「サンローラン(SAINT LAURENT)」は、パリのモンテーニュ通りに新しい旗艦店をオープンする。同店はこれまでの同通り53番地の店舗を移転&拡張する形で、カナダ大使館跡地35〜37番地に構えた。今年1月2日付で、バレンシアガ社長兼最高経営責任者(CEO)から現職に就いたセドリック・シャルビ(Cedric Charbit)=サンローラン社長兼CEOが就任以来初となる米「WWD」の独占インタビューに応じ、メゾンそしてアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)=クリエイティブ・ディレクターのこだわりを凝縮した空間を通じて、小売り体験の再定義に挑むと語った。
ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクターのディレクションのもと、約2年をかけてつくられた新店舗は、3層・約1200平方メートルのブランド最大級の規模になる。開放感のある広々とした店内は、長方形と円形のスペースが連なり、店舗全体を“ひとつの体験”として味わえるホリスティックな設計が特徴だ。奥には、暗色の木材を用いた2つの螺旋階段があり、各フロアをつなぎながら、アパルトマンのような親密さを演出。大理石の床や重厚なカーペットを敷いた各スペースには、メゾンを擁するケリング(KERING)のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)会長のコレクションから、マーク・ブラッドフォード(Mark Bradford)による巨大なコラージュ絵画など貴重な作品を含むアートコレクションも展示する。
目を引くインテリアの中でも特に象徴的なのが、1967年にシャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)が日本大使公邸のために構想した全長7メートルの巨大ソファの復刻。このほかにも、ジャック・アドネ(Jacques Adnet)、フランソワ=グザヴィエ・ラランヌ(Francois-Xavier Lalanne)、ジャン=ミシェル・フランク(Jean-Michel Frank)らによる家具が並び、創業者イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)とピエール・ベルジェ(Pierre Berge)のコレクションであったポール・ポワレ(Paul Poiret)のデイベッドも展示されている。メゾンの美学と歴史に触れられる空間になっている。
店舗には、ウィメンズおよびメンズのプレタポルテをはじめ、レザーグッズ、シューズ、アクセサリー、ファインジュエリーといった全ラインアップがそろう。1階はレザーグッズやアイウエア、フレグランス、ホームオブジェ、2階はウィメンズ、テラスも備えた3階はメンズが並ぶ。またメゾン初となるメード・トゥ・オーダーを導入し、アイコニックなピースを中心に、“ル・スモーキング”を生み出すテーラリング専用ルームを設けた。
シャルビCEOは、「細部まで徹底的にこだわり、『サンローラン』のサヴォアフェールと文化性を体験できる特別な空間をつくり上げた。お客さまをメゾンのゲストとして迎え、新しい小売体験を提供する場にした」と語る。また「“商売の場”から“体験の場”へと転換することで、ブランドとお客様が共有する感性や価値観を通じて関係性はより深まる。体験こそが業績を牽引するという確信がある」と続けた。
「サンローラン」は2025年第3四半期の売上高が7%減少したものの、世界最大のファッション検索プラットホーム「リスト(Lyst)」による人気ブランドランキングでは、「ミュウミュウ(MIU MIU)」を抑え、初の1位を獲得した。主な理由は、プラットフォーム上でのローファーやマイクロバッグ、ブーツの検索が増加したことだ。一方で、デジタルだけでは体験しきれないブランドの魅力を、パリを中心とした実店舗で提示してきた。
23年にリニューアルしたシャンゼリゼ通りの旗艦店では、ブルータリズム×モダニズムの新しいデザインコードを導入。今年2月に改装したリヴ・ドロワの店舗は書籍やレコード、文具に加え、寿司レストラン「スシパーク(Sushi Park)」を併設し、カルチャーとの共存を打ち出す。また、サンジェルマンやサン=シュルピスの店舗には、世界中の書籍を集めた「サンローラン バビロン(SAINT LAURENT BABYLONE)」のスペースも設ける。創業者のクチュールサロンがあったアヴェニュー・マルソー5番地は、現在財団とミュージアムとなっている。世界の「サンローラン」の店舗数は、上半期の時点で317。シャルビCEOは、「店舗数の拡大よりも、立地の質と長期的な価値創造を優先する」と語る。
今回オープンしたモンテーニュ通り店の向かいには、「ディオール(DIOR)」の旗艦店があり、周辺にも「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「シャネル(CHANEL)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「クロエ(CHLOE)」「セリーヌ(CELINE)」に加え、「グッチ(GUCCI)」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「プラダ(PRADA)」など一流メゾンがひしめく。
「モンテーニュ通りは、オートクチュールやファッション史を形づくった名門メゾンと結びつく、世界でも最も格式ある通りの一つだ。旗艦店は商業的な“エンジン”であり、ブランド価値、市場全体のハロー効果、そして最も重要な顧客エンゲージメントという4つの観点から効果を測っている。新旗艦店は短期・長期ともに成長が見込め、旧店舗に比べ売上を倍増させる可能性もある。卓越性、文化性、一貫性という『サンローラン』の核となる価値を発信し、市場全体での存在感、ブランド価値、魅力を高めていく。単なる“一店舗の売り上げ”ではなく、グローバル成長の基盤とすることが目的だ」とシャルビCEOは強調する。
さらに「『サンローラン』はパリそのものであり、パリもまた『サンローラン』だ。そしてパリは、アンソニーのショーから歴史あるブティックまで、メゾンの世界観があらゆる形で息づく地であり、ビジネス面でもブランドの象徴としても、最も戦略的に重要な都市の一つであり続けている。商業、カルチャー、ホスピタリティーを通して、『サンローラン』というメゾンを表現する場所なのだ」とシャルビCEOは語った。