ファッション

勢いに乗るロンドン若手はこの3ブランド 英国経済の厳しさに創造性で立ち向かう

ファッションブランドにとって、クリエイションとビジネスの両立は永遠の課題だ。“若手デザイナーのゆりかご”として知られるロンドンは、セント・マーチン美術大学やロンドン・カレッジ・オブ・ファッション、ウエストミンスター大学などの名門校から新しい才能を毎シーズン輩出している。卒業コレクションやデビューコレクションは業界でも注目を集めてはいるものの、独立してショーを行うとなると膨大な資金が必要になる。特に現在のイギリス経済はEU離脱から3年が経ち、厳しいインフレが続いているため、これまで以上に苦しい状況下といえるだろう。

ロマンチックかつセンシュアルなデザインに定評のある「ディラーラ フィンディコグルー(DILARA FINDIKOGLU)」は、予定していたショーを資金不足でキャンセル。2021年に「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」を受賞した「ネンシ ドジャカ(NENSI DOJAKA)」や、22年度グランプリ「エス・エス・デイリー(S.S. DALEY)」といった注目の若手デザイナーもショー開催を見送っており、ショー形式で発表を継続することの厳しさを物語っていた。

ロンドンは他都市に比べてデザイナーをサポートする支援プログラムが充実しているが、新鮮なクリエイションを発表し続けながら、ビジネスを軌道に乗せるまでには時間がかかるのが現実。かつてはロンドン・ファッション・ウイークの目玉ブランドだった「クリストファー ケイン(CHRISTOPHER KANE)」は今年6月に経営破綻に直面し、身売り先を探しているという報道もあった。

ここでは、ビジネスとクリエイション、それぞれの斬新なアプローチで注目を集めるブランドの最新コレクションを紹介する。

「チョポヴァ ロウェナ」

“カラビナスカート”が大ヒット
最も勢いに乗るデュオ

2024年春夏シーズンのロンドンで一番の熱気を感じたのが、「チョポヴァ ロウェナ(CHOPOVA LOWENA)」のショーだった。デザイナーはブルガリア生まれ、米ニュージャージー州育ちのエマ・チョポヴァ(Emma Chopova)とイギリス・サマセット出身のローラ・ロウェナ(Laura Lowena)のデュオで、ブルガリアのルーツを生かしたフォークロアと、イギリスらしいパンクの要素をミックスさせたデザインで人気を博している。

20年には「LVMHプライズ」のファイナリストに選ばれた「チョポヴァ ロウェナ」だが、17年のデビュー当初から順風満帆だったわけではない。米「WWD」のインタビューでは、英国ファッション協議会(British Fashion Council以下、BFC)による若手デザイナー支援プログラム「ニュージェン(NEWGEN)」や、若手デザイナーの合同ショープログラム「ファッションイースト(FASHIONEAST)」に応募するも、審査が通らなかった過去を明かしている。しかし、アイコニックな“カラビナスカート”がセレブリティーに着用され、バズを起こすと、販売店舗はマッチズファッション(MATCHESFASHION)やエッセンス(SSENSE)、ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)などを含む世界約40店舗に広がった。経営には定年退職したデザイナーたちの両親が携わっており、日々数字に向き合いながら、独自のクリエイションに向き合える環境が整ったそうだ。

今季はBFCによる支援プログラム「ファッション トラスト(The BFC Fashion Trust)」のサポートを受けて、23年春夏から3シーズン連続となるランウエイショーを発表。ショー会場にはブランドの服をまとったインフルエンサーや関係者が集まっていた。

スケートパークを舞台にした24年春夏コレクションは、イギリス南西部のコーンウォールで5月に行われる伝統的な祭りヘルストン フローラデイ フェスティバル(Helston's Flora Day festival)を着想源にし、その祭りの題材となっている悪魔や天使、人魚などをモチーフに使用した。日本からはモトーラ世理奈がランウエイを歩いた。今季はブランド初のバッグを発表したほか、「アグ(UGG)」とのコラボレーションブーツも登場。疾走感のある力強いショーで、注目度の高さに応える完成度だった。

「モワローラ」

カニエ・ウェストも注目する
過激でセクシーなスタイル

「チョポヴァ ロウェナ」と同日同時刻に、オフスケジュールでショーを開催したのが、「モワローラ(MOWALOLA)」だ。ナイジェリア出身でロンドンを拠点に活躍するモワローラ・オグンレシ(Mowalola Ogunlesi)による、セクシーで奇抜なデザインを強みしたロンドンで勢いのあるブランドの一つだ。20年春夏シーズンまで「ファッションイースト」に参加し、その後は単独ショーの発表を開始。世界で約50店舗の取り扱いがあり、日本でもGR8やリステア(RESTIR)、ザ フォーアイド(THE FOUR-EYED)など8店舗に並ぶ。

デザイナーのオグンレシは、過去にカニエ・ウェストことイェ(Ye)が手掛ける「イージー ギャップ(Yeezy Gap)」のデザインディレクターを務めていた経歴もある。今季のフロントローにはイェと妻のビアンカ・センソリ(Bianca Censori)の姿もあり、ショーではイェの新曲も披露された。

今季のインスピレーション源は、映画界の鬼才デヴィッド・クローネンバーグ(David Cronenberg)監督による映画「クラッシュ(Crash)」(1996年)だ。自動車事故をきっかけに倒錯的セックスにのめりこむようになった男女の姿を描き、センセーションを巻き起こした作品だ。ファーストルックは、ボクシングウエアで知られる「エバーラスト(EVERLAST)」のパロディーロゴをのせたシルバードレスで、イリーナ・シェイク(Irina Shayk)がまとった。

ショーでは、日本のアダルト漫画風イラストをのせたトップスやローウエストのボンテージパンツ、マイクロミニスカートなど、映画をほうふつとさせる過激なルックが並ぶ。人気スタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ(Lotto Volkova)によるフェティッシュなスタイリングも功を奏していた。引き続き人気のあるY2Kや90年代を感じさせるスタイルとセンシュアルなムードは、セレブリティーや若い世代の支持を集めそうだ。

「パオロ カルザナ」

業界から注目を集める新星
初のウィメンズにも挑戦

最後は、22年にデビューした英ウェールズ出身のパオロ・カルザナ(Paolo Carzana)による「パオロ カルザナ」だ。「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」の創業者リー・アレキサンダー・マックイーンが立ち上げた、アーティストやデザイナーを支援するサラバンド財団(Sarabande Foundation)のサポートを受けるブランドだ。これまでにBFCとケリングからサステナビリティの奨学金、LVMHグランプリ奨学金などを受けた実績があり、現在はBFCの「ニュージェン」の支援も受けている。

カルザナはウェストミンスター大学で学んだ後、セント・マーチン美術大学で修士号を取得した。大学在学中には、「ウォルター ヴァン ベイレンドンク(WALTER VAN BEIRENDONCK)」と「ヴェルサス ヴェルサーチェ(VERSUS VERSACE)」でインターンを経験している。

「パオロ カルザナ」が強みにするのは、植物由来やリサイクル、オーガニックなどといったサステナビリティに配慮したデザインである。これまでメンズウエアのみの発表だったが、3シーズン目となった今季は初のウィメンズを披露した。デザイナーがハンドメードで作った16ルックは、体を包み込むように布を巻きつけたドレスや、立体裁断で作った彫刻的なブラウスとパンツのセットアップなど。このコレクションは、21年に事故死したスコットランド出身のミュージシャンで音楽プロデューサーのソフィー(SOPHIE)と、最近亡くなったというカルザナの友人の母親の2人に捧げており、その喪失感や人生の儚さを感じさせる内容だった。

ノスタルジックな美しさがあり、独創的な世界観を放つ「パオロ カルザナ」は、現在はマシーンA(Machine-A)1軒のみの取り扱いである。新しい才能がビジネス面でもどのように成長していくかに、これからも注目したい。

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