
掲載されるそれぞれのルックはもちろんのこと、ロケ地、装丁デザイン、レイアウト、用紙選びなど、隅々にまでこだわりの詰まったルックブック。前回の記事では、撮影当日の様子についてご紹介しました。
カメラマンの笠原颯太さんによるお写真を生かしながら、「変わりゆくなかで変わらないもの」というコンセプトをより反映したものにできるよう、フライヤーやルックブックの製本にも数々の工夫を施しています。
第3回目となる今回の連載では、それらを実際にかたちにしていく様子についてお話しします。
流れる文字と
私たちが離したくないもの

ショーの顔とも言えるフライヤーではタイトル「それでも離さずにいて」と、コンセプト「変わりゆくなかで変わらないもの」に内包される思いをいかに視覚的に伝達するかという点に頭を悩ませました。
写真選びにおいては、タイトルに呼応するよう、車や人々が通り過ぎていく歩道橋のなかで、離さずにいたいものを強く抱きしめながら行く末を見つめているカットを採用しました。
タイトルのデザインは、「それでも離さずにいて」という一連のフレーズを1本の糸に見立て、“離”の字で結び目ができているようなイメージを1文字ずつ丁寧に構成しました。流れるようなひらがなの連なりの中に、大きく“離”という漢字を配置し、影を「離」のみにつけることで、画面上において「変化のなかにある不変」という対比の創出を試みました。
また、写真の美しさを引き立てたいという考えのもと、文字は無機質ながらもどこか自然な可憐さを持つ角ゴシック体を基調に構成しています。
フライヤーというショーのイメージを形作る媒体を担当することには、とてつもない緊張感がありました。しかし、その中でも私なりに離したくないものを見出しながら制作に取り組んだことで、様々な角度からモノづくりに励む部員やご協力いただいている皆様の思いまでも1つの画面に落とし込むことができたと思っています。
ルックブック制作記
ーーめくられるページを貫く枠
ルックブックの製本は、昨年に引き続きイニュニックさまにご依頼しています。担当者との打ち合わせの際には、数多くの素敵なアイデアをご提案いただき、よりよいものをつくりたいという思いが一層大きくなりました。
入稿データはAdobe Illustratorを使える部員を中心に、会議で相談しながら制作を進めています。担当の部員が作成してくれた仮データが共有されたときは、パソコンを取り巻くように部員から感嘆と興奮の声があがりました。
写真の色味やサイズ感を確認するため、大学内のコピー機にデータを印刷しに行くたびに、隣接するコンビニでアイスを買っておやつ休憩をしたりなど、制作作業は大変ながらも楽しく穏やかなひとときでした。
今年度の装丁は、ページをくり抜く仕掛けを最も大きな特徴としています。背表紙を残した全ページを貫くようにしてくり抜かれた枠からは、タイトル「それでも離さずにいて」の文字が覗きます。このタイトルにはデボス加工を施し、ページを貫いてぎゅっと押し込まれ、刻み込まれたようなイメージを持たせました。頁がめくられ、移り変わっていく中でも、変わらずにあり続ける軸を可視化したデザインです。
コンセプト文章が掲載される1ページ目にはパールのようにキラキラとした用紙を採用。光により映りが変化する中でも変わらずにある思想というものをここでも表現しています。
紙に刻んだ凹凸
ーー触覚に託したメッセージ
ルックブックの表紙のデザインにあたり、「それでも離さずにいて」というコンセプトを、視覚情報だけでなく、触覚を通してより直接的かつ感覚的に伝える手法を模索しました。
そこで着目したのが、デボス加工という印刷技術の持つ“凹凸”という特徴です。この手触りをデザインの核に据え、「触れる」という動作を通してコンセプトの解釈へ繋がる触覚的な印象をデザインしました。
「離さず」という言葉が想起させる手の感触に基づき、点字を用いて「それでも離さずにいて」というメッセージを刻んでいます。指先の触覚によって読み取られ、点が集合することで意味を成す点字の普遍性、そしてその行為自体に、今回のショーのテーマである「変わりゆくなかで変わらないもの」という解釈と深い共通項を見出すことができたと感じています。
ルックブックを手に取るという行為が、メッセージに触れる、そして本年度のショーの根底にある思想に触れる体験となることを意図しています。
変わりゆくものを切り取る想い
製作者の思いや撮影者の意図を伝えることができる期待に胸を躍らせながら、ルックブックのレイアウトを組みました。
今回の服造規定である携行アイテムに直感的に視線が集まるよう、全く同じ大きさと比率でルックとアイテムを見開きに配置しました。また、フォトグラファーの笠原さんの作風を念入りに観察し、大胆で捻りのある配置を採用しています。
ルックブックを制作するにあたって、構成を行う前に全てのルックを色で捉えました。強弱や明暗、濃淡そして彩度など、様々な言葉で表現することができる色ですが、ルックも同様に1つの言葉では表しきれない表情があります。1枚の写真に写し出されたそれぞれのルックに見ることができる色を、レイアウトにおいても滑らかに表現しました。また、今回は景色のカットを各ルックのセクションに散りばめています。自分なりに各ルックに適合する景色を厳選したため、変わりゆく景色の表情の中で見出すことのできるルックの魅力を是非お手に取ってご覧いただけますと幸いです。
また、ロケ撮影にてすみあいかさんに撮影していただいたティザー映像を、近日公式Instagramにて公開します。今年度のコンセプトやルックの魅力が反映された大変すてきな映像に仕上がりましたので、併せてご覧いただければと思います。
次回はいよいよショー本番。ひとつのランウエイをつくりあげていく一部始終を綴ります。
TEXT:CHIZURU KOBAYASHI, KOHARU YANAGI, NINA KATANO