ファッション

父の故郷への愛を込めた「ディオール」2021年プレ・スプリング 3万灯のイルミネーション輝く広場を舞台に

 「ディオール(DIOR)」は7月22日夜、南イタリア・プーリア州のレッチェで2021年プレ・スプリング(クルーズ)・コレクションの無観客ショーを開催した。会場は街のシンボルであるドゥオモ(大聖堂)の前にある広場。ルミナリエ(イルミネーション)のセットが広場を囲い、3万灯のLEDが輝く中で90ルックを披露した。12日間をかけて設営されたセットは、フェミニズムを題材とした作品で知られる現代アーティストのマリネッラ・セナトーレ(Marinella Senatore)がデザインしたもの。伝統的なスタイルの中に取り入れられた力強いメッセージは、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=ウィメンズ・アーティスティック・ディレクターによるこれまでの「ディオール」のショー会場にも通じる。さらに、心と体のカタルシス(浄化)を象徴する民族舞踊のピチカをベースにしたダンスとオーケストラによる生演奏が儀式的なショーを盛り上げ、フィナーレ後には南イタリア出身の歌手ジュリアーノ・サンジョルジ(Giuliano Sangiorgi)がピアノの弾き語りを披露した。

 キウリは今季、南イタリアの伝統と職人技への敬意を表すことを目指し、同地に受け継がれる素朴な美学とフランスのクチュールメゾンらしい華やかさやファンタジーを掛け合わせた。ショーは、ラフィアの刺しゅうで小麦の穂のモチーフを描いたチュールドレスからスタート。ベルトやレザーのコルセットなどでハイウエストをマークしたドレスやスカートスタイルと、ジャケットにミニ丈のショートパンツを合わせたセットアップが豊富にそろう。アイコンのバージャケットは、マルチカラーストライプのジュート素材で再解釈。裾にフリンジが施された幾何学柄のエプロンドレスやロングスカート、白の素朴なレースで仕立てたドレスなど、昔から家庭で使われてきた生地を想起させるアイテムも目を引く。

 そして、ナチュラルカラーやモノトーンが中心のコレクションに彩りを添えるのは、アーティストのピエトロ・ルッフォ(Pietro Ruffo)による17世紀の植物図鑑にインスパイアされた花柄。グリーンやピンクなどサイケデリックな色使いが1970年代のイメージにつながる。アクセサリーはターラント国立考古学博物館に所蔵されているアンティークジュエリー・コレクション“オリ・ディ・ターラント(Ori di Taranto)”から着想を得たもので、モデルの頭を覆うスカーフがフォークロアムードを際立たせる。

 今回のコレクションとショーの背景についてキウリは、「父がプーリア州で生まれたので、私のルーツにとても近い場所で何かをすることは夢だった。そして、自分のバックグラウンドと、それがどのように私のファッション的な視点に影響を与えたかを示したかった」とコメント。祖母や親戚が玄関先で布地を織っているのを見て職人技への愛を感じたという思い出に触れ、「コレクション制作は私の記憶の中の旅をしているようなものであり、なぜそういうことに興味があるのかなど自分自身をより深く理解することができた」と話した。

 そんなコレクションを、彼女は「ディオール」で手掛けてきた中で最もパーソナルなものと表現。昨年11月に地元の職人とともに制作を始めた。当初5月9日に予定していたショーは新型コロナウイルスの影響により延期となったが、ロックダウン中も職人たちは自宅で作業を続け、キウリ自身もZoomを使って実現に向けて計画を進めてきたという。そのため、「このコレクションを完成させることができたのは、正直言って奇跡」と振り返り、「このプロジェクトに携わっていた全ての人に未来への希望を与えることは、私たちにとってとても重要だと感じていた」と明かした。

 ショー中にグループで踊るダンサーたちの間をモデルが通り抜けていくシーンは、ライブ配信の画面上では服が見づらいと感じる部分もあった。せっかくショーという形式を選んだのであれば、もう少し服に目が行く演出でもよかったのではないかとも思う。ただ、多くの人が制限された生活を送る今の状況下では単に服を見せるというのは十分ではなく、ブランドとしてグローバルなエンターテインメントを提供しなければいかなかったということだろう。ピエトロ・ベッカーリ(Pietro Beccari)=クリスチャン ディオール クチュール(CHRISTIAN DIOR COUTURE)会長兼最高経営責任者は、今回のショーにはモデルやフォトグラファー、ヘア&メイクアップアーティスト、イベントプロデューサーをはじめ、職人やアーティスト、ミュージシャン、パフォーマー、大工、電気技師など1000人以上が携わっているとし、「単なるファッションショーではなく、本物のスペクタクルだ」と語った。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

最新号紹介

WWD JAPAN

コロナ禍の現地取材で見えた“パリコレ”の価値 2021年春夏コレクション続報

「WWDジャパン」10月19日号は2021年春夏コレクションの続報です。コロナ禍でデジタルシフトが進んだコレクション発表ですが、ミラノとパリではそれぞれ20ブランド前後がリアルショーを開催。誰もがインターネットを通じて同じものを見られる今、リアルショーを開催することにどんな意味があるのか?私たちはリアルショーを情熱の“増幅装置”だと考え、現地取材した全19ブランドにフォーカス。それぞれの演出やクリ…

詳細/購入はこちら