コロナ禍2年目にもかかわらず、富裕層市場はかつてないほど活況だ。その傾向は世界共通で、宝飾業界では商品の供給が追いつかないメゾンもあるほど。昨年はロックダウンの影響が大きかったが、今年はコロナの常態化も手伝い、「もうガマンできない」とハイジュエリーをはじめとする高額品を購入する富裕層が増えている。そんな日本の富裕層市場の現状をリポートする。(この記事はWWDジャパン2021年8月16日号からの抜粋です)
コロナの収束はいまだ見通せない状況だが、株価は堅調、コロナで業績が好調な企業もあり、新興富裕層が増えている。各ジュエラーはここ数年、日本市場でもハイジュエリーを強化してきたが、昨年からハイジュエリーの売り上げは好調。今年、市場はさらに拡大し続けている。コロナの長期化で海外旅行が制限され、富裕層の海外消費が国内消費にシフトしているためだ。
「コト消費から高額品消費」にシフト
富裕層がこれまでファーストクラスの航空券や高級ホテル、現地でのショッピングに割いてきた予算が高額品に充てられている。日本橋三越本店を担当する三越伊勢丹 クロージング&アクセサリーIグループ マーチャンダイジング部の菅百代 宝飾・装身具マーチャンダイザー(MD)は、「海外旅行などのコト消費の代わりに、特別なハイジュエリーの購入が増えている。昨年末からハイジュエリーの需要は高い」と話す。旅行ができず、イベントなどの娯楽も少ないとなると、楽しみは国内でのショッピング。都内の百貨店担当は口をそろえて、「国内購入の増加で客単価および売り上げが昨年よりアップした」と言う。ハイジュエリーだけでなく、時計や美術品なども絶好調だ。西武渋谷店を担当するそごう・西武の山田遼 お得意様部 高輪会担当は、「7月に開催した外商顧客向け店外催事では、1000万円以上のハイジュエリーが総額数億円以上動いた。催事の1000万円以上の商品による売り上げシェアは、昨年から5%増えて全体の約3割を占める。緊急事態宣言下で動員は制限せざるを得なかったが、客単価と購入率が高まった」と話す。富裕層は、納得すれば当初の予算より高額なものやセット買いにも意欲的だ。
今まで来なかったような高額品が続々と日本上陸
こうした流れを受け、新作ハイジュエリーを発表後間もなく日本に送り込むジュエラーが増えている。「ブルガリ」は新作ハイジュエリー“マニフィカ”をイタリア・ミラノで発表後、まずは日本でお披露目。かなりの点数のハイジュエリーをずらりとそろえた。「ティファニー」も4月に中国・上海で発表したハイジュエリー“ブルーブック コレクション”と「ティファニー」を代表するデザイナーであるシュランバージェの新作ハイジュエリーを7月に日本で発表。毎年米ニューヨークで発表している“ブルーブック コレクション”が日本に来るのは久しぶりだ。
ハイジュエリーは1点モノが多く、重要な市場から世界を順次巡回する。日本で優先的に新作をお披露目するのは、日本市場に対する期待が増しているから。ロックダウンの最中にあった昨年から、これまでは日本に入ってこなかったハイジュエリーが日本に来るようになった。そういった動きも、富裕層の消費意欲を刺激している。
高級筆記具「モンブラン」でも、今年は“書く宝石”と呼ばれる特別限定筆記具“ハイアーティストリー”コレクションが7月末〜10月末に銀座本店に集結する。価格は2000万〜2億円以上とハイジュエリーと同等だ。これらが日本に集結するのも、本国が日本市場にポテンシャルを感じているから。美術品や芸術品、車や時計のコレクターなどの富裕層が購入するようだ。
リングなどの手元アイテムや普段楽しめるものが好調
富裕層に人気が高いのはダイヤモンド。しかも、3〜5カラットといった大粒やピンク、イエローなどファンシーカラーの希少性の高いものだ。これらは、数千万〜億超えする超高額品だが、コロナ禍で先行き不透明な中ゆえ、資産性を求める富裕層には、絶好の投資対象といえる。
コロナにより、従来ハイジュエリーを着けて赴いたイベントは減っている。そんな状況でも、富裕層はハイジュエリーの購入に積極的だ。伊勢丹新宿本店を担当する三越伊勢丹 クロージング&アクセサリーIグループ 新宿宝飾時計・雑貨営業部の長坂貴子スーパーバイザーは、「人気アイテムがネックレスから、リングやブレスレットに変わった。リングやブレスレットは自分で着けて楽しめるからだ。好調ブランドは、『グラフ(GRAFF)』や『ブルガリ(BVLGARI)』など」と話す。西武渋谷店の山田担当も、「カジュアルに着けられる数千万円のネックレスが動いている。リングやブレスレットなども好調だ」と言う。特別なオケージョン用というよりは、個人で普段使いでき、楽しめるものに需要が変化している。
30〜40代の新規富裕層の消費が活発化
百貨店の外商顧客の平均年齢は60〜70代だ。ところが、コロナで30〜40代の新規富裕層が増えている。伊勢丹新宿本店はファッションを入り口に、時計やジュエリーなど高額品の購入につながっているという。若年富裕層は、大粒ダイヤモンドなどの資産価値のある商材への関心が高い。日本橋三越本店も同様だ。日本橋三越本店の菅MDは、「2018年のリモデルとコロナの影響で、30〜40代の新規富裕層が増加。客数も客単価もアップしている」と話す。次世代をどのように取り込むかが百貨店の課題だったが、コロナで状況は変わりつつあるようだ。
客層の広がりは、富裕層へのサービスの変化によるところも大きい。コロナ禍では、催事もアポイントメント制。ゆえに日本橋三越本店の菅MDは、「顧客のライフスタイルに寄り添うサービスの提供が必要で、以前よりレベルアップしている」と言う。コロナは一人一人の顧客と向き合う機会になっており、今まで以上のパーソナルなつながりを招いている。伊勢丹新宿本店も、昨年末に外商サロンで、ジュエラーとラグジュアリー・ファッション・ブランドの商品を集めた顧客イベントを開催し、双方のブランドの新客獲得につなげた。「ブランドやカテゴリーといった枠を超えたアソートメント提案ができるのが百貨店の強み」と伊勢丹新宿本店の長坂スーパーバイザー。よりパーソナルで利便性の高いサービスが富裕層の心をつかみ、消費促進につながっている。
各百貨店担当は海外旅行などのコト消費が再開すれば、富裕層による高額品の国内消費は確実に減少するだろうと予測する。各百貨店は今、富裕層に期待以上で感動するようなサービスの強化を図っている。コロナが落ち着いても、富裕層による国内消費を確保するのが目的だ。