ファッション

20周年の「TGC」、社長が語る「芸能界のオリンピック」への道程

TGCの愛称で知られる東京ガールズコレクションが2005年8月の初開催から20周年を迎えた。コロナ禍には無観客のオンライン配信で乗り切り、年2回の開催を継続。「日本のガールズカルチャーを世界へ」をテーマに、モデル、タレント、アーティスト、そして、近年ではInstagram、YouTube、TikTokなどの動画クリエイターを含めたトップインフルエンサーを一堂に集結。来場者数とオンライン(ABEMA、各種SNSなど)での視聴者数を合わせた総体感人数は延べ約500万人を超えているという。その発信力や集客力、94%を超える認知率などを生かして、官公庁や政府、国際連合とも連携し、TGC地方創生プロジェクトやSDGs推進といった社会課題と若者をつなぐ架け橋としての役割も担っている。TGCの現在地と未来に向けた成長戦略について、企画・制作を行うW TOKYOの村上範義社長に聞くとともに、yutoriやWEGO、韓国ファッション協会、HYUNDAI/nugu(メディコトス)に、TGCに参加する狙いと意義を聞いた。

PROFILE: 村上範義/W TOKYO社長

村上範義/W TOKYO社長
PROFILE: 1981年4月16日生まれ。2004年4月にリクルートメディアコミュニケーションズ(現リクルート)入社、同年5月ゼイヴェル(現ブランディング)入社、09年5月F1メディア入社、14年9月にF1メディア代表取締役、16年9月から株式会社TOKYO GIRLS COLLECTION(現W TOKYO)代表取締役。W TOKYOの27.78%を所有する(6月30日時点)

ーーF 1 層(20~34歳の女性)向けのマーケティング & プロモーションを行う日本最大級のファッションイベントとしてスタートしたTGC。20周年を迎えたが、2005年から一番大きく変わったことは何か?

村上範義W TOKYO社長(以下、村上):SNSの広がりによって、すべての人がブランドになれる時代になったことと、情報発信の主役が「紙媒体」から「人」になったこと、そして、TGCがサブカルチャーから手前ミソだけどメインストリームに昇格したことだ。

ファッション業界はパリコレクションを中心としたいわゆるメインストリームがあり、半年先の商品やトレンドを発信してきた。それに対して雑誌などで活躍するモデルを一堂に集めて等身大の〝リアルクローズ”をショーで披露し、今見たものがすぐに買える〝See Now, Buy Now(シー・ナウ・バイ・ナウ)”を最初に実現したのがTGCであり、カウンターカルチャー、サブカルだった。

当時は雑誌、とくに女性誌が全盛期で、発行部数が30万部、60万部といった人気雑誌もあった。それが、ブログから始まり、インスタグラムやYOUTUBE、TikTokなどがあらゆるSNSのプラットフォームからスターが生まれてくるようになった。僕たちは注目の「人」にスポットライトを当てることで人気が高まったり関連アイテムがヒットするような流れが生まれた。インフルエンサーや芸能事務所などからもTGCに出たいと言っていただけるようになり、9月のTGCでは芸能人やモデル、アーティスト、インフルエンサーなど200人以上に出演していただき、さながら「芸能界のオリンピック」みたいになっている。日本の若い女性に向けて、日本一の「人」が集まるTGCに風が吹いてきた。

ーーファッション業界やエンタメ業界、行政や地方、海外などとも共創を進めているが、TGCはどんな存在になることを目指しているのか?

村上:人が主役の時代になり、大小の無数のブランドが存在している中で、ますます重要になってきたのがプラットフォームだ。人気ブランドや気鋭の人を集めたメガプラットフォームブランド、メディアの垣根を超えたスターの集合体がTGCになっている。さらに、多様なパートナーとTGCを掛け合わせることで、コンテンツ開発やブランディングのラボラトリー機能を担う「ブランディングプラットフォーム」へとさらに進化を遂げていきたい。

ーーTGCのステージはもとからさまざまなコンテンツが目白押しだったが、演出やコンテンツもトライアルがあったりバージョンアップもしている。どんな工夫をしているのか?

村上:人々の体感時間が変化し、とくに若者は集中する時間がどんどん短くなっている。だから5分おきにコンテンツを切り替えるように意識している。オープニングからフィナーレまで約7時間のうち、コンテンツを5~7分ごとに変え、総勢200人以上のモデル、芸能人、アーティストなどの出演者に登場してもらう。かつ丼・天丼・オムライス、食べたいものが何でもある飲食店みたいに、すべてが見所になっている(笑)。これがTGCの飽きさせず熱狂を生み続けるステージの仕組みだ。演出も少しずつバージョンアップしている。最近ずっと携帯電話やスマホに合わせてタテ型のビジョンを使っていたが、今回から横型にして、ダイナミックなステージ映像にしている。

ーーもともとファッションからスタートしたイベントだが、前回は「ナオキタキザワ」やyutoriの「ナインティナインティ ガール(9090 girls)」が新規に参加したり、今回はK-FASHION(韓国ファッション)やジャン=ポール・ゴルチエ氏の「ファッションフリークショー」のスペシャルステージなども実現している。

村上:今でもTGCはF1層を中心にリアルの観客だけでなく、オンラインを通じた視聴者が注目してくれていて、総体感人数は延べ約500万人に達している。人気モデルやインフルエンサーが着用したビジュアルとしてメディア露出もできるため、ファッションブランドのプロモーション場所としても引き続き評価していただいている。今回から韓国ファッション協会と提携し、韓国のコングロマリットで百貨店も手がけるHUNDAIステージを披露した。東京だけの一過性ではなく、地方を含めて、中長期的にパートナーとして取り組みを深めていきたい。

20周年を振り返って

ーー20年を振り返り、エポックメイキングだった出来事は?

村上:僕の立場からすると、やはり、運営母体であるWTOKYOが2023年6月にIPO(新規上場)したことだ。TGCの初期の時代から、経営権や商標権などを中心に紆余曲折があったり、経営危機があったり、いろいろな圧(アツ)やネゴもあった。ある意味スキャンダラスな存在がTGCでもあった。それを毎回突破する情熱があり魅力があった。たとえばファッションのメガブランドにも難局がありデザイナーチェンジもあり、経営危機などがあってもブランドが逆に輝き続けるところがある。芸能エンタメ系やファッション系の企業は感覚的な商売というところもあるので評価しにくく上場しにくいといわれている。それでも上場できたのは、奇跡が起きたともいえるし、オンリーワンの優位性があると自負している。

ーー今後のTGCの成長戦略は?

村上:一つは地方創生だ。自分たちが東京で作ったブランドやノウハウを生かして、今、北九州や静岡、広島、和歌山、富山、松山など50都市で開催している。日本中がデジタル化社会、SNS社会になり、全国どこでも情報格差はなくなっている。一方で、体験格差がものすごく出てきてしまっている。そこで、僕らがナンバーワンのブランドをもって地方に行き、日本中の自治体を盛り上げようとしている。日本には1700自治体があるのでまだまだ広げられる。

二つ目は、日本のカルチャーの輸出プラットフォーマーとして、グローバルに展開していくことだ。今年7月に第1弾としてインドネシアのジャカルタでも開催した。三井物産と現地パートナーである財閥のCT Corpと組み、CT Corpのデジタルメディア部門Trans Digital Lifestyle Groupが運営し、ミレニアル世代向けの美容・ライフスタイル情報発信メディア「Beautynesia」と協業。インドネシアでの事業40周年を迎えるKao Indonesiaをプラチナパートナーに迎えた。タイやベトナムなどにもTGC開催のニーズを感じている。人口減少が進む日本では、ブランドやメーカーだけでなく、芸能やエンタメ関連もアジアに進出することが重要な課題になっている。まさにその先鞭をつける役割、プラットフォームとしてTGCが果たせる役割があると考えている。

三つ目は、テーマやターゲットを変えたTGCの派生イベントの開催だ。TGCは変わらずF1世代向けだが、ティーン(10代)に特化した「TGC teen」や、TGCがプロデュースする日本最大級のガールズオーディションプロジェクトと銘打つ「TGC AUDITION」、〝アイドルとファッションの祭典“として多くの人気アイドルグループが出演する「IDOL RUNWAY COLLECTION Supported by TGC」や、人気グループGENERATIONSとのコラボイベント「TOKYO GENERATIONS COLLECTION」なども行っている。TGCをブランド化することで、IP ビジネスにもつながってきている。

ーーW TOKYOとして、アパレルブランドやエステ、アイドルグループなど、コンテンツプロデュースや事業の多角化も始まっている。

村上:20周年をきっかけに、新しいビジネスを開発していきたいという思いが強くあった。一つはオリジナルブランドの開発だ。僕らがセブン - イレブンだとしたら、セブンプレミアムをたくさん作っていきたい。SNSで総フォロワー数500万人を超えるMINAMIさんがディレクションするZ・α世代向けのファッションブランド「ミクスミー(Mixmii)」を今回TGCで初披露したが、僕らが一部パテントを持って共同で展開していく。

美容事業として、「エスプリビュ-ティー バイ TGC( Esprit Beauty by TGC)」の展開も始める。「エスプリビューティー」は人気タレントやモデル、アーティストなど、美のカリスマといわれるような方々も通っているが、東京・六本木の1店舗しかなくて数カ月待ちなど予約が取りにくい状態だった。僕らが協業して全国にフランチャイズ展開をしていく。まずは10月に南青山店をオープン。同サロンのカリスマセラピストの西岡美栄さんにはTGCオフィシャルビューティーアドバイザーに就任してもらった。

ーーきゃりーぱみゅぱみゅやAMIAYA、「FRUITS ZIPPER」などを擁するASOBISYSTEM(アソビシステム)や、村重杏奈や“よしみち”、アソビとともに「新しい学校のリーダーズ」などを擁するTWIN PLANET(ツインプラネット)との協業も増えている。

村上:アソビシステムの中川悠介社長、ツインプラネットの矢嶋健二社長とは同級生で、20歳のころからの親友だ。一人では新しい時代はつくれない。アソビ、ツイン、Y&N Brothersらとの合弁会社でYOAKE entertainment(ヨアケ エンターテインメント)を2023年12月に設立。総合プロデューサーに秋元康さん、取締役に日本のブロックチェーンやWeb3の先駆者である渡辺創太さんを迎え、グローバルなエンターテインメントプロジェクトを進めている。オーディションから〝がんばりすぎない、ぬくぬく系メンズグループ“ONSENSE(オンセンス)が誕生し、今回のTGCでデビューシングル「YUAKE」を発表した。今後はまさに温泉を回ったりしながら、ケツメイシや純烈のネクストを目指していきたい(笑)。また、アソビシステムとは日本のアイドル文化を世界に向けて発信するプロジェクト「カワイイラボ(KAWAII LAB.)」でも協業している。昨年からTGC北九州を皮切りに、新たな才能を発掘・育成するプロジェクトとしてアイドル発掘オーディションスタートしている。他にもまだまだ僕の頭にしかなくて社員も知らないアイデアもある。それをどんどん構想化して実現していきたいし、いろいろな方々とタッグを組んでいきたい。

なお、次回「第42回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2026 SPRING/SUMMER(略称:マイナビ TGC 2026 S/S)」は2026年3月14日、国立代々木体育館 第一体育館で開催することが決定している。「『共に創る』をさらにその先へ」をスローガンに、シェアラブルなプラットフォームとしての存在感をさらに発揮するとともに、シーズンテーマに“OUR CANVAS”を掲げ、TGCという巨⼤なキャンバスに多様なステークホルダーとそれぞれの⾊を重ねながら⼀⼈ひとりの個性と創造性が交差することで唯⼀無⼆の物語を描き出し、TGCという壮⼤なアートピースを創ることを目指す。「あなたの推しをTGCのランウェイへ」を合言葉に、出演者リクエスト企画「#TGC出演希望」ランウェイ編もスタートしている。

(後編に続く)

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