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リクルートを経て「サカイ」に勤務 異色のパタンナーが広島で手掛ける「ナカガミ」が共感を呼ぶ理由

 「ナカガミ(NAKAGAMI)」は、パタンナー出身の中神一栄が出身地の広島で立ち上げたウィメンズブランド。元々は「ウェイ(WEI)」というブランドを2013年にスタートしていたが、19年春夏には自身の名前を掲げた「ナカガミ」も開始し、より“濃い”デザインを発信。今後は、「ウェイ」も「ナカガミ」に一本化していくという。実は中神は07~10年の3年間、パタンナーとして「サカイ(SACAI)」に勤務していたという経歴の持ち主。貴重な経験だが、そうは言っても「〇〇ブランド出身」といった冠が付くデザイナーはそれほど珍しくはない。中神が面白いのは、「サカイ」の前にリクルートの営業職なども経験していたという点。仕事に対する考え方が柔軟で、「ファッションなんだから、楽しく働かないと」と朗らかに話す中神に、じわじわと共感が集まっている。

 「サカイ」を退職したタイミングで広島に帰郷、フリーランスでパタンナー業をスタートした。そのうちにモノ作りへの思いが膨らみ、「ウェイ」を開始。「作ることは得意なんだけど、売るっていう過程があることをすっかり忘れていました」と話すものの、表情は明るい。肩ひじ張らない自然体なキャラクターが人を集めるようで、フリーランスになった前職時代の友人などが、営業や広報などをここ数シーズンは手伝うようになった。それによって、認知も少しずつ高まっている。

 「ウェイ」時代からバイヤーに好評で、シグネチャーアイテムとなっているのはランダムプリーツのスカート。手作業でシフォンやチュールにプリーツを掛け、転写プリントやラミネートプリントを施しているため、1つ1つ表情が異なるのがポイントだ。価格はシフォン素材が3万4000円、チュール素材が3万円。「プリーツ加工は大阪の工場にお願いしている。面倒なハンドプリーツでも断られず請けてもらえるのは、『サカイ』時代のつながりのおかげ」と感謝する。同工場以外にも、各地の素材産地や工場を積極的に訪問。「地方を拠点にしていても、クリエーションには関係がないと思う。工場に行くのも、東京から行くのか広島から行くのかだけの違いだし」。

 地方出張に合わせて、その土地の専門店も視察するようにしている。「見たこともないお店に、『うちのブランドを置いてください』ってアプローチするようなことは失礼だからしたくない」からだ。真摯な考え方に感心するが、本人は至ってマイペース。「実は好きなミュージシャンの地方でのライブ日程に合わせて出張を組んでいるですよ」と茶目っ気たっぷりに打ち明ける。

 「人間だからもちろんピリピリする時もあるけど、できるだけ楽しく働きたい。ファッションなんだから楽しくなくっちゃ」というのが中神の信条。そう聞くと、思わず自分の働き方はどうなのかと振り返ってしまうファッション業界関係者も多いはず。自身の会社、ナカガミラボラトリーでは、現在社員2人とアルバイトが働いている。「サラリーマンではなく自分で会社をやっているのは、楽しく働きたいからこそ」とも話す。商品に加え、こうした中神自身の姿勢も「ナカガミ」の魅力の一つだ。

 チャーミングな人柄には、中神のキャリアも関係していそうだ。バンタンデザイン研究所を卒業後、パタンナーとしてまず務めたのがOLが中心客層のアイアの「ルーニィ(LOUNIE)」。その後、ロンドンへの語学留学中に、「ピーター イェンセン(PETER JENSEN)」の門を叩いてインターンを経験。ロンドンから広島に帰った後は、リクルートで飛び込み営業を2年間勤めた。当時は同社がファッション分野にも領域を広げようとしていた時期といい、「編集職だと思って入社したら営業職だった」というずっこけエピソードはあるものの、そこで「人柄を買ってもらう」ことの大切さを知った。「お互いの人柄を知っている方が応援してもらえるし、こちらも気持ちが強くなる。相手が工場でもお店でも一緒」。それが今、地方訪問を欠かさない理由につながっている。

 「ナカガミ」「ウェイ」の他、タレント・アーティストの香取慎吾とスタイリストの祐真朋樹がディレクションするショップ、「ヤンチェ_オンテンバール(JANTJE_ONTEMBAAR)」と「ウェイ」とのコラボレーションラインも19年春夏から3シーズン続けて企画している。コラボの経緯を尋ねると、「知り合いの編集者さんがシグネチャーのチュールスカートをはいているのを見て、祐真さんが気に入ってくださった」。それで会うことになったといい、やはりここでもまた、商品の魅力と人柄でチャンスをつかんでいる。

 現在、「ナカガミ」はアッシュ・ペー・フランスの大阪の店舗や地元広島の専門店などに卸販売している。福岡の岩田屋本店などでは、今後ポップアップストアの予定もあるという。