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連載 鈴木敏仁のUSリポート

米百貨店“再編”が意味するもの サックス親会社によるニーマン・マーカスG買収【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。米国の百貨店の再編劇に世界の小売関係者の注目が集まっている。ハドソンズベイ・カンパニーによるニーマン・マーカス・グループの買収は、規模や歴史的経緯からも時代の転換点を示すものといえるだろう。ここでは視点を変えて分析してみる。

ハドソンズベイ・カンパニー(Hudosn’s Bay Company、以降HBC)によるニーマン・マーカス・グループ(Neiman Marcus Group、以降NMG)の買収が発表された。買収総額は26億5000万ドル、買収後の連結売上高は100億ドル、店舗数は150店舗超になるという。

NMGはニーマン・マーカス(36店舗)とバーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman、2店舗)を所有しており、一方のHBCは傘下にサックス・フィフスアベニュー(Saks Fifth Avenue、39店舗)を所有している。サックスは1867年、バーグドルフは1899年、ニーマンは1907年と三者ともに由緒正しきラグジュアリー・デパートメントストアで、もちろんHBCの思惑はこの三者の統合にある。

ただHBC、というよりもオーナーのリチャード・ベイカーの出自や過去のヒストリーを考えると、彼が想定しているリターンはそれだけではないだろうということは容易に想像が付くのである。すでに周知のニュースだが、今回はこれを少し深読みしてみたい。

なぜアマゾンが参画するのか

まずは買収後の組織の再編成からみてみよう。

HBCはホールディングカンパニーで、傘下にサックス(39店舗)、オフフィフス(Off 5th、95店舗)、ハドソンズ・ベイ(85店舗)、サックス・コムを所有しており、これにニーマンとバーグドルフを加えて、ハドソンズ・ベイを除く5つの屋号がサックスグローバルという企業の傘下に入る。ハドソンズ・ベイはカナダのデパートメントストアで、HBCの母体とも言える存在なのだが、今回から切り離す戦略を取るようだ。

またHBC傘下にはHBCプロパティーズ&インベストメントという不動産運営企業が存在し、これがサックスグローバル・プロパティーズ&インベストメントという名称となって、HBC傘下の事業ユニットとなる。

整理するとHBCの下にサックスグローバル、サックスグローバル・プロパティーズ&インベストメント、ハドソンズ・ベイ、の3つが並ぶ組織構造となるわけである。

買収はHBC単体ではなく複数の投資企業がシンジケートを組んでいるのだが、目を引くのがアマゾンとセールスフォースが少数株主として参加している点である。

私の情報では、アマゾンはECサイドのロジスティクスを請け負うという。つまり全屋号のECのフルフィルメントはアマゾンがサードパーティーとして担うことになるのである。また“カスタマーエクスペリエンス“や”AIを使ったイノベーション“という記載もあるので、アプリなどに何らかの関与があるのかもしれない。

アマゾンはファッション分野でも相当な売り上げを上げているのだが、基本はベーシックで高価格帯は弱く、ラグジュアリークラスは挑戦しているものの存在感は薄いというのが現状である。フルフィルメントから入り、これを足がかりとして高価格帯ファッション分野に何らかのチャンスを見いだそうという目論見なのだろう。

またセールスフォースの役割はおそらくECプラットフォームの提供である。情報では、EC企業上位2000社中の76社がセールスフォースのプラットフォームを使用しており、合算売上高は1360億ドルに達している。

HBCは2021年に、リアル店舗としてのサックスとデジタルのサックス・コムを切り離し、サックス・コムは投資企業から5億ドルを調達するという、非常にユニークな組織戦略を取っている。デジタル事業は運営だけではなく資本も完全に別扱いとしたのであった。リアルとデジタルを切り分けることに対して業界では否定的な見解が圧倒的だった。

他社からの投資を受け入れてのデジタルのスピンオフなので、上場を視野に入れていたのかもしれない。

ここにベイカーの経営思想を垣間見ることができると思っている。伝統的な小売モデルではないのである。

ベイカー氏の経営者としての本質

ベイカーはショッピングセンターに投資するREITで頭角を現した人で、本質は商業不動産の投資家だ。2006年に傾いていたデパートメントストアのロード&テイラー(投資総額は12億ドル)を買収し小売業界に進出し、しかし再建できず2019年にルトート(Le Tote)に1億ドルで売却している。その後ロード&テイラーは清算された。

これが大失敗だったのか、または不動産できっちりリターンを得たのかは不明である。例えば買収後に小売と不動産を切り離し、不動産を売却しリターンを確保するという手段があるが、このあたりの情報は持ち合わせていない。発表時の買収価格より売値が低かったという案件が私の知る限りあと2つあり、ベイカーによる小売業界での投資履歴はとりあえず表面的には負けが続いている。

ちなみにハドソンズ・ベイは2008年、サックスは2013年に買収している。

ベイカーの動向を見ていて私が想起するのは破綻したシアーズとKマートを買収したエディ・ランパートなのである。ランパートは小売りの再建には興味がなく、不動産を切り売りして儲けて終わっている。破綻企業を底値で買って、優良不動産を少しずつ売り縮小均衡させながら資産価値をマックスにし続けて、どこかで出口を探すことを目指していたのだろうと理解している。

アセットアロケーションやポートフォリオ的な戦略思考である。

日本の小売業界誌は“業界再編“という言葉を好んで使うが、我々が普通に考える再編とは基本が異なっていると理解しておいた方が良い。不動産投資という視点でも見ていかねばならず、そう視点を変えると外野にいる私としてはとても興味深い案件なのである。

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