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A24注目映画「バックルームズ」 21歳の新鋭・ケイン・パーソンズ監督インタビュー 「人間の衝動」「ノスタルジー」「創作」について

黄色い壁紙と蛍光灯に覆われ、どこまで進んでも出口の見えない無人の空間——。インターネット上で無数の物語や解釈を生みながら広がってきた異空間「バックルームズ」が、長編映画となって9月4日に日本公開された。

その起源は、2019年に匿名掲示板「4chan」へ投稿された一枚の写真。それをもとにネット上でさまざまな設定や物語が派生していくなか、独自の「バックルームズ」を作り上げ、大きな注目を集めたのが本作で長編監督デビューを果たしたケイン・パーソンズ(Kane Parsons)だ。2022年、当時16歳だったパーソンズはYouTubeに短編「The Backrooms (Found Footage)」を投稿。実写と見紛うような巧みなCG技術によって、おぞましくも魅力的な独自の世界を構築した。その映像は瞬く間に映画業界の目にも留まり、公開からわずか1カ月ほどで長編映画化に向けた企画が始動。ジェームズ・ワン率いるアトミック・モンスターと21ラップスによる企画開発を経て、A24プレゼンツの長編映画として製作された。そして5月に本国で公開されるや否や、全米興行収入ランキング初登場1位を記録し、パーソンズは20歳にして史上最年少で全米興収首位を飾った監督となった。

インターネットから生まれた異空間を、初の長編映画でパーソンズはどのように捉え直したのか。未知のものを理解しようとする人間の衝動、空間と心理の関係、ノスタルジーと記憶、そして映画・ゲーム・インターネットを横断する自身の創作について、来日を果たしたパーソンズに話を聞いた。

人間の衝動が最終的に人類を滅ぼすものになり得るのか

——「バックルームズ」を観て、改めて人間は「理解できないもの」をそのままにしておけない生き物であると実感しました。作中では主人公のクラークがバックルームズの地図を作り、企業はその空間を管理しようとする。そして映画の外でも本作をめぐり「Reddit」などでさまざまな考察合戦が繰り広げられている。こうした、未知のものを理解可能なものに変換したがる人間の衝動に興味があったのでしょうか。

ケイン・パーソンズ(以下、パーソンズ):その衝動は「バックルームズ」について考える上で常に中心にあったものであり、YouTubeシリーズから今回の長編映画に至るまで、一貫して重要なテーマでした。私自身、このシリーズに何年も取り組む中で、「すべての情報を把握していたい」という感覚との付き合い方が少し変わってきたと思います。

本作で考えたかったのは、人間が自分たちよりも大きな構造やシステムを体系的に作り上げ、私たちが処理しようとしているあらゆる情報をそこに保持し、代わりに処理させるようになってきた、ということです。社会的な構造もそうですし、技術的なシステムや、私たちが作っているソフトウェアもそう。そうしたさまざまなものによって、私たちは基本的に「現実を処理する」という行為そのものを外部に委ねている。

そして、それによって私たちはどこへ向かっているのか。その過程で人間の神経系に何が欠けていくのか、私たちは何を失ってしまうのか、ということを見つめたかった。結局のところ私が考えようとしているのは、そうした人間の衝動が、最終的に人類を滅ぼすものになり得るのか、という問いです。その衝動を単純に「間違い」と決めつけているわけではありません。人類の何百万年もの進化の中で、何らかの具体的な理由があって発達してきたものですから。ただ私は、それが人間の持つ最もかけがえのないものなのか、それとも結果的に破滅へとつながる「間違い」なのか、ということに興味があるんです。

——また主人公がバックルームズの地図を作ることと、カウンセリングで自分の過去を言葉にしていくことは、どちらも“理解できないものを整理していく”行為として通じるところがあると思うのですが、その二つは意識的に重ねていたのでしょうか?

パーソンズ:はい。かなり意識していました。先ほど話したこととも近いのですが、こうして物事を地図化したり、理解しようとしたりする行為には、もう一つ「不安」という側面があると思っています。人が社会的に孤立したり、人とのつながりを失ったり、あるいは何らかの心理的なストレスを抱えたりすると、ある種の心理状態に陥ることがあります。そして、これは社会全体のレベルでも起きている。今はインターネットによって非常に強くつながった世界になっていますが、その一方で、社会全体の心理状態はますますパラノイア的になっているように感じます。

実際に存在するかどうかも分からないパターンを探し、隠されたシステムや権力関係に強い関心を持つようになる。そうした執着は、人々が感じる社会的な孤立や分断が強まるにつれて、ますます増えていると思います。だから私が考えていたことの一つは、私たちは何かを「解くべき謎」だと思い込んでしまうことがある、ということ。でも実際には、自分自身を追いかけながら、同じところをぐるぐる回っているだけなのかもしれない。そうなると、それは破壊的な習慣になってしまいます。

「バックルームズ」におけるノスタルジー

——「バックルームズ」の元となった写真が撮影された建物も、かつて家具店として使われていたそうですね。本作でも主人公の職場が家具店ですが、家具店そのものも、生活空間を模していながら誰も暮らしていないという点で、どこかバックルームズに似ています。例えば「イケア(IKEA)」のモデルルームなどもそうですよね。そうした家具店という場所とバックルームズのあいだに、どのようなつながりを感じていたのでしょうか?

パーソンズ:まず「バックルームズ」という名前そのものから連想したものとのつながりがありました。もちろん文脈によって意味は変わりますが、私がその言葉を聞いて最初に思い浮かべるのは、小売店の裏側にあるバックヤードのような場所です。余った商品、例えば家具などが置かれている場所ですね。だから「バックルームズ」という発想には、もともとある種の商業的、企業的な側面が組み込まれているんです。

それから、すべての始まりとなったあの写真や、いま人々がバックルームズから連想するイメージを考えると、そこにあるのはやはり「空虚さ」です。役割を失ったシステムのように感じるものであり、目的を失い、中身をくり抜かれたような状態で、ただそこに放置されている。その意味で映画の主人公であるクラークもよく似ています。彼は家具店を営んでいますが、商売はあまりうまくいっていない。完全に行き止まりにいるわけではないけれど、彼の置かれている状況にも、どこかバックルームズに通じるものがあると思います。さらにクラークは、かつて建築家を志しながら挫折し、いまは家具店で働いています。つまり現在も、家具という、人々の生活空間を形づくるものを扱っているわけです。だから彼は、空間がどのように構成され、それをどう扱うことができるのかについて、少なくとも自分なりの理解を持っている。

また、強調したかったのは、私たちと世界との関係が「環境がどう形成されるか」によってさまざまに変化するということです。舞台となる1990年代のカリフォルニアでは、家具の見せ方や家のつくり、建物の導線など、生活を取り巻く空間がある種のデザイン原則に沿って形づくられていました。もちろん、それは今も根本的には変わっていません。そうした空間のレイアウトやデザインは、人の心理にもさまざまな反応を引き起こします。そうした意味でも、クラークのような人物が映画の後半で、ある意味「建築の根源」のようなものにたどり着くという設定には、意味があると思っています。

——監督はこれまでのインタビューでも、ノスタルジーと記憶の関係についてたびたび語っていますね。劇中に登場する家具店や書籍の架空CMでは、現実が実物より魅力的なもののように作り替えられていますが、それを見て、ノスタルジーもまた、過去が記憶の中で少しずつ美しく作り変えられたイメージ、いわば「過去の広告」のようなものなのではないかと感じました。

パーソンズ:「過去の広告」という言い方は、とても的確だと思います。「バックルームズ」におけるノスタルジーは、実際の過去をありのままに映すものというより、一種の「罠」に近いものです。これは特段新しい考えではありません。例えば人は子ども時代を懐かしく思いますが、もし本当にその時代へタイムトラベルしたとしたら、長い年月をかけて記憶のなかに蓄積されてきた温かさや輝きの多くは失われてしまうでしょう。

社会全体でも、ある特定の時代をみんなが一斉に美化するようなことがあります。例えば私の同世代では、2016年を「史上最高の一年だった」と語る人がとても多い。でも当時は、メディアや社会ではむしろ「最悪の年の一つ」のように捉えられていました。そこには一貫性がありません。つまり、私たちが抱く過去のイメージは、時間とともに変わっていくんです。そして、私たちはもうその時代には存在していない。現在の私たちはすでにその時間を後にしていて、望むと望まざるとにかかわらず、脳も変化し、その過去との関係も変わっていく。だから過去という「場所」そのものが、私たちの中で変化していくんです。それはもう、ある意味では別の存在になっていると言えると思います。

——本作ではバックルームズだけでなく現実世界の風景でさえ色が鮮やかすぎたり、整いすぎていたりして、どこか作り物のように感じられました。この映画の中では「現実の世界」をどのような感覚の場所として作ろうとしたのでしょうか?

パーソンズ:この映画の舞台であるカリフォルニア州サンノゼは、私が育った場所と地理的にもかなり近い地域です。映画に出てくる、なだらかに連なる緑の丘はすごく非現実的な風景に見えるかもしれませんが、実際に行ってみると本当にあんな感じなんです。Windows XPの壁紙になった有名な緑の丘の写真を知っていますか? 私が育った家——いまもそこに住んでいるのですが——は、あの写真が撮られた場所から15分ほどのところにあります。だから、ああいう風景には昔からとてもなじみがあるんです。もちろん、いつもあんな青空が広がっているわけではありませんが。

この映画では、そうした実際の風景から、特定のイメージを少し強調しています。ここでもノスタルジーの話につながりますが、私たちは映画を忠実に「1990年そのもの」に見せようとしたわけではありません。美術のアプローチとしては、1990年当時の実際の風景やディテールと、現在から振り返ったときの記憶を組み合わせ、それを一つのレンズに通して1990年をつくるような感覚でした。だから、仰るように現実より少し鮮やかだったり、記憶に残りやすい象徴的なイメージが強調されているわけです。ただ、そうやって現実を少し誇張することで呼び起こしたかったのは、単なるノスタルジーではありません。むしろ「自分の記憶は本当に正しいのか」と疑うような感覚、さらには自分自身を疑うような感覚だったと思います。

影響を受けてきたもの

——監督はこれまで、ゲームやインターネットなど、映画以外のメディアからも大きな影響を受けてきたと話しています。そうしたバックグラウンドを持つ監督が初めて長編映画を作ったことで、映画という形式について新しく気づいたことはありましたか?

パーソンズ:本当に多くのことを学びました。技術的に言えば、この映画の開発を始める前の自分と、今の自分ではかなり違うと思います。もとより映像や物語に関しては、自分が何を求めているのかはわかっていました。でもそれを実際の映画にしようと思うと、かなり大きなチームと一緒に仕事をしながら、全体をうまく機能させ、それぞれが限られた時間を最大限に活用できるようにしなければいけない。もちろん予算など、お金に関わることも考えないといけない。そうした技術的、実務的な部分については、以前よりずっと理解が深まりました。

文化的、芸術的な部分でも、いろいろなことを学んだと思います。ただ、それによって「ハリウッド映画があって、その一方にインターネットやゲームがある」というように考えるようになったわけではありません。私にとっては、すべてが繋がりあっているんです。私たちはこの世界に生まれた時点で、そうしたものすべてに同時に触れています。それらが別々のものになるのは、自分で境界線を引き、それぞれを別のカテゴリーに隔離したときだけです。だから私は、できるだけ頭の中からカテゴリーを消して、自分が何に興味を持っているのか、そのときどんな状況にいるのかに、進む方向を決めてもらうようにしています。

もしかすると数年後にはゲーム制作にのめり込んでいるかもしれないし、大きな映画を作ることから少し離れて、マニアックなオンラインARGやウェブシリーズを作っているかもしれない。音楽もやっていますしね。できる限り、慣習から生まれる「こうあるべきだ」という期待の外側にいたいと考えています。

——影響を受けたものの中に日本の作品はあるんでしょうか。

パーソンズ:あります……が、日本に限らず私が受けている影響の多くは無意識のものなので、それがどこから来たのかを完全に突き止めることはできないと思います。それは多くの人にとって同じでしょう。ただ、何年にもわたって繰り返し触れてきたものや、ずっとファンであり続けているものを考えると、日本から生まれた作品はたくさんあります。2021年頃には、「進撃の巨人」の世界を本物の戦争映像のように見せる、ざらついたファウンドフッテージ風の短編を作ったくらいですから。なので「進撃の巨人」は、私に大きな影響を与えた作品の一つですね。私の参照元はいろいろな方向に散らばっていますが、「妄想代理人」も別のインタビューで何度か名前を挙げています。「バックルームズ」よりも、私が手がけた別のシリーズ「The Oldest View」(パーソンズ制作のYouTubeホラーシリーズ)とのつながりの方が強いと思います。

もっと大きく言えば、私が惹かれているのは、日本の作品にある独特の感覚です。例えば、社会を統御している大きなシステムを、人間がその中で関わらざるを得ない一つの「仕組み」として捉える感覚と言いましょうか。日本の作品では、そうした大きな構造そのものが、具体的な超自然的存在や現象として立ち現れ、物語の焦点になることが多いように感じます。少なくとも私には、西洋の作品よりそれがはっきりと見える。その感覚がとても好きなんです。

私は、アートを「現実を処理するための厳密な手段」として使うことが好きです。日本ではそうした傾向がより強いように感じますし、特にSFやホラーでは、一つのパターンとして見られる気がします。とはいえ、私自身もまだいろいろ探っている途中ではありますが。なにしろ忙しくて、そもそもあまり作品を観られていませんから。

「大切なのは自分が毎日をどう過ごすか」

——今は誰でもものづくりを始められる一方で、SNSを開けば世界中の優れた作品や才能が次々と目に入り、自分と比較してしまいやすい時代でもあります。監督自身も、多くの人が使えるツールから始め、それを長く使い続けることで現在に至っていると伺っています。これから何かを作り始める若い人が、周囲との比較に飲み込まれず、自分の興味を追い続けるために大切なことは何だと思いますか?

パーソンズ:私はアドバイスをするのが少し苦手なんです。何を言っても、どこかで当てはまらなくなるような気がするので。まだ十分に考え抜いた答えではないんですが……。

仰るように私が最初に使ったのはWindows ムービーメーカーでしたし、若いころはソフトウェアをかなり違法に入手していました(笑)。もちろん、それを推奨するつもりはありません。ただ、いまは「Blender」のように無料で使えるソフトもありますし、ものづくりを始めるための技術的なハードル自体はかなり低いと思います。私自身、性能の高くない安いパソコンで作業していました。当たり前ですが、時間は必要です。一日の中で何時間かをそこに使わなければならない。私は子どものころ、幸運にもそういう時間を持つことができて、ソフトを使う習慣を身につけることができました。

他人との比較について言えば、SNSを見て「こんなに才能のある人がたくさんいるのに、自分がどうやってこの人たちと競争できるんだろう」と感じることがありますよね。私もそうでした。でも今では、昔から尊敬していた人や、その作品を見て育った人たちに実際に会う機会があります。そこでわかるのは、当たり前ですが、みんなただの人間だということです。彼らも同じ年齢だったころには、きっと似たような気持ちを抱えていたと思います。だから、「自分には、あの人が持っている何かが欠けている」と考える必要はありません。それよりも、「才能」というものを、人それぞれに数値が割り振られているようなものとして捉えないことの方が大切だと思います。すばらしい作品を一本つくった人でも、それ以外の作品が同じように響くとは限りません。

結局のところ、大切なのは、自分が毎日をどう過ごすかです。もし、ものづくりを人生を通して続けたいと思うなら、人生のどこかで何度か、多くの人に響く作品を生み出せるかもしれない。もちろん、うまくいかないこともたくさんあるでしょう。でも、何より大切なのは続けることです。続けていれば、いつか何かがうまくいく。すると人々はその一つの作品を見て、「この人はものすごく才能がある」と、その人全体を判断するんです。そのためには何より、その作業自体を本当に楽しめることが大切なんだと思います。

PHOTOS:HIRONORI SAKUNAGA

映画「バックルームズ」

■「バックルームズ」
9月4日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:ケイン・パーソンズ  
出演:キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ、マーク・デュプラス、フィン・ベネット他
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2026|アメリカ|126分|英語|5.1ch|原題:Backrooms|字幕翻訳:佐藤恵子 | 映倫:G |
©️2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
「バックルームズ」公式サイト

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