ファッション

「推し時計、燃ゆ」 ギムレット片手に絵を描くことが僕の愛で方

 今回、「推し時計、燃ゆ」がフォーカスするのは、都内在住の会社員マエノマサトさん(36)だ。推し活の内容は、時計を子細に観察して描写すること。それもオリジナルの画風“ステインアート”で、だ。

WWD:ツイッター(@serain_stainart)で日々、絵の進捗状況を公開していますね?

マエノマサト(以下、マエノ):日中は仕事で、また子どもが生まれたばかりなので育児もあり、1日に描ける時間は30分ほどですが、コツコツ進めてはアップしています。

WWD:1枚の絵を描き上げるのにかかる時間は?

マエノ:1~2週間くらいです。

WWD:マエノさんの画風は、何と呼べばいいんでしょう?

マエノ:“ステインアート”です。僕の造語なんですけどね(笑)。建築を学んでいた大学時代に思い付いた手法で、ステイン(染み)のように濃淡で見せるのが特徴です。

WWD:なるほど、だからアカウントにも“STAINART”と入っているんですね。では“SERAIN”とは?

マエノ:“偶然”を意味する英語SERENDIPITYの頭の3文字と、STAINの末尾の3文字を組み合わせたものです。偶然見つけた染みや、ふと見上げた空に浮かぶ雲が何かに見えて、ちょっと幸せな気持ちになった経験ってありますよね?そんな感覚を具現化する作品を描けたらと、ステインアートを模索しています。

WWD:造語好きなのですね(笑)。ずっとこの推し活を続けているんですか?

マエノ:いえ、大学院卒業後に10年ほどのブランクがあって、再始動したのは今年の2月です。そして3月に、ステインアート専用のアカウントを作りました。

WWD:時計に特化しているのはなぜ?

マエノ:構築的なデザインが、建築に通じるところがあると思うんですよね。

WWD:最初にアップした作品が、今日も着用している「オーデマ ピゲ(AUDEMARS PIGUET)」の“ロイヤルオーク”ですね。

マエノ:雑誌やネットで見て、ひと目ぼれしたモデルでした。僕は小柄なので小さめの時計を探していたんですが、あまり流通していなくて……。そんな折、中古販売店で37mmのこちらと出合い、ちょうど第1子の妊娠が分かったタイミングでもあったので、運命的なものを感じて購入しました。

銀座のバーで筆を走らせる至福の時間

WWD:今日の待ち合わせは、東京・銀座にある「バーエス」でした。

マエノ:現在は緊急事態宣言に伴い休業中ですが、コロナ前は仕事帰りに月2回ほど訪れていました。ステインアートを再始動してからは、1人でお邪魔してカウンターに座って、ギムレットかバーボンのソーダ割りを飲みながら絵を描くことも。クラシックバーも好きなんですが、こちらは良い意味でカジュアルで、普段使いできるところが気に入っています。とはいえ本格的なカクテルも作ってくれて、食事もおいしいんですよ。

WWD:ステインアートに使う道具もお持ちいただきました。

マエノ:主に使うのは、この3本です。まずシャーペンで下書きをしてから、「コピック(COPIC)」の0.03mmでベースを描きます。その後、「ステッドラー(STAEDTLER)」「トンボ鉛筆(TOMBOW)」と、だんだん太いペンに持ち替えて濃淡を表現していきます。ステインアートは下書きに一番時間がかかるんです。全工程の7割くらいかな。その際に、濃淡のあんばいを考えるからなんですけどね。今後は、カラフルな作品にも挑戦してみたいです。

WWD:描きたい時計と欲しい時計は異なる?

マエノ:最初は一緒でしたが、今は“純粋に描きたい”時計も増えてきました。絵を描く際には、可能な限り時計を見るようにしています。こういう状況なのでネットでが多いですが、チャンスがあれば実機も見ます。僕にとっては、時計の購入を検討することと描くことはニアリーイコールなんです。描いているうちに、その時計の特徴が分かってきます。

WWD:SNSでの反響は?

マエノ:おかげさまで、フォロワーからのコメントが増えています。描いてほしい時計のリクエストを受けることもあって、一番人気は「ロレックス(ROLEX)」の“コスモグラフ デイトナ”です。「絵を買いたい」という声もいただき、将来的に個展を開催することも考えています。

知らず知らずのうちに引かれていた偉大な時計デザイナーの意匠

WWD:通勤時には、「オメガ(OMEGA)」の“コンステレーション”を着けていましたね。

マエノ:29歳のときに買った、僕の“ファースト高級時計”です。学生時代から、“大人になったら、きちんとした時計を着けなくては”と考えていて、貯金やボーナスを充てて百貨店で購入しました。当時はまだ時計の知識もあまりなくて、クオーツモデルなんですが、購入直後はうれしくてオンオフ問わず、ずっと着けていました。もちろん今も現役です。

WWD:決め手は何だったんですか?

マエノ:デザインですね。その後の“ロイヤルオーク”検討中に気付くんですが、“コンステレーション”も「天才」と称される時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)がかつて関わったモデルなんですよね。構築的なデザインに引かれた結果、天才の意匠に吸い寄せられていました。

WWD:マエノさんにとって時計とは?

マエノ:最高レベルの芸術品。それは建築でも到達できない領域だと思うし、絵でも表現できない。だから引かれるんでしょうね。近づこうとするんだけど、実物には到底かなわない。

WWD:そこに機能まで付いている。

マエノ:その通りですね(笑)。

WWD:今後、狙っているモデルはありますか?

マエノ:クラシックなモデルかな?ゴールドで、ベルトもレザーとか。ブランドで言うなら、「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」でしょうか。もう1人子どもができるとか僕自身の昇進とか、人生の節目で検討できればと思います。

<「推し時計、燃ゆ」とは?>
「推し、燃ゆ」が芥川賞を受賞し、“推し活”が豊かな生き方につながるとの認識が広まっている。そこで元来、推しの要素が強い時計の世界で、さまざまな人に“推し時計があることで得られる幸福感”や“そもそも、なぜ推しているのか?”などを聞き、時計の持つ“時間を知る”以上の価値について探る企画。

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