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TGCのネクストステップ 「カワイイ」から「サステナビリティ」への脱皮

 「第30回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2020 SPRING/SUMMER」が2月29日に東京・国立代々木競技場で開かれる。

 現在はW TOKYO(東京、村上範義社長)が企画・制作している「東京ガールズコレクション」は2005年にスタートし、春夏と秋冬に分けて半年周期で開催してきた。節目にあたる次回は、前半と後半の冒頭のファッションステージにメスを入れる。これまでは、「カジュアル」「きれいめ」など、そのシーズンテーマに合ったテイストのブランドを集めてステージを作ってきた。だが第30回では「サステナビリティ」をコンセプトに据え、テイストに関わらず、環境に配慮した取り組みや商品を打ち出しているブランドにフォーカスしたショーを作る。その狙いは何なのか。

 また、SNSの発達とともに若い女性の価値観、憧れの対象は多様化し、誰もがあこがれるモデルやアパレル販売員といった「カリスマ」不在の時代が到来している。若い女性たちの、ランウエイのカリスマたちへの憧れをビジネスの原動力にしてきた「東京ガールズコレクション」は、今後どのように変わるのか。W TOKYOの村上社長に聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):30回を節目に、メインステージを大きく変える。その理由は?

村上範義W TOKYO社長(以下、村上):これまでのショーでは、“かわいい”“モード”“かっこいい”といった、テイストによって女性像をセグメントし、それに合うブランドを見せるということをしてきた。だが、女性の価値観が多様化し、もはや一つのテイストではくくりきれなくなっているため、ショーを違う視点で見つめ直して一から再編集する必要性を感じた。(19年9月に開催した)第29回はサステナブルな素材を使った「スナイデル(SNIDEL)」のショーを取り入れるなどして布石を打った。次回のメインステージのコンテンツはこれから詰めていく段階だが、販路やテイストを問わず、サステナビリティに力を入れているブランドを集約し、人気モデルをフル活用する。ブランドのテイストもばらばらになるかもしれないし、これまでにないチャレンジになると思うが、これまで培ってきたノウハウの見せどころだ。

WWD:なぜ「サステナビリティ」にフォーカスする?

村上:これからのあらゆるビジネスにおいて、「サステナブルであること」が前提となる。われわれは一度に3万人以上の若い女性を集めることができるプラットフォーム。これからの消費を担う若い女性たちに、サステナビリティの大切さを伝える一つの重要な場になる使命がある。同時に、ショーに出演するアパレル企業側にも同じ価値観を共有できなければ、ガールズ市場のファッションビジネス自体がシュリンクし、われわれも一緒に沈んでしまうという危機感を感じている。今すぐにアクションを起こさなくてはならない。

WWD:これまでとは違うショーを見て、離れてしまう客もいるかもしれない。

村上:これまでのファンの皆さまを置き去りにするつもりはない。われわれはこれまでSDGsという概念を、観客の皆さまに分かりやすく伝える取り組みを地道に行ってきた。たとえば、15年には国連の友アジア・パシフィックと連携し、18年5月に国連本部でSDGsをテーマとしたファッションショーを実施した。日本におけるショーでも、ランウエイのモデルにSDGs憲章のパネルを持たせたり、SDGsの認知度・関心度のアンケートを実施したりしてきた。19年9月にさいたまスーパーアリーナで実施した19-20年秋冬のショーでは、VIP顧客にギフトとしてエコボトルを配ったり、出演者の食事にプラスチックは一切使わないようにしたりして、さらにそれらの取り組みを彼女たちにSNSで発信してもらった。「種まき」を地道に進めてきたからこそ、ショーが大胆に変わっても、お客さまが付いてきてくださるという自信がある。

WWD:一方でSNSの発達により、いつ、どこでもファッションショーが見られる時代になった。それにより、リアルの場で行うショーの価値も見直されつつある。

村上:5大コレクション(パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨーク、東京)と「東京ガールズコレクション」の違いについて話すと、われわれのショーにおいては、観衆である若い女性たちが主役で、次のトレンドを作り出す担い手であるということがある。かつて、日本のギャルたちのルーズソックスがジョン・ガリアーノ(John Galliano)のクリエイションに影響を与えたのは有名な話。同じように、今の時代においても、新しいスタイルや価値観が、ショーの熱狂の中から生まれてほしいと思っている。SNSの発達は、世界に点在する小さなコミュニティーから新しい流行の芽が育つ風土を作った。「東京ガールズコレクション」は若い女性たちのコミュニティーを育てる場。むしろ今こそ、価値が試されているのだと感じる。

「TGC」をブランドビジネスとしてハコの外へ

WWD:若い女性のファッションへの興味が薄れているといわれるが、「東京ガールズコレクション」の勢いは衰えていない?

村上:近年では、17年9月にさいたまスーパーアリーナで開催した17-18年秋冬コレクションがのべ約3万4600人を動員し、過去最高を記録した。「東京ガールズコレクション」が弊社のビジネスの大事な源泉であることは今後変わらないだろう。しかしこのビジネスを、東京の一つのハコの中でとどまらせるつもりもない。今後は「TGC」というブランドとして、さまざまな分野にも波及させたいと考えている。その好例として、「TGC」の公式ニュースメディア「ガールズウォーカー(GIRLSWALKER)」はすでに月間1000万PVを超えるまでに成長した。また、「TGC」の名を冠したショーを地方にも広げており、2015年に始めた「TGC北九州」を皮切りに、広島、富山、静岡、熊本でも開催している。

WWD:地方開催の反響は?

村上:東京以上のスピードでチケットが売り切れることもあるほど、地方の若い女性の「TGC」に対する認知度、期待度は高くなっている。情報化が進んだ世の中で、首都圏と地方の情報格差は全くといっていいほどなくなった。しかしリアルな場で行うイベントは、東京にますます一極集中している。地方との「体験格差」は広がるばかりだ。その体験への “飢え”を満たすことが、大きなビジネスチャンスにつながると考えている。「TGC」の地方開催の第1弾は、あえて北九州を選んだ。イベントを九州でやるなら、集客が見込める博多でやるのが定石だ。しかし150万の人口を擁する福岡市は、すでにイベントなども多く行われている飽和市場。それに匹敵する93万人を抱える都市でありながら、エンタメの「不毛地帯」の北九州市にこそ、ビジネスチャンスがあると考えた。また、15年より以前にも、沖縄や名古屋でショーを開催したことはあったが、あくまで「東京のショーの縮小版」のような位置づけだった。「TGC」を冠するようになってからの地方のショーは、県・市など地方行政との共催により地方創生をコンセプトにしているのも特徴だ。

WWD:「TGC」が地方行政に期待されていることとは?

村上:人口流出が課題となっている地方では、それぞれの地域の魅力を再確認してもらえるような、課題解決型のショーが望まれている。その土地ならではのいいものがあるのに、それをうまく若い人に伝えられていないことが多くある。われわれは、そういった隠れた魅力を、若い女性に分かりやすく伝わる形にトランスフォームすることができるのが強みだ。たとえば19年から開催している「TGCしずおか」は成人式とコラボしたショーを開催しており、特別な日を一層盛り上げて地元への愛着へとつなげたいと考えている。他にも、コンテンツとして地場産品を紹介したり、地元の百貨店に入るブランドでショーを組んだりと、さまざまなチャレンジを試みる。

WWD:今後の「TGC」のブランドビジネスの方針は?

村上:“TGC×1000”をスローガンに、一層裾野を広げていきたい。たとえば、映像やショーコンテンツの作り方を外部に提供するなど、ショービジネスで培ってきたノウハウやリソースを生かしてさまざまなビジネスチャンスを掘り起こしていく。とはいえ、繰り返しになるが、「TGC」の価値の源泉となるのはリアルの場で行うショーだ。われわれのショーに対する考え方は、伊勢神宮にまつわる「常若(とこわか)」という思想に近い。伊勢神宮の社殿は木材で作らえるため、朽ちやすく定期的に立て直す必要がある。だが、せっかく美しく作りあげたものも、壊し、作り直し、それを繰り返すからこそ発展するという考え方だ。TGCのショーも、毎回ゼロからショーのコンセプトを組み立てている。弊社の約50人のスタッフで、それを半年ごとに繰り返すのだから、相当タフなはずだ。だが次回(第30回)のメインステージを皮切りに、より大胆にショーをアップデートできるようチャレンジしていく。