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連載 元FR上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”

「評価が曖昧」そんな組織には、一体どう働きかけたら? 業界の悩みを「心に火を灯して」解決しますVol.1

 ファッション&ビューティ業界は「変革」を謳っているけれど、実は「どう変わったらいいのか?」さえ見つからない人はいませんか?目指す姿は見えているけれど、実は迷っていたり、くじけそうになったりしている人はいませんか?そんな「登るべき山」が見つからなかったり、山は見えているけれど道を照らすトーチの火が消えそうだったりのアナタに、人の「心に火をつける。」ことを目指す神保拓也トーチリレー代表取締役“隊長”が向き合います。

 初回の「心に火をつけたい」と願う相談者は、国内の大手アパレルメーカーで長年現場を経験した後に昇進し、現在はセールストレーナーを務める女性Aさん。「私は、マネジャーに向いているのか?」「ブランドとして、何を目指したら良いのか?」「ブランドや組織は、変わることができるのか?」ーー。神保“隊長”は、絡み合う複数の悩みを紐解きながら、彼女の心に、登るべき山に向かうためのトーチの火を灯してくれました。

「店頭にいた頃から『評価基準が曖昧』と感じている」

神保拓也トーチリレー代表取締役“隊長”(以下、神保“隊長”):Aさん、こんにちは。ではまず、私のトーチングを受けようと思ったきっかけを教えてください。

Aさん:「ユニクロ(UNIQLO)」のスタッフの心に火を灯すまでを紹介した、「WWDJAPAN.com」の記事を見て、「ビビッ」と来ました。(ごくごく普通の「ユニクロ」の店舗をサポートしていた当時の神保“隊長”には)私と共通するところがあったんです。私は今、店舗向けのセールストレーナーとして、現場の士気やショップの想いを引き上げられないか?と思っています。でも現職での経験は浅く、私一人がアツくなってもダメ。自分のチカラも蓄えたいんです。記事を読んで、感動しました。「私が店長だった時にこんな人がいたら、もっと良い経験ができたのかな?」と思ったし、自分は熱量高く仕事に臨んでいると自覚もできました。でも心の火は、頻繁にくすぶります。火を灯し続けられるようになりたいんです。

神保“隊長”:セールストレーナーとしてのキャリアはどれくらいでしょうか?

Aさん:就任して2年半です。直近は、エリアトレーナー。その前は、店長を17年間務めました。

神保“隊長”:今の仕事は、自分に向いていると思いますか?

Aさん:正直、「プレイヤー向きなのでは?」とも思っています。もちろんアドバイスが結果に繋がったり、店長から「成果が出た」と報告を受けたり、うれしいこともあります。でも、成功体験を積むまでには至っていません。

神保“隊長”:一人のトレーナーが担当する店舗の数は、いくつくらいですか?

Aさん:今は5店舗。直営店を含む、関東近郊20の店舗を3人で分担しています。

神保“隊長”:私の前職では、店長の上司にあたるスーパーバイザーは教育のほか、エリアの売り上げについても責任を負っていましたが、Aさんの組織も同様ですか?

Aさん:同じです。売り上げは、評価の対象の1つです。ただ、数字責任は営業も負っています。

神保“隊長”:数字は、どこまで追いかけていますか?

Aさん:週明けには「何がよかったのか?悪かったのか?」を電話で聞いた後、「今週はどうする?どうやって戦う?」という店長の想いを聞き、アドバイスしています。また店舗では、オペレーションがうまく機能しているか?を確認しながら、店内美化も含めて総合的にアドバイス。自分が接客して聞いた、消費者の声をフィードバックすることもあります。

神保“隊長”:現在、最も悩んでいることを教えてください。組織の悩みでしょうか?それとも、自分が役目を果たし切れていないという悩みになるでしょうか?

Aさん:両方だと思います。会社の仕組みについては店頭にいた頃から、「評価基準が曖昧」と感じていました。もちろん個人の売り上げ、店舗の売り上げ、お客さまに対するサービスなどを評価してもらいましたが、試験があるワケではなく、何をもって昇格なのかは明確ではありません。上司によってバラバラで、ブランドして、会社として「ふわっとしている」と思います。「1つの基準を設けて欲しい」、上司にそう話しましたが、はぐらかされてしまいました。年間の予算に対して何%達成すれば評価してもらえるのか?インバウンドがない今は、国内のお客さまで予算の何%を達成したら良いのか?個人の目標なのか?店舗の目標なのか?SNSはどう評価するのか?曖昧なんです。

神保“隊長”:現場の悩みを吸い上げる仕組みがないから「暖簾に腕押し」なのかもしれません。会社で改革を担うのは、どの部署ですか?

Aさん:権限と言われると、人事かもしれませんし違う部署かもしれません。

神保“隊長”:あいまいですね(笑)。

Aさん:あいまいですね(苦笑)。おそらく、経営企画とブランドの長が話をしているんだと思います。今の上司は割と「君なら、どうしたい?」と聞いてくれるのですが、「その声は、生かしてくれるのかな?」って思っています。

神保“隊長”:Aさんの周りに、「この会社、ブランドをもっと良くしたい」と思っている人は、どのくらいいるでしょうか?

Aさん:店長で言えば、20人中5人は間違いないと思います。セールストレーナーは、3人とも同じ意見です。販売部長は、話せばわかる人。販売課長は、私に近い人。営業も3人のうち1人は、かな?

「あるべき」論は、飲み会で気持ちよくなれるけれど……

神保“隊長”:安心しました。仲間になってくれそうなメンバーは少なくありませんね。だから、話を続けますね。本当に組織を変えたいのなら、正解や「あるべき」論を言っている場合じゃありません。今の話は、おそらく大勢の方が「そうだそうだ」と納得するし、理解している人がいて報われる想いの同僚もいるでしょう。飲み会で話をすれば、きっと盛り上がるし、気持ちよくなれるでしょう。でも変革者の仕事は、ここから。変革を山登りに例えたら、Aさんはまだ1合目にたどり着いただけです。歩みを進めないと。このままでは、何も変わりません。変わらない原因に目を向けないと、組織は変わらないんです。“変革者もどき”がハマるワナは、「あるべき」論を作っただけで世の中が変わると期待してしまうこと。普通の人は、これで終わりかもしれません。でも、変革者の仕事はここから。変えるためのボトルネックを見つけ、握りつぶされないために仕掛け、1人じゃダメなら仲間を募る。こういうコトに脳みそを使うんです。変わるときは、誰かが、面倒な役割を実行しないと。会社の経営が悪くなるのは、経営者の怠慢です。でも、変革者が現れなかったのも要因の1つです。面倒でもAさんは、「私がやるか」と立ち上がる“バッドコップ”にならないと。その役割を担う人は、シンドいだけです。なのに給料は変わらない。会社のことを思っているのに、嫌われてしまうかもしれない。矛盾との戦いです。でも、それをやる人しか、変革者にはなれません。

Aさん:私は、変革者なのでしょうか?

神保“隊長”:ここにいることが、変革者の資質があることの証明です。私に相談したいほど組織を救いたいと思っていて、頼まれてもいないのに今ここにいる。その時点で、周りから頭一つ抜きん出ているんです。Aさんは、自分の“守備範囲”を超えて、心に火を灯そうとしているんです。方法は、2つあると思います。まず1つは、「あるべき」論を考えるのは一休みして、押さなきゃいけないスイートスポットを見つけること。そして2つ目は、仲間づくりです。孤軍奮闘するだけでは、組織は変えられません。変革者は強引にでも仲間を作らないと、自分の心が折れてしまいます。僕も、自分の組織では同志を作ってきました。僕の心だってすぐにくすぶって消えちゃうし、「登るべき山」だって下山したいって思っちゃう(笑)。それでも前に進めるのは、僕がスゴいのではなく、へこたれた時でも前に進める環境づくりを頑張っているから。その代わり、旗を振るのは自分です。変革は、「なんで私が、こんなことまで?」と思ってからが変革です。そこで「やめた」と思うのなら、会社や組織を憂うこともやめるべきです。

Aさん:具体的には、どうすれば?

神保“隊長”:仲間を作るには、最初の1人を作ることです。まずは「あるべき」論を叫ぶのをやめ、誰に、どんな状況で、どう切り出せばいいのか?を考えましょう。自分が思っていることを別の人が話し始めると、「この人も、私と同じ想いなんだ」とその人の胸はざわつくものです。そうなれば、勝ちパターンです。できない話じゃないでしょう?もう、頭に候補は思い浮かんでいるはずです。

Aさん:違う部署にも、現場出身の同じ思いを持った方がいます。

会社のゴミを拾う人は、重宝がられるに違いない

神保“隊長”:戦うべきものがわからないまま戦ってきたこれまでは、きっとシンドかったと思います。でも、組織の構図が見えていることは、大きなプラスです。僕の前職は、何か特別なことをやっていたわけではなく、地道に3足990円のソックスなどの売上を毎日を積み重ねて年間で2兆円(神保“隊長”が勤務していた当時)を達成した会社です。現場で頑張った経験を持つ人が、例えば本部でマーケティングも頑張っています。そんな人は、店舗をないがしろにはしないんです。一方、そういう経験がない人は「マーケ最適」で考え、部分最適・部署最適に陥ってしまう。構図が見えてからが勝負なんです。面倒かもしれませんが、会社のゴミを拾いましょう。ゴミや落ち葉を拾ってくれる人がキライな人は、いないハズ。みんな、「どうして、そんな面倒なことをやってくれるの?」って思うでしょう。すると、悩みは向こうから寄ってきます。「あの人なら、やってくれるんじゃないかな?」というムードが醸成されます。そして色々話すと勘が良くなり、ゴミのたまりやすい場所、組織のガンがわかってきて、ガンの温床になっている仕組みの問題に気づきます。そんな人は、会社から重宝がられるに決まっていますよね?事実とともに、「人」を憎まず、「仕組み」を憎むことができるんですから。「あるべき」論を言って誰かのせいにしている人とは、全然違うんです。説得力が、ハンパじゃないんです。変革とは、そういうものです。変わることはシンドいけれど、変わらずに死を待つよりはシンドくない。僕にこう言わせているのは、変革者候補のAさんの想いです。きっと、変われるし、組織も変えられると思います。応援しています。

【心に火がついたAさんの感想】
 あの日の相談は、「評価制度を変えたい」がメーンでした。会社に長く勤めてはいるものの、現場で育ってきた私にとって「本部に入る」は転職に近いことでした。今まで店頭でやってきた職務やルーティーンは、ほぼ役に立たず、まして詳しい仕組みや問題は誰に言ったら解決するのか?未だにわからないのが現状です。

 神保さんが私に言ってくださった、「仲間を作ること」と「会社のガンは、どこにあるのかを知ること。『誰が悪いのか?』ではなく、『そうさせている仕組みは、何なのか?』を知ること」の2つは、私にとって新しい気づきとなりました。こんな風に教えてくれる上司は今までにいなかったし、仕事において大切なことを教えていただきました。本当にありがとうございました。


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