「変わらない・変われない」ことのネガティブサイドがフォーカスされるようになって久しいし、私自身、自戒を込めて強い危機感を抱いている。だが一方で「変わらない・変われない」のは、現在および過去に対する「愛」ゆえとも思っている。だからこそ「変わらない・変われない」ことを非難するのは心苦しく、「変わる」価値を自分ごと化してもらうのは難しい。それが、正しいのかさえわからない。そんなときは、こんな風に考えたらどうだろう?(この記事はWWDジャパン2020年8月31日号からの抜粋です)
「愛」ゆえに「変わらない・変われない」とは、一体どういうことなのか?具体例を社内外から説明してみよう。まず社内では、このページ。「WWDジャパン」は私の入社前からずっと、左にある「Chat Chat!」というコーナーを掲載してきた。このコーナー、かつては痛快だった。個人的に一番笑ったのは、バッグメーカーのクイーポが市ヶ谷に自社ビルを構えた2007年の記事。自衛隊の市ヶ谷駐屯地が見下ろせる社屋の竣工パーティーに招かれた小池百合子・衆議院議員(当時)が会場をどよめかせた、「これからは、このビルからお隣(防衛省)を監視しなくちゃね」という一言だ。彼女が在任55日の防衛大臣を解任されて間もないころだった。「Chat Chat!」は意味深な一言を取り上げてきたコーナーだが、恥ずかしながら最近は業務が作業化していたし、痛快な一言なんて簡単には出てこない。ことコロナ禍で対面取材の機会が少なくなると、雑談そのものが大きく減少。生みの苦しみが続いていた。ギリギリまでエントリーを募っても集まらず、時には妥協して埋める作業を繰り返したウイークリーのメンバーを隣で見続け、実は何度も「やめればいいのに」と思ったし、口にしたこともある。「今っぽくツイッターでバズった投稿を取り上げるくらいはアリなのでは?」ともデジタル側の私は考えた。でもウイークリーのチームが続けてきたのは、媒体への「愛」ゆえ。「名物」クラスのコンテンツなら、「愛」の深さは相当だ。私がその立場でも、多分現状は変わらなかっただろう。
こんな「愛」と、それゆえの「変わらない・変われない」は、業界内にあふれている。社外で言えばリアルとデジタルの確執は、その最たる例だろう。こと最近はリアル店舗をDXにおける「負の遺産」と捉えがちなムードがあるし、確かにOMOに消極的なショップスタッフもいるかもしれない。しかし、それはリアル店舗への「愛」の深さゆえ。悪いのはスタッフではなく、組織や仕組み、今に至るまでの道程だ。
「愛」は、根源的で強い。ゆえに「愛」ある人を変えるのは難しい。しかも、「愛」は存在すべき。モノも情報も溢れる中、「愛」がなければ存在価値なんて皆無だ。
だとしたら私たちは、「変わらない・変われない」ことを容認しなければならないのだろうか?そこで「その『愛』、カスタマーに向けたらどうですか?」とのメッセージを送りたいと思う。
「WWDジャパン」の「Chat Chat!」の話に戻ろう。「愛」の矛先がこのコーナー、もしくは媒体に向いていると上述の通り、これを変えるのは相当勇気のいることだろう。しかしこと最近は妥協の結果、読者メリットが低下していたのは否めない。そこで想像してほしい。「愛」の矛先がカスタマーに向かっていたら?名物コーナーでも、思いきって変える勇気が持てるハズだ。事実、この「Chat Chat!」は今週まで。ファッションのウイークリー・メディアだった「WWDジャパン」にビューティ・コンテンツも加わる来週からは、このページも生まれ変わる。
リアルとデジタルの確執は、どうだろう?ショップスタッフが「愛」の矛先を売り場ではなく、顧客に向けたら?顧客が望むなら、そして仕組みと評価制度が整うなら、彼らは喜んで顧客をECに送り出す。デジタルチームも、顧客を誰より深く知るショップスタッフの意見を重要視するだろう。縄張り争いなんて、案外簡単に解消するのかもしれない。そして「愛」の矛先が顧客に向いている自信があるなら、「変わらない」ことを恐れる必要はない。変わらぬ伝統とは、顧客への「愛」によって育まれたのだろう。
詳しくはリニューアル最初の来週号、本腰を入れてファッションとビューティの融合を説く特集内で解説するが、今回の取材では「プロダクト・セントリックからカスタマー・セントリック」と「カスタマー・ジャーニー」、そして「ユーザーメリット」という言葉を何度も聞いた。いずれも「愛」を商品や売り場ではなく、顧客に向けようというキーワードだ。こうした言葉をファッションとビューティ、双方の業界から等しく、頻繁に聞けたことをうれしく思う。2つの業界は、やっぱり同じ方向を見ているのだ。だったら今の「近いようで遠い存在」ではなく、「1つの存在」になったらどうだろう?だってその方が今の消費者、つまりわれわれが「愛」の矛先を向けるべき顧客のためだ。来週号に登場する方々は、業界の瑣末にとらわれず、いずれも大局的な視点に立ち、「消費者のため」にファッションとビューティの融合や、双方の長所を取り入れて短所を改善することを説く。
「愛」は強い。「愛」は普遍。「愛」は国も、性別も、信条も超える。そして不安な世の中だからこそ、「愛」の価値は大きくなるばかりだ。だからこそ改めて「愛」について考えたい。アナタの「愛」は、どこに向かっていますか?