ファッション

「ファンドを作りデザイナーを直接支援」 英国ファッション協議会の辣腕トップが語るコロナ渦中の産業支援のあり方

 ロンドン・ファッション・ウイークを運営する英国ファッション協議会(British Fashion Council以下、BFC)が、新型コロナウイルス対策に乗り出している。公式サイト上で新型コロナウイルスに関する英国政府からの最新情報や、ファッション事業者に向けたアドバイスを掲示。デザイナービジネスやファッション産業、学生をサポートするための基金を設立し、早い段階で政府首脳に直接アプローチし、アパレル産業が直面する課題を伝えてもいる。こうした施策をリードしているのが、BFCのキャロライン・ラッシュ(Caroline Rush)CEOだ。「BFCは生命線として、デザイナービジネスが危機を乗り越えるための支援をする」と力強く意志を表明するラッシュCEOに、ポストパンデミックのファッション産業のあり方を聞いた。

「パンデミックは業界の未来を形作る機会。私たち皆に役割がある」

WWD:新型コロナウイルスの影響は?

キャロライン・ラッシュCEO(以下ラッシュ):全ての困難には、好機というものが伴う。その意味で、未曾有の危機の中でいま考えるべきなのはファッションサイクルのこと。一度立ち止まって、私たちの業界がよい方向に変われる方法について考えてみたいと思っている人は多いはずだ。メンズウエアとウィメンズウエア、両方のデザイナーたちがよりフレキシブルに動くことができるよう、ロンドンで開催される向こう4回のファッション・ウイークはジェンダー・ニュートラルにする。買い付けのスケジュールにも影響が出るだろうが、現実的にも、多くのデザイナーが6月までにコレクションを完成できないと考えている。

このパンデミックは間違いなく人々の価値観や考え方を変え、サステナビリティや気候変動にどう向き合うかについて大きな衝撃を与えた。私たちの業界の未来を形作る機会として捉えるべきで、私たち皆に役割がある。私たちが生きる世界がいかに壊れやすいものかということや、環境を保全するために行動しなければならないということを示してくれた。

こうした中で私たちのような団体は、情報や知識をシェアするだけではなく、ポジティブな変化やよいニュースを発信する重要な役割もある。「アースデー(Earth Day)」の4月22日、私たちはインスティチュート・オブ・ポジティブファッション(Institute of Positive Fashion)の新しいウェブサイトを立ち上げた。狙いは、内側からポジティブな変化を起こすためのツールや解決方法を企業に身につけてもらうこと。環境、コミュニティー、クラフツマンシップという3つの分野にまたがるビジネスのツールとリソースとして、すべての人に無料で開放している。

WWD:BFCが現在直面している最大の課題は?

ラッシュ:物ごとに見通しがつかないということ。だからこそ、新型コロナウイルスの大きな打撃に苦しむ英国のビジネスやクリエイティブ業界に対し、BFCがコラボレーションやプロフェッショナルな援助を提供し続けることが今まで以上に重要だ。先行きが見えない中、私たちBFCはアパレル産業の生命線であるデザイナービジネスが危機を乗り越えるための支援を行っている。

ファッションに携わる人々のほとんどが今は仕事をすることができず、危機に直面している。店は閉まり、オーダーはキャンセルされ、隔離により消費者からの需要はほぼないに等しく、クリエイティブ業界のフリーランサーたちも仕事がない状態だ。このようなときには、連帯感がより大切になる。またボランティア、物品の寄付、特別なサービスの提供などといった善意の行いもより重要になる。危機の今、大きなブランドは、小規模なブランドが生き抜くのを助ける役割がある。

私たちが3月に立ち上げたデザイナービジネス支援のための基金「BFCファンデーション・ファッション・ファンド(BFC Foundation Fashion Fund)」のような行動はこの問題に対する一つの答えだ。しかしより大きなスケールで、より多くのことがなされなければならない。よって、私たちはクリエイティブ・インダストリーズ・フェデレーション(Creative Industries Federation)を支援し、デーズド・メディア(Dazed Media)のCEDであり共同創立者であるジェファーソン・ハック(Jefferson Hack)と一緒にイギリスのクリエイティブ業界に働きかけ、政府の追加的な施策を求めることでフリーランサーを支援するという活動も行っている。

「新型コロナ後はデザイナーやクリエイターたちがサポートし合い、より強いコミュニティー意識が芽生えるだろう」

WWD:ロンドンは新しい価値観を提案する新進デザイナーを生み出す都市だが、今後ファッションはどのように変化していくと思うか?

ラッシュ:私たちが現在対峙している危機は、間違いなく長期間にわたる文化的なインパクトをロンドンやその他の都市のファッション業界に与えるだろう。しかし、私たちの業界は立ち直る強さを持っているし、この困難に立ち向かうために英国のファッション業界は一丸になろうとしている。新型コロナウイルス後は、デザイナーやクリエーターたちがお互いをサポートし合い、より強いコミュニティー意識が芽生えると思う。そしてそれは世界を変えるきっかけとなる。

経済のレベルでは、もうすでに消費者の要求や行動に変化が出ている。この後数カ月は、ブランドは規模の小さいコレクションを発表するだろう。回復までに長い道のりが待っていることは間違いない。そして、ファッション業界は消費者の欲求が平常に戻るまで待たなければならない。しかしながら、業界関係や消費者の行動の変化に伴い、ブランドが方向性を変えるという動きも見られる。私たちの仕事は、未来を見据え、消費者の需要が戻るまでデザイナーたちがコレクションを作り続けられるようにデザイナービジネスとファッション業界を支えることだ。

WWD:BFCは公式サイトで新型コロナウイルス情報をいち早く紹介したり、基金を創設したりするなど行動が早かった。

ラッシュ:危機が始まったとき、英国はイタリアやフランスやなど他のヨーロッパ諸国より1~2週間ほど状況が遅れていたため、より早い対応や、他のマーケットで起こったことから学んだことを実行する機会があった。早い時期からデザイナーやファッション業界全体にアンケートを送り、フィードバックを照合して英国政府からの最新情報やアドバイスを共有した。また状況の変化に素早く対応し、政府との意思伝達経路を確立して、双方向の対話の調整を実現した。これはとても大切なことで、このおかげで諸々の措置を講ずることができたと同時に、業界がどのような問題に面しているかを政府に正確に伝えることができた。

WWD:「BFCファンデーション・ファッション・ファンド」について最新情報は?

ラッシュ:若手支援のNEWGEN、BFC ファッション・トラスト(BFC Fashion Trust)、BFC /ヴォーグ デザイナー・ファッション・ファンド(BFC/Vogue Designer Fashion Fund)、JD.COM協賛によるBFC /GQ デザイナー・メンズウエア・ファンド(BFC/GQ Designer Menswear Fund Supported by JD.COM)など、私たちが手掛ける主導的行動は、人材発掘やその育成という本来の目的を変更し、BFCエデュケーション基金(BFC Education Foundation)の準備金と共に、大半はデザイナービジネスの支援に、そして一部を学生に割り当てる助成金という形で100万ポンド(約1億3400万円)以上の緊急資金を捻出した。クリエイティブに携わる次世代の人材のための基盤をつくり、この難しい局面においてファッションビジネスを救済することを可能にするためだ。

100万ポンドという額はいいスタートを切れたと思うが、必要な支援の規模はこれよりもずっと大きいもの。そこで私たちは業界や個人、政府に助けを求めている。私たちのパートナーである、セレクトショップ大手のブラウンズ(BROWNS)、コーチ(COACH)、デポップ(DEPOP)、クリアペイ(CREARPAY)などの企業はすでに基金に追加の寄付をしている。ここ数週間でより多くの寄付を確保することになるだろう。

資金を素早くビジネスに投入することを重視しており、助成金はすぐに利用可能になる。第1回目の申請の受け付けは終了しているが、寄付金が50万ポンドに達するごとに申請の受け付けを再開して、この危機で打撃を受けた多くのビジネスを支援する。資金は従業員の雇用、諸経費や事業存続に使うことができる。

「最優先事項は私たちの業界の人々の安全と生活の保障」

WWD:6月のメンズはキャンセルしたが9月のウィメンズについてはどのように進めていくのか。

ラッシュ:6月のロンドン・ファッション・ウイークについては、デザイナーたちに作品発表のプラットフォームを提供し、コンセプト説明や積極的な活動の場を与えるため、デジタルというオプションを検討している。9月に世の中がどのような状況になっているかまだ想像できないが、状況に応じて変更するということは余儀なくされることはあり得るだろう。目下、物理的なファッション・ウイークの開催は不可能。現在の最優先事項は私たちの業界の人々の安全と生活を保障すること。そしてそれが商品やコレクションを新しい方法で見せることを含むのであれば、真剣に取り組まなければならない。

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