものから採っているので香りが優しかったり、薬理効果という機能性があったりします。鼻から入って脳に伝わって、脳の中のいろんな伝達物質から人体にリアクションを起こすっていうことが、香りの持つ機能性ですが、天然香料だともう30分とかで匂いが消えちゃうんですよ。一方、人間が人工的に石油由来の物質から作っている合成香料は品質も安定していて、安全性も高い。香りの持続時間も長いのですが、薬理効果、機能性がゼロなんです。合成香料だと人体でリアクションが起きない。ただし持続性が長いので、世界のスタンダードってこの2つを掛け合わせて一つの処方を作るんです」と浜田代表。

「お互いの長所を組み合わせて、機能性と持続時間と、いろんな複雑性を担保させる。でも日本の香料業界はどちらかしかないことがほとんどなので、遅れているんです。当社はどちらもきちんと使えるスタッフたちしかいないので、ほかにない、唯一無二の複雑な香りが作れる自負があります。実際にその香りを嗅いで『これ合成が入ってるでしょ』って思う人は少ないと思います。そもそも気づかないと思います。研究と開発を重ねることで、その調香の割合も、企業の要件ごとに変えられるのも強みです」。

現在、取引先のうち7割はラグジュアリーブランドを含む外資企業だ。依頼時から丁寧なヒアリングを重ね、最短半年ぐらいで取引先の“シグネチャー セント”と呼ぶその企業を表現するような香りを作る。「“シグネチャー セント”を圧縮する技術が僕たちにはあって、それを“セントポイント(お客様の顧客接点機会・場所)”用に使い分けているんです。これを“ベースコンパウンド”というのですが、例えば、企業のエントランスは、このシグネチャー セント。じゃあ休憩室はもっと休憩できるようにリラックスしたいとなったら、シグネチャーセントを50パーセント程度までを圧縮して、空いた50パーセントにリラックス成分をいっぱい入れたものにするんです。おしぼりはこうしたいよねとか、オフィス空間を集中させたいからこうしようとか。香りの共通項をきちんと維持しながら、残り50パーセントで機能性とか鼻当たりとかも調整してくみたいなことをやっています。そうすると鼻当たりの違和感が生まれないので、“セントポイント”として、きちんとひとつ一つの香りでその企業のことを想起させることができます」。

ヨーロッパは自分たちの香りを持つことが一流

ヨーロッパでは、自分たちの香りを持つことが一流と言われている。「自分たちの香りを持ってからようやく、ちゃんとしているよねって言われるぐらいなので、ブランドロゴと同じぐらいの重要度で考えている。ヨーロッパではそれがもう当たり前ですね」。

JAGAではそれを今後日本企業にも広めていきたいという展望を持つ。「オリジナリティーはすごく大事であり、独自性と一貫性ってブランドが作るべき大切なことだと思うんです。でもその香りがどこかのものだと、もうその時点で誰かが嗅いだことある何かでしかないので、独自性ではなくなる。だからやっぱり特にファッションとかビューティに携わる皆さんには、オリジナルの香りを持ってもらいたいと思っています」。

日本人だから分かる香りの複雑性

もっと日本企業に啓蒙していきたい理由は明白だ。「元々日本人って鼻がいいし、すごく香りの相性いいんですよ。かつ細やかで繊細な香りが分かるので、複雑に作れるんです。香りって実は複雑に作るのって難しいんですけど、複雑に作れば作るほど良くて。人間って、その日の体調とか気象条件とかいろんな外的要因とか内的要因によって、必要な成分が違うんですよね」。

「人は必要な成分っていい匂いに感じやすいんですよ。逆に不要な成分って嫌な匂いに感じちゃうことが多いんです。香りの成分が15とか20種類で少ないと、どれもその日の自分に必要じゃないってことがある。そうすると昨日買ったディフューザーとか香水がなんかちょっと気分じゃないなとなり、体調によって変わってしまう。我々は“シグネチャー セント”を作るのに100種類以上混ぜたりするんですけど、そうすると100個もあると、どれか一個ぐらいは当てはまるんですよね。人間はちゃんとその部分感じるので、いつ誰にでも嫌ではない香りが作れる。人間が本能でいいなと思っているのを、その中からかぎ分けているんです。そうすると、万人性の担保が取れるので、ある程度公共空間でも使用できる。そういったこともできるからこその複雑性の担保みたいのもあって。他社ではなかなかできないことだと思います」。

「しかもこの複雑性って、日本人だから分かることなんですよね。なので、日本の企業がやらないのはもったいないと思うんです。日本の企業こそ“セント マーケティング”に合っている。独自性とかオリジナリティーをどんどんどんどん出すことで、世界と戦える企業にもっとなっていくと思います。今は多くの企業がまだ嗅覚のパートが抜け落ちちゃっているのですが、それがいかに人間行動とか印象とかに残るかを知ってほしい。香りだけでは何かにはならないですが、香りや空間、サービスとか、いろんな出来事が組み合わさることによって、さまざまなことを思い出させてくれる“メディア”みたいなものになるんです」。

現在の取引先数はおよそ1500社。同社の2025年10月期の売上高は17億円で増収増益を続けている。「将来的には1万社を目指していきたい。山登りで言うと今は1合目くらい。今後、調香師も増やして、事業規模拡大だけでなく、香りの市場も増やしていきながら“香りがあること”を文化にしていきたい」。

「“セント マーケティング”は、人間の本能とか本質にすごく寄り添ったところでの、いろんなブランディングとか課題解決ができる数少ない手法の1つで、かつ日本人との相性も良い。せっかく香りを楽しめる民族である日本人だからこそ、香りをビジネスでもプライベートでももっとみんなが楽しんでくれたらうれしい。香りがあることが、豊かな暮らしになっていく。そして臭覚の良さを生かして、どんどん香りのいろんな良さを見つけてほしい」。

>Japan Global Association(JAGA)公式サイト

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