ファッション

玄人から若者にまで支持を広げる「フィル ザ ビル」の“ちょうどいい服”

 2012年にスタートした「フィル ザ ビル(FIIL THE BILL)」は、トレンド感を盛り込みながらも古着やビンテージを軸とした日常に馴染むクリエイションが人気のブランドだ。ブランドを手掛ける金田淳一デザイナーはかつてアパレルの企画・生産を手掛けていたこともあり、縫製や生地、パターンなどの品質の高さにも定評がある。現在はメンズで13、ウィメンズで16のアカウントに卸し、ユナイテッドアローズやエストネーションといった有力ショップでも扱われている。

 今年8月には15年から恵比寿に構えていた直営店を青山に移転オープンさせた。新型コロナウイルス感染症で不安定な状況が続く中で移転を決めた金田デザイナーに、リアル店舗にかける思いや服作りの変化などについて尋ねた。

WWD:青山への移転を決めた理由は?

金田淳一「フィル ザ ビル」デザイナー(以下、金田):この物件に「おっ!」と思ったから。これまでお店が恵比寿、事務所が白金台にあって、同じ場所に統合したいなと思いながら物件を探してたんですけど、ここが一番グッと来ました。そういう勘がすごく大事だと思っています。立地にこだわりはないですが、みんなが青山と聞いて連想するエリアから2本くらい裏通りなのは気に入ってますね。

WWD:内装のこだわりは?

金田:白を基調にゆったりした空間になってます。恵比寿のお店も白がベースだったし、什器も継続して使っているものがあるなど、昔のお客さんも楽しめる雰囲気です。ちなみに空間作りは内装業時代の先輩にお願いしていて、そういう繋がりも大事にした店舗です。

WWD:リアル店舗の運営をリスクだと考える人も少なくありません。

金田:移転の話を聞いた知り合いから「コロナだけど大丈夫?」って言われることもありました(笑)。たしかに時代と逆行してるかもしれませんが、僕はブランドにとってお店はマストだと思っているんです。買うのはECでも全然良いんですが、実際に手にとって着られる場所はそれ自体にすごく価値がある。あと直営店は世界観を伝えやすいので、卸メインでもブランドの核になる。初めてお店に来る理由は、インスタを見たからとか、友達に勧められたからとかが多いと思いますが、そういうお客さんがブランドの世界観に触れて、「なんかいいな」と感じてもらって、ブランドのファンになってもらえたらうれしいです。

WWD:ブランド立ち上げまでの流れを教えてください。

金田:東京モード学園を中退して、生地屋やプリント屋、内装屋、OEM会社などで働き、2012年にブランドをスタートさせました。最初はブランドなんて考えてなかったんですが、独立してからフリーでOEMをやってる時期に、商品サンプルを見た友人から「ブランドやったほうがいいよ」と言われたのがきっかけでした。

WWD:今はウィメンズが拡大している印象です。

金田:OEMでウィメンズを多くやっていたので、ブランドもそっちの方に興味がありました。途中から作り始めたらやっぱり楽しくて、今はウィメンズとメンズが3:2くらいの構成になるまで増えました。売り上げもメンズより拡大しています。

WWD:古着を軸とするものづくりの姿勢は変わらない?

金田:そうですね。古着は時代背景をストレートに反映しているので、それが面白いのかな。だた、服作りに関する考え方は少し変わりました。昔は古着があって、それをいかに今の時代にフィットさせるか、どんなパターンを作るかを考えていたんですが、今は時代とか関係なく、いかにオリジナルな商品に進化させるかにフォーカスしています。本当に微妙な違いなんですけど、お客さんの反応がけっこう違っていて、昔はベテランのバイヤーさんやビンテージ好きのお客さん気に入ってもらうような玄人好みな服だったのに、ここ2〜3年は20代のお客さんがかなり増えてます。インスタグラムのタグ付けを見ると、若い子たちがいろんなテイストをミックスして着ていて、それがすごく新鮮です。

WWD:ブランド名の由来は?

金田:“ちょうどいい料理を出す”という意味合いの料理人の褒め言葉らしくて、その感じが気に入りました。“世の中に適応しながら、バランスをとってやっていこう”という意味を込めてます。着てもらわなきゃ意味がないので、独りよがりの服を作らないという考えもあります。売れ線に寄せすぎてもダメですけど。

WWD:今、ジャンルレスな若者に支持されているのも“ちょうどいい”からかもしれませんね。

金田:そうですね(笑)。たまたまなのか、時代にフィットしたからなのかはわかりませんが、これまでより多くの人に楽しんでもらえてるのは純粋にうれしいです。

WWD:シーズンテーマを設けないことにもこだわりがある?

金田:たぶん、テーマを設けて服を作ることにハードルの高さを感じてるんです(笑)。ランウエイならテーマを設けた方がいいかもしれないけど、展示会とルックだけのウチが、シーズンテーマを明確に伝えるのってけっこう難しい。もちろんショーに興味がないわけではないんですが、今の体制のままじゃ“ショーがあるから作った”ような無理やりなコレクションになっちゃう気がしていて。無理せず、マイペースに作るのが自分には合ってると思います。

WWD:ブランドの展望を教えてください。

金田:先ほど言ったように、マイペースにやれればいいのかな。発表の形式やブランド規模にとらわれず、作りたいものを愚直に作っていきたい。オリジナリティーを追求する服作りをもっと練習して、ほかにないブランドにしたいです。このアウトプットに慣れて、ワンシーズンにたくさんのアイデアがひらめくようになったら、ショーにチャレンジしても面白いかも。あ、こんなこと言うとやらなきゃいけない感じになっちゃいますかね(笑)。

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