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ピッティ名物のコスプレーヤー“ピッティくん”に直撃 素顔は八百屋や薬剤師だった

 イタリア・フィレンツェで1月7〜10日に開催されたメンズファッション最大の見本市、ピッティ ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMAGINE UOMO以下、ピッティ)に初参加しました。「WWD JAPAN.com」やメンズ誌でのピッティのスナップ記事を見ると、仕立てのいいスーツに身を包んだクラシコイタリアが溢れており、他都市とは違ったストリートスタイルが見られるのだろうと期待に胸を膨らませていました。すると、現地で合流した村上要「WWD JAPAN.com」編集長と大塚デスクに「ピッティくんのスナップ取材もお願いします!」と唐突に言われ、私の頭の中に「ピッティくん……?」とはてなマークが飛び交いました。昨年の記事を読み見返してみると、ピッティくんとは「コスプレーヤー」「サクラ」とも形容され、派手な出で立ちで会場内をたむろするピッティの風物詩的存在の人々のことを指すようです。ピッティ初心者の私にピッティくんと普通の来場者の見分けがつくだろうか——と不安に思っていたのですが、全く問題ありませんでした!だってピッティくんはファッションというより衣装をまとっている風貌でポージングを取る、なんとも不自然な様子だったから(笑)。そんなピッティくんの生態を再び探るべく、思い思いの服装で何時間も外でたむろする彼らに突撃取材をしてきました!

ヤンチャな髪型紳士=タクシードライバー

 まず声を掛けたのは、若そうな二人組の男性。地元フィレンツェで生まれ育った幼馴染みで、マティアくん(右)は、ピッティくん歴4年というカジーマくんに誘われて今回初参加なのだとか。この日のために洋服を新調し、ヘアスタイルを整えてバッチリ気合が入っています。マティアくんの普段の顔はなんと、タクシードライバー!「ファッションこそ僕が最も情熱を傾けていること。仕事の都合でピッティに参加できなかったから、今回は念願なんだ。雰囲気といい人々といいとても刺激的で、参加できてうれしい」とはしゃぎ気味。そんな彼の隣で4年目のカジーマくんは先輩風を吹かせるように、落ち着いています。彼は地元の大学で映画製作を学んでいる学生だそう。実は昨年の記事でもカジーマくんは登場しており、記事の写真を見せるとクールな彼が一変し「僕だ!」と興奮気味に驚いていました。高校生から大学生となり、服装も昨年に比べてかなり大人っぽく変化しており、なんだか若者の成長を見届ける親戚のおばさんのような気分になりました(笑)。

葉巻デカすぎ紳士=ファッションデザイナー

 わらが編み込まれた風変わりなジャケットの後ろ姿を見て、思わず駆け寄って声を掛けたのはアルマンドさん。ピッティに参加して約8年という彼は、パリ在住のフリーランスのファッションデザイナーだそうで、着用しているのは全て自身がデザインした洋服。ステッチのデザインが好きで、ある日、糸の代わりにわらをステッチに使用したらイメージにハマったため、それ以来わらを多用しているそうです。洗濯方法が気になったので聞いてみると「うーん……そこが難しいから商品化できないんだ」と正直に洗っていないことを告白。笑顔がチャーミングで愛くるしく、マスコット的存在として私や来場者を癒してくれました。そして手には巨大な葉巻を持っていて「これも含めて僕のスタイルさ」とカメラの前でポージングを披露します。会場では足を運んだ先々で声をかけられており、ピッティくんの中でもベテランのようです。

大きいバッグの旅人風紳士=南アフリカの薬剤師

 映画「オリエント急行殺人事件」に出てきそうな、洒落た旅人風のベニーさんは南アフリカからイタリアへ約16時間かけてピッティ に参加。職業はファッション関係でも旅関係でもなく、薬剤師というから驚きました!「ファッションへの情熱は祖父と父から受け継いだDNAなんだ。家族からスタイリングについてたくさん学んだ」と熱を帯びてファッション愛を語ってくれました。薬剤師という職業も、父に習って同じ道を進んだのだそう。ファッション関係の仕事を視野に入れなかったのかと聞くと「南アフリカにはファッションという仕事自体がないからね。この先可能性があればファッションを仕事にしてみたいとは思うけど」と言っていました。アフリカは今、ラグジュアリーファッション産業から熱視線を注がれる新興国なので、今後彼にも機会がめぐってくることがあるかもしれません。

ダンディー紳士=マーケティング・ディレクター

 お次はちょっと雰囲気を変えて、ダンディズムが香り立つ二人組に取材。インフルエンサーのヴィンチェさん(左)と「プラザ・ウオモ(PLAZA UOMO)」のマーケティング・ディレクター、ルドヴィさん。ここで3年前に出会い年2回会うピッティくん仲間だそう。ヴィンチェさんはピッティに参加する複数のブランドから衣装を提供してもらっており、朝から夕方まで会場内に滞在するのだとか。「エレガントに佇むこと——それが俺の仕事」とサラッと語れてしまうあたりは、“現代ピッティくん界の帝王”のようでした(笑)。一方ルドヴィさんは、マーケティング・ディレクターとして来場者の服装を見てリサーチするという超マジメな目的があるそうです。ピッティ参加歴は10年目ということで、どんな変化を感じているのか質問すると「とにかくスーツのクオリティーが上がっている。イタリアは素晴らしい遺産を持っているよ。同じ情熱を持った人々が集まるピッティは特別な空間で、ここで出会う仲間はみんなファミーリア(家族)さ」との返答でした。

富豪風カップル=八百屋夫婦

 仲間を「ファミーリア」と表現するのはイタリアらしいなと感じましたが、実際に家族でピッティに参加する人々にも出会いました。アベーレさん(右)とエマさんは、ボローニャ地方で八百屋を営むご夫婦。二人とも洋服作りが趣味で、着用しているのは全て二人でデザインした共同製作だそうです。「ピッティは僕らにとって非日常を味わえる、年2回のお楽しみであり舞台だよ」。一緒に八百屋を営み、共通の趣味を持ち、ピッティに情熱を注ぐとっても仲むつまじいご夫婦を見て「ソウルメイトってこういう事なのかな」と思いました。

映画スター風カップル=広報活動に勤しむ凸凹夫婦

 ご夫婦でも全然雰囲気が違っていたのがペアルックのコンビ。名前は二人ともアレクサンドルさんなので、夫婦で同姓同名という珍しい二人。互いにフリーランスのファッションデザイナーで、ピッティ参加2年目です。自身がデザインした洋服をペアルックで毎回着用し、プロモーション活動をしているのだそう。奥さんの方は写真に撮り慣れている感じでしたが、旦那さんは少しシャイな様子でツーショットを撮ろうとしても離れてしまい、なかなかキャッチできませんでした。なんだか二人の対照的な人柄が凸凹夫婦という雰囲気ですが、だからこそバランスが取れているように感じ「夫婦といってもさまざまな関係性があるな」と学びました。

 ピッティくんの取材は予想以上にとても楽しいものとなりました。なにより、彼らのファッションに対する情熱がすさまじく、圧倒されっぱなし。私もファッションが大好きでそれを生業にすることを選びましたが、着飾ることよりもファッションを取り巻く環境(人、文化、歴史、政治など)の方に関心が高いので、ファッションという同じ共通点はあっても方向性の違いを感じられたのが面白かったです。もしもファッションや洋服に情熱を傾け、着飾ることが大好きな方はピッティくんデビューしてみてはいかがでしょうか?遠く離れたイタリアで、ファッション仲間のファミーリアを作れるかも。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける