ファッション

「推し時計、燃ゆ」 勝手連が本国スイスに公認され、コラボモデル販売に至るまで

 今回の「推し時計、燃ゆ」の主人公は、名古屋在住の中澤浩司さん(41歳)だ。スイスの時計ブランド「モーリス・ラクロア(MAURICE LACROIX)」の代表的モデル“アイコン オートマティック”の写真を2年半インスタグラム(@koji_nkzw)に投稿し続け、ついには本国から世界初の公認ファンクラブの運営を任された人物だ。さらに驚くべきは今秋、中澤さんが企画した日本限定ウオッチが発売されるという。“推し活”の最高型とも言える夢は、いかにしてかなえられたのか?

WWD:「モーリス・ラクロア」との出合いは?

中澤浩司(以下、中澤):スイス・バーゼルで開催されていた世界最大の時計見本市「バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)」でした。もともとはバイヤーやメディア向けに行われていたイベントですが、近年は一般ユーザー向けにも情報が同時に解禁されていて、時計ファンは年に一度のタイミングで発表される新作に注目していました。そこで2018年にお披露目されたのが、“アイコン オートマティック”でした。それまでの“アイコン”はクオーツ式で、初の機械式モデルでした。

WWD:ビビビ!ときたわけですね?

中澤:はい(笑)。「バーゼル・ワールド」をリアルタイムで見るようになったのは10年ごろからなんですが、ビビビ!ときて購入したのは初めてでした。

WWD:これまでの時計遍歴について教えてもらえますか?

中澤:初めての本格時計は、「オリス(ORIS)」の“BC3”でした。04年のことです。その後、「オメガ(OMEGA)」の“シーマスター”、「ティソ(TISSOT)」「ラドー(RADO)」などを購入し、今では十数本をコレクションしています。価格は10万~20万円が中心で、ファッションアイテムとして取り入れています。1980~90年代のデザインに引かれるため、中古品も多いです。とはいえ、最近身に着けるのは“アイコン オートマティック”ばかりです。

WWD:何にそんなに引かれるんですか?

中澤:う~ん、ドンズバの答えになっていないかもしれませんが“人”かなぁ。時計って、狭く深いコミュニティーが特徴だと思うんですが、だからこそ人がとても大事で。もちろん実機も重要ですが、時計には歴史があるので、それをきちんと伝えるストーリーテラーの存在が欠かせません。“この人から買いたい”と思えるかどうかは、間違いなく分岐点になりますね。

WWD:その点、「モーリス・ラクロア」は合格したと?

中澤:はい。「バーゼル・ワールド」で“アイコン オートマティック”を見た直後に、日本の正規代理店であるDKSHジャパンに問い合わせました。電話対応してくれた方の印象が、とても良くて。それに続く連絡でも、つまり人が代わっても皆さん丁寧で。その年の10月に名古屋の百貨店に入荷したと聞きお邪魔した際も、販売員の方がとても熱心でした。

WWD:“時計縁”とでも言うべきものですね。他ブランドにはない、「モーリス・ラクロア」の魅力とは?

中澤:75年デビューと時計としては新興ブランドで、認知度も“もうすこしがんばりましょう”なんですが、全ての商品がスイスメードで、部品製造メーカーとしての出自を持つことから機能面も信頼できます。デザイン性にも優れ、それでいて中心価格帯が20万円前後とコストパフォーマンスも高いです。つまり、“バランスが良い”んだと思います。

WWD:初めての高級時計の候補として最適で、かつセカンドウオッチにもなり得るということですね。インスタグラムに“アイコン オートマティック”の写真を投稿する推し活を始めたのはいつから?

中澤:もともと時計をメインに投稿していたんですが、“アイコン オートマティック”を買ってから数カ月で「モーリス・ラクロア」一色になりました(笑)。インスタ映えする時計なんですよ。写真も動画も全て僕が1人で撮影していて、1日1回のペースでアップしています。当初1000弱だったフォロワーが、今では3000を超えるまでになりました。コメントやDMでブランドや新作モデルについて質問を受けることも多く、自分がかつてそうしてもらったように、きちんと対応することでコミュニティーを強化できているのかな?と思います。

WWD:「モーリス・ラクロア」から公認を受けた経緯について教えてもらえますか?

中澤:毎日“アイコン オートマティック”の写真をアップしていたので、そのうちに本国の公式アカウントにシェアされるようになりました。そんな関係が続く中で2019年の春に、僕が撮った動画を公式アカウント内で使いたいと相談されました。もちろん、即OKの返事をしました。その年の8月に、ステファン・ワザー(Stephane Waser)=マネジングディレクターが来日すると聞いて、初めてお会いしました。その場で、「実はアメリカに非公認のファンクラブがあるのだが、その日本版をオフィシャルとして運営しないか?」と打診を受けました。「モーリス・ラクロア」がファンクラブを公認するのは世界初とのことで、大変光栄でした。公認を得たことで、本来ならオフ会なども企画したかったんですが、新型コロナの影響でオンライン限定の活動を余儀なくされています……。

WWD:さらには、これまでの貢献が認められ、コラボモデル“アイコン オートマティック クラブジャパン エディション”を発売するに至りました。

中澤:ワザー=マネジングディレクターから「おまえになら任せられる」と言われ、天にも昇る気持ちでした!日本でお会いしたあと、「僕なら、より日本市場にフィットした商品が作れる」とメールで直談判していたんです。

WWD:コラボモデル製作において最も苦労した点、またこだわった点は?

中澤:まずは、ファンクラブに寄せられたコメントをさかのぼり、全て洗い出しました。分かったつもりになっている日本人の好みについて、あらためて学びました。そのうえで変更したのは大きく3点です。

1.デイト表示

 “アイコン オートマティック”には、3時位置にデイト(日付)表示がありますが、それをなくしました。「よりシンプル、かつソリッドなものを」というファンの声に応えた形です。実際のアクションは、シート状の文字盤でデイト表示をふさぐといった安直なものではなく、今回のコラボモデルのためにムーブメントに手を加えてもらいました。

2.文字盤

 従来モデルの文字盤は、小さなピラミッド状の意匠が連結する“クル・ド・パリ”を採用していますが、“アイコン オートマティック クラブジャパン エディション”では手の動きに合わせて、さまざまな表情を見せてくれるサンブラッシュ仕上げにしました。カラーも日本人に人気のダークブルー一択です。

3.ベルト

 “アイコン オートマティック”用に初めてラバーベルトを製作しました。他モデルのベルトを転用するのではなく、一から作りました。カラーにもこだわっていて、ブランドや売り場からはブラックやダークグレーを希望されましたが断固拒否(笑)。アクティブイメージのラバーベルトを上品に見せたくて、“クールグレー”にしました。キーワードやニュアンスを伝えるのではなく、きっちりパントーンで指定したんですよ。ステンレススチール製ベルトも付属するので、TPOや気分に合わせて付け替えてほしいですね。

WWD:すごい!形だけの、“なんちゃってコラボ”ではないんですね。最後に、中澤さんにとって時計とは?

中澤:“つながり”です。“アイコン オートマティック”との出合いもそうだし、それがきっかけで憧れのブランドとも協業できました。こうして「WWDJAPAN」から取材も受けています。これからも時計を通じて、世界中の人とコミュニケーションしていきたいですね。

<「推し時計、燃ゆ」とは?>
「推し、燃ゆ」が芥川賞を受賞し、“推し活”が豊かな生き方につながるとの認識が広まっている。そこで元来、推しの要素が強い時計の世界で、さまざまな人に“推し時計があることで得られる幸福感”や“そもそも、なぜ推しているのか?”などを聞き、時計の持つ“時間を知る”以上の価値について探る企画。

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