ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

アマゾンvs模倣品 マーケット浄化への戦い【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。模倣品に頭を痛めている企業は多い。特にEC(ネット通販)の世界ではビジネスの存続にも問題であるが、今回は圧倒的王者であるアマゾンの取り組みに当ててみよう。

4月にアマゾンが模倣品対策エクスチェンジ(Anti-Counterfeiting Exchange、略称ACX)と呼ぶプラットフォームを立ち上げた。業界評価がすこぶる高く、コピー商品削減に大きな役割を果たすのではないかと期待が集まっている。

“エクスチェンジ”という名称が示すとおり基本的な機能は情報共有である。マーケットプレイスを運営している企業や組織がコピー商品や販売業者の情報を提供し合い、取引中止の判断を迅速に進めることができる。アマゾンによるリリースには、政府管掌の知的財産保護組織による参加の呼びかけも引用されており、国もバックアップしていることが分かる。

アマゾンのマーケットプレイスは規模が大きいこともあって、長いことコピー商品の温床という批判を受けてきた。危機感を持ち始めたのは10年ほど前あたりからと見られているが、おそらくもっともインパクトが大きかったのは2019年にナイキがリスティングを停止したことだったろう。

ブランドメーカーやサプライヤーがトレードマークや知的財産を登録できるブランドレジストリーというシステムを開始したのは17年なので、19年の時点ですでにアマゾンは本腰を入れはじめていたのだが、ナイキによる停止はマスコミが大々的に取り上げたため注目を集め、アマゾンによる取り組みを加速させたと思っている。

ブランドレジストリーは同社にとっての対策の土台となるデータであり、これが取り組みの出発点となっている。

模倣品対策に12億ドルを投じる

加速させた結果、現時点でどの程度の取り組み規模になっているのかというと、昨年1年間で12億ドルを投資し、対策専門の人員数は1万5000人に達しているという。3年前からブランド保護レポート(Brand Protection Report)という名称で過去1年間の取り組み内容や成果をまとめて発表しており、これに掲載されている数字である。

140円換算で1700億円という巨額の予算と1万人を超える人材を投じているということは、あまり知られていないのではないだろうか。

その結果、昨年1年間で600万アイテムを処分し、模倣品犯罪ユニット(Counterfeit Crimes Unit、略称CCU)がアメリカ、イギリス、EU、中国で提訴または捜査に協力した犯罪件数は1300件と記されている。

模倣品犯罪ユニットとは、検察、刑事、専門のデータアナリストなどを集めて20年に編成された専門部署で、訴訟を前提として動くプロ集団である。

このCCUが中国当局とコラボして一斉捜査に動き、大きな成果を上げたことが昨年末に報じられている。押収されたアイテム数は24万、偽の身分証明書やビジネスライセンスを使ってアマゾンに登録していた84人を検挙したという。

今年の1月に議会で成立し、今月から発効したのがINFORM Consumer Actと呼ぶ法律である。マーケットプレイスに対して、取引数が一定数を超えるセラーの情報収集や、販売ページでの情報開示などを求めるものである。またこれに関連して、外国企業による知的財産の侵害に対する制裁を強化する知的財産保護法(Protecting American Intellectual Property Act)という法律も成立している。

アマゾンやEベイといったマーケットプレイスが大きくなるにつれてコピー商品も問題化し、法制化にまで至ったということになる。

盗難品問題にも取り組む

コピー商品に加えてもう一つ問題として顕在化しはじめているのが盗難品の販売である。アメリカの小売業界は万引き増に悩まされており、その結果として盗難品の出品も増えているとされている。廉価な商品は発見しづらく、アイテム単位ではなくセラー単位で犯罪者または組織を見いださなければならないので、頭の痛い問題となっている。

ホームセンターのロウズはプライベートブランドの工具にRFID(無線タブ)を仕込む実験をはじめている。名称はプロジェクト・アンロック、自社人員による開発でロウズのオリジナルテクノロジーである。レジがRFIDを認識するとアクティベートされる仕組で、レジを通さないと工具が動かない。また購入するとブロックチェーンに登録し、その後の転売時に歯止めをかけるとしている。

商品にRFIDやNFCを仕込む取り組みはナイキが知られているが、効果があるので今後徐々に広がるのではないかと思っている。

ちなみにアマゾンはコピー商品や犯罪組織を検知するために機械学習への投資を増やしていると言っている。出品商品やセラー数は膨大で、対策システムのオートメーション化が不可欠なのだ。コピー商品や盗難品対策もやはりテクノロジーが重要な役割を果たす時代なのである。

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