ファッション

【ARISAK Labo vol.9】「これまでの感情を肯定していく」ーーアーティストSIRUPが「OWARI DIARY」に込めた思い

フォトアーティスト・ARISAKがファッション&ビューティ業界の多彩なクリエイターと共鳴し、新たなビジュアル表現を追求する連載【ARISAK Labo】。Vol.9となる今回のゲストは、今秋アルバム「OWARI DIARY」をリリースしたアーティストのSIRUP。スタイリストにTEPPEI、ヘアメイクに向井大輔を迎え、同アルバムからインスピレーションを受けたビジュアルを撮り下ろした。

“The beginning of the end”
過去を振り返り、受け止めていく

「SIRUPさんが9月にリリースしたアルバム『OWARI DIARY』から着想を経た今回の撮影では、日記を1ページずつめくり、過去を振り返りながらも前に進んでいく彼をイメージしました。数年前に彼と出会って以来感じてきた彼の優しさや繊細さ、そして過去を受け入れる強さを表現したかったんです。全体的に温かみのある質感、クラフト感が演出できるように、全体を通して紙やシールのような素材を取り入れることで、アルバムジャケットとの親和性も出たと思います」。

By ARISAK

“LOCATION / INTO YOU”

2人の出会いや、そこから感じる高揚感をつづった楽曲「LOCATION」、もどかしくも夢中になっていく「INTO YOU」。「ここからどこに向かうのか」という不安や、内側からあふれ出るようなドキドキ感を表現した。

“GAME OVER”

歯痒く、不器用に終えてしまった恋愛ストーリーを描いた楽曲「GAME OVER」。ローファイムード漂うミュージックビデオは、カラフルでありながらも切なさを感じさせる。撮影ではゲームコントローラーやSIRUP自身の私物のアクセサリーを取り入れ、どこか不完全さのあるスタイリングに仕上げた。

“OUR HEAVEN”

ラッパーのDaichi Yamamotoを迎えたグルーヴィーな楽曲「OUR HEAVEN feat. Daichi Yamamoto」。仲間たちが集い、音楽と共に踊る中でエネルギーを得たり、ネガティブな気持ちをリリースしていくような一曲だ。撮影で使用したのは、向井氏が手掛けた段ボール素材で作られたウイングのピース。スタイリングにはカラフルなアイテムやラメ素材を取り入れ、ホリデームードを連想させる。

“TOMORROW”

未完成な状態を受け入れながら時間を共にする2人を描いた「TOMORROW」。「“大人子供”のような不完全さを表現したい」というSIRUPのアイデアから、向井氏が王冠のヘッドピース、TEPPEI氏がシューズを製作した。大人らしさと子供っぽさが共存し、あえてどこか違和感を感じさせるルックだ。

“OWARI”

これまでを振り返り、肯定していくSIRUP自身を表現したのが、今作のアルバム「OWARI DIARY」。静かな気持ちで日記を読み返しながら過去を受け止め、次のステージへと進む姿を描いた。

Inside story of SIRUP × ARISAK

PROFILE: SIRUP/アーティスト

SIRUP/アーティスト
PROFILE: ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、自身のルーツであるネオソウルやR&Bに、ゴスペルとヒップホップを融合したジャンルにとらわれない音楽を発信。2022年には自身で初となる日本武道館公演を開催した。近年では海外アーティストとのコラボレーションも積極的に行い、24年には中華圏最大の音楽賞「GMA」に楽曲がノミネートされるなど国内外で活躍

WWD:SIRUPさんとARISAKさん、2人の出会いとは?

SIRUP:2年ほど前にとあるバーで出会いました。元々ARISAKのことは知っていたし、当時は彼女の作品の無機質な雰囲気がかっこいいって思っていました。そのとき自分が作りたかったものとはちょっと違ったから、そのときは何かをしようという話にはならなかったけど、その後僕自身も色々なクリエイティブに挑戦したし、きっとARISAKの作風のバリエーションも広がっていったんだと思う。この連載のマレー(Murray)の作品を見たときに、一緒に何か作りたいって改めて感じました。アーティストたちの中で、「一度はARISAKに撮ってもらう」みたいなのができつつあるような気もしています。

ARISAK:そう言ってもらえてうれしいです。すごく積極的にコラボをしているつもりでもないんですけど、結構みんな実際に会うと自分のプライベートなことを話してくれたり、人生の節目の撮影を任せてくれたりして。私自身もその人の新たな一面を見たいし、そんな新たな一面を感じられる写真を撮りたいですね。
作品について、私はフューチャリスティックな作品のイメージを強く持たれることが多く、そういう世界観の依頼を受けることもよくあります。でも実際は色々な雰囲気の写真を撮っているので、意外に思う人も多いみたいです。マレーの写真は私の周りの人からもすごく好評でした!

WWD:撮影をするにあたり、意識したこととは?

ARISAK:今回一緒に撮影をしようという話になってまず、2人で食事に行ったんです。そこでやりたいこととか、アルバムの話など色々なことを聞いて。彼自身のパーソナリティーも知ることができたし、どんなベクトルで進んだら良いのかある程度解像度が高く進められました。私は音楽を聴くときに、小説のようにその人の印象やストーリーを想像したり、インスピレーションを受けることが多いです。今回もそれと同じように、ビジュアルを見たときに絵本のようにストーリーが感じられるものにしたいと思って。何回もアルバムの曲を聴いて、撮影ストーリーを考えるのにいつもより時間がかかってしまいました。特に「ロケーション」は過去の自分に重なる部分もあって、かなり刺さりましたね。

SIRUP:自分の中で最初から、「ARISAKと撮影をするときはできるだけ全てを委ねたい」と思っていました。撮影のストーリー自体が僕のアルバム「OWARI DIARY」からインスピレーションを受けたものだったので、特に「こうじゃなくちゃ嫌だ」ということはありませんでした。向井さんが段ボールで作ってくれた羽根や王冠、TEPPEIさんが作ってくれたイニシャル入りの靴のおかげで、アルバムとの親和性を感じるようなクラフト感を演出できたのもよかったです。ARISAKのこれまでの写真のイメージとはまた少し違う、ちょっと有機質な雰囲気になったのもおもしろかったですよね。

ARISAK:私にとっても、自分の中の新たなものを見せられた撮影だったと思います。未来的なクリエイティブももちろん好きなのですが、新しいことにチャレンジしたい気持ちがあったので楽しかったです。いつも協力してくれる安心感のあるチームでの撮影の良さもありますが、今回はSIRUPさんが信用するチームで撮影をしたことで、私自身もまた別のフェーズに行けた気がします。緊張感はあるけど熱量があって、アーティスト同士のリスペクトがあるーーそんな中で新たなものを作り出す楽しさを実感できました。

SIRUP:事前にスタッフ全員でミーティングをしたときに、ARISAKのアイデアに加えてスタイリストのTEPPEIさんとヘアメイクの向井さんが色々なアイデアを出してくれて。それぞれ違う分野のアーティストが全力投球でぶつかり合いできたのがうれしかったです。みんなでワクワクして、うっすら青春すら感じました。

ライブや制作など、僕にとっては常にやっていることではあるんですけど、撮影でこういったトライができたのがよかったです。全体を通して本当に良い撮影だったと思います。

WWD:特に気に入っているビジュアルは?

SIRUP:僕はやっぱり王冠のルック。ファッション感もあって一番好きです。でも「GAME OVER」をイメージした泣いているビジュアルも好きです!撮影するときは結構苦戦しましたね。

ARISAK:当初は、「GAME OVER」のビジュアルでは眼帯をつけて撮影する予定で、向井さんがたくさんの眼帯を用意してくれて。でもなかなか良いバランスが見つからず、スタッフみんなで色々なトライを重ねました。TEPPEIさんが持ってきていた衣装のパンツやSIRUPさんの私物のアクセサリーを首に巻いたりして。ああいうのって現場ならではという感じですよね。

SIRUP:現場に緊張感が走るけど、「なんかすごいものが撮れそう」というワクワク感もあって。いつも、ああいうときのTEPPEIさんの現場力やパワーに圧倒されます。

WWD:向井さんが作った王冠にSIRUPさん自身がペイントを行いましたが、何か意識したことは?

SIRUP:向井さんが「好きなようにやっていいよ」って言ってくれたので、あえて何も考えずにペイントしました。結果的に自分が好きな色合いになったのがおもしろかったです。トライブカラーみたいな、ちょっとアフリカンを感じる色合い。無心でやったことだけど、色にさえルーツを感じられて。そうやってできたものがこの作品の世界観に入ってきたのもおもしろかったです。

WWD:普段から、どのようにステージやミュージックビデオの衣装を選んでいる?

SIRUP:ギラギラはしているけど、最先端なものを着るとかではなく、ビンテージアイテムをちぎったりつなげたり、改造をしながらギラギラさせていくみたいな。もうTEPPEIさんには7年前くらいからスタイリングをお願いしているのですが、一緒にやっていく中で試行錯誤した結果、2人一緒に色々な店を回ってビンテージものを探すようになりました。ひどい時は1日で2万歩くらい歩くのですごい疲れるんですが(笑)、やっぱりそうやって作り出すものを超えるような服はなかなか見つからない。特にこの2年間は、そういったカスタムアイテムを衣装に使うことが多いです。

WWD:SIRUPさんは普段から音楽以外にもさまざまなクリエイティブに触れていますが、何かを作るときに大事にしていることは?

SIRUP:僕の場合はアーティストとして自分が中心でものづくりをすることが多いからこそ、「リアルである」「素である」ということは大事だなって思います。でも頑なすぎないことも大事。今回は僕が被写体だから自分自身を高く設定したけど、そんな中でも僕が「あれは嫌だ」と言っていたら新たなものは生まれないかもしれない。プロに任せる部分は任せたいし、素の自分でいながら自然に出てくるものをおもしろがろうとしているし、受け入れていくことで表現をしたい。

ARISAK:そうやって身を委ねてくれるのはこちらとしてもうれしいですよね。でもそのバランス感覚って難しいし、人に任せようって思えるのは色々な経験を経てきたからこそなんだと思います。そうやって新しいトライをさせてくれる余裕を持っているってかっこいいですよね。

SIRUP:僕自身、自分がSIRUPになった瞬間に人に委ねられるようになった気がするんです。そういうふうになれたことが、自分自身の中で一番大きい変化。自分が素でいれば、どこで何をしてもその存在は絶対に消えないなって。若いときはそれがわからなくて、誰と何をしても自分が全てをコントロールしようとして、結果的に一緒に組んだ人の能力を発揮しきれずにいた。それを手放せるようになって、世界が広がったように感じます。

WWD:打ち合わせ時には「“大人子供”のような表現をしたい」と言っていました。現在38歳ですが、過去と振り返って変わったと思う部分は?

SIRUP:自分自身を信用できるようになったことかな。自分の中から生まれるアイデアを信じられるようになったと思う。自分がやりたいことがはっきり言えるようになったと思うし、人への伝え方、わかってもらえるような努力が少しずつできるようになってきました。この数年海外に行ったりもして、アーティストは自分が何をしたいかをはっきり言えないと相手にしてもらえないし、投げかけられる質問1つとってもクリティカルで。そういう生活の中で自分の内側にフォーカスする時間が増えて、人に積極的に会うことも増えました。

WWD:今回の撮影のテーマでにもなった最新アルバム「OWARI DIARY」。特に注目してほしい点とは?

SIRUP:ちょっと前の自分の曲は、「自分の感情とどう向き合うか」みたいなものが多かったんですけど、前作のアルバムぐらいから少しずつ、大人になった自分がその感情を肯定していくような作品になってきたと思っています。やっぱり人間って色々な面を持っているし、「色々な自分を肯定していいんだ」と感じてもらえたらうれしいですね。

WWD:今後どんなふうに活動をしていきたいですか?

SIRUP:言語化するのが難しいですが、インディペンデントなアーティストがもっとチャレンジできる場を作っていけたらいいなと思っていて。そういった新たなシーンを作ることは、僕の1つの夢でもあります。僕は社会的なことにも興味があるしSNSでも発信しているけど、実際日本では個人でそういう発信をするのはなかなかハードルが高い。もっとアーティストがもっと発信しやすい空気づくりをしたり、コミュニティーを作ったりするようなことができたらいいなと思っています。


CREDIT
PHOTOS & DIRECTIONS:ARISAK
STYLING:TEPPEI
HAIR & MAKEUP:DAISUKE MUKAI
3CGD & LOGO DESIGN:HIROKI HISAJIMA

■「OWARI DIARY」作品紹介

9月3日に発売した3rd Album「OWARI DIARY」は、“終わりの始まり”をテーマに、前作EP「BLUE BLUR」で描いた“ポジティブな絶望”を越え、その先で見つけた希望とともに歩みを進める姿を描く。SIRUPのリアルな人生を綴った、まさに“日記”のようなアルバムとなっている。
URL:https://asab.lnk.to/OWARIDIARY

「KIRA KIRA」MUSIC VIDEO:https://youtu.be/_JLwkJGVeqk

■SIRUP LIVE HOUSE TOUR 2026 “TURN THE PAGE”

[日程・会場] 2026年2月5日(木)大阪・BIG CAT [開場/開演]18:00 / 19:00
2026年2月7日(土)広島・Hiroshima CLUB QUATTRO [開場/開演]16:00 / 17:00
2026年2月8日(日)香川・高松MONSTER [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年2月11日(水・祝)静岡・LIVE ROXY SHIZUOKA [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年2月13日(金)埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都⼼VJ-3 [開場/開演]18:15 / 19:00
2026年2月14日(土)栃木・HEAVEN'S ROCK 宇都宮VJ-2 [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年2月21日(土)愛知・ダイアモンドホール [開場/開演]16:00 / 17:00
2026年2月23日(月・祝)福岡・DRUM LOGOS [開場/開演]16:00 / 17:00
2026年2月27日(金)東京・Spotify O-EAST [開場/開演]18:00 / 19:00
2026年3月7日(土)京都・KYOTO MUSE [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年3月8日(日)兵庫・神戸 Harbor Studio [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年3月14日(土)福島・郡⼭Hip Shot Japan [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年3月15日(日)宮城・Sendai Rensa [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年3月20日(金・祝)千葉・柏PALOOZA [開場/開演]16:15 / 17:00
2026年4月11日(土)神奈川・横浜ベイホール [開場/開演]16:00 / 17:00
2026年4月24日(金)北海道・ペニーレーン24 [開場/開演]18:15 / 19:00

ライブ詳細:https://x.gd/nyulG

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