フォーカス

仏高級百貨店で日本の美容に特化したポップアップが盛況 反響の理由は欧州トレンドの変化

 パリの高級百貨店ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)で日本の美容とライフスタイルをテーマにしたポップアップストア「ビジョ;(Bijo;)」が9月8日まで開催されている。フランスの百貨店では初めての“J-Beauty(日本の美容)”をテーマにした大掛かりなイベントだ。発起人は、日本の美容ブランドの欧州市場進出をパリでコンサルティングするデッシーニュ(Dessigns)の須山佳子代表だ。「ビジョ;」とは、Beaute (=美しさ)、Innovatrice(=革新的)、Japonaise (=日本)、Originale(=オリジナリティー)の頭文字を取った造語で、パリでのポップアップ開催は今回で4度目となる。

さまざまな分野で美を提案

 1階のメインステージには厳選された16ブランドが陳列されている。スキンケア部門では伝統的な和コスメ「まかないこすめ」や沖縄の月桃をメインにしたオーガニックコスメ「ルハク(RUHAKU)」、8種の和漢のハーブを発酵させたローション「オードキ(EAU DE KI)」、初披露となる熊本発の新シルクブランド「ココン ラボ(COKON LAB)」が参加した。さらに、以前から同百貨店で取り扱いのあるトータルビューティーサロン「ウカ(UKA)」のヘアとネイルケア商品を使ったヘッドマッサージやネイルイベントが週末に行われている。中でも特に須山代表が推すのは、今年5月にパリ市内にサロンをオープンした新ブランド「エン(EN)」だ。肌診断を行い、抹茶や米など80種類以上の原液を肌質に応じて組み合わせるパーソナライズのサービスを提供する。「手持ちの商品にプラスすることで効果を得られるという発想が、スキンケアライン一式をそろえることを勧める従来のブランドとは違う。フランスの女性にとって新鮮で、気軽に手に取りやすいようだ」と須山代表は語る。

 香りの部門では、“秘める美”をテーマにして欧州ですでに人気が高い「トバリ(TOBALI)」や120年以上続く竹細工「公長齋小菅」のお香が並ぶ。美容ツールでは熊野から洗練されたフェイス&ボディブラシ「シャクダ(SHAQUDA)」と化粧筆「スイ トーキョー(SUI TOKYO)」、新潟の爪切り「スワダ(SUWADA)」をそろえる。ライフスタイル部門ではパリのウェルネスサロン「スイセン(SUISEN)」のオーガニック日本茶のほか、京都で1875年に創業した「開化堂」の美しい茶筒や「ビト(BITO)」のコケアート、そして会期の中盤からは「エデンワークス(EDENWORKS)」が加わり、色彩豊かなドライフワラーを販売する。

「日本の美容は伝統と革新が結びついている」

 ポップアップ開催から10日目を迎えた取材日、須山代表は期待以上の反響に大きな手応えを感じているようだった。「日本製の商品だけが着目されているのではなく、美容を含む“日本の生活様式”に関心を寄せる人が多い。例えばお風呂にゆっくり浸かる、美顔マッサージをするなど、日本女性のライフスタイルの中に含まれている美容法がフランス人女性にとっては興味深いようだ。商品の使い方だけでなく、どのようなシチュエーションで、どういった流れで使うのかなどに興味津々のようで、質問を投げかけてじっくり話し込むお客さまが多い」。ボン・マルシェ百貨店ビューティ・ディレクターのアクセル・ロイェール(Axelle Royere)は「日本の美容は日本人の伝統を保ちながら革新的で現代性のある暮らしと結び付いているため、さまざまなライフスタイル・プロダクトと交ぜることでより理解が高まる。日本の商品は説明がないとなかなか分かりづらいが、その奥深さと詩的なニュアンスをわれわれの顧客に伝えていきたい」と意欲を語った。週末には、フェイシャルマッサージやミニ香道講座などさまざまな体験型イベントを開催し、いずれも行列ができるほどの盛況ぶりだった。「訪れるのは、同百貨店の顧客である中流以上のフランス人マダムのほか、バカンスシーズンということもあってアメリカや中東からの観光客など20〜70代と幅広い。連日訪れたり、体験した後に大量購入したりと反響が大きい」と須山代表。

“K-Beauty”ブームから変化の兆し

 欧州ではかつて韓国、中国、日本がアジアのひとくくりとして認識され、5〜6年前からは韓国が一つ抜きん出て“K-Beauty(韓国の美容)”がビッグトレンドとなっていた。東日本大震災の影響で日本の輸出量が大幅に減少した数年間で韓国は美容部門の輸出量を2.5倍に伸ばし、パリの大手百貨店やブティックには韓国製の商品が数多く並ぶ状態だった。しかし昨年から“J-Beauty”も徐々に注目され始めたという。須山代表は「即座に効果が出たり、ジャケット買いを促したり、SNSによる若年層へのアプローチなどメディア戦略が上手い“K-Beauty”は流行した。しかし即席ではなく『本当の美とは何か』という考えも広がっており、時間をかけてケアしたり、化学と自然の融合で生まれた商品や未然に防ぐ商品など日本の美容も注目されている。サステイナビリティーやスローライフといった市場の傾向も重なり、時間をかけて自分自身をケアすることに関心が高まりつつある」と分析する。同ポップアップを皮切りに欧州での“J-Beauty”が今後どのように変わっていくのか、引き続き注目したい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける