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ファストリ上席執行役員が独立してタダで始めた「トーチング」 正気で商機を感じているの!?

 ファーストリテイリンググループで社内改革を推進する「有明プロジェクト」をけん引し、史上最年少で上席執行役員に昇格した神保拓也はこのほど、人の「心に火をつける。」ことを目指し、株式会社トーチリレーを設立した。まず取り組む同社の主たる事業は、「心に火をつけることを主題に置きつつも、ティーチングやコーチングとは一線を画すサービス」。ただ、その料金はタダだ。おそらく世界屈指の高給取りのサラリーマンだった神保は、どうしてタダで「トーチング」を始めたのか?ボランティアなのか?その背景に迫った。

 ティーチングでもコーチングでもない「トーチング」について神保は、「目標という山を見つける、目標という山に登るためのトーチに火をつけるサービス」と話す。心に火が灯れば、山は見つかる。心に火が灯っていれば、山に登っていける。目標が見つからなかったり、目標はあるけれど「悪天候で、心の火がくすぶって」いたりする人に向け、手を差し伸べ、背中を押す仕事だ。

 6月にスタートしたトーチングの最初の客は、現役高校生だった。大学の付属高校に通っていた彼の悩みは、そのまま進学するか、海外の大学にチャレンジするか?さまざまな切り口から「登る山を見つけるお手伝いをさせてもらった」結果、「何をすべきか?目標は何なのか?を明確にでき、以前より肩の力を抜いて物事に取り組めるようになった」との連絡があったという。トーチング料は、高校生の彼に限らず本当にタダ。依頼者には各人に約2時間を費やしてトーチングを重ねている。直近の主たる収入源は、毎月2時間だけ時間を割くB to Bのコンサルティングで、時給は20万円。時給としては非常に高額だが、ファーストリテイリングの上席執行役員だった神保の月収は、40万円まで下がった。

 なぜ、無料なのだろう?そう聞くと神保は、フリースに代表される「ユニクロ(UNIQLO)」の「服の民主化」の話をする。フリースは、「アウトドア好きなど、一部の人に向けた商材を一般に解き放って」大ヒット。ファーストリテイリングの柳井正・代表取締役会長兼社長の間近に身を置き、「一部に独占されていた何かを、世に解き放つ」ビジネスにチャンスを感じたという。そこで目指したのは、「コーチングの民主化」。「コーチングも、一部の人に利用が限られているサービス。人の悩みに高尚や低俗などの違いはなく、進路相談も夫婦喧嘩も本人には重要」と考えた。民主化に際しては、「『傾聴しなければならない』『質問しなければならない』『評価(承認)しなければならない』などのルールに縛られているコーチングでは、心に火はつかない」と、独自のトーチングに昇華した。

 心に火がついて大変身を遂げた人や組織も、ファーストリテイリング時代に目の当たりにした。それは、本社勤務の人間が店舗をサポートする「スポンサー制度」での出来事。神保は、店長とスーパーバイザー(複数の店舗を統括する店長の上司)の“わだかまり”が、店舗スタッフにも悪影響を与え、結果低迷しているロードサイド店舗のスポンサーを務め、1年で全国800以上の店舗の中でNo.2に選ばれるまでのサクセスストーリーを目の当たりにした。神保は、「店舗の心に火をつけるために巡回したが、僕がやったのは、そこまで。火はどんどん燃え広がった。そこから先の奇跡は、僕ではなく、彼ら自身が起こしたこと」と話す。店舗スタッフは、全国No.2に喜ぶのではなく、「優勝できなくて悔しい」と涙を流したという。「山が見つかり、山の登り方がわかった人間は、ここまで変われるんだ」と実感した。

 とはいえ、月商40万円では、従業員を抱える会社は成り立たない。本人は、「1日、午前と午後で2組にトーチングできれば、1年で700人、2年で1400人の心に火がつき、コアなファンはトーチングを口頭伝承してくれる」と言うが、それでも稼ぎは月間40万円のままだ。マネタイズの第一弾は、これまで、そしてこれからのトーチングのやり取りや金言・格言、心に火がつくまでのプロセスを、神保自らが記した“秘伝”の「トーチング日記」。月額1000円でオンライン配信する。「日本で100人なら、中国では1300人に販売できるはず」と日記は多言語化。加えて7月下旬からは、「トーチング日記」の“あとがき”を動画で届ける「トーチングラジオ」の配信もスタートした。引き続きトーチングは無料だが、それは、日記やラジオとして届けるコンテクストの素になるコンテンツを「無料で仕入れること」でもあるという。

 ファーストリテイリングでも「特定の人たちに限られていたものを、世の中の大勢に解き放った」。ただ、「心に火をつけるトーチングは、ファーストリテイリングに携わる人だけが求めていることなのか?世の中は、悩みだらけ。このままファーストリテイリングで高い給与をもらいながら、特定の人の悩みだけに向き合うべきなのだろうか?」と考え、「柳井さんのためより、大勢のために」と独立した。トーチングをサステイナブルなモノ、持続可能なビジネスにしたいと思っている。目標は、「家族(第1の場所)にも、職場(第2の場所)にも相談できない悩みが相談できるサードプレイスになること。そして、全ての根源である人の心に火を灯すことで、世の中をもっと明るくする」ことだ。


 「WWD JAPAN.com」は8月から、神保拓也トーチリレー代表取締役“隊長”が「ユニクロ」時代、スポンサーを務めた店舗のスタッフの心に火を灯し、奇跡に導くまでを振り返る連載をスタートします。ご期待ください。


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