ファッション

「ディオール」「ドリス ヴァン ノッテン」のメンズを欧米メディアはどう評した?「オーラリー」には賞賛続く

疑う余地なく、ファッション業界は歴史的な転換期にある。来たる10月のウィメンズのファッション・ウイークでは、新たに就任したデザイナーによるビッグメゾンのデビューショーが相次ぎ、業界の視線を集めている。

近年、ラグジュアリーブランドは業績の低迷や市場環境の変化に直面し、その一方でビューティラインやライフスタイル部門の拡充が加速するなど、変化の波はとどまることを知らない。そんな中、6月に開催された2026年シーズンのメンズ・ファッション・ウイークを振り返れば、ランウエイを彩ったのは、日常に根差した定番アイテムを現代的にアップデートしたルックの数々だった。

各国の有力メディアのジャーナリストたちは、それがいかに今の空気と響き合い、評価に値するかを熱心に論じている。もちろん、経験豊富で信頼される彼らの言葉が絶対的な正解ではない。しかし、コレクションそのものだけでなく、それを切り取る報道の視点にも耳を傾ければ、業界の現在地、そして未来への行方を読み解く手がかりとなるだろう。重要なのは、良いか悪いかという二元論ではなく、“なぜ”良いと言えるのかという、その評価基準に目を向けることだ。今回は厳選して、高く評価された2ブランドのデビューショーと、ますます期待度高まる日本ブランドへの海外メディアの評論を紹介する。

「ディオール」は「圧倒的な創造力の実演」

ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による「ディオール(DIOR)」は、“今世紀”最大の注目を集めたデビューコレクションと言っても過言ではない。通常はウィメンズのみを取材する大手メディアのファッション部門ディレクターでさえ、今季は例外的にメンズに渡仏し、「ディオール」のショーに足を運んだ者も多かった。

辛口ジャーナリストとして知られる、「ニューヨーク・タイムズ(NEW YORK TIMES)」紙のヴァネッサ・フリードマン(Vanessa Friedman)もその一人だ。「今回のショーは、ジョナサン・アンダーソンが『ディオール』のクリエイティブ・ディレクター、そして救世主として初めて挑む舞台。メンズとウィメンズの両部門を統括する初のデザイナーでもある。その熱気の裏に漂っていたのは、ひとつの大きな疑問——『ロエベ』で神童と呼ばれた彼は、ブランドのみならずファッション業界全体への興奮を再び呼び覚ませるのか?そしてアンダーソンは、それをいとも簡単にやってのけた」と記し、コレクションを賞賛した。「それは大文字の“ニュー・ルック”ではない。急進的でも衝撃的でもない。だが、とびきり魅力的な新しい提案だった。そして、フォーマルとインフォーマル、メンズとウィメンズ、商業性と創造性の間に生まれる緊張感の、まさに中心にあった。(中略)アンダーソンが提示したのは、矛盾が優雅に共存し得るという、明確で説得力のある主張。そして何より、ファッションと着やすさは両立しない、という固定観念への反論だった。奇抜か退屈かの二択ではない、ということ」。

結論から言えば、彼のデビューコレクションは業界から大喝采を浴びた。そして最も興味深いのは、フリードマンのように「衝撃はない」とされつつも高く評価された点にある。創業者クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が47年に発表し、メゾンの象徴となった“ニュー・ルック”は、当時世間に衝撃を与え、現在も伝説として語り継がれている。しかし、アンダーソンが示唆したのは、急進的に成長すれば急進的に終息する、そのスピードがますます速まっているように見える現代のファッション業界で、そんなセンセーションは不要ということだ。

ファッションジャーナリストであり、服飾史に造詣の深いアーカイブコレクターでもある「アナザー(ANOTHER)」マガジンのアレキサンダー・フューリー(Alexander Fury)は、「今回のコレクションでアンダーソンは新たな“ニュー・ルック”を狙っているわけではない」との見解を示す。「2025年の多面的なファッション界で、世界を変えるほどの大成功は不可能だからだ。しかし彼がやりたかったのは、ムッシュ ディオール自身に似たアプローチをとることだった。過去を振り返り、構造美を愛し、18世紀の豪華さを感じさせ、それを現代に翻訳すること。そもそもムッシュ ディオールの“ニュー・ルック”は本当の意味で新しいものではなく、過去にインスピレーションを受けながらも、その当時の時代背景に影響されていた」と歴史を紐解きつつ、コレクションを「メゾンの深い理解に基づく洗練と複雑さに満ちていた」と称えた。

時代をリードするアンダーソンが優れているのは、コンセプチュアルとリアリティ、商業性と創造性、カジュアルとフォーマルといったあらゆる要素のバランス感覚だ。見慣れた衣服にひねりを加え新鮮に見せる手法は、メンズとウィメンズ両方でコロナ禍以降続くクリエーションの主題でもある。仏新聞紙「ル・モンド(LE MONDE)」のエルヴィール・フォン・バルデレーベン(Elvire von Bardeleben)は、「実験的でありながらカジュアル、どちらかに偏らず多様な可能性を見せる魅力的なコレクション」だと綴った。続いて、「GQ」グローバル・ファッション・コレスポンデント、サミュエル・ハイン(Samuel Hine)はこう記す。「アンダーソンは、コンセプチュアルでありながら今の時代に響き、しかも欲しくなる服を作る達人だ。(中略)気取った歴史の重みを、ダウンタウンの退廃と混ぜ合わせることで、今この街にいそうな人物像に落とし込んだ。(中略)カジュアルプレッピーとフレンチエレガンスが交錯し、現代的な装いの感覚に根ざしたコラージュとなっていた。そこにあったのは、コレクターズアイテムではなく、“粋”に裏打ちされたラグジュアリー」。

さらに、仏新聞紙「ル・フィガロ(LE FIGARO)」に独占インタビュー記事を掲載したジャーナリストのマチュー・モルゲ・ズッコーニ(Matthieu Morge Zucconi)もコレクションへの賞賛を惜しまない。「記憶に残るショーとは何か。欲しくなるコレクション?心を揺さぶる音楽?セクシーなキャスティング?バズを狙ったセレブ満載のフロントロウ?それらが揃っていても、成功を特別な瞬間へと押し上げる火花が必要だ。結論から言えば、アンダーソンの『ディオール』での初舞台には、そのすべてがあった。それ以上に、メンズファッションでは久しく見なかった圧倒的な創造力の実演だった。このコレクションは何より、エレガンスへの回帰を掲げ、“着こなし方”という提案をしている。これは、これまでのメンズファッションのアーティスティック・ディレクターがあまりやってこなかったことだ。『ディオール』という舞台で、アンダーソンは自らの才能に見合う規模の仕事を見つけたようだ。ラディカルでありながらアクセスしやすく、尖っていながら着られる——この審美眼は、巨大メゾンの共鳴板を得て、10年前のデムナ(Demna)のように、これからの男性の装いを大きく変えていく力を持つ」。

文句のつけようがないデビューコレクションに対し、各国のレビューは賞賛の言葉で溢れている。辛辣な物言いが定番の「ファッションネットワーク(FASHION NETWORK)」のゴッドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)の記事には、2人の人物の興味深いコメントが記されていた。「我々の取材に対し、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)は『本当に素晴らしかった!』とコメントした。だが、このファッションの革命で最も話題を呼んだのは、アンダーソンからのオリジナル招待状だったかもしれない。白い陶器の皿に陶器の卵が3つ乗せられたもので、確固たる自信を感じさせた。北アイルランド・デリー県の小さな町マガーフェルト郊外で育ったアンダーソンは、地元の農場で卵を集めるアルバイトをしていた。『その翌日には、家の前に『卵売ります』の看板が立っていた。ジョナサンは常に働き者で、全力を尽くして決して諦めない。北アイルランドを離れた頃の彼と変わらず、それが私たちは大好きなんだ』と、誇りを胸に父親は語った」。大成功を収めたデビューとはいえ、これはあくまで物語の序章、まさに卵の殻を破って雛が生まれたばかりの瞬間にすぎない。10月に発表を予定している初のウィメンズにも、大きな期待が寄せられている。

「ドリス ヴァン ノッテン」は「前回のウィメンズを超える完成度」

フィナーレでゲストが一斉に拍手喝采を送る際、その一体感と、言葉を超えて通じ合う感情の共有には、他にはない特別な響きがある。礼儀としての拍手ではなく、感動に突き動かされ、自然と手が動いてしまう拍手だ。ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)による「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の初のメンズショーは、そんな特別な空気感に包まれて幕を閉じた。「拍手にはスタッフやファンの熱も加わっていただろうが、それ以上に、本物の“うれしい驚き”が生む独特の電気的な熱があった」と記すのは、「ヴォーグ・ランウエイ(VOGUE RUNWAY)」のルーク・リーチ(Luke Leich)。「多くの面で、これはクロスナーにとって見事なメンズ初陣だった。(中略)彼は複数の物語や要素を織り交ぜ、ブランドの本質に内在するナラティブを使いながらも、敬意と独自性を併せ持つ方法で提示した。(中略)コレクションと音楽は、前夜の熱狂を経た翌朝のような、フォーマルさが楽しさとの摩擦によってほどけた状態を呼び起こすためのものだった」と続けた。

「ファッション・ネットワーク」のゴッドフリーも、フィナーレの感動的なムードを熱を帯びて綴っている。「最後のモデルがランウエイを去った瞬間、会場の空気はひとつに――これは大成功だという確信だった。創業者のメンズワードローブを構成するあらゆる要素を踏まえながらも、クロスナーはそのムードを刷新。より若々しく、より軽快に、そしてさらに大胆な色彩へと昇華させた。(中略)元々ウィメンズ出身の彼に、メンズで通用するのかという事前の懐疑的な声も少なくなかった。しかし結果的に、このコレクションは彼がアントワープ拠点のメゾンで手がけた中でも最高の出来といってよく、前回のウィメンズショーを超える完成度を見せた」と評した。

この他、「ル・フィガロ」も、クロスナーによるブランドの新たな物語を讃える。「ファンを満足させる寛容で華やか、そしてエレガントな提案だ。巨匠を模倣することなく、少しずつ、やや官能的なニュアンスも交えながら、自らの言語を築き上げている」。米「WWD」のマイルズ・サーシャ(Miles Socha)も、「33歳の新デザイナーにとって、これは有望で活気あるスタートだ。彼は明らかにDVNのDNAを呼吸している。あとは、ワードローブとファンタジー、そのバランスをより精緻に磨き上げていくだけだ」と、期待を込めてレビューを締めくくった。

「オーラリー」は「今最もおしゃれな人たちが夢中」

日常に根差したクリエーションで時代の波に乗るのが、快進撃続く「オーラリー(AURALEE)」だ。ファッション・ウイークではもちろんのこと、それ以外の期間にパリで行われるイベントに参加すると、業界人が「オーラリー」を着用している確率が格段に上がっている。

仏新聞紙「ル・フィガロ」のズッコーニは、「ファッション業界で今もっともオシャレなたちを夢中にさせているのは『オーラリー〉』だ」と書き始まる。「岩井デザイナーは、リアルでありながら際立つスタイルを追求し、ファッションにおいては、一見ありふれたものからでも欲望は生まれるということを証明してみせる。それは、日常で着られる本物の服であり、他にはない色彩のパレットで彩られている。(中略)素材もまた、シンプルに見えて実は凝っている。(中略)酸でわずかに染みたようなチノパン、肩の落ちたジャケット、カーゴポケット付きレザーブルゾン、程よく色落ちしたジーンズ。どれも、日本的な細部へのこだわりが息づく、袖を通したくなる服ばかりだ」と続けた。

「ファッション・ネットワーク」のドミニク・ミュレ(Dominique Muret)は、「オーラリー」がショーを行ったメンズ初日に、展示会を開催した「ザ・ロウ(THE ROW)」と並べて、その美学を讃えた。「控えめで実用的、しかし決して素朴ではなく、最高級の素材で仕立てられた洗練の服。両者は、男女ともに自然体で優雅に装うその技術で観客を魅了した」。平凡に見えて、並外れたエレガンスを持つ「オーラリー」の強みは、生地問屋をルーツとする高級素材と、肩の力が抜けつつも品性を損なわないスタイリングにある。「一見シンプルに見える今回の組み合わせだが、手持ちの定番アイテムを重ねれば再現できるというのは錯覚」だと説明するのは、米「WWD」のリリー・テンプルトン(Lily Templeton)。「近くで見ると、岩井デザイナーの作る服は、着慣れた雰囲気を漂わせながらも洗練されたテクスチャーが宿っている」と生地への賞賛が続く。

そして今季、多くのジャーナリストが着目したのが、ビーチサンダル風のシューズだった。「ヴォーグ・ランウエイ」のホセ・クリアレス=ウンスエタ(José Criales-Unzueta)は、「色、素材、プロポーションのすべてに、岩井デザイナーの服には整然とした静けさがあり、肩肘を張らず、自然と人を惹きつける」とブランドの魅力を語り、その足元に触れた。「ほぼすべてのルックにビーチサンダルを合わせた。『プラダ(PRADA)』や『ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)』も同様に取り入れているが、岩井デザイナーは見慣れたアイテムを同時に、憧れとリアリティのある存在へと昇華させる術を持っている」と記す。

今季のトレンドシューズの大本命であるトングサンダルについて、「GQ」のハインは、「26年春に向けてビーチサンダル型のサンダルに全力を注いでいるブランドの中でも、とりわけ強気なのが、人気上昇中の『オーラリー』」だとする。「季節の移ろいを優しく讃えるコレクションの中に、レザーのビーチサンダルを20数足投入。タイミングも絶妙だった。というのも、最近、俳優ジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)が『ザ・ロウ』の賛否両論を呼ぶラグジュアリー・ビーチサンダルでレッドカーペットに登場し、『礼儀ある場でビーチシューズはタブー』というメンズウエアの暗黙の了解が崩れつつある兆しが見え始めているからだ」と、その背景を記した。

「オーラリー」は19年春夏ウィメンズでトングサンダルをスタイリングとして取り入れており、21年春夏からは男女に向けて製品を展開している。ブランドのデザインアプローチを振り返れば、計算やマーケティングによって生まれたトレンドアイテムというよりも、そこにあるのは心から良いと信じるものを届けるという揺るぎない意志だ。そしてデザイナー自身の美学と信念を貫く姿勢こそが、洋服を愛する人々の感性に深く響いているのだろう。「オーラリー」は日本を代表するブランドの一つとして、ますます成長する姿を見せてくれそうだ。

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