ファッション
特集 サステナビリティ・サミット2023 第5回 / 全6回

「グローバルノースの大量消費を解決するためにいるのではない」 古着の最終地点ケニアのデザイナーと現状を議論

ケニア出身のデザイナー、イオナ・マクレス(Iona Mccreath)は自身がクリエイティブ・ディレクターを務めるファッションブランド「キコ ロメオ(KIKOROMEO)」を通して、現地の伝統技法を現代的に昇華したモノ作りを続ける。彼女が拠点とするケニアは美しいクリエイティビティーに溢れる土地でありながら、世界の大量生産・大量消費が生み出す古着の最終地点にもなっている。昨年現地を訪れたサステナブルファッションの啓発活動を続ける一般社団法人ユニステップス代表の鎌田安里紗を交えて、ケニアの現状とファッション産業のあるべき未来を議論する。

(この対談は2023年12月11日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2023」から抜粋したものです)

木村和花WWDJAPAN編集部記者(以下、WWD):1人目のゲストは、一般社団法人ユニステップス代表の鎌田安里紗さんです。そもそもこのテーマをサミットで取り上げたいと思ったのは、鎌田さんが2023年8月に古着の行き着く先を見るためにケニアに行ったというお話を聞いたのがきっかけでした。この後、現地の様子を詳しくお話しいただきます。2人目は、アフリカ・ケニアからご参加いただきましたファッションデザイナーのイオナ・マクレスさんです。イオナさんは「キコロメオ(KIKOROMEO)」というファッションブランドのクリエイティブ・ディレクターで、ケニアのファッションシーンを担うデザイナーの1人です。自己紹介とブランドの紹介をお願いします。

イオナ・マクレス=「キコロメオ」クリエイティブ・ディレクター(以下、マクレス):皆さんこんばんは。今日この場に参加できてとてもうれしいです。「キコ ロメオ」は私の母が1996年に始めたブランドで、2020年に私が引き継ぎました。サステナビリティに関してはさまざまなことに取り組んでいます。まず大事にしていることは、人々がずっと持ち続けたくなるような素晴らしい伝統を持つ服を作ること。衣服は投資であり、生涯ずっと持ち続けてもらうものであるべきだと思います。私たちの服には、アートが欠かせません。例えば今スクリーンに映っているのは、スーダンのアーティストがハンドペイントで描いた絵で、私の後ろにある絵も彼の作品です。バティックやそのほかの伝統的な染め技法も多く使っています。今私が着ているもののように、伝統や芸術性を生かしながらケニアのストーリーを、服を通じて伝えることに挑戦しています。ほかにもケニア北部のビーズ細工のパターンを取り入れるといった、伝統的なものをインスピレーション源としています。生地は、リネンやケニアで紡がれたコットンなど天然繊維のみを使用しています。日本とは、生地の使い方や作り方、染め方などの歴史や知恵を共有していると思います。以上が私のブランドについてです。

WWD:色が印象的ですが、染色は植物染めですか?

マクレス:いいえ、現在は認証済みの染料を使っていますが植物由来というわけではありません。でも今植物由来の染料で鮮やかな色を出す方法を探しているところです。木の皮や植物を使ってできないかなどいろいろ試しているところで、近々お披露目できたらと思います。

WWD:ありがとうございます。もう一つ、「キコ ロメオ」の顧客層や販路についても教えてください。

マクレス:顧客基盤はとても広く、世界中に顧客がいます。共通点を挙げるとしたら、芸術性を大事にしている点。それから、自分の人生や未来を豊かにするような、投資対象として服を購入しようという価値観を持っている点。世界を旅して、地球環境やサステナビリティ、周りの人々に配慮した選択をしようとしている人たちですね。商品は公式ウェブサイトで販売しています。今まさに世界に販路を広げようと思っているところで、いつか日本でも実現したいです。

輸入される古着の質が低下 そのまま売れるものは2、3割に

WWD:彼女が生まれ育ったケニアは素晴らしい伝統工芸やクリエイティビティーに溢れる土地ですが、もう一つの側面としてファッション産業が生み出す廃棄された服の最終到着地点の一つにもなっています。鎌田さんのケニア滞在の様子をお話しいただけますか?

鎌田:ありがとうございます。私はファッション産業の透明性を高めるグローバルキャンペーン、ファッションレボリューションの日本の事務局をしています。イオナのお母さんが同団体のケニアの代表だったことから、彼女と出会うことができました。8月にはナイロビを中心にケニアのさまざまな場所を訪ねました。最初の写真は、ナイロビ市内の古着マーケットです。数字は50シリング、30シリングという値段です。1シリング大体1円くらいなので、50円、30円ですね。ケニアは物価も上がっていて、貧富の差は激しいんですが、われわれのような海外から行った人が訪ねるようなレストランやカフェでランチを食べると1500円くらい。東京とあまり変わらないですよね。一方で服がとても安い。その理由の1つが、欧米諸国から大量に輸入される古着です。これがモンバサというナイロビの近くの港に届いた古着のかたまりです。現地ではミツンバと呼ばれています。日本だとベールと呼ぶと思います。50kgぐらいのかたまりを2万、3万円程度で古着の業者が購入します。10年前は大体5、6割がそのままマーケットで売れたそうですが、現在そのまま売れるものは2、3割だそうです。それ以外のものは質が悪かったり、傷んでいたりする。街中にはミシンが並んでいるエリアがあり、そこではお直しが行われます。子供服の方が消費のスピードが早いので、大人の服をザクザク切って縫って子供服のサイズにしたりといったことも行われています。お直しをしているとはいえ、寿命が延びるのはすごく短い期間なのかなと思います。

WWD:先ほどの市場の写真では50円30円の服が並んでいましたが、以前はもっと1500円くらいが普通だったんですね。

鎌田:エリアによっては現在もいいものを売っている場所はあるようですが、全体としてその割合が変わってきている。ちなみに先ほどのミツンバはどこから入ってくるかというとイギリス、中国、アメリカ、それからパキスタン、トルコが多いそうです。日本の服は見かけなかったですが現地の方に聞くと「日本の服はパキスタンからたくさん入ってきます」とおっしゃっていて、そういう形で回っているんだなと思いました。

服の形をしたプラスチックが現地の環境を汚染

WWD:ちなみにイオナは先ほどのマーケットには行くんですか?

イオナ:はい、行ったことがあります。今話に上がっていたようにここ数年で、間違いなく古着の質は落ちています。私たちは最近、埋立地の衣類を再利用するプロジェクトを始めました。Tシャツはちょっとしたダメージやシミで売れずに膨大な量が埋め立てられています。これは私たちが作ったバッグで、埋立地から拾ったTシャツ7枚で製作したものです。

鎌田:埋立地に行く前にいろんな形でレスキューされていく服を目撃して、そのクリエイティビティーは本当にワクワクするものがありました。お直しをしていた現場の足元では、端切れをそのまま床に落とすのでマーケットの中が常時10cmから1mぐらい端切れが積み重なって、歩くとふかふかするんです。それが水分も含んで非常に強いにおいがする。その上マーケットの真ん中を流れている川にも端切れや売れない服がそのまま流れ込んでいくような状況です。ケニアに輸入されている服の3枚に1枚はポリエステル混であるといわれています。ケニアはゴミ回収と焼却、再生の仕組みが整っていないため、環境汚染や自公衆衛生上の観点から厳しくプラスチックを取り締まっているんですが、衣類は取り締まられていないので衣類の形をしたプラスチックが河川を汚染してしまう、あるいは土壌汚染してしまうということが一つの大きな問題です。

WWD:端切れ以外の服も混ざっていますね。すごい量だということが分かります。

鎌田:端切れはトラクターが定期的に回収し、ナイロビ市内の埋立地ダンドラという場所に運んでいきます。服だけでなく医療ゴミなど特殊なもの以外はほぼここに集まるため、すでにこれ以上ゴミを埋め立てられなくなっている現状もあります。ここでは見慣れたブランドの服もそのまま落ちていました。非常に真新しい服も落ちています。洗濯表示を見ると、ポリエステル由来のものが多い。日本では洗濯するときのマイクロファイバーが課題として指摘されますが、こういった形でそのまま服が河川や埋立地に入ってしまう可能性もあるんだと思いました。それからもう一つの問題が、国内産業への影響です。これはアフリカのいろんな国々が対策を考えていて、古着の輸入を禁止するところが出ていてきます。ナイロビから2、3時間離れたところの大きな工場に話を聞くと、以前はファッションアパレルがメインだったそうですが、それでは経営できないので今は軍隊の制服やガソリンスタンドなどのグローバルブランドの制服などをメインの事業として行っているそうです。もう一つ忘れてはいけないのが、非常にクリエイティブで面白いクリエイションをしている若いデザイナーが現地にはたくさんいるということ。彼らは古着を素材として扱う感覚が非常に強い。新しい生地を買って服を作るよりも、マーケットに行ってマテリアルとして古着を調達して服を作っています。また現地の適正価格で新品の服を作ると到底売れないとも話していました。適正価格であっても古着に比べると高いのでなかなかビジネスをするのが難しいそうです。こうしたクリエイティビティーの芽をつんでしまうようなことがあるのはもったいないことだなと思いました。

「他人の問題を解決するためにでは疲弊してしまう」

WWD:滞在後、率直にどんな感想をお持ちになりましたか?

鎌田:服のエンドオブライフを考える、循環の仕組みを作るという言葉を耳にすることは増えていますが、本当に服を循環させるのは非常に難しい。全然できていないと強く感じましね。アフリカにある種押し付けてしまっている部分もあると思います。衣類は混紡が多く分離して再生する技術がまだ確立されていなかったり、国内で回収して再利用する際のコストの部分だったりといった課題はありますが、そこを改善していくためには具体的な仕組みや制度を考えていく必要性を感じました。

WWD:イオナはこの現状をどう思っていますか?

マクレス:今鎌田さんが話してくれた内容はまさに現場で起こっていることです。写真を見たことはあっても、実際に何が起こっているかをそこから図ることは難しいでしょうし、現実を外に伝えていくことも簡単ではありません。だからこそ、このような会話の場をもっと生み出していくべきだと思いました。古着の廃棄に加えて、ケニアには「H&M」のようなインターナショナルブランドの巨大な製造拠点もあり、そこで使われなかった新しい生地も同じマーケットに捨てられています。私たちはブランドとしてそうした生地にバティックを施して美しい服を新たに生み出したりしてサステナビリティに取り組むことができますが、問題なのは主にグローバルノースに生きる人々の大量消費を解決するために、私たちがイノベーションを起こさなければいけないことです。アップサイクルしますが、それはしなければいけないからなのです。もちろんここでイノベーションを起こせることは素晴らしいですが、他人の問題を解決するためにという目的のためでは疲弊してしまいます。もう一つの問題は、安い古着が輸入され、さらに再販を繰り返すことで、価格のシステムが完全にゆがんでしまうことです。若手を含めた多くのデザイナーが、ビジネスを続けるために適切な価格をつけようと試みています。しかし、人々は安い価格に慣れているせいでそれらがとても高いと認識されてしまう。つまり、大量の古着が流れ着いている現状はさまざまな問題を起こしています。そしてこのような会話をすること、現実を直視することがとても重要だと思います。私たちは、デザインの仕方を考え直すこと、そして服の最後を考えてデザインする必要があります。世界ではエンドオブライフを考慮せずに作り続けてきたために、廃棄物をどう処理していくべきかという問題を抱えています。だからこそ、ものの最後を念頭に置いてデザインするようになるだけでも問題解決に向けた大きな一歩になるはずです。最後に、私たちの消費主義的価値観の見直しです。人々はもはやそれが美意識とも言えるくらいに、消費に取り憑かれています。この価値観が変化していくには長い時間がかかると思います。消費に対する価値観を徐々に変えると同時に、消費主義の中でもできるだけ害の少ないモノ作りとは何かを考えていくことが重要だと思います。

鎌田:価格の話は、日本でも全く同じ状況だと思います。価格勝負の中ではインディペンデントなクリエイターがビジネスを続けていくことが非常に難しい。日本においてもこの30年で衣服の平均価格は約半分になりました。価格が下がると同時に、衣服の所有期間が短くなっているというデータもあります。自分自身を振り返っても学生時代に服がどんどん安くなってかわいい服が買えるのがうれしかったですが、ある日家に帰ると全然愛着がない服がたくさんある。飽きてしまった服は一応どこかに寄付しますけど回収した企業がどういうふうに服を回していけるかというと、繊維to繊維のリサイクル率は1%未満ですよね。リユースされるとはいえ、最終地点の一つの形としてケニアみたいな状況がある。適正価格と適正な生産量をどう考えていけば良いのかは非常に悩ましいですよね。

「美しいものを生み出したい気持ちは人々が根源的に持っている生きがい」

WWD:イオナの周りの若いファッションデザイナーは、こうした現状を見ながらも新しいものを作り続けたいというパッションを持つ人は多いのでしょうか?

マクレス:もちろんです。アートにしろ、ファッションにしろ、何か美しいものを生み出したい気持ちは人々が根源的に持っている生きがいだと思いますし、このような廃棄やそのほかさまざまな問題のソリューションにもなりえます。ケニアには多くの才能あふれるデザイナーがいます。彼らが置かれた環境に限定されずに、どのようにグローバル市場にアクセスできるかということも考えていきたいです。

WWD:イオナは次世代のサステナブル素材の研究開発にも携わっています。

マクレス:素材開発は、私が一番情熱をささげていることです。テキスタイルとそのイノベーションの世界が大好きなんです。最近取り組んでいるプロジェクトは、地元で入手できる原材料のバリエーションを増やし、エンドオブライフの観点からも実用的な代替素材の開発です。生分解性かつ、肌にも優しい生地は作れないかなどですね。たとえば、サイザルです。まずサイザルを使ってバスケットを作っている地元の女性グループに話を聞きました。これはサイザルを土を使って染色しているところですね。ここの土はとても強力で、茶色の顔料を含んでいるので、とてもいい色を出すんです。そのほかにも煙や木の皮などさまざまなものを使って染めています。これは、彼女たちがサイザルから繊維を抽出し、糸にするところです。従来はこれでバスケットを作っていましたが、私たちはこの糸をもっと細くすることで衣料品を作れないか研究しています。今は研究開発の道なかばで、糸を使って織ることはできましたが、今後もっと柔らかな糸にしたいと思っています。昔からある技術やリソースといった過去を振り返りながらも、新しい未来を作っていく作業はとても楽しいプロセスです。

WWD:彼女のように地元の特徴に焦点を当てて、そこからしか生まれないクリエイションを生み出すというのはすごく良いアイデアだと思います。

鎌田:そうですね。現地でデザイナーと話すと、エンドオブライフの現場にいるので生み出すことへの恐れも当然感じると。ではもう、古着だけ着てれば良いのかというと、それはあまりにも喜びがない。作るという喜びは人間にとって根源的なものだからそれを奪われたくないと強く主張していました。日本でもほとんど海外に生産が移っています。もちろん国外生産が悪いわけではないですし、大量生産がすぐに悪とはいえないかもしれないですが、それぞれの土地で育まれてきた技術が全く使われなくなってしまうのは明らかにもったいないこと。作る喜びを感じながら、それぞれの土地のユニークネスがもっと生き残っていけるような形にできないんだろうかと考えました。

WWD:そこも私たちが考えていかないといけない持続可能性の大事なポイントの一つですね。先ほどの動画にもあったエプソンも古着を使った素材を開発している。

鎌田:エプソンは紙の再生技術ドライファイバーテクノロジーを繊維製品に活用するための技術開発を行っています。今衣類のリサイクルの一つの大きな課題は、複数の繊維を分離してそれぞれ生かすことだと思いますが、混ざった状態でも再生できる選択肢を模索しているようです。

「個人が感じている違和感を業務に反映できるような制度を」

WWD:最後に鎌田さんから、日本のファッション産業に関わる人たちに伝えたいことは?

鎌田:皆さんここにいらっしゃるということは、どうにか産業を変えなくてはいけないと思われているかもしれません。ファッション産業で働く1人1人の方と話すと、繊維やファッションへの強い愛着を感じます。日々仕事をする中で企業人として売り上げを伸ばし続けなければいけないということと、明らかに環境的に無理が来ているという、どちらもが一人の人の中に共存しています。今の経済システムでは売り上げを上げながら、一気に環境負荷を低くすることが難しい。環境負荷が低い方が、価格が高いですし、生み出したものに対して責任を持たなくていい仕組みになっています。産業によっては生産量に合わせて回収して再生する責任を負う業界もありますが、そういった制度がない中で1人の努力、個社の努力で変えられることには限界があると思います。ですので、個人が感じている違和感や変えた方がいいと思っていることを業務に反映できるような制度、政策について、どこかに過度に負担がかからない形できちんと議論されていく必要が早急にあると思います。

WWD:イオナからも最後に来場者へのメッセージをいただけますでしょうか。

イオナ:ありがとうございます。生産者であれ、消費者であれ、この産業に関わる全ての人たちが過去を振り返り、そしてこれからどこに向かおうとしているのかを立ち止まって考えること、そして衣服のエンドオブライフを設計段階から考え、消費主義の価値観を見直すこと、産業と国とがつながり方法を見つけていくことが大事です。エプソンのチームがケニアにきて進めていることを見ただけでもとても驚きました。そうした垣根を越えたコラボレーションによって今私たちが直面している問題を解決できると思います。

WWD:ありがとうございました。

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