2021年11月、俳優の森田剛、宮沢りえ、映像作家のOSRIN(オスリン)、グラフィック・デザイナーの荒居誠という、年代、思考、性別、業種の異なる4人によって発足したクリエイティブ・コレクティブ「モス スタジオ(MOSS STUDIO)」。
自分たちの手で一からものづくりするスタンスを貫き、映像作品やグラフィックデザインなどもインハウスで制作。アートワークからアパレル、ジュエリー、飲食に至るまでインディペンデントで展開している。24年公開の映像作品「叉鬼-MATAGI-」は、NOWNESS ASIA のスタッフピック(Recommended Watch)に選出されるなど、高いクリエイティビティーが国内外で評価されている。
その「モス スタジオ」が初となるポップアップを東京・白金台の「ビオトープ(BIOTOP)」で10月19日まで開催している。今回のポップアップでは、原点でもある“TOMBO”ロンTなどの過去のアーカイブ商品に加え、「アンブロ(UMBRO)」とコラボレーションしたセットアップやマスク、ベースボールシャツ、ベースボールキャップ、マスクリングなどの新作も先行販売する。
今回、これまでベールに包まれていた「モス スタジオ」について、その立ち上げから制作へのこだわり、そして今回のポップアップの見どころまで、4人が取材に応えてくれた。
「モス スタジオ」立ち上げの経緯
WWD:みなさんが「モス スタジオ」について話すのは今回が初めてだと思うので、改めて立ち上げの経緯から教えてください。
OSRIN:最初に(宮沢)りえさんと(森田)剛さんに会ったのが、2人が事務所「MOSS」を設立する頃で、もともとは映像を一緒に作りたいという話がスタートでした。そこから事務所のロゴを作ってほしいという話になり、デザイナーのマコっちゃん(荒居誠)と一緒に打ち合わせに行ったんです。そこでマコっちゃんが剛さんの似顔絵を描いて、それを2人が気に入ってくれたのがきっかけで仲良くなりました(笑)。
宮沢りえ(以下、宮沢):2人で事務所を立ち上げる時に、俳優業以外にも何か面白いことをしたいという気持ちがあって。それでまずは2人(OSRIN&荒居)と一緒に何かできればと思って、ロゴをお願いしました。
OSRIN:当初は映像やロゴの制作がメインだったんですけど、4人で話すうちに盛り上がって、いろんなアイデアが出てきて。それを実際にプロダクトという形にしたら面白いんじゃないかという話になったのが、「モス スタジオ」立ち上げのきっかけです。
WWD:すぐ4人で「モス スタジオ」をやろうという流れになったんですか?
OSRIN:いや、徐々にって感じでしたね。その「モス スタジオ」という名前も、僕が(「モス スタジオ」の)インスタをやってるんで、最初は勝手につけたんですよ(笑)。事務所の「MOSS」よりも、スタジオってついている方が動きやすいだろうと思って。
宮沢:4人それぞれが各分野のプロフェッショナルではあるんだけど、そこにとらわれず、自分たちが欲しいと思うものや面白いと思うものを自由に楽しんで作ろうという感じで始めたので、“スタジオ”という言葉はぴったりでしたね。
WWD:4人それぞれの役割分担はあるんですか?
OSRIN:明確にあります。大体、剛さんから突拍子もないアイデアが出てきて、それをマコっちゃんが実際のプロダクトに落とし込むためにデザインして、俺とりえさんが2人の暴走を止める役割です(笑)。
宮沢:暴走する2人(森田&荒居)とこの世の中をつなぐ役割だよね。
森田剛(以下、森田):俺とマコっちゃんだけだと、アイデアが暴走しすぎて、どっか遠くに行っちゃうんだよね(笑)。だからパイプ役が必要なんです。
WWD:(笑)。何かものを作る時は、森田さん発のアイデアなんですね。
森田:どんどん自分が欲しくなっちゃうんですよね。例えば、映像作品の「叉鬼-MATAGI-」を作った時も、映像だけじゃ気持ちが収まらなくて。今日着ているベルベット・ジャンパーも作りたいなって思って、2人(OSRIN&荒居)に伝えたら、ちゃんと形にしてくれて。
OSRIN:大体、剛さんがさらっと言った言葉がきっかけになって、そこにみんなでアイデアを出し合っていくことが多いですね。でもその逆もあって。「これは作ってもいいんじゃないか」っていうアイデアに対して、マコっちゃんが先行してデザインを作ることもあります。でも、マコっちゃんのデザインが難解過ぎてみんな理解できない時もあって、そこからかなり濃厚なディスカッションが始まったりもします。そこでは、みんなフラットに意見を言い合ってますね。
じわじわとくる“TOMBO”デザイン
WWD:「モス スタジオ」として、最初に作ったのが“TOMBO”のロングTシャツ(黒)だと思うんですが、あのトンボのアイデアはどこから出てきたんですか?
森田:あれはマコっちゃんのアイデアだよね。
荒居誠(以下、荒居):「MOSS」の事務所のロゴデザインを考えている時に、シンボルとして“TOMBO”のデザインも作ったんです。結局、採用されなかったんですけど、このアイデアを他で出せたらいいねっていうので、Tシャツにしたのが始まりでした。
宮沢:トンボって、前にしか進まず、後ろに退かないから「勝ち虫」って言われていて、縁起が良いんです。
荒居:そういった意味もこの“TOMBO”のデザインには込めていますね。
WWD:“TOMBO”のアイテムは、いくつか発売されていますよね。「モス スタジオ」の中でも象徴的なデザインになっているんですか?
宮沢:実はこのデザイン人気なんですよ。
森田:そうなんだよね。最初は全然気に入ってなかったんですけど(笑)、じわじわと好きになってきて、自分でもいろいろと欲しくなるんです。
OSRIN:じわじわきますよね。そこがこのデザインのすごいところなんです。
こだわりの制作背景
WWD:この“TONBO”以外にも、“マスク”Tシャツやジャンパーなどのアパレルをはじめ、コーヒー、ソックス、リング、ラグ、バンダナ、それこそ最近だとカレーまで本当にラインアップが幅広いです。カレーも森田さんの発案ですか?
OSRIN:これも剛さんですね(笑)。
宮沢:このつかみどころがないことが、私たちのチャームポイント(笑)。
OSRIN:でも、インスタントコーヒーとかカレーとか、飲食はめっちゃ大変なんです。
宮沢:アパレルも飲食も、みんなその道のプロではないから、全部ゼロから作っているので大変だけど、面白いところだよね。
OSRIN:コーヒーの味やカレーの肉を決めるまで、異常なほど時間をかけてます(笑)。スピード感も持ちつつ、こだわり抜いています。
宮沢:打ち合わせは最長何時間だったっけ?
OSRIN:7時間くらい? いや、9時間とか。
宮沢:9時間とかあったよね。何を作ろうかって話をしながら、ものを作ることだけじゃない会話もしたりして、気がついたら9時間たってた。そこで話したアイデアが形になったこともあるし。
WWD:連続で9時間ですか⁉
OSRIN:連続です。夜6時から朝3時みたいな。
WWD:しかも夜中なんですね。かなりこだわって作っているのが伝わってきますが、プロダクトを作る上で心がけてることはありますか?
荒居:やっぱり日本の職人さんたちと一緒に作りたいという思いはありますね。すごく時間かかってしまうんですけど、秋田の染めの職人さんや桐生の手縫いの刺しゅう職人さんところまで実際に行ったりもして。ただ発注するだけじゃなくて、どういう流れでできているのか、プロセスもちゃんと理解したいんです。それから、素材にもちゃんとこだわりたくて。生地を一つ選ぶのも、風合いをみんなで確かめ合って決めています。そこでも、いろんな意見が出るので、結構大変なんです。だから。一つのプロダクトを作るのにも、普通のアパレルと比べるとすごく時間がかかってしまうんですけど、毎回こだわって作っています。
OSRIN:あと、全員、色にうるさいよね。
荒居:そう。色にうるさいんですよ(笑)。
OSRIN:靴下の色を決める時とか、ちょっとケンカ気味だったよね?(笑)。みんな好きな色があるし、でもこの色の方が履きやすいよねっていう意見もあるし。とにかくものを作る時のディスカッションは多いですね。
涙のディスカッションを経て制作されたバンダナ
WWD:これまで作ってきた中で、お気に入りのアイテムは?
宮沢:私はバンダナです。
OSRIN:(笑顔になった荒居に向かって)うれしいの?
荒居:うれしい(笑)。
森田:実はこの2人(宮沢&荒居)はバンダナを作る時にケンカみたいな言い合いになって、りえが泣いちゃって。こっち(荒居)は譲らないし、こっち(宮沢)は泣くみたいな。すごい状況があったんです。
WWD:それは色でもめたんですか?
荒居:いや柄ですね。僕が考えた柄のデザインがみんなに受け入れられなくて、でも「自分はこれでいきたい」って譲らなくて。
OSRIN:本当にその時はマコっちゃんが自分の意見を絶対に変えなくて。
宮沢:私は「もっとポップなデザインがいいと思う」って言ったんですけど、あのデザインにはちゃんと意味があるからって、マコっちゃんが一歩も引かなくて。すごく大変だったんです。
それに、作る時も柄が細かすぎて、きれいに染めてくれる工場がなかなか見つからなくて。最終的に見つかった秋田の工場には全員で行って、一緒に染めものをやらせてもらいました。実際に染めてくれる職人さんたちと会ったりしたのもあって、思い入れが強いんです。
森田:“TOMBO”のデザインがじわじわくるっていうのと同じで、例えばプロダクトができたら友達とかにプレゼントしたりして、見てもらう機会があるじゃないですか。多分、バンダナの反応がいいんですよ。それで、喜んでいる人を見て、(宮沢も)だんだんと受け入れられるようになったんだと思います。
OSRIN:柄は少し気持ち悪いんですけど(笑)、結構人気なんです。
宮沢:でも、色は少し譲ってくれて、私のお気に入りのピンクパープルを作れたのはよかった。
森田:基本的に、自分たちが気に入ったものとか、「いいな」と思うものを形にしてるんですけど、それが今、少しずつ広まってきていて、友人や買ってくれた人から「いいね」っていう声を聞く機会も増えてきました。今回のポップアップは、そういった意味でいいタイミングだったと思います。
「ビオトープ」でのポップアップ
WWD:今回、初のポップアップはどういった経緯で「ビオトープ」で開催することになったんですか?
OSRIN:プロダクトも作っているし、映像作品も作っているし、どこかで「MOSS展」みたいなことをやりたいよね、っていう話を結構前からしていて。いろいろと模索している中で、「ポップアップっていう形でもいいから、何かやりたい」ということになって、りえさんが面識のある「ビオトープ」側に話してくれて。
宮沢:(白金台の)「ビオトープ」は夫婦でよく来ていて、お店の雰囲気やセレクトする商品もよく知っていて。ここなら「モス スタジオ」のアイテムを置いても合うよねっていううことで、オファーしたらすぐ受けていただけました。
WWD:「モス スタジオ」としては初のポップアップですが、ポイントは?
OSRIN:新作のリングやベースボールシャツ、さっき撮影でマコっちゃんが被っていたマスクなどを実際に手に取って見てもらえるようにしています。あと、ブランドやメーカーと一緒にものづくりをする試みを今年から始めていて、今回「アンブロ」と一緒に作ったパンツとジャケットのセットアップもここで初お披露目です。
宮沢:もし他にもコラボしたいブランドがあったら受けて立つ?
OSRIN:受けて立つ(笑)。そうですね。ぜひ、いろいろとやってみたいです。
WWD:「アンブロ」とのコラボの経緯は?
OSRIN:昨年から「モス スタジオ」に生産担当で入ってくれた方がいて、その方がもともとアパレル関係で働いていたので、そのつながりがきっかけですね。基本的には僕らが主導でデザインも全てこちらでやりました。
荒居:もともと“シャカシャカ”のセットアップは作りたいよねって、この4人で話していて、今回、「アンブロ」と組むことで、ようやく実現できた感じです。
WWD:コラボのビジュアルには、笑福亭鶴瓶さんとモトーラ世理奈さんがモデルとして起用されています。鶴瓶さんは意外でした。
OSRIN:剛さんが「モデルは鶴瓶さんがいいんじゃないか」って言って、直接電話したら快くOKしてもらえました。
宮沢:そう、電話一本で受けていただけました。
WWD:森田さんは、なぜ鶴瓶さんがいいと思ったんですか?
森田:鶴瓶さんには番組でお世話になっていて、その時にOSRINもマコっちゃんも知っているし、りえは昔から面識があって。このセットアップができた時に、モデルを誰にしようかって考えたら、4人との関係性もある鶴瓶さんがすぐ思い浮かんだんです。
WWD:モトーラさんは?
宮沢:モトちゃんは私の推しです。「ぜひ!」と、お願いしました。
WWD:先ほど撮影で荒居さんが被っていたマスクも実際に販売されるんですか?
荒居:2個限定で発売します。土台もついていて、この土台は剛さんの頭を3Dスキャンして作っています。
宮沢:アートだね、これは。でも飾るだけじゃなくて、着用してもいいんだもんね。
荒居:はい、着用してもらってもいいですし、普段づかいしてもらっても大丈夫です(笑)。
WWD:今回、ポップアップで販売されている新作は、オンラインでも販売されるんですか?
荒居:そうですね。ポップアップで先行販売をして、後日オンラインでも販売する予定です。これまでは「モス スタジオ」のアイテムってオンラインのみの期間限定の受注販売しかしてこなかったので、今回はようやく実際に触れて、見てもらえる貴重な機会ができました。ぜひ、みなさんには直接触ったり、試着したりして見ていただけたらうれしいです。
PHOTOS:MITSUTAKA OMOTEGUCHI
「モス スタジオ」ポップアップ
◾️「モス スタジオ」ポップアップ
会期:2025年10月11〜19日
会場:ビオトープ 東京
住所:東京都港区白金台4-6-44
https://www.biotop.jp/topics/post/moss-studio-pop-up-shop-at-biotop-tokyo/
https://m-o-s-s.co.jp/






