ビューティ

コスメ界の重鎮レナード・A・ローダー、エスティ ローダー取締役を退任へ 「現代のビューティ業界を創った」

今年90歳になったレナード・A・ローダー(Leonard A. Lauder)が、現在の任期が満了する11月でエスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)の取締役を退任する。名誉会長の肩書きは引き続き保持する。また、チーフ・ティーチャー・オフィサー(最高指導責任者) としての役割も継続し、従業員エンゲージメントやブランド・シンポジウムを中心とする重要なイニシアティブに携わる。

同社は、レナード・A・ローダー名誉会長の両親であるエスティ・ローダーとジョセフ・ローダー(Joseph Lauder)によって1946年に設立。ローダー一族は、同社の普通株式の35%、発行済株式の議決権の約84%を所有する。レナード・ローダー名誉会長は依然として同社の大株主であり、2人の取締役を指名する権利を持つ。レナード・ローダー名誉会長の息子であるウィリアム・P・ローダー(William P. Lauder)はそのうちの1席を占め、取締役会のエグゼクティブ・チェアマンを務めている。末子であり、シリコンバレーを拠点とするベンチャーキャピタル企業、ローダー・パートナーズ(LAUDER PARTNERS)のマネージングディレクターであるゲイリー・M・ローダー(Gary M. Lauder)が、11月の取締役員選挙に立候補し2つ目の席に座ることになる。ゲイリー・ローダーがエスティ ローダー カンパニーズで公式のポジションを担うのは今回が初めてだが、同社によるとこれまでも定期的に招待オブザーバーとして取締役会に出席してきたという。

ウィリアム・ローダー=エグゼクティブ・チェアマンは声明で、「私の父は単一ブランドだった『エスティ ローダー』を、多くのブランドを擁する世界的な大企業へと成長させることを構想し、その推進を支えてきた。長年にわたり父から学び共に仕事ができたのは大変光栄なこと。今後も父から学び続けることを楽しみにしている。また、この業界や会社、従業員、そして顧客に対する父の強い情熱は、これからも変わることはないだろう」と述べた。

ファブリツィオ・フリーダCEO退任の憶測を否定

同社は中国の景気後退とトラベルリテールにおける課題により大打撃を受けており激動の中にある。同社が8月に発表した2023年6月度通期決算は、売上高が前年同期比10.4%減の159億1000万ドル(約2兆3387億円)、純利益は同58%減の10億600万ドル(約1478億円)だった。同社の苦戦は、ファブリツィオ・フリーダ(Fabrizio Freda)最高経営責任者(CEO)が退任を余儀なくされるのではないかとの憶測を呼んだが、5月にウィリアム・ローダー=エグゼクティブ・チェアマンと取締役会が従業員に送った社内メモで一族がフリーダCEOを支持することを改めて表明し、退任説を否定していた。

レナード・ローダー名誉会長は再び社内メモで現在の経営陣に対する強い支持を表明した。「私たちの大切な会社が優れたリーダーシップの手に委ねられていると心から信じているからこそ退任を決意できた。これからも引き続きウィリアムとファブリツィオ、経営幹部たちの優れた手腕による事業の成功を信じてやまない。ゲイリーの取締役への指名は、私たち一族の長期的なスチュワードシップ(財産管理を任された者が長期的な価値創造促進のために果たすべき責任)と、会社の成功へのビジョン、価値観、そして人材に対する支持を反映している」と述べた。

単一ブランドから世界的コングロマリットへ

レナード・ローダー名誉会長は1958年に入社。同社を世界最大のプレステージビューティ企業に育て上げた。72年に社長に、82年にCEOに就任し、95年に26ドル(約3800円)の初値で株式公開を果たした。事業のグローバル化と、「クリニーク(CLINIQUE)」「オリジンズ(ORIGINS)」「M・A・C」を含むインキュベーションと買収の両方でブランドポートフォリオ拡大を指揮した。現在、同社は24のブランドを所有し、150カ国で事業を展開する。最近では、28億ドル(約4116億円)を投じて「トム フォード(TOM FORD)」のビューティとファッション両事業を買収し、その後エルメネジルド ゼニア グループ(ERMENEGILDO ZEGNA GROUP)と、アイウェアのマルコリン(MARCOLIN)とライセンス契約を結んだ。

レナード・ローダー名誉会長は2021年の米「WWD」の取材で、自らがビューティ業界に与えた最大の影響を尋ねられると、マルチブランドのラグジュアリーコングロマリット創設を挙げた。「現代のビューティ業界を創ったのは自分だと心から思っている。言いにくいことだが、私がエスティ ローダーに入社した当時、『エリザベス・アーデン(ELIZABETH ARDEN)』も『ヘレナ・ルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)』も『レブロン(REVLON)』も、どれもが単一ブランドとして同じように事業を展開していた。多くの企業やブランドを買収したが、その一つ一つが化粧品業界で新たな分野を切り開いてきた。現在の主流になっているM&Aの動きは、『M・A・C』の買収に端を発しているように思う。あのたった一つの買収が私たちの会社を、業界を変えた」と述べた。

退任後も業界の未来に向けて指導的役割を継続

09年、レナード・ローダー名誉会長は取締役会長の座をウィリアム・ローダーに譲ったが、現在も会社の戦略的ディレクションに深く関与しており、ビューティ業界の未来について考えることに喜びを感じている。「未来に何が起こるかは誰にも分からない。大切なのは日々アップデートすることだ。本を読み、旅をし、世界で何が起こっているかを見なければいけない。常に最新の情報を入手し、何を見るべきか、見ないべきかを知る必要がある」と話す。

米「WWD」が入手した社内メモでは、レナード・ローダー名誉会長は指導的役割を続けることに対する喜びについて改めて述べている。「私は常にわが社の成功は従業員、つまりあなた方のものだと信じてきた。私はエスティ ローダーが世界最高の企業になることを望んでいる。最大でもなく、最も裕福でもなく、最高の会社だ」。退任後もオフィスや店舗、会社のイベントに顔を出すとしながら、「未来に向けて創造し続け、挑戦し続け、互いを支え合い続けることが大切だ。皆さんの活躍を楽しみにしている」と激励のメッセージをつづった。

プレジディング・ディレクターのシャーリーン・バーシェフスキー(Charlene Barshefsky)は、「取締役会を代表し、レナードが役員としてまた取締役会のメンバーとして多大な貢献をしてくれたことに深い賞賛と感謝の意を表する。その先見の明と独創的な思考には、業界でも比類がない。彼の革新的な洞察力は、私たち全員のインスピレーションとなり続けるだろう」とコメントした。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

韓国ブランドの強さに迫る 空間と体験、行き渡る美意識

日本の若者の間で韓国ブランドの存在感が増しています。K- POP ブームが追い風ですが、それだけでは説明できない勢い。本特集では、アジアや世界で存在感を示すKブランドや現地の人気ショップの取材から、近年の韓国ブランドの強さの理由に迫ります。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。