本明秀文/アトモス創業者:(ほんみょう・ひでふみ)プロフィール
1968年生まれ。米フィラデルフィアの大学を卒業後、商社に2年間勤務。96年に脱サラし、裏原宿に2.7坪のスニーカー並行輸入店「チャプター」をオープン。翌年、テクストトレーディングカンパニーを設立した。2000年に正規店の「アトモス」をオープンし、国内外に出店拡大。21年10月、米フットロッカーに3億6000万ドル(約400億円)で会社を売却した。23年1月に退社し、現在はおにぎり屋「ぼんこ」を経営する。著書に自身の人生を綴った「シューライフ『400億円』のスニーカーショップを作った男」(光文社)
アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。おにぎり屋を始めてはや4カ月。食の可能性を感じた本明さんが今度はカフェを始める。キーワードは「健康」だ。ストリーマーコーヒーカンパニー中目黒の元オーナー、青山勝彦さんとタッグを組み、グルテンフリー(小麦などに含まれるグルテンを摂取しない食品)にこだわったメニューのみを取り扱う。カフェは6月中旬に原宿にオープン予定(渋谷区神宮前3-24-6 1階)。今回は、カフェ開業の裏話。(この記事はWWDジャパン2023年5月29日号からの抜粋です)
本明秀文・アトモス創業者(以下、本明):ストリーマーコーヒー中目黒を運営していた青山さんとカフェを始める。青山さんが扱うグルテンフリーのドーナツがうまい。これはもともと、娘さんのために作ったものなんですよね?
青山勝彦(以下、青山):はい。娘は今年25歳になるんですが、中学1年生のときに体調を崩してしまったんです。当初は盆と正月以外、毎日病院に通うような状況で、それでも原因が分からず、体調が悪化して、高校2年生のときには寝たきり。あるとき対症療法で行った鍼の先生から「子宮頸がんワクチンの副反応に似ている」と言われて、調べると世界では本当に同じような症例が出ていたんですね。それで、高校2、3年生のときにワクチンの専門医に見てもらい、子宮頸がんワクチンの副反応という診断をもらったんですが、治療例がほとんどないので、今度は治し方が未知で……。幸い主治医に従って治療を続けたらだんだん身体機能も回復して、今は日常生活が送れるようになりました。今でも定期的に酸素治療を続けていますが、同じように副反応を持つ方々はまだまだつらい状況で、良くなったのは本当に奇跡です。その奇跡の要因の一つが、主治医に言われた“グルテンフリー”でした。人は基本的に腸から栄養を取るんですが、グルテンは腸壁に溜まりやすく、栄養の吸収を妨げる原因になる。体が弱って栄養が取りにくい状態なのに、さらにグルテンで栄養が取りにくくなっている。娘が回復した治療法の一つが栄養療法だったんです。
――食は薬に“負けず劣らず”なんですね。
青山:いえ、“勝る”です。正しい栄養を取るということは、体を回復させる上で非常に重要なんですよ。
本明:まずくて体に良いものはたくさんある。グルテンフリーのドーナツも世の中にはたくさんあるし、僕も病気を患ったことがあるからいろいろと食べてきたけど、そのほとんどがまずい。でもこのドーナツはうまかった。
――なぜ、このドーナツはグルテンフリーでもおいしいんですか?
本明:作り手であるお母さんの愛情が入っているから。娘さんに、体に良くてうまいドーナツを食べてもらいたい。そう思いながら一生懸命作ったからうまいんだよね。愛情が入っているとこんなにも味が違うのかと、僕は感動した。
青山:たまたまカミさんが大学時代に栄養学を勉強して、管理栄養士の資格を持っていたんです。だから店に出す前は、いろいろと試行錯誤しながら娘に作っていたんですよ。店のメニューには、グルテンフリーのドーナツ、パンケーキ、シフォンケーキがありました。そうしたら、近所のお母さま方にすごく感謝されて。グルテンフリーしか食べられないお子さんも実はすごく多いんですよね。
本明:今度のカフェには、ドーナツとコーヒーに加えて、おにぎりとお茶も置く。この両方を置くと話すと、みんなから「そんなのブランディングとしてダメだ」と言われるんだけど、僕は面白いと思う。昼はおにぎりが食べたいし、おやつにドーナツが食べたいときだってある。コンセプトはグルテンフリーだからね。
青山:やっぱり小麦の方が扱いやすいし、何より安い。それに体に悪くて簡単に食べられるものほどうまいじゃないですか。でも健康を損なってから初めて食の重要性に気付くし、健康を損なわないと分からない。なってから、いざ治すのってすごく大変なんですよ。そういう部分でお役に立てるものを提供できたらいいですね。
本明:僕も体に良いものが好きだし、世の中に広げていければうれしい。それが最終的にマネタイズできればいいよね。青山さんも言ったように、健康でいるためには結局、口に入れる食べ物が一番重要。ほとんどの人がずっと健康でいたいと願うけど、健康に長生きするというのが一番難しいんだから。