英国の自動車ブランドの「ベントレー(BENTLEY)」は6月25〜27日、全ラインアップが一堂にそろう試乗会“BENTLEY EXTRAORDINARY DRIVING EXPERIENCE”を開催した。筆者が試乗したのは、SUVモデル“ベンテイガ アズール V8”。乗員の快適性を追求した同モデルの極上の乗り味と癒しに包まれる理由を、実際の走行をもとに読み解いていく。
乗員の快適性を追求した
“ベンテイガ アズール V8”
試乗したのは2022年に登場したラグジュアリーSUV“ベンテイガ アズール V8”だ。“アズール”とは、全乗員の快適性と健康を最優先に設計したグレードを指す。神経科学者のキャサリン・テンプラー・ルイス博士を迎え、“ドライブにおける快適性”を科学的に分析し、心に落ち着きを与えるインテリアや車体の安定性、静粛性などを追求したモデルだ。
“ドライバーが主役”という快適性のベクトルが、この車を選んだ理由だ。「ベントレー」は一部のモデルに“EWB”というラインを設け、ホイールベースを延長し、後部座席の快適性を重視してチューニングしたモデルを展開している。しかし、せっかくステアリングを握るなら、ドライバー自身が最もぜいたくで快適であるべきだろう。
クラフツマンシップを感じる
圧倒的なエクステリア
インテリアや乗り味に触れる前に、まず目を奪われるのは、「ベントレー」らしい華やかで威厳あるエクステリアだ。
試乗車の外装色は“トパーズブルー”。ボディーのプレスラインが光を反射して、その名の通り宝石を思わせる輝き様だ。格子状のマトリックスグリルや、さながらガラス工芸のようなヘッドライトのディテールには、「ベントレー」ならではのクラフツマンシップが息づいている。
初対面の印象を一言で表すなら「デカい!」ということ。そう声を上げてしまうほどのサイズで、全長5125mm、全幅はミラーを閉じた状態で2010mm、全高1728mm。迫力のある顔つきも相まって、フルサイズSUVらしい巨体が放つ存在感は圧倒的だ。
柔らかな色や素材でまとまった
優しさに包まれるような空間
ドアを開けると、外装とは対照的に柔らかく、穏やかなインテリアが広がる。オフホワイトやライトグレーを基調にしたレザーは、色合いも肌触りも心地よく、リアルウッドのパネルがほのかに自然の温もりを添えている。随所に施された金属の装飾は適度な主張で、全体の空間に上品なリズムを刻んでいる。外装色の鮮やかさとのコントラストが際立って、運転席に腰を下ろした瞬間、“優しさに包み込まれるような空間”と強く感じた。
目を引いたのは、インパネ中央に配されたアナログ時計だ。デジタル式のメーターや、マッサージ機能付きのシート、線移動を最小限に抑えるヘッドアップディスプレイなど、先進的で効率的な装備が整う中、機能ではなく感性に訴えかけるモチーフは、「所有すること」への満足感を高めているディテールの1つだろう。
このサイズの車を運転するときに気になるのは視界の広さ。目視できる範囲が狭いとそれだけで取りまわしが難しくなり、“快適な運転”からは遠ざかる。その点SUVらしく車高が高い同モデルは、ドライバーの視点も自然と高くなり、周囲の状況が把握しやすい。加えて、Aピラー(フロントガラスの両端にある柱部分)もそれほど厚くなく、死角が少ないのが印象的だった。リアウィンドウはやや小さめに感じるが、前方視界に関しては「思っていたよりずっと良い」というのが率直な感想だ。
静粛性×安定性×安全性に
V8エンジンの機動力をプラス
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本試乗会では、「ブルガリ ホテル 東京」から、首都高速を経由して有明方面へ抜ける約20km、街中と高速道路を織り交ぜたルートで、下道での快適性や、高速域での運動性能など、“ベンテイガ アズール V8”の真価が試される。
走り出してまず感じたのは、車内に満ちる静けさだ。走行中の交通騒音が与えるメンタルヘルスに与える影響に着目し、静粛性を徹底的に追求している。そのこだわりは、高速域で特に感じられた。多層構造のガラスの使用や遮音材の強化に加えて、低騒音なタイヤを標準で採用することで、ロードノイズを軽減。静謐な空間を作り上げるための構造が、細部にまで組み込まれている。高速巡航でも車内は落ち着きに満ちていて、同乗者との会話も自然と穏やかトーンに。単なる快適性の域を超え、ラグジュアリーの本質を物語っているようだ。
また車体の安定性にも、さまざまな工夫を施している。路面からの突き上げを防止するためにチューニングしたサスペンションのほか、“ベントレーダイナミックライド“と言われるアンチロールシステムを標準装備している。高速道路のカーブを高速域で進入してみると、車体の揺れや傾きを最小限に抑えた、地面に吸い付くような走りを実感できる。
大きな車体を操りやすくするための機能も注目すべき点だ。低速域ではリアタイヤがフロントとは逆方向に切れることで、小回りが利き、高速域では同方向に連動することで、操舵性能を高めている。加えて、モニターに映し出される“3Dサラウンドビュー”は、4方向に備わったカメラを駆使して、車両を真上から見下ろした視点で周囲の状況を確認ができる。白線を認識して車線内走行をサポートするレーンキープ機能や、障害物の接近を検知して音で知らせるクリアランスソナーといった運転支援機能も隙なく備わっている。
機動力に関しても、申し分ない。最高出力550馬力の4.0L V8ツインターボエンジンを搭載し、高速道路での合流や追い越し、車両が多く並走する状況での車線変更も難なくこなせる加速力で、アクセルのレスポンスはボディーサイズに反して軽快。上品な佇まいの中に、適度なスポーティー要素を共存させているのも特徴的だ。
走行速度や道路状況に左右されない優雅な車内空間をベースに、取りまわしへの配慮や豪華な安全装備が加わって織りなす快適性と、スポーティーなテイストが生む俊敏性の妙こそが、この車の真骨頂だ。
“ベンテイガ アズール V8”試乗を終えて
「“心身の余裕”も運ぶSUV」
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重厚で堂々としたボディーに宿るのは、快適な運転体験を求める現代の感性に寄り添った静けさと滑らかさ。モータースポーツのDNAを適度に受け継ぎながらも、走行性能と快適性が高度に融合した“ベンテイガ アズール V8”は、“心身の余裕”までも連れて走ってくれる車だと言えるだろう。
今回試乗したのは、エンジンを積んだガソリン車だ。試乗前に行われたベントレー モーターズ ジャパンの遠藤克之輔ブランドディレクターの挨拶では、来年に発表を控える100%電気自動車のシルエットを披露しながら「『ベントレー』が手がけるのであれば、それは今までになくユニークな存在で、優れたパフォーマンスを発揮しながら、ラグジュアリーな車内空間と運転体験を提供する車でなければならない」。カーボンニュートラルを目指し、内燃機関搭載車(ガソリン・ディーゼル車)の新車販売禁止を計画する国が多くある中で、ブランドの未来に対するビジョンを示した。
創業105年を経た今、「ベントレー」が描く次の100年に、期待が膨らむばかりだ。