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「サロモン」が注目、ロマンあふれる古道で登る富士山 オーバーツーリズムにも一石

アメアスポーツジャパンの「サロモン(SALOMON)」が、山梨・富士吉田との包括連携協定の一環で、富士山吉田口登山道にある山小屋、中ノ茶屋をリニューアルしたというので、取材に行ってきました。吉田口登山道と聞くと、富士山の登山道の中で一番有名な、有料道路の富士スバルライン5合目からの吉田ルートと勘違いしそうですが、それとは別。江戸時代に大流行した富士講(富士登山信仰)で使われていた、山麓から頂上まで歩いて登れる唯一の登山道が吉田口登山道です。

「5合目まで車で行けるのに、あえて麓から歩いて登る人なんているの!?」「5合目以上を登るだけでも苦しいのに!」という声が聞こえてきそうですし、実際この道を通る人はあまりいないそう。でもこの吉田口登山道、山岳レースの富士登山競走のコースになっており、トレイルランナーにはお馴染みだったりします。「レースには出ないけど、年1回は富士吉田市役所から吉田口登山道で富士山を登る」という玄人的な楽しみ方をしているPR業の友人(もちろんトレイルランナー)が、私の周りにもいます。

「そんな楽しみ方、かなりの体力自慢の猛者でなければできないのでは……」「自分には無理無理」と私自身も思っていましたが、今回中ノ茶屋に取材に行って、吉田口登山道に対する印象がかなり変わりました。あの道は、トレイルランナーが駆け抜ける以外にもたくさんの魅力が詰まっており、ちょっとしたハイキングや自然散策にもいい。古地図を見ながら街を歩くのが趣味という高齢の方(私の父もまさにその1人)にも、うってつけな歴史的ロマンを感じる道でした。

歴史を知って登ると楽しさ倍増

吉田口登山道の歴史的ロマンとは何か。それは、近代のスポーツ登山になる前の富士登山に触れられるという点にあります。中ノ茶屋のリニューアルセレモニー取材の後、茶屋(標高1100メートル)から馬返し(同1450メートル)というポイントまでバスで移動し、周辺を地元登山ガイドの太田安彦さんと散策するというミニツアーが開催されていたので参加しました。山麓から山頂まで歩けることが売りの吉田口登山道なのに、バス移動はちょっともったいない気もしましたが(時間が限られていたのでしょうがないのですが)、でも逆に言えば、脚力に自信がない人や高齢者でも、このエリア内なら、バスや車で安全に散策できるということ。中ノ茶屋では「サロモン」のトレランシューズやハイキングシューズも貸し出しているので、アウトドア用の靴を持っていない人も安心です。

ミニツアー中、太田さんは富士登山の歴史のキモの部分を解説してくれました。鎌倉〜室町の頃に修験道としての富士登山が広がり(今でも山頂で山伏さんを見かけることがありますね)、江戸期以降は宗教兼レジャーとしての富士講登山が庶民の間で大流行。その遺構が吉田口登山道にはたくさん残されているとのことで、中ノ茶屋や馬返しの周りにいくつか並んでいたお墓のような石碑もまさにそれ。どれも富士講の結願の記念碑で、うち1つは大正9年に33度の富士山登頂を達成したという人の記念碑でした。

「ふーん、33回登頂記念か〜。ひと夏に3回登るとして10年ちょいだな」などと軽々しく私は考えていたんですが、「いやいやそんなもんじゃない、これは人生をかけた回数なんだ」とガイド太田さんが話していたのが印象的です。確かに今は、高速道路で都内からすぐに富士の麓に行けますが、昔は麓まで行くのがまず大変。ひと夏に1回行けるかどうかであり、平均寿命だって大正期の日本人男性は50歳以下(乳幼児死亡率の高さで実際より短命に算出されている面はあり)なんですよね。

そういうことを聞きながら散策すると、「昔の人はここをこんなふうに登っていたのかしら」などと思いが巡って、コースタイムや地図を見ながらとにかく山頂を目指す、普段の登山とはまた違う面白さがありました。太田さん曰く、従来は「ニーズがニッチ過ぎて年1〜2回しか開催していなかった」吉田口登山道ツアーですが、今夏からもう少し増やしていくそうですよ。気になる方は太田さんが代表理事を務めるマウントフジトレイルクラブに問い合わせを。

「スピードに感動した」

ミニツアーの最中、馬返しにある茶屋、大文司屋のご主人も挨拶に出てこられました。聞けば5年前に早期退職し、江戸時代から続いてきた家業の茶屋を6代目として復活させたとのこと。富士スバルラインが1964年に開業して以降、吉田口登山道は廃れてしまい、大文司屋も同年に閉鎖していたそうです。復活以降は、「長期休暇で滞在している欧米系の訪日客が、吉田口登山道をゆったりハイキングする中で立ち寄るケースが多い」との話で、茶屋のメニューにも英字が踊っていました。大文司屋以外にも、富士スバルライン開通以降に閉鎖してしまった5合目以下の山小屋や茶屋は多いそうです。

コロナ明け以降の富士山は訪日客からの人気が凄まじく、著しいオーバーツーリズムやそれに伴う危険性についての報道が年々増えています。今年から静岡側でも入山料4000円を徴収するようになり、オーバーツーリズムもやや抑えられるのかもしれませんが、5合目以上の混雑緩和は引き続き地元にとって大きな課題。富士吉田も、5合目以上の混雑緩和との表裏一体として、5合目以下のエリアの活性化を課題として掲げています。

富士吉田と「サロモン」との取り組みは、まさに5合目以下の活性化を目指したもの。吉田口登山道の遺構の復元や登山道やトイレ整備などを進め、スバルライン開通で閉鎖してしまった山小屋に事業者を呼び戻し、市内の飲食店などとも連携し、5合目以上を登るだけが富士山の魅力ではないと、発信していくようです。それって、昨今ブームと言われる低山の楽しみ方とも通じるところがあって、支持を広げそうです。

行政との取り組みというと、稟議書の嵐で合意までに長い時間がかかるというイメージがあります。でも、「サロモン」が富士吉田とつながったのは、24年11月に同地でイベントを行って以降だそう。半年たらずでここまで進めたのかと驚きましたし、富士吉田の堀内茂市長も「『サロモン』は3月12日に包括連携協定を結ぶやいなや、中ノ茶屋のリニューアルに動いてくれ、そのスピードに感動した」と話していました。このプランニング力や実行力に、「サロモン」のビジネス絶好調の片鱗を見た気がしますし、富士吉田も優秀な職員さんがたくさんいる自治体なんだなと感じた次第です。

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