ビジネス
連載 元FR上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”

「店舗を良くしたい」の行動が誤解!? 元ファストリ上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”回顧録Vol.1

 ファーストリテイリンググループで社内改革を推進する「有明プロジェクト」をけん引し、史上最年少で上席執行役員に昇格した神保拓也はこのほど、人の「心に火をつける。」ことを目指し、株式会社トーチリレーを設立した。まず取り組む同社の主たる事業は、「心に火をつけることを主題に置きつつも、ティーチングやコーチングとは一線を画すサービス」。ただ、その料金はタダだ。なぜ神保は、タダで「トーチング」を始めたのか?人の心に火が付くことで起こった、ファーストリテイリング時代の「奇跡」をたどり、「トーチング」の原点を探る。

 神保拓也・代表取締役“隊長”のトーチリレー、人の「心に火をつける。」素晴らしさの原体験は、ファーストリテイリング勤務時代、「ユニクロ(UNIQLO)」の関東のとある店舗にあるという。幹線道路のロードサイドにある、ごくごく普通の店舗だ。

 それは、5年前の話。神保“隊長”は、本部社員が店舗を定期的に訪問しサポートする制度で、その店舗を訪問。それは「ユニクロ」の「お客様第一」、そして「店舗が主役、店長が主役、スタッフが主役」というカルチャーを体現する制度だった。訪れた店舗の店長は、当時25歳。実力があれば最短半年で店長に昇格できる実力主義の人事制度で、その職に就いていた。ただ何かがうまく機能しておらず、店舗は監査を受けると低い評価を突きつけられた。

 一般的に、店舗の「問題」はさまざまだ。「在庫は揃っているか?」「欠品はないか?」「アルバイトスタッフの数は足りているか?」「清掃は行き届いているか?」などは巡回する時、上司が確認するポイントだろう。だが神保“隊長”は、「『店舗オペレーション』が主役ではなく、『人』が主役であるべき」と考え、「『人』にフォーカスした巡回を心がけた」。「そこで働いてくれている人の心に、火がついているか?」を確認して回ったという。すると見えてきたのは、「店長と、このロードサイド店を含め複数の店舗を束ねるスーパーバイザー(以下、SV)の関係性が良くなかった」という、この店舗最大の問題。SVは監査のたびに低い評価を受ける店長に不満を持ち、一方の店長は実力主義でのし上がった自分を評価してくれないSVに不満がある。そして店長とSVの不和が、「夫婦喧嘩に動揺する子どものように」スタッフを悩ませていた。

 店長は店舗に着任して早々、「20代で執行役員になります。だからさっさと結果を出して、半年で、大きな店に異動します」と、自分を追い込むためでもあるビッグマウスを吐き、スタッフに総スカンを食らっていた。しかし店長は間もなく、一人じゃ何にもできなくて、先輩スタッフの方が仕事ができることに気づく。そしてスタッフは、不器用ながら努力する店長を応援するように。結果、店長とスタッフの関係性は急速に改善。ただスタッフと仲良くなることと、店舗が改善することは別。なかなか成果が出なくて、店長とSVはコミュニケーション不全の状態に。そこで神保“隊長”は、店長室に自らの名刺を置き、店長とスタッフに「何かあったら、電話してこい」とのメッセージを残したという。

 するとある時、店舗の女性スタッフが泣きながら「このままでは、店長が壊れてしまう」と電話をかけてきた。

 店舗には相変わらず問題があり、SVは欠品やサイズの不備などを指摘していた。なのに店長は、社内公募のフィリピン短期留学に参加して2週間不在に。SVが激怒している最悪のタイミングで監査が入り、この店舗は再び低い評価を受けた。連続の低評価でSVは激怒し、店長は意気消沈。店長は監査の際に店舗を不在にしていたこと、連続して「低評価」だったことの責任を感じ、SVに責任感の欠如を問いただされ、激しく凹んでしまったという。赴任した当初は無鉄砲なくらいだった店長が小さくまとまり、「日に日に元気がなくなっている」という電話。スタッフは、「このままでは、辞めてしまうかもしれない」と心配した。店長とSVの信頼関係が悪化したため、店舗の雰囲気も日に日に悪くなったという。そこで神保“隊長”は改めて、SVと店長、そしてスタッフと面談することにした。

 面談で気付いたのは、店長も、SVも、スタッフも、3者3様で「店舗をよくしたい」と思い、自発的に動いていたこと。でも「その言動が、相手に誤解されて伝わっていた」。そこで神保“隊長”は、店長とは「SVに認めてもらうには、自身の何が課題なのか?」、SVとは「あの店長に変わってもらうためには、自身も何を変えなければいけないのか?」、そしてスタッフとは「店長とSVがあんな状態の時、みんなは一体、何をすればいいのか?」をディスカッション。その時それぞれは、「登る山がわからないから、登り方も何もない状態」。そこでそれぞれに複数回、「心に火をつける」トーチングを実施した(つづく)。

今週のトーチング格言

「0次産業が重要だ!!」

連載では最後に、神保“隊長”から取材中に飛び出した名言をお伝えします。今週の格言について神保代表は、「1次産業の農林水産業からさまざまな仕事が広がり、今は6次産業やインダストリー4.0や5.0と言われているけれど、1次以上の産業は、全て人のつながりの上に成り立っている。だから人は0次。そして0次が変わらないと、世の中は良い方向に変わらない。トーチングは、人の心に火を灯す0次産業のビジネスなんです」という。

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