
フォトアーティスト・ARISAKがファッション&ビューティ業界の多彩なクリエイターと共鳴し、新たなビジュアル表現を追求する連載【ARISAK Labo】。Vol.8となる今回は、オーストラリア発のレイヴ・ポップ・グループ・コンフィデンスマン(Confidence Man)から、ヴォーカリストのジャネット・プラネット(Janet Planet)とシュガー・ボーンズ(Sugar Bones)が登場。ARISAKのフィルターを通して「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」「リック・オウエンス(RICK OWENS)」を着こなす2人をとらえたビジュアルには、アヴァンギャルドなムードが漂う。
PROFILE: コンフィデンスマン

“10AM LA LA LA”
Inside story of Confidence Man × ARISAK
Interviewed by Daniel Takeda
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今回の撮影のテーマは、“10AM LALALA”。昨年コンフィデンスマンがリリースしたアルバム「3AM (LA LA LA)」にちなんだ。このアルバムは、スタジオの入り時間が深夜3時だったことから名付けられたという。
撮影のインスピレーション源となったのは、映画「ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation)」。「東京という町でパーティーが始まる前のようなムードを表現しました。コンフィデンスマンが感覚的に音楽を作っていることから、こちらも感覚に身を任せて、彼らから感じるエネルギーを視覚的に表現したいと思いました」とARISAK。
撮影を終えたコンフィデンスマンとARISAKに、音楽シーンに精通する竹田ダニエルがインタビューを行った。
竹田ダニエル(以下、ダニエル):近況について教えてください
シュガー・ボーンズ(以下、SB):この夏は基本的にツアーに出ていて、あちこち移動しながら、とても楽しい日々を過ごしていました。あと1〜2週間ほど夏のツアーが残っていて、そのあとはスタジオに入る予定です。だから今は夏の終わりを楽しんでいる感じですね。
ジャネット・プラネット(以下、JP):そうそう。今年の夏だけでイビサにもう3回行かなきゃいけなくて。前回はあまりに全力で楽しみすぎて、正直「また戻らなきゃいけないのか…」ってちょっと気が重いんですよ。そんなこと普段なら絶対ないんです。いつもはイビサに行けるのが楽しみなんですけど、今はちょっと…。
ダニエル:やっぱり、パーティーの雰囲気がすごいんですか?
JP:本当に“超”ハードコアなパーティーの空気。カクテルとエネルギーに溢れていて、とにかくワイルド(笑)。
SB:気づいたらその勢いに飲み込まれてしまうんです。それがツアーの終盤にあると、体力的にはあまり理想的じゃないんですけどね。
ダニエル:つい最近も行ってましたよね?
SG:2週間前くらいに行ってきました!
JP:そう、だいたい1週間半前かな。私たちにとってはイビサでの初めてのライブだったんです。イビサって基本的にDJばかりで、ライブバンドが出ることってほとんどないんですよ。だから本格的なライブバンドとして出演するのは、かなり久しぶりのことだったと思います。ショーは大盛り上がりで、本当にすごい夜になりました。ただ、その余韻というか、正直まだちょっと二日酔い気分が残ってるんですよ(笑)。まだ1週間半しか経っていないしね。
ダニエル:仕事しながらパーティーできるのは楽しそうですね
JP:うちの母なんて、ほんとにパーティーしすぎて24時間ずっと起きてたんですよ(笑)。
ダニエル:お母さんはオーストラリアから来てたのですか?
JP:そうなんです。今ちょうど遊びに来ていて。
ダニエル:ツアー中も、そうやってパーティーするのは普通なのですか?
SB:いやいや、そこは賢くやらないとダメなんです。
ダニエル:じゃあ今回のイビサは例外だったんですね
SB:そうですね。数日余裕があるときなら全然いいんですけど、毎日パーティーしてたらすぐに無理が来るって気づいたんです。前はそういうこともしてたんですが、本当にうまくいかない。
JP:そうそう。コスチュームをあちこちでなくしたり、シュガー・ボーンズが背中を痛めたり、私はタバコを吸いすぎて声が出なくなったり…そんな感じになっちゃうんです(笑)。
ダニエル:ところで、東京でのARISAKさんとの撮影についてお聞きしたいです。印象に残っている瞬間や思い出はありますか?ARISAKさんは2人のポージングやモデル的な表現力にすごく感心されていました
SB:僕ら、プロの“ポーザー”ですから(笑)。バンドを始めた頃から研究してきていて、ある意味では音楽より大事かもしれないくらい。撮影当日は本当に楽しかったですね。チーム全員が完璧で、スタイリングも最高でした。それに東京の街を背景に撮れるっていうのは僕らにとってすごく新鮮で、写真から感じられる雰囲気が普段と全然違うんです。
JP:本当に最高でした。実は私たちはロンドンから前日に飛んできたばかりで、時差ボケがひどかったんです。でもあのチームがすごくプロフェッショナルだったからこそ、長い撮影を乗り切れたんだと思います。
ダニエル:特に気に入ったルックや撮影場所はありましたか?
JP:最後の「リック・オウエンス」のルックはすごくアヴァンギャルドで気に入りました。靴があまりにも巨大で、転びそうになって死ぬかと思ったんですけど(笑)、それでもやる価値がありました。
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SB:僕は最初に撮ったバーが大好きでした。あのクールなパーティーバーみたいな場所で、ネオンライトがいっぱいあって。まさに東京らしいクールでシックな雰囲気でした。それに「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のスーツも最高だった。
ダニエル:あのバーは、実は多くのアーティストやセレブが集まる“隠れ家スポット”なんです。誕生日パーティーなどでもよく使われる場所で。だから2人がそこで撮影できたのはすごく面白いなと思いました
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JP:そうなんですね。残念だったのは、翌日フジロックが控えてたので実際にその場で遊べなかったこと。でも次回は撮影じゃなくて、ちゃんとカクテルを飲みに行きたいです。
ARISAK:2人ともすごくお酒を飲みたそうにしていましたね(笑)。パーティー魂の2人だから、スナックとか好きそうだし、ぜひ来てもらいたい。そして「ヴィヴィアン・ウエストウッド」も「リック・オウエンス」も、本当に似合ってた。
ダニエル:2人はバックグラウンドについてあまり具体的に語らないですよね。神話的な部分も多いと感じます。でも撮影中のARISAKさんからメッセージが来て、「ジャネットってファッションモデルの経験ある?」って聞かれたんですよ
ARISAK:まず2人のモデルな感じの出立というか、アーティストでもありながらファッションの要素が多いのがすごく素敵でした。何着てもらってもコンフィデンスマンのエッセンスになるんだろうなって思うし、スタイリストもすごく楽しそうにしてて、本当に何着ても可愛い。黒のショートウィッグは着けた瞬間に「いける!」ってなって。なんでも似合う感じが素敵でしたし、ジャネットはレンズの動きに合わせてポージングしている感じも印象的でした。

JP:そうなんですか?(笑)そこまで意識していたわけじゃないと思います。でも私はダンサー出身なので、自分の身体の使い方や動きに対する感覚が鋭いと思います。だから自然にそういう表現が出るのかも。そう言ってもらえるのはうれしいですね。
SB:僕も全ての撮影でそんな風に言ってもらえたらいいのに(笑)。
ダニエル:でも本当に毎回、写真の完成度が高いですよね。だからこそ気になるんですが、ビジュアルや美学的なクリエイティブ面にはどのくらいご自身のアイデアが反映されているんですか?ジャネットさんが自分の衣装をデザインしていると聞いたこともあります。アイデアから実際の形にするまで、どういうプロセスなんでしょうか?
JP:私は普段から気になるアイデアを集めていて、スマホに“クリエイティブ・バイブル”みたいな小さなコレクションを作っています。アルバム制作期間にどんどんそこに蓄積していく感じ。そのうち音楽が美学を定義する部分もあるし、逆に美学が音楽を形作る部分もある。両方が同時に作用していく感じですね。だから、私が好きなものやインスピレーションを与えてくれるものを全部ごちゃ混ぜにして、結果として少し“カオス”だけど“クール”なものができあがる。それがConfidence Manらしさでもあると思います。
ダニエル:インスピレーションはどんな場所から得ているんですか?
プラネット:ロンドンのソーホーに「IDEA」っていう本屋があるんですけど、そこがすごくクールなんです。1990年代の本や雑誌がたくさん置いてあって、コーヒーを飲みながら自由に眺められる。そこに何度か通ってますね。あとはPinterestみたいなSNSもよく見ますし、90年代のビンテージなパフォーマンス映像もたくさん観ます。ブリトニー・スピアーズとかジャネット・ジャクソンの古い映像から要素を抜き出して、ライブの演出に取り入れたりしています。
ダニエル:ARISAKさんは2人がクリエイティブな行き詰まりーーいわゆるライターズブロックにどう対処しているのか、すごく気になるそうです
JP:ビジュアル面では、やっぱり「見ること」が一番の突破口だと思います。新しいものを観て刺激を受けることで前に進める。でも作曲に関しては、前回のアルバム制作のときに“ソングライティングの作業を再び楽しいものにする”という戦略を取りました。いろいろな“パーティー的なもの”を持ち込んで、20時間くらい部屋にこもって、とにかく何が出てくるか試してみる。そうすると、9時から17時までの仕事みたいな感覚が消えて、むしろ楽しいパーティーの雰囲気になる。頭の中で「これはダサい」「これは間違ってる」と制限していたルールが取り払われる。その感覚がすごく良かったですね。
SB:僕らにとっては、とにかく楽しい状態を保つことが大事。僕らの音楽自体が“楽しい音楽”を目指しているので、オフィスワークみたいに9時から17時まで机に向かって…という感覚ではなかなかいいものができない。スタジオでは僕らは3人組だから、常にアイデアをぶつけ合えるのも強みですね。誰かがスランプに入っても、他のメンバーが支えてくれる。チームで創作できるのは、本当に幸運なことだと思います。
JP:それに、壁に頭を打ちつけるように無理やり作業するより、やる気がないときは一度立ち止まってしまうほうがいいんですよね。モチベーションが自然に湧いてきたときに取り組んだ方が、ずっと生産的ですから。
ダニエル:「ガーディアン(The Guardian)」の記事で、2人のショーは“学芸会とレイヴの衝突”と表現されていましたよね。コーンブラや養蜂家の帽子、独特のダンスなどが象徴的ですが、東京のファッションカルチャーから影響を受けた要素や、日本でインスピレーションを得たことはありましたか?
JP:もちろんありました。東京での撮影のとき、「あ、私たちの美学ってこういう要素を知らず知らずのうちに取り込んできたんだな」とすごく感じました。特にウィッグなんかはそうですね。2枚目のアルバム『Tilt』のとき、私が巨大なポニーテールをつけていたんですけど、日本のファッションの“誇張”とか“マキシマリズム”はかなり大きなインスピレーションになっています。西洋のファッションってどうしてもミニマルに寄りがちで、それが私には少し退屈に思えるんです。だからこそ“ひっくり返して大きく、ドラマティックにする”という発想が面白いし、それが日本のファッションのクールなところだと思います。
SB:メンズファッションに関して日本が本当にうまいと思うのは、スーツとかフォーマルな装いですね。僕らもライブではよくスーツを着るんですけど、普通のスーツじゃなくて「壊れかけたスーツ」とか「精神病院から出てきたようなスーツ」とか、フォーマルを“崩す”ことで遊んでいるんです。フォーマルさと歪みのクロスオーバー、そういう発想をするときに日本のことをよく思い浮かべます。
ARISAK:2人のパフォーマンス動画をたくさん観ていてる中で気づくことがあるんですが、肩車だったり、バク転だったり、ヴォーグの動きだったり、いくつか“お決まり”のムーブがありますよね。このちょっとシュールな動きというのはどこからインスピレーションを得ているんですか?
SB:僕らがプロのダンサーじゃないからこそ、自然に出てきたものだと思います。基本的にその場で作りながらやっていて、あえて「自分たちはプロだ」と誤解されたくないんです。観客には「本気でやってるけど素人っぽい」って伝わるくらいがいい。そういう“行き当たりばったり感”がパフォーマンスににじみ出てるんだと思います。
JP:そうそう。それって観ている人にとってちょっと肩の力が抜けるというか。“全力でやってるけど、別に上手じゃない”。そのギャップが逆に面白いんです。私たちは「上手い」と勘違いされることもあるけど、実際はそうじゃない。その“ゆるさ”があるから、色んな“おバカなこと”も許されちゃうんですよね(笑)。
ダニエル:観客にとっても「自分も踊っていいんだ」って勇気を与えますよね
SB:そうそう。最初の段階でその壁を取り払えるのは大きい。ちょっとしたカオスって、どんなパフォーマンスにおいてもプラスに働くんですよ。観客を良い意味で無防備にして、こちらが感じさせたいものに引き込むことができるから。
ダニエル:最初から「このグループはダンスをやる」「振付を取り入れる」と決めていたんですか?それとも自然にそうなったのですか?
SB:いや、最初は全然。僕はダンスに懐疑的だったんですけど…気づいたらこうなってましたね(笑)。
JP:そう。シュガー・ボーンズはもともとサイケロック少年で、踊るのなんて嫌がってたんです。でも私はずっとダンス好きだから、少しずつ彼を“調教”していったの(笑)。そして今じゃ私を投げ飛ばすまでになっちゃった。
ARISAK:彼らのパフォーマンス動画を観ていて一番心引かれたのは、「完璧じゃない抜けのある美学」です。私にはプロのダンサーの友人も多いんですが、コンフィデンスマンのパフォーマンスにはそれとは違う独特の味があると思いました。
SB:ああ、まさにそう。僕らにとって“完璧じゃない”ことはすごく大事なんです。日本にはアイドル文化があって、歌もダンスも全てが完璧に仕上げられている。僕らはその対極にある“少しの不完全さ”をあえて持ち込みたいんです。
JP:それってちょっとパンクだと思うんです。ポップでかわいくておバカな要素を持ちつつ、同時に攻撃的でパンクな部分も出す。その二面性が面白いんです。
SB:この2つをミックスするのが、僕らにとってのキーポイントですね。
ダニエル:確かに、例えば「ミックスマグ(Mixmag)」の配信を思い浮かべると、たいていはDJブースに男性が立っていて、その周りで観客が揺れているだけ。でも彼らの中で「ダンスで有名になった一人の女性」が出てきたことが象徴的だと思います。最近はチャーリー・XCX(Charli XCX)のように“完璧に磨かれたパフォーマンス”ではなく、もっと人間味のあるアーティストも増えている。ティナーシェ(Tinashe)がボイラールームに出たのも印象的でした。そう考えると、私が観たお2人の映像もすごく衝撃的でした。DJをしていたわけじゃないのに、シュガー・ボーンズは暗がりにいて、一方でジャネット・プラネットは存在感を放っていて。パフォーマンスアートのようでした
SB:僕はDJの横で酔っ払ってただけなんですけど(笑)、それもパーティーカルチャーの一部なんです。でも、やっぱり人って“完璧さ”に飽きてしまう。全ての動きが完璧に揃ったダンスは、最初は感心されても繰り返すうちに退屈になる。だからこそ“不完全で人間らしい要素”があると観客はより強く共感してくれると思うんです。
ARISAK:畑は違いますが、アジア圏のグループ系アーティストの場合、血の滲むような努力で振付も歌も完璧にそろえたパフォーマンスにすごくリスペクトをする一方、完璧すぎて見ていて“お腹いっぱい”になることもあります。そういう文化がある中で、コンフィデンスマンはまったく違う新しいものを持ち込んでいて、新鮮に感じます。
ダニエル:最後に伺いたいのですが、お気に入りの日本ブランドはありますか?
JP:ライブのビジュアルに関しては、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」からインスピレーションを受けてきました。90年代〜2000年代のコレクションをよく参考にしていて、シュガー・ボーンズが着ていたデニムスーツも「コム デ ギャルソン)」のコレクションからアイデアを拝借したんです。「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」の服もかなり色々持ってます。

SUGER BONES:JACKET¥346,500, PANTS¥176,000 / VIVIENNE WESTWOOD(https://www.viviennewestwood-tokyo.com/), SHOES¥166,100 / DENIM DOCTORS(LIGHT WORLDCORP03-6876-1098)、RINGS EACH¥25,3000 / PHENOMENA COLLECTION(XANADU TOKYO03-6459-2826), OTHERS / STYLIST OWN
[LOOK2] JANET PLANET:JACKET¥612,700, COAT¥38,0600, BRA¥136,400, SKIRT¥174,900、BOOTS¥663,300 / RICK OWENS(EASTLAND03-6231-2970)、NAIL¥55,000/LUEUR BY MAYU O(XANADU TOKYO03-6459-2826
SUGER BONES:TOPS¥953,700, T SHIRTS¥71,500, PANTS¥348,700, BOOTS¥534,600 / RICK OWENS(EASTLAND03-6231-2970)
MODEL:JANET PLANET & SUGAR BONES FROM CONFIDENCE MAN
STYLING:HARUHI
HAIR:MIKI
MAKE UP:KATHERINE JIN
TRANSLATION:NENE NAKAMURA
LOGO DESIGN:HIROKIHISAJIMA
LOCATION:TREMOLO / きもの和處 東三季
TEXT:DANIEL TAKEDA