ゼロ年代UKインディーを象徴するバンドの一組、フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)は、デビューから20年強を経たいまも力強い歩みを続けている。二度に渡るメンバーチェンジを経て、今年1月にリリースされた最新作「The Human Fear」は、フランツらしさとまだ見ぬ新しさが共存する力作。テンポチェンジや転調を駆使したドラマティックな曲構成は健在であるが、ギリシャ音楽を取り入れた「Black Eyelashes」に象徴されるように、これまでにない音楽的語彙も獲得している。同時期にデビューしたバンドの多くが解散したり回顧的な活動をしたりするなかで、常に攻めの姿勢を崩さない彼らは特筆に値するだろう。
12月上旬には「The Human Fear」を携えた3年振りのジャパン・ツアーも開催。筆者が観た東京公演は、デビュー作から最新作までを網羅したオールタイム・ベスト的なセットリストでありながら、ベテランとは思えないほど性急でアグレッシブな演奏が印象的だった。とは言え、ただ前のめりの勢いがあるだけでなく、長年のキャリアで培われた安定感と余裕も伝わってくる。その意味で、これは今の彼らだからこそできるライブだったと言っていい。
このインタビューは、そんな東京公演の当日に行われたもの。取材に応じてくれたオリジナル・メンバーの2人、アレックス・カプラノス(Alex Kapranos、g/vo)とボブ・ハーディ(Bob Hardy、ba)の発言からは、「どんなに困難であっても、決して迎合せず、自分たちの信じた道を進む強い意志こそが重要」という思いが幾度となく伝わってきた。
「みんなが新曲を一緒に歌ってくれるのが一番うれしい」
——先日は大阪でのライブでしたよね。SNSで見る限り、かなり盛り上がっていたみたいでしたが。
アレックス・カプラノス(以下、アレックス):うん。これまで大阪でやった中でも、一番お気に入りのライブだったと思う。
ボブ・ハーディ(以下、ボブ):そうだね。
アレックス:オーディエンスが最高だった。本当に、本当に、本当に良かったんだよ!
——それを聞くと、今晩の東京公演もますます楽しみになりますね。最新作「The Human Fear」がリリースされてから1年近くが経ちましたが、これまででもっともうれしかった感想と、もっとも納得がいかなかった感想を挙げるとすれば、どんなものになりますか?
ボブ:僕にとって一番うれしいフィードバックは、やっぱりライブで曲を演奏しているときに感じるね。新曲をみんなが一緒に歌ってくれるのを見ているとき、特に若い子たちがね。初めて何かに向かって思いきり叫んでいる、みたいな感じがあって。そこがすごくいい。最前列にティーンエイジャーがいて、新しい曲は一緒に歌うのに、昔の曲は歌わない、みたいなライブもあったよ。
アレックス:それ、すごくいいよね。
ボブ:うん、最高だよ。
アレックス:自分たちが“今も生きているアーティスト”だって実感できる。新しいものを作って、前に進み続けているんだなって。それに個人的には、母親がすごく気に入ってくれて、息子も気に入っているっていう。それもクールだと思う。
——納得がいかなかった感想は、そんなにありませんでした?
アレックス:まあ、意見が合わない批評的な見方がまったくなかったとは言わないけど、アーティストとしては、そういうものから距離を取ることが大事だと思っているからね。そういうことを気にし始めたら、新しいものなんて絶対に作れなくなる。だから、あまり考えないようにしているんだ。
——ええ、それは正しい姿勢だと思います。
アレックス:それと、距離を置きたいと思っているものがもう一つあって——これは今の質問とも少し関係していると思うけど——ノスタルジーだね。昔の曲を演奏するのは大好きだけど、それはあくまで新しい曲と一緒にやる文脈の中で、という話なんだ。20年とか活動してきたバンドには、過去のアルバムを丸ごと演奏して、ツアーすることが期待されがちだけど、僕はそれには興味がない。確かに、そうしたほうがずっとお金にはなる。でも、最終的にはアーティストとして自分を殺すことになると思っている。新しいものを作るんじゃなくて、過去に生きることになるからね。
ボブ:まあ、もし何もアイデアが思い浮かばなくなったら、やるかもしれないけど(笑)。
アレックス:もし僕らが1stアルバムのツアーをやりだしたら、アイデアが枯渇したということだね。そしたらツアーのタイトルも、「ノー・モア・アイデアズ・ツアー」にするよ(笑)。
フランツらしさとは?
――実際、あなたたちと同世代のバンドの多くは、1stアルバムや2ndアルバムの完全再現ライブをよくやっていますよね。でも、あなたたちはまだ一度もそういうことをやっていないっていう。
アレックス:うん、そう。気づいてくれてありがとう。まあ、そういうことをやっている人たちの名前はあえて出さないけどね。でも次にそういうバンドにインタビューする機会があったら、こう訊いてみるといいよ。「もうアイデアが尽きたんですか? それとも、ただお金が欲しいだけですか?」って(笑)。
——なかなか覚悟のいる質問ですね(笑)。最新作収録の「Audacious」はテンポチェンジや転調が目立つ曲で、非常にフランツ・フェルディナンドらしいと感じます。と同時に、テンポチェンジや転調の多用とそこから生まれる演劇性には、クイーン(Queen)に通じるような、イギリスらしさも見て取れます。もしあなたたち自身でフランツらしさ、イギリスらしさを定義するとしたら、どのようになりますか?
ボブ:フランツ・フェルディナンドの場合は、やっぱりアレックスの声が決定的に重要だし、グルーブ感、踊れる感じ、強烈なフック。その辺りがフランツ・フェルディナンドらしさだと思うかな。
イギリスらしさってことで言うと、(自分たちの地元である)グラスゴーには労働者階級の人がたくさんいて、外に出かけるとき——ダンスに行くとか、クラブに踊りに行くとか——すごくちゃんと着飾る伝統があるんだ。見た目に本気で手をかける。
——まさに自分たちはその伝統を受け継いでいると。
ボブ:一方で、その対極にあるのは、すごく裕福な金持ちの子どもたちが、わざとラフな格好をすることだと思う。
アレックス:まさにそこが、ザ・ストロークス(The Strokes)と僕らの違いだと思う。ザ・ストロークスは金持ちの子どもたちが着崩すバンドだったけど、僕らは貧乏な子どもたちが着飾るバンドだった、っていうね。
——なるほど。では、アレックスが考えるフランツらしさ、イギリスらしさは?
アレックス:確かに僕らには、どこかイギリス的な部分があると思う。それはバンドに演劇性があるというか、ちょっとキャンプ(*けばけばしい、大袈裟に誇張された振る舞いのこと)に寄るくらいの芝居がかった感じで、アメリカの音楽ではあまり見かけない要素だと思うんだ。
ボブ:もっと絞り込むなら、僕らは基本的にアートスクール出身のバンドなんだと思う。クイーンとか、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)とかと同じでね。
アレックス:ザ・フー(The Who)もアートスクール出身だし、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)もそうだよね。
ボブ:トーキング・ヘッズはアメリカのバンドだけど、イギリスのアートスクール的な感覚っていうのは確かにあると思う。
アレックス:それにもう一つ違いがあると思っていて。今話してるアートスクール的なバンドと、いわゆるロック——アメリカのロックと言おうとしたけど、イギリスのロックも含めて——との違いなんだけど、ロックの視点って、基本的には「普通の男が普通の感情を抱いている」ってものが多い。一方でアートスクール的な視点は、非凡なものを探しにいく感じなんだ。普通の場所の中にさえ、非凡なものを見つけようとする。
——その「普通なものの中にも非凡なものを探す」というメンタリティーにも通じる話ですが、あなたたちの音楽には常にアウトサイダーの美学というか、奇妙であること、アウトサイダーであることを祝福する側面があると感じます。そういった自分たちの志向は、どこから生まれているのだと思いますか?
アレックス:僕たちはそういう風に感じているから、っていうだけなんだけどね。学校でさ、自分がいわゆるイケてるグループの一員だって感じて育ったわけじゃないだろ?
ボブ:うん、違うね。
アレックス:ポール(・トムソン、Paul Thomson。初代ドラマー)も間違いなく違ったし、僕もそうじゃなかった。ニック(・マッカーシー、Nick McCarthy。初代ギタリスト)もね。ニックはイングランド人のキッズとして育って、引っ越しも多かったし。
ボブ:僕の場合は、自分の友だちがアウトサイダーだった、って感じかな。そっちのほうが面白かったから。学校の中心にいる連中とか、主流のグループは退屈だった。
アレックス:そうなんだよね。結局いつも子ども時代の経験に根っこがあると思う。ボブがどうだったかは分からないけど、僕の場合は、最初はただ子どもとして普通に過ごしていて、ある時ふと「自分がどこに位置しているのか」に気づく瞬間が来る。そこで疎外感を覚えて、「ああ、俺はあっち側じゃないんだな」って思う。その疎外感を受け入れる段階があって、さらにその先には、ほとんど反抗に近い感覚が生まれる。「よかった、あんな型にはまった連中じゃなくて。あれは退屈すぎる」ってね。まあ、普通の人生のほうが楽なのは分かっているけどさ。
影響を受けたアーティスト
——数年前にアレックスがポッドキャストで「Take Me Out」はジョルジオ・モロダー(Giorgio Moroder)やハウリン・ウルフ(Howlin' Wolf)などに影響を受けていると語っていましたが、そういう影響源はあなたたちの口から出るまでほとんど指摘されたことがなかったと思います。そのように、まだ誰からも指摘されたことはないけど、実は影響を受けているアーティストや曲というのは他にもあるのでしょうか?
アレックス:ああ、もう、数えきれないほどあるよ。本当にたくさんあって……具体的に一つ挙げるのは難しいんだけど。そうだな、ここで名前を出したいアーティストがいて、彼女は正当に評価されていないと思うんだ。それがドリー・プレヴィン(Dory Previn)。彼女はアンドレ・プレブヴィン(André Previn)の妻だった人で、とにかく素晴らしい作詞家だった。20世紀でも屈指のリリシストのひとりだと思ってる。特に最初の2~3枚のソロ・アルバムはね。
彼女は自分自身の人生経験について歌っていて、さっき話していたこととも重なるけど、とにかく明快で、直接的で、その書き方がすごく印象的だった。僕が書いた曲で、直接ドリー・プレヴィンの曲みたいなものはないと思う。でも彼女の音楽を聴いて、「ああ、こういう歌詞を書きたい」と思ったのははっきり覚えてる。彼女は本当に、心から偉大だと思えるアーティストだし、一つの歌詞の中で物語を語って、個人的な体験を振り返りつつ、同時にもっと大きな文化的な参照点まで織り込める人でもある。それって、僕にとってはものすごくクールなことなんだ。
バンドを長く続ける秘訣
——あなたたちはデビューから既に20年以上が経っているわけですが、多くの同世代のバンドが解散したり活動休止したりする中で、いまもなおコンスタントに活動を続けていられる最大の理由は何だと思いますか?
アレックス:大きな理由の一つは、前に進みたくないメンバーが去っていったことだと思う。
ボブ:僕は、アレックスが決して諦めないからだと思う。橋を渡り切るまで、とにかく進み続けるんだ。
アレックス:実際、それは誰にでもできることじゃないと思う。バンドを結成したときにも話していたけど、アイデアを持つこと自体は誰でもできる。でも、そのアイデアを最後までやり切る覚悟を持っている人は、本当に少ない。
ボブ:それだけじゃないんだ。何かがうまくいかなかったとき、それを「失敗」として終わらせるんじゃなくて、教訓として受け取る。「あ、ここはダメだったな。じゃあ次はこっちに行こう」って切り替える。その感覚自体がスキルだと思う。多くの人は、何かがうまくいかない地点まで来ると、そこで止まってしまう。でもそれは間違いなんだ。「Audacious」には、そういうことを歌っているラインがあるよね。なんだっけ?
アレックス:というか、あの曲全体が、まさにその話なんだ。続ける理由が見えなくなるような状況、全てが崩れていくように感じるときに、どう反応するのか。圧倒されて、「ああ、もう無理だ」と屈してしまうのか、それとも「よし、ここで大胆なことをやってやろう」と乗り越えようとするのか。あの曲は、個人的な状況についてでもあるし、同時に創作についての話でもある。状況に飲み込まれるのか、それとも……という問いだね。
ボブ:20年やってきて、いま思うのは、外から見ると他のアーティストのキャリアって、すごく一直線に見えてしまいがちだってこと。例えば、ポール・マッカートニー。50年代後半にバンドを始めて、巨大な存在になって、そのままずっと続けて、いまや神様みたいにスタジアムで演奏してる——そんなふうに見える。でも実際には、彼のキャリアには数えきれないほどの危機があった。ビートルズ解散後にどん底を経験して、スコットランドの農場に移り住み、ひどく落ち込んでいた時期もあった。80年代には、完全に時代遅れの存在として見られていた。それでも彼は音楽を作り続け、乗り越えてきた。外からは一直線に見えるキャリアも、実際は危機の連続なんだ。でも、その危機をどう乗り越えたかが、最終的にその人を形づくるんだよ。
アレックス:大事なのは、頂上を見失わないことだと思う。岩に遮られて頂上が見えなくなっても、太陽はそこにあるし、そこを目指しているという感覚を持ち続けること。マッカートニーの話は本当にその通りで、「Ram」みたいに、いまでは名作とされているアルバムも、当時は批評家から徹底的に酷評されて、90年代後半まで真剣に相手にされなかった。ブルース・スプリングスティーンも、ルー・リードも同じだよね。彼らに共通しているのは、自分自身への信念というより、自分たちが作っているものへの確信――いや、「信念」という言葉は違うかもしれないけど――とにかく、作っているものをやり抜くという強い意志。それを、僕は心から尊敬している。
——では、もしまだアルバムも出していない10代の若いバンドから、長く活動を続ける秘訣を訊かれたら、どのようにアドバイスしますか?
アレックス:(熟考して)……正直、どこから話せばいいのか分からないな。でも最初のアドバイスとして言うなら、他人のアドバイスを聞かないこと、かな(笑)。
——なるほど(笑)。
アレックス:いや、本気でね。自分自身のルートは、自分で見つけるしかない。多くのアーティストは、過去の誰かが辿った道を見て、「自分もああやらなきゃいけないんだ」って思い込んでしまう。でもそれが原因で、馬鹿げたことをする人も出てくる。たとえばヘロインに手を出すとかね。冗談じゃなくて、90年代後半のグラスゴーで、僕の周りにいた連中が、「ルー・リードみたいな曲を書くにはこれが必要なんだ」って思い込んで、実際にドラッグを注射してたのを覚えてる。面白い曲が書けるようになると思ってたんだ。でも違う。大事なのは、自分だけのルートを見つけること。魅力的なアーティストを見てみると、みんなその人特有の癖や個性があって、それが作品を面白くしている。誰もやらなかったことをやっているから、惹きつけられるんだ。だから、先人から学ぶことは大切だけど、自分自身の視点や進む道が何なのかをちゃんと考えてほしい。そして、それが人と違っていても怖がらないでほしい。違っているという事実を、ちゃんと受け入れてほしいんだ。
2025年のベスト・ソングは?
——素晴らしいアドバイスだと思います。では最後に、あなたたちにとっての2025年のベスト・アルバム、もしくはベスト・ソングを教えてください。
ボブ:ちょっとスマホ見てもいい?
——ええ、もちろん。
アレックス:2025年のベスト・ソングはもう決めてるよ。アミル・アンド・ザ・スニッファーズの「U Should Not Be Doing That」(※リリースは2024年)。あれは最高だと思う。本当にいい曲だよ。
ボブ:じゃあ、僕はベスト・アルバムかな。友人でもあるジョアン・ロバートソンが作った「Blurrr」っていうアルバム。彼女とはもう何年も前からの知り合いで、別に頼まれたわけじゃないけどね。彼女は、さっき話してたことを体現している存在だと思う。これは彼女にとって初めてのアルバムじゃなくて、何枚も出してきた中の一枚なんだけど、突然みんなが彼女に注目し始めた。ずっと静かに、自分のやり方でやり続けてきた結果、世界のほうが追いついてきた感じなんだ。最近は本当にいいライブにも出ているし、音楽のまわりに確かな熱気が生まれている。彼女は頑固なまでに自分の道を突き進んできた。自分の道を自分で耕してきたんだ。その結果、40代にして、すごく尊敬されるアーティストになりつつある。ある意味、今が一番脂が乗ってる時期かもしれないね。
アレックス:この前パリで彼女のライブを観たんだけど、それがまた最高でさ。とにかく、極端なくらい自分自身なんだ。ステージに出てきていきなり、「照明を消してくれる? すごくうっとうしいんだけど。目に当たるから」って言って、結果、ステージが完全に真っ暗になったんだ(笑)。観客への配慮とか、文字通り一切なし。「照明がないと私が見えないでしょ?」みたいな発想がまったくない。ただ「これが嫌だから」って。それがすごく愛おしかったし、本当に彼女は最高だよ。
——それは最高ですね。質問は以上です、ありがとうございました。
アレックス:アリガト、サンキュー。いい質問だったよ。
◾️フランツ・フェルディナンド
「The Human Fear」
◾️フランツ・フェルディナンド「The Human Fear」
リリース:2025年1月8日
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14393
TRACKLIST:
01. Audacious
02. Everydaydreamer
03. The Doctor
04. Hooked
05. Build It Up
06. Night Or Day
07. Tell Me I Should Stay
08. Cats
09. Black Eyelashes
10. Bar Lonely
11. The Birds
12. It’s Funny *Bonus track





