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近年増える「機能性フレグランス」とは? パフォーマンス向上やリラックスなど機能性を持った香りのニーズ高まる

 これまで日本のフレグランス市場は“香水砂漠”と呼ばれるなど、他国に比べて小さいとされてきた。香水のほとんどが海外の趣向に合わせた輸入品であること、さらに香りを消費する文化の違いなどが大きな要因とされてきた。しかし新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごす時間が増え、キャンドルやディフューザーといったホームフレグランスに加え、セルフケアの一環として香りつきのボディークリームなどを楽しむ人が増えた。またこれまで仕事場や通勤時に周りを気にして控えめな香りを選ぶ人も、リモートワークが普及し周りを気にせず好きな香りを楽しめるようになっている。このように、日本のフレグランス市場も大きくシフトしつつある。

 しかし新たな動きとして注目すべきは、香水のような嗜好品として楽しむ香りではなく、「集中力を高める」「リラックスする」「気分を高める」といった機能性が期待できる新たな香りの形だ。これは日本のみならず世界中で今トレンドになっており、「機能性フレグランス」「ファンクショナルフレグランス」「ソリューションフレグランス」など呼び方は多岐にわたる。香りがもたらすメンタルや体への影響の研究が進む中、コロナ禍の不安を和らげるニーズが重なり、フレグランスを気分や心といった内面に働きかけるものとして活用する動きが加速している。

 元々、機能性をうたう香りはアロマセラピーの世界では当たり前だったが、近年はいわゆる大手化粧品企業からも“機能性フレグランス”が登場している。「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」が11月に発売した初のラグジュアリーフレグランスは知覚神経試験を実施し、香りによって特定の感情を呼び起こすことを実証。心と五感を満たす新たなフレグランスとして力を入れている。「スリー(THREE)」の天然由来成分100%のオーガニックホームフレグランスは「空気を浄化するように、整える」をコンセプトに、エントランスや寝室など、異なる空間やシチュエーションに合わせてさまざまな香りをラインアップ。フレグランスは医薬品ではないためにはっきり「〜の効果がある」と言い切ることはできないものの、各社香りと特定の効果を結びつけるために、大半が医療機関や外部団体と研究を進めている。

 また近年は一般消費者向けの商材としてだけでなく、香りでオフィスの空間プロデュースをするなど、BtoC向けの取り組みも増えている。医療現場をはじめとする異業種と協業する企業も台頭し、香りをさまざまな課題の解決に役立てようとしている。香りはただの嗜好品から、社会課題までも解決するものになろうとしているのだ。

 ここでは機能性フレグランスで日本の香り市場を広げようとするベンチャー企業のコードミー(CODE MEEE)、フレグランスの輸入販売・開発を行うフィッツコーポレーション(FITS CORPORATION)、製薬会社ながらも香りのベンチャーを立ち上げたロート製薬、そして世界最大級の香料メーカーであるフィルメニッヒ(FIRMENICH)の4社を紹介する。各社が提供する機能性フレグランスに加え、それぞれが思う市場の未来について聞いた。

大手製薬会社が手掛けるフレグランスの新事業
香りで「心の豊かさを満たす」企業へ

 ロート製薬は3年前に香りのオープンイノベーションラボ「べレアラボ(BELAIR LAB)」を開設し、以来香りの新たな可能性の探求と研究を行っている。これまで感覚で捉えられてきた香りを感性デザインで科学的に検証し、そのメカニズムを商品開発や生産性向上に活用している。

 星亜香里「ベレアラボ」代表は「ロート製薬は社会とのつながりを重視しており、これからは『心の充足の時代』と捉えている。会社として『心の豊かさ』を重視したい思いがあり、そこで香りで社会に役立つソリューションを提供できたら面白いのでは、ということからスタートした」と振り返る。これまで胃薬や目薬といった体のフィジカルな不調を解消する医薬品や化粧品を中心に開発してきた同社だが、「べレアラボ」の発足により、内面のメンタルへのアプローチに一歩踏み出すことになった。

 「べレアラボ」が目指したのは、アロマセラピーのファンクショナル(機能的)な部分と、調香師が描く芸術的な世界を掛け合わせた新しい香りの形。ドラッグストアの「トモズ」と香りの店舗デザインを共同開発したり、2022年シーズンから「いわきFC」の選手と香りがもたらすパフォーマンスへの影響を研究したり、香りのコンサルティングや空間デザインを手掛けたりするなど、幅広くサービスを提供している。またBtoC向けには調香師のクリストフ・ロダミエル(Christophe Laudamiel)氏と共にフレグランスアイテムを展開している。

 「べレアラボ」の強みは、やはり製薬会社が誇るR&D力だろう。星代表は「香りは医薬品ではないので効果効能は言えないけども、きちんと研究に基づいて効能を実証した香りを作っているところが、製薬会社として香りを取り組むべきポイントなのではないか」と説明する。また香りの可能性について「匂いは、メッセージを届けられるもの。オレンジの匂いを嗅いだら『明るい』や『フレッシュ』など、共通してみんなが思う。だから嗅いだ人にフレッシュで明るい気持ちを与えたいなど、人の感性に働きかけることができる。感情のコミュニケーション、感情のマーケティングというのが香りでできる。目に見えないものの難しさはあるけれど、面白さもある」と続ける。

 「われわれはコミュニケーションにも香りを使ってほしいと思っている。今後は香りを使って家族や会社などより円滑な人間関係に優しい社会を作りたい。優しい社会があれば、おのずとみんなのメンタル面も良くなっていくと思う。香りでいろんなものを解決できるようになりたい」と語る。

コロナ禍におけるストレスに着目
フィッツはオンとオフの切り替えができる香りを発売

 フレグランスを中心に化粧品の輸入販売・開発を行うフィッツコーポレーションはこのほど、香りの機能性に着目した新ライン「フィッツコンディショニング(FITS CONDITIONING)」を立ち上げた。同社が誇る長年のフレグランスのノウハウと研究を生かし、“香りのチカラでコンディションを整える”フレグランスを提供する。第1弾製品は「集中したいときに使いたい香り」「リラックスしたいときに使いたい香り」の2つの香りで、それぞれルームスプレーとディフューザーを販売している。これは同社が以前から行っているアスリートとの共同研究から派生したプロジェクトで、在宅勤務でオンとオフの切り替えが難しくなっていることに着目。香りの力によって、自宅にいながらオンとオフの切り替えを手助けするものになっている。

 込戸やよい「フィッツコンディショニング」企画・開発者は「社会情勢が大きく変わって、人々のライフスタイルが大幅に変化した。おうち時間が伸びて、日常生活における香りの取り入れ方が大きく変わってきている。弊社でもルームディフューザーやファブリックスプレーといったインテリアフレグランス商材が急伸した。またこれまでは対外的に自分を魅力的にみせるためにあった香水が、今はどちらかというと自分自身のリラックスだとか、内面のために使う人が増えているといった新たな香りの楽しみ方を提案し続けたい」と説明する。

 同社はこういった機能性フレグランスに大きなポテンシャルを見出しており、今回の新ラインも会社の名前を冠するほどの気合が入っている。「『フィッツコンディショニング』は企業名を冠しているだけに、強いこだわりと思いを込めており、弊社の中でも今後の成長の柱と捉えている。既存のブランドの枠を越えて香りの新たな市場を開拓するパイオニアでありたいし、『社会の課題を香りの力で解決する』と銘打っている。香りは目に見えないからこその難しさと、面白さがある。嗅覚は五感の中で唯一本能に直結して感じられる器官でありながら、まだまだ未開拓な分野でもある。だからこそ可能性はあるし、香りの世界を広げていきたい」。

世界最大級の香料メーカーは
香りx感情の新プロジェクトを発足

 世界最大級の香料メーカー、フィルメニッヒ(FIRMENICH)は2021年5月、香りとエモーション(感情)の関係性を研究し、製品化をサポートするプロジェクト「EmotiOn」を立ち上げた。ウエルネスアプローチが重要視される今の時代、“エモーショナルな香り”を作るためのツールやソリューションを提供するプログラムで、世界中の消費者調査や脳科学研究、調香師のノウハウを掛け合わせている。5月のローンチ以来、クライアントから多くの反響があったという。

 特にコロナ禍で消費者は香りから安全性や清潔さ、心の落ち着きを求めており、これらを表現するために開発した「Sereni-Clean™」という香りに期待を寄せる。レベンツァ・トー(Levenza Toh)=フィルメニッヒ 東南アジア・日本・韓国 バイス・プレジデントは「コロナ前から香りのエモーショナルな機能性に着目したきてが、この1年でそのニーズや傾向は加速した。心身ともに影響をもたらしたパンデミックにより、香りの新たな可能性に光が当たったと言える。香水はもちろん、日用品においても、今後香りはウエルビーイングを発信する強力なツールになる。香りから期待できる機能性やメリットを求めるニーズは高まる一方だろう」と前向きだ」と前向きだ。「今後の機能性フレグランスは、消費者の心にアプローチするだけでなく、よりサステナブルで地球のウエルビーイングもかなえるものが支持されるだろう」。

“ソリューション・フレグランス”で
日本の香り市場を拡大しようとするコードミー

 フレグランスベンチャーのコードミーは、香りxテクノロジーでさまざまなソリューションを生み出している。BtoC向けには香りのパーソナライズサービスを、BtoB向けには香りでオフィスをはじめとする空間プロデュースなどを提供している。中でも近年需要が高まるのが後者で、「従業員満足度を上げたい」「生産性が上がるような仕組みをリアルの場で設計したい」といったニーズに応えるように、香りを使って空間をプロデュースしている。例えばデスクエリアには集中力がアップする香り、ラウンジにはリラックスできる香り、会議室には会話を促す香りなど、エリアごとに期待される機能性と紐付けた香りを開発して、空間を演出する。同社はこれを“ソリューション・フレグランス”と呼んでおり、導入した企業からはポジティブなフィードバックが多く集まっているという。

 また最近では、横浜市と連携してオープンイノベーションを加速させる環境設計を目的に、スタートアップ成長支援拠点であるYOXO BOXから「イノベーションを誘発する香り」を発信したり、東京都港区との連携では、官・民・学の連携プロジェクトとして「街の香りブランディング」も始めたりしている。そのほか音楽業界や医療現場とも協業し、ユニークなコラボレーションを数々手掛けている。

 コードミーはこのように異業種とのコラボアや斬新なアイデアにいろいろと挑戦しているが、太田賢司・代表は日本の香りマーケットを広げるためには、従来の香り商材ではないアプローチが必要だと説く。「個人的には香水は好きだが、香水のマーケットを無理に伸ばそうとはあまり思わない。それよりも、香りの本質的な価値を広げていきたい。今までにない香りの市場を作り、もっと香りに新しい価値を感じてもらう可能性を追求していきたい。自分たちの作る香りで新しいマーケットを作ることで、世の中の役に立つことを目標にしている」と意気込む。

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