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連載 鈴木敏仁のUSリポート

「オフプライス業態」は百貨店にとっても不可欠な存在【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年以上の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。メーカーの余剰在庫を値引き販売するアウトレットモールやオフプラスストアの存在感が、パンデミックを経てますます高まっている。有力百貨店であるノードストロムやメイシーズも重要戦略に位置付けるほどだ。

ショッピングモール運営最大手であるサイモン・プロパティ・グループ(SIMON PROPERTY GROUP)の第2四半期決算発表で、CEOのデイビッド・サイモンが興味深いコメントを残している。

「アウトレットビジネスの需要は他よりも回復が早い」――

サイモンが運営するアウトレットモールは、日本でも知られている「プレミアムアウトレット」だ(日本の運営は三菱地所サイモン)。通常のショッピングモールとアウトレットモールを比較すると、アウトレットの需要の方が強いということを言っているのだが、これにはいくつか理由が考えられる。

1つ目はパンデミック初期のロックダウン時に屋内モールは営業休止に追い込まれたが、アウトレットは屋外なので影響を受けなかった。そのためアウトレットで買い物をする消費者が増えて、それが今も続いている可能性がある。

2つ目は過剰在庫でオフプライス対象商品のサプライが今も潤沢にある点だ。パンデミック中に起こったサプライチェーンの遅延問題と、消費行動のめまぐるしい変化で需要が読めなくなり、昨年初頭辺りから在庫過多に陥った小売企業が多かった。大手企業はすでに過剰在庫は解消したとしているのだが、小売業界の在庫のマクロデータ上は2019年レベルよりも依然高い水準で推移しており、消費者にとって魅力ある過剰在庫が今も豊富に存在する可能性が高い。

3つ目は経済が不安定なときは低価格帯フォーマットが強いという点である。すでに3年間にわたって不安定なのだが、ここにきて大手小売企業の業績が悪化し始めており、消費が冷え込みはじめたような印象を持っている。こういうときにアウトレットのようなビジネスは強いのである。

これを裏付けているのがオフプライス業界最大手のTJマックス(T.J.MAXX)だ。業績を悪化させる企業が出始めている中、第2四半期は前年同期比で売上高8%増と好調をキープしたのだが、CEOが「これから少なくとも6~12カ月はサプライが続くだろうと多くの指標が示している」とコメントしている。オフプライス向けの商品サプライがいましばらく続くだろうと言う見立てだ。今後しばらくは業績が良いだろうとほのめかしているようなものでもある。

ちなみにベッドバス&ビヨンドの破綻にも言及し、「いっそうの仕入れ機会を与えてくれた」とコメントした。破綻したホームファニシング大手企業から良い商品を格安で手に入れて、傘下のホームグッズ(HOME GOODS)で売るのである。

ノードストロムとメイシーズによる出店拡大

このオフプライスビジネスを別業態として最初に開発したのが百貨店のノードストロム(NORDSTROM)で、後を追ったのが同じく百貨店のメイシーズ(MACY'S)だ。

ご存知の通りノードストロムは「ノードストロム ラック((NORDSTROM RACK))」という店舗名で運営しており、昨年度末の時点で243店舗となっていて、本体の115店舗を上回っている。売上高は、本体の102億7900万ドルに対してラックは48億1300万ドルで、比率にすると後者は32%となる。10年前の2012年度の時点で後者は21%だったので、10年間で10ポイントも増えたことになる。

今年はすでに7店舗がオープンし、年内にあと10店舗オープンする予定となっている一方で、本体の新規出店はほぼ止まっており、ラックが総売上高に占める比率はますます高まることになる。第2四半期決算時にはCEOがラック店舗をさらに増やすコメントをしており、戦略的に強化されているのである。

一方のメイシーズは2016年に「バックステージ(BACKSTAGE)」という名称で実験を開始、5月の時点でフリースタンディング(1店舗のみ独立した店舗で路面に出店すること)が9店舗、メイシーズ本体の中に導入されている売り場が310カ所となっている。本体は489店舗なのですでに半分以上の店舗がオフプライス売り場を持っていることになる。

本稿ですでに書いたがメイシーズはトイザらスと提携してインストアショップを展開するなど自らの売場を縮小する戦略を取っており(百貨店最大手メイシーズ、生き残りをかけた大転換【鈴木敏仁USリポート】)、バックステージもその戦略の一環となっている。

同社幹部はメディアの取材に対して、フルラインとバックステージのクロスショッピング比率は18%、このクロスショッパーの年間来店数は6.6回で、全体の3.2%より非常に多い、などと非常にポジティブなコメントをしている。ノードストロムと同様にメイシーズもオフプライスには非常に前向きなのである。

巨大化するクローズアウト市場

過剰在庫やクリアランスをファッション業界はオフプライスと呼称するが、総合的な業界用語はクローズアウトである。需要と供給を完全にマッチさせることは不可能なので、いつの時代にもどんなカテゴリーにもクローズアウトは存在し、アメリカにはこれを取り扱う企業が数多く存在する。

ブランドメーカーには、イメージの毀損を恐れてクローズアウトチャネルを利用しての流動化を避ける企業が少なくなかったのだが、消費者のエコ意識の強まりの中で、もはや回避し続けるのは無理があるだろう。

メイシーズのように本体の中にオフプライスを同居させることに対しては、カニバリズムによるデメリットを懸念する向きもあるだろうが、メイシーズ自身は宝探し的な楽しさを求めてお客が来店するとメリットを強調している。私はどちらも正しいと思うが、百貨店がオフプライスを持つのはもはや時代の趨勢なのだろうと思っている。

サプライヤーにとってもリテーラーにとっても不可欠な存在であり、オフプライス市場は拡大することはあっても縮小することはないだろう。

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