PROFILE: 須山佳子/美容コンサルタント

世界的に美容産業が成長を続ける中、フランスではJビューティの存在感が着実に高まりつつある。その潮流を現地で支えているのが、パリを拠点に欧州市場の開拓をサポートする美容コンサルタントの須山佳子だ。須山は19年、Jビューティに特化したポップアップ「ビジョ」を立ち上げ、22年にはLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON. 以下、LVMH)が有する高級百貨店ボンマルシェ(Le Bon Marche)に常設スペースをオープン。同年には日本の“美衣食住”をテーマにしたコンセプトストア「ビエン」をパリ6区に構えた。さらに昨年12月には、同じくLVMH傘下のサマリテーヌ百貨店(Samaritaine)にもJビューティをテーマにした常設スペースを新設した。
業績不振が続いていたサマリテーヌ百貨店には昨年、ボンマルシェ・グループの会長兼最高経営責任者(CEO)を務めてきたパトリス・ワグナー(Patrice Wagner)がトップに着任し、欧州最大規模を誇る美容フロアを免税小売事業DFSから買い戻すなど、大きな変革が進行中だ。その美容フロアにおいて、売り上げトップのKビューティのスペースの奥に、須山がキュレーションを手掛けるJビューティのエリアが設けられた。クリスマスシーズンのオープン時には、ギフト需要を背景に高価格帯の美顔器が好調な売れ行きを見せるなど、立ち上がりは順調だ。経済産業省が化粧品産業強化の一環としてJビューティの海外展開に本腰を入れ始めたことも、追い風になるとみられる。今回は須山に、欧州市場におけるJビューティの現在地から市場の変化、今後の戦略までを聞いた。
WWD:サマリテーヌ百貨店で常設スペースを構えるに至った経緯は?
須山佳子「ビエン」創業者兼美容コンサルタント(以下、須山):きっかけは、百貨店側からのアプローチ。昨年は変化の年で、欧州のディストリビューターや百貨店バイヤーから「Jビューティを打ち出したい」というリクエストが多く寄せられた。Jビューティの認知度と注目度は確実に高まっている。その流れを一過性のものに終わらせず、大きな飛躍につなげるため、さまざまなプロジェクトを同時進行で進めている。
業界も消費者もKビューティの速さに疲弊!?
Jビューティは「より本質的で、信頼できる」
WWD:ここ数年はKビューティが台頭していたが、Jビューティへと潮目が変わりつつある背景は?
須山:確かにドラッグストアや大手スーパーでの取り扱い拡大、ブティックの相次ぐ出店などにより、Kビューティは一大ムーブメントを築いた。しかしその一方で、裾野を急速に広げすぎたことによる反動も生まれつつある。新製品の発売やトレンドのサイクルが極端に速く、小売も消費者も疲弊し始めているようだ。その流れの中で、「より本質的で、信頼できるもの」を求める声が強まってきた。Jビューティは研究開発に時間をかけ、サイエンスも極めて緻密。その価値が、ようやく正しく伝わり始めている。
WWD:サマリテーヌ百貨店での常設スペースは、ボンマルシェ百貨店や「ビエン」とどう差別化している?
須山:ボンマルシェ百貨店と「ビエン」がある左岸と、サマリテーヌ百貨店の右岸では、客層が大きく異なる。左岸は地元のマチュア層が中心で、スタッフの説明を丁寧に聞いた上で購入する顧客が多い。一方サマリテーヌ百貨店は年齢層が比較的若く、新しいものやポップなアイテムに対する好奇心が強い。そこでサマリテーヌ百貨店のスペースは、Jビューティの“実験の場”と位置付けている。百貨店側からも、「日本のドラッグストアで販売されているような、手に取りやすい価格帯の製品を導入してほしい」という強い要望があった。ボンマルシェ百貨店では引き続きエクスクルーシブでハイエンドな製品を展開しつつ、サマリテーヌ百貨店では「Jビューティの今」を価格帯も含めてリアルに体験できる空間を目指す。
WWD:“実験の場”とは?
須山:ポップアップ頻繁に入れ替え、1カ月ごとにまったく異なるディスプレイを展開する予定。日本のブランドにとって、欧州市場への入り口となる開かれた場にしたい。数カ月後には、顔をスキャンし、美顔器やツールを使用した3分後の変化を可視化できるAIミラーの導入も計画している。Jビューティは技術力もデータの蓄積も非常に高い一方で、複雑な故に“伝え方”が難しい。だからこそAIやテクノロジーを活用し、誰もが直感的に理解し、体感できる場を目指している。最先端でありながら、アクセスしやすい空間へと育てていく考えだ。
サマリテーヌ百貨店では、花王「キュレル」と
ロート製薬の「肌研(ハダラボ)」を新規導入
WWD:百貨店ごとに取り扱うブランドは異なるのか?
須山:薬事法の手続きに時間を要するため、常設スペースのオープンに間に合わなかったブランドは少なくない。その中でサマリテーヌ百貨店では、ヨーロッパにも拠点を持つ花王の「キュレル(CUREL)」と、ロート製薬の「肌研(ハダラボ)」を新たに取り扱っている。百貨店側が求める製品と、欧州進出を希望する日本企業は多いが、薬事法をクリアし、フランスで販売するまでには2年以上かかるケースもある。Kビューティが世界的なムーブメントとなった背景には、開発段階から海外展開を視野に入れ、国際基準の処方で生産してきた点がある。
WWD:スキンケア製品の拡充に時間がかかる中で、Jビューティを飛躍させる戦略は?
須山:日本の高い技術力を生かした美顔器などのツールは、大きな強み。日本には長い歴史を持つ美顔器メーカーが多く、品質の高さは他国の製品と比べても群を抜いている。私が扱う中では、即効性が分かりやすい「コアフィット(COREFIT)」のフェイスポインターが一番の人気。次いで肌に当てるだけという手軽さが支持されている「ヤーマン(YA-MAN)」のリフトケア特化型美顔器が好調だ。美容家電は、欧州では操作や工程がシンプルな方が好まれる。最近では、日常使いのツールを高品質なアイテムにエレベートしたいというニーズが確実に存在している。高級車の内装にも採用されている技術を用いた「ラブクロム(LOVE CHROME)」の特殊表面加工ヘアコームの反響も出てきた。これらのツールやラインナップを拡充させるスキンケアラインも、製品の背景にある技術や処方を分かりやすく納得できる形で伝えることが重要だろう。
上層階のトップ販売員にフェイシャル
人から人へとつながる形の来店を促す
WWD:「Jビューティは複雑な故に“伝え方”が難しい」が、どう取り組む?
須山:ツールを実際に試し、短時間で変化を実感できる体験を提供する。その一環として、プロによる15分間のクイックフェイシャルサービスを展開する予定。これまでの経験上、「あなたの悩みの原因はここにある」と明確に伝えると、顧客は非常に納得してくれる。こうした教育のプロセスが欠かせない。体験と理解がセットになることで、Jビューティの価値はより深く、確実に浸透していくだろう。
WWD:今後の展望は?
須山:サマリテーヌ百貨店の売り場は地下1階の奥まった場所なので、まずは集客率を高めることが直近の課題。上階で大口顧客を抱える販売員にクイックなフェイシャルサービスを体験してもらい、効果を実感した上で顧客に紹介カードを渡してもらうなど、地道ではあるがパーソナルな導線づくりを重視している。一人ひとりの納得感を起点に、人から人へとつながる形で来店を促すことが結果的に最も強い集客だと思う。今年は、薬事法をクリアしたスキンケアブランドの展開も順次始める予定だ。ラインナップを充実させると同時にポップアップを企画し、Jビューティの魅力を多面的に伝えていきたい。サマリテーヌ百貨店の常設スペースは、日本のブランドが挑戦し、育ち、海外販路を広げていくための入り口になったら。