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記憶の向こう側をくすぐる中毒性のある作品 トレーディングミュージアムで展示中のミナミリョウヘイが語る創造の原点

PROFILE: ミナミリョウヘイ/現代美術家

ミナミリョウヘイ/現代美術家
PROFILE: 美術家。絵画・立体・映像・音・写真・灯体・既製品・ゴミなど多種多様な要素で空間構成した「場」に漂う雰囲気の質感にフォーカスしたインスタレーション作品を軸に活動。ミナミは、作者の意図する内容や付随させた意味よりも、言葉にすると劣化してしまうような「感覚する何かの質感」に興味を持つ。 それは「雰囲気の向こう側をくすぐられるような感覚」の探求でもある。一方、民族 M・DOBUTSU・ナマスコワンツなどの名義で音楽活動をし、複合表現集団 ANTIBODIES Collectiveではコンテンポラリーダンサー・音楽家・インスタレーション作家として所属。またDIYオルタナティブレーベル〈A NiCE FORM〉主宰と、その活動領域は縦横無尽である。主な個展に[PaRoooLe] CALM & PUNK GALLERY(2023、東京)、グループ展に[Art Fair NAKANOJO 2024](2024、旧廣盛酒造, 群馬)、[MUSIC LOVES ART - MICUSRAT] SUMMER SONIC 2024, 幕張メッセ(2024、千葉)などがある。 PHOTO:TAKAO IWASAWA

画家、造形作家、映像作家、写真家、ミュージシャン、ダンサーなどさまざまなジャンルをシームレスに活動するミナミリョウヘイの大型インスタレーションが、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のコンセプトストアであるトレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン(以下、トレーディングミュージアム) の2店舗で開催している。期間は11月25日まで。ミナミは、記憶や感覚の質感に注視し、絵画や彫刻、映像、音楽など多様な要素で空間を構成するインスタレーション作品を軸に活動してきた。CDやレコードジャケットのアートワークを手掛けながら、自身もDJやコンテンポラリーダンサー、音楽家としてアンチボディズ・コレクティブ(ANTIBODIES Collective)に所属。さらにはオルタナティブレーベル「ア ナイスフォーム(A NiCE FORM)」を主宰する。今回は最新作のインスターレーションの制作背景から、縦横無尽に活動を続ける思考の軌跡や見据えるこの先を探る。

WWD:ペインティングや映像作品、立体作品、ミュージシャン、ダンサーと幅広く活動されていますが、モノ作りを始めたきっかけを教えていただけますか?

ミナミリョウヘイ(以下、ミナミ):小学校の頃に漫画をトレースするのが好きで、そこから何かを描いたりしていましたね。自主的に何かを作った記憶は中学生の頃。 “作品“という意識はないですけど、岡先生っていう美術の担当に自分で作ったあれこれを見せるのが好きでしたね。ある時、3階の美術室の窓から階下のケント紙に向けて絵の具を適当に垂れ流していたんですけど、ベチャベチャと溜まったものを撮影したり掲げたりして遊んでいた時に「これじゃないか」って思ったことが創作の始まりだと思います。言葉にしづらいですけど自分で感じたことを全部混ぜたジュースみたいな感覚でした。

WWD:意図して何かを作るというより、遊びの延長で出来上がったんですね。

ミナミ:そうですね。「何か変で、何かヤバいもの」。それこそ、段ボールを適当に合体させた変な立体物を作ってはすぐ壊す。それが自分の中で “作品“っていう感覚がありました。

WWD:そこから活動領域はどのように広がっていったんでしょうか?ミナミさんの活動にとって音楽は切り離せないと思いますが。

ミナミ:そうですね。音楽は根本です。僕が小5の頃、中学生の兄が「ニルヴァーナ(Nirvana)」とか「オアシス(Oasis)」とか、いわゆるMTVジャパンで流れているようなアーティストをよく聴いていたんですけど、そこから急に「エイフェックスツイン(Aphex Twin)」とか「スクエアプッシャー(Squarepusher)」とかを聴き出したんですよ。その影響もあって、「エイフェックスツイン」が好きになりました。その頃にはジャンル関係なく聴いていましたね。

WWD:音楽の話ができる同年代の友達はいたんですか?

ミナミ:誰も話が合わないから、兄が唯一の友達みたいな(笑)。そこから自分でも掘るようになって、ミックステープを作ってました。そのジャケを自分で描いてもいましたね。世には出ていないけど、自分のレーベルが始まっていたという感覚があって、勝手に楽しんでいました。

WWD:架空のレーベルのミックステープが意図して作ったものの原体験。

ミナミ:ある意味、自分だけの商品みたいな感じです。

WWD:ミナミさんにとって、音楽がペインティングやドローイング、インスタレーション、立体などの他の作品にもたらす影響についてはどう考えていますか?

ミナミ:僕にとっては基本的に全部同じ素材です。音も視覚表現も身体表現も。制作の基本はコラージュなので、いろいろな素材をカットアップしていくように全部に影響し合いますから。さっきのミックステープを作る感覚が完全に今と一緒ですね。僕は音も映像も絵画も立体作品も作るのですが、録音してからジャケを作るまでの一連の作業は、本当だったらグラフィックデザイナーやイラストレーターとかが関わりますが、全部自分がやりたいことなんですよ。だから結局、絵を描いてもそこに音楽や映像が欲しくなってきて、誰かに頼むよりも自分で作った方が早いし、理想の質感に出来上がるように「カセットテープのジャケットが欲しいから自分で描く」感覚でジャンルが増えていきました。立体物では、空間に対する要素も欲しくなるから、映像も含めたインスタレーションになっていきました。初めの展覧会は絵画だけだったんです。何か経緯があるのではなくて、そもそも必要な素材は自分で集めてきて、自分で合体させるみたいなことを昔から続けていたので。

WWD:ミナミさんが主宰のレーベル「ア ナイスフォーム(A NiCE FORM)」もこれまでDIYで作品を作られてきたことがベースにあるのでしょうか。

ミナミ:そうですね。まだCDしか出してないけど、バイナルもリリースしたいですし。ある意味ジャケありきで音源を作りたいですね。今はサブスクだけでいいというようなレーベルもありますけど、やっぱり印刷物が好きです。そんなきっかけでレーベルをやりだしました。自分のモチベーションに正直にいるだけです。昨年「カーム アンド パンクギャラリー(CALM & PUNK GALLERY、以下、カーム アンド パンク)」の展示でも似たような話になったんですけど、僕にコンセプチュアルなことは一切ないんです。批判するつもりはないですけど、コンセプトに興味がなくて。だから必要もないなと。鑑賞者の記憶をくすぐるような作品を作りたいだけなんです。

WWD:記憶をくすぐるとは?

ミナミ:記憶も触覚のように触るというか。ガラスや布、鉄を触ったりする触覚での質感とは違うけれど、記憶にも“質感“と呼ばざるを得ないものが伴います。それを振り分けてるのが海馬の手前あたりの器官らしいんですね。その質感の異なる個々のクオリアが大切だと思うんです。要するに記憶っていろんな引き出しにしまうじゃないですか。振り分けられる手前で、例えば風景でも“甘い風景“って感じたり、音なのに“黒い音“とか“青い音“とか、いろんな感覚器官が混ざった質感を僕らは記憶で持っているんです。“向こう側“って僕は呼んでるんですけど、そこの記憶をくすぐる時に一番大切なのは雰囲気という概念。雰囲気には日常で常に触れていますが、ノイズとか言葉にしづらい「いいな」という感覚は人ぞれぞれですよね。各々センサーが違うからでしょうけど、雰囲気のちょっと向こう側をくすぐられた感覚にあるんですよね。その“向こう側系“に触れられた時の記憶に新しい質感を覚えてるのだと思います。「何だこれは?」っていう記憶に残る中毒性。

WWD:言葉ではなかなか理解しづらい気もしますね。

ミナミ:理解しなくていいと思うんです。記憶の向こう側に触っていることを言語化してしまうと、どんどん劣化してしまいますから。刺身をレンジでチンした感覚というか。要は生モノなんです。初期衝動とか何かをくらった時の感覚はある種、質感のバグだとも思っています。記憶の質感は全員違っていい。今回の作品も、1つの作品をじっくり鑑賞してもいいですし、でもやっぱり全体のインパクトが強いから、その雰囲気の質感にくらってほしいというこだわりはありますね。

WWD:明確なコンセプトがあって理解を深めてくという展示の仕方ではなく、全体でどんどん沼にハマっていく感覚でしょうか。

ミナミ:そういう意味のコンセプトなのかもしれないです。ただ、コンセプチュアルアートと考えたことはないですけど。

「ギャルソン」からの直接オファーで決まったインスタレーション

WWD:ちなみに今回の展示はどうやって決まったんでしょうか。

ミナミ:2020年に岡本太郎賞に入選した作品を「コム デ ギャルソン」の榎本さんが見にこられていて、気にしてくださっていたそうなんです。そこから今回のタイミングでトレーディング ミュージアムの2店舗で展示したいとお声掛けいただきました。

WWD:話を聞いた時はどういう気持ちでしたか?

ミナミ:「ギャルソン」から連絡がきて、すぐに「やります」とお伝えしました。当時は日本の最高位のブランドという認識くらいしかありませんでした。知れば知るほどすごいことだと感じるようになりましたけど、いつも通りにしようとは思ってました。

WWD:「トレーディングミュージアム」を見てどのように作り上げていったんでしょうか?

ミナミ:構想とかはざっくりとしか決めませんでしたね。円柱の中に世界を作ることでしたが、実はエスキースが苦手で。「ジャイル」の店舗はパイプ椅子のコラージュだけの世界で、ミッドタウンはそこから即興的に作り上げていきました。チェーンソーで切って、ボンドを混ぜた絵の具を垂れ流した木彫りの立体彫刻とそこから空間をコラージュしていくように、即興的に仕上がっていきました。結局、質感が全く異なるものがメイクできました。自分が全開という感覚はあります。

WWD:ちなみに今回の円柱の構成からいうと、木彫の作品を置くことも結果的に作ってからのアイデアだったんですか?

ミナミ:これは「カームアンドパンク」の展示からスタートしたシリーズで、新作を作りたいとは思っていました。これまでは色が入った作品が多かったんですが、今年はほとんどモノクロのドローイングの作品を描いていたのでそのイメージが漠然と頭に浮かんではいました。今回の展示がタイムリーだったと思いますね。

WWD:ブランドの定番でもある黒が偶然のタイミングで合致したということですね。

ミナミ:そう。タイムリー過ぎて驚きました。今、自分ではモノクロがアツいんです。

WWD:川久保(玲)さんとの会話で印象に残っていることは何ですか?

ミナミ:何より打ち合わせで「好きにやってください」という言葉をいただいたことですね。じっくりお話ししてみたいです。

WWD:創作とクライアントワークの違いがあるとすればどういうポイントでしょうか?

ミナミ:今回、自由にさせていただいたので楽しかったです。昔、あるバンドのジャケットのデザインを作った時もボーカルの方が「完全自由に作ってほしい」と言ってくれました。そういう意味でのクライアントワークはあるかもしれませんが、自分の作品と一緒みたいなので。今回の展示でも、入り口の円柱を使う時に間の壁が干渉したのですが、ブランドが自由に作れるようパーテーションを施工してくれたんです。それで入り口から右側に続く作品の流れを作ることができました。初めは、2つの円柱で作り始めたんですけど、作品のフローができなかったんです。

WWD:世界観に没入するためにフローは重要なんですね。

ミナミ:そうです。僕はラップもやるんですけど、フローじゃないですか。僕はパロールって呼んでいます。誰もが思考するときに絶対に縛られてしまう。僕らだったら日本語ですけど、住んでいる環境でつく話す癖がありますよね。声の高さ、スピードとか。ソシュールのスティルという概念で、ロラン・バルトとか後の構造主義者の人たちはパロールと呼びました。パロールは言語学で制度化された体系としての言語で、日常のフロウ。何かしら環境などの影響から出来上がっているわけなんですよね。そもそも自分の中からしか生まれない、変な結晶みたいなものを僕らは芸術と呼んでいると思うんです。その芸術の中にもさらに結晶があって、それがパロールだと思っています。僕はそれだけをピックアップして、パロールだけでやっている感覚があります。ちなみに昨年の個展のタイトルも「PaRoooLE」でしたけど、今回の展示も含めてようやく言葉の輪郭が浮かんできたと感じました。

WWD:冒頭で話していた、ジュースの話にもつながるように思いました。

ミナミ:全部、100%のジュースです。ただ自分がおもしろいと感じたものしか混ぜていない。パロールを出しまくって、それをコラージュしてフロウにしていくのが僕の展覧会のスタイルでもあります。

WWD:展覧会などもある種のフロウになっていくというか、経験がミナミさんのパロールになっているのかなと感じました。

ミナミ:本当にそう思っているし、今後ももっと爆発させていくだけだと思っています。それが音楽やコラージュ、絵画、映像も同じ感覚で、結局全部むき出しでやっていると思います。もっとスケールも大きくしていきたいですね。

イベント概要

◾️ミナミリョウヘイ ミーツ トレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン

会期:11月25日まで
会場:トレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン ジャイル、トレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン ミッドタウン
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1(ジャイル)、東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア1階(ミッドタウン)

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