ファッション

「僕が手仕事を伝えていかなきゃ」 職人の決意がにじむ「キジマ タカユキ」初の実演型展示会 

木島隆幸デザイナーによる帽子ブランド「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」は7月9日、2026年春夏コレクションの展示会「これからのキジマ」を開催した。同ブランドは通常ラインのほかに、17年に始動したハイエンドライン“ハイライン(HIGHLINE)”と、21年に始動したアップサイクルライン“アンサーイット(ANSWER IT)”の2つをもつ。本展はこの2ラインの国内初の展示会となった。新作を単に並べて披露するのではなく、デザイナー本人が帽子作りの手順をデモンストレーションするとともに、ライン立ち上げの経緯などを直接説明した。

“パリの帽子の帝王”が提唱者
オートモードの技術を込めて

木島デザイナーが“ハイライン”を始めたのは、師匠である平田暁夫のもとで学んだ技術を次世代に継承したいという思いからだったという。平田は“パリの帽子の帝王”と呼ばれた帽子職人ジャン・バルテ(JEAN BARTHET)からオートモード技術(オートクチュールで帽子を作る方法)を習得して日本に持ち帰った人物。通常、帽子は木型職人が作った型をもとに成形するが、オートモードの技があればデザイナー自ら「チップ」と呼ばれる仮縫いの型を作り、イメージ通りのフォルムで帽子を仕上げられるという。

木島は師の教えを現代風に自由に解釈し、肩肘張らずに被れるエレガントな帽子を“ハイライン”でデザイン・製造してきた。価格帯は10万円前後であり、帽子としては高価格ながら、珠玉の技術を考えれば納得だ。フェルト地の中折れハットを例にとり、「丁寧な手仕事だからこそ醸し出せる柔らかな風合いが楽しめる」と木島デザイナー。

パンデミックをチャンスに変える
ビンテージ帽子を再構築

一方、アップサイクルライン“アンサーイット”については、自身でも帽子ブランド「ノゾミ クロカワ(NOZOMI KUROKAWA)」を営む黒川望デザイナーが紹介。同ラインはコロナ禍による材料の供給難や価格高騰によって帽子業界が苦境に直面したことをきっかけに生まれた。主にヨーロッパのビンテージ帽子を解体・クリーニング・再構築しながら、一点もののモダンな帽子として生まれ変わらせる。黒川デザイナーによれば、「昔の人は体格も小柄で、その分帽子のサイズも小さい。“アンサーイット”では複数の帽子のパーツを組み合わせることでサイズアップしながら、これからも被りやすいデザインに昇華する」という。

“アップサイクル”というだけに、生地も余すことなく使うことを心掛けている。例えば、裏地が付いた仕様のビンテージ帽はムレの原因になりかねないため、“アンサーイット”では取り外すが、表面に装飾として配置し直すなどしながら、デザインパーツとして再利用する。

“伝統”と“革新”の帽子
通底する手仕事への思い

30年以上のキャリアを持つ木島デザイナーだが、自ら制作過程を語りながら披露するプレゼンテーション形式の展示会は、今回が初の試みだった。「ハイラインが伝統に根ざすなら、アンサーイットは未来への挑戦」(黒川デザイナー)。両ラインの思想やアプローチは対照的ではあるが、“手仕事”という本質へのこだわりが通底している。

「人前で話すのは得意じゃない」と笑いながらも、木島が今回、あえてプレゼンテーションという形式を選んだのは、帽子作りにおいて守り続けてきたクラフツマンシップをきちんと伝え、それを絶やすまいという思いからだ。「手前味噌だが、僕は“手仕事”の技術を次につなぐ立場にいると思っている。だからこそ、きちんと“伝える”場を設けることが必要だと、最近はますます強く感じるようになっている」。

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