近年、才気あふれる若手バンドが相次いで登場しているロンドンのロック・シーン。中でもとびきりの“個性派”が、このボーカル&ギターのジョー・ラヴ(Joe Love)をフロントマンに擁する5人組、ファット・ドッグ(Fat Dog)だ。
「1曲の中で13曲も盗めば、誰も気づかない」。そううそぶく彼らのサウンドを例えるなら、“ハードコア・パンクのポゴ・ダンスと非合法のレイヴ・パーティーのサイケデリックなミックス”だろうか。さらに、EDMやシンセウェイヴ、インダストリアル・ミュージック、東欧のジプシー音楽などの影響と相まって押し寄せる狂騒感や原始的なエネルギーは、シェイムやブラック・ミディらを送り出した地元のライブハウス「The Windmill」の同輩と比べても際立ってユニークだ。あるいは、彼らの旺盛なクロスオーバーや折衷感覚は、クラクソンズやハドーケン!が活躍したUKインディーのY2K=ニューレイヴの記憶を思い起こさせるかもしれない。
アークティック・モンキーズやザ・ラスト・ディナー・パーティーを手掛けるジェームス・フォードを共同プロデューサーに迎え、昨年9月にリリースされたデビュー・アルバム「WOOF.(ウーフ.)」を携え、昨年12月に初のジャパン・ツアーを行ったファット・ドッグ。フロアも巻き込んで混沌としたうねりを生み出した圧巻のライブ・ショー。そのステージの数時間前、会場となった恵比寿のリキッドルームでジョー・ラブに話を聞いた。
エレクトロニック・ミュージックの影響
——ファット・ドッグの結成は2020年ですが、始めるにあたってはどんなビジョンがあったのでしょうか。
ジョー・ラブ(以下、ジョー):最初はソロでやりたかったんだ。その前にピーピング・ドレクセルってバンドを仲間とやっていて、3年ぐらい続いたのかな? でも、だんだんマンネリを感じてきて、もっと新しい音楽をつくりたいと思って、バンドの練習に行かなくなった。そしたら、ちょうどいいタイミングでお尻を蹴っ飛ばして、僕を追い出してくれて(笑)。
ただ、何もない状態からのスタートだったから、自分で全てをやらなくちゃいけない。それでエレクトロニック・ミュージックをつくり始めたんだ。ちょうどコロナ禍だったのもあったし、エレクトロニック・ミュージックってラップトップさえあればどこでも制作できるから、とても魅力的に感じたんだ。最初は1人で完結できる音楽がやりたくて、「まあ、ドラマーがいたら助かるかな」ぐらいしか思っていなかったんだけど、だんだん人が集まってきて、学生時代の友達がベースを一緒にやるって言ってくれて。初めてのライブは僕1人でやる予定だったんだけど、でもやっぱり誰かと一緒にステージに立つのは楽しいなって思ったよ。だからパンデミックの期間中は、単に自分だけのプロジェクトとして音楽をつくっている感じだったんだ。
——当時のロンドン、それこそ「The Windmill」のバンド・シーンは、ブラック・ミディやスクイッドなど群雄割拠の状況だったと思うんですが、その中で自分たちのカラーを出すためにはどんなことを考えましたか。
ジョー:そういうことは考えなかったかな。特に最初につくる音楽って、自分の人生経験からインスピレーションを得るものだと思うし。それに「The Windmill」みたいなところならどんな実験的なサウンドだって挑戦できると思ったんだ。とんでもなくハードでヘヴィな音楽や、ミュージカルみたいに聴衆を翻弄するような音楽でも、何だってね。
それに、プロモーターのティム(・ペリー)は観客の心をつかむのが本当にうまくて、ステージからステージへとスムーズに流れをつくり出すのが得意なんだ。ブッキングが曲づくりのモチベーションになる。次のライブはこの前よりも長めの時間をもらえるから、「じゃあ、あと3曲くらい新しい曲をつくって、観客をもっと楽しませなくちゃ!」みたいな感じにね。
——そうした「The Windmill」のバンド・シーンでも、ファット・ドッグは特にエレクトロニック・ミュージックの要素が大きなキーになっていますよね。
ジョー:僕の前のバンドは、ポスト・パンクっていうか、ちょっと暗い感じの音楽をやっていて。でもファット・ドッグでは、エレクトロニック・ミュージックとポスト・パンクを融合させたかった——まだそれが完璧に成し遂げられたわけではないんだけどね。
個人的に大好きだったのは、プロディジーやケミカル・ブラザーズ。それにアイ・ヘイト・モデルズ(I Hate Models)。あと、ジェフ・ミルズだね。 ジェフ・ミルズは、リキッドルームでライブをやったアルバム(「Live at The Liquid Room-Tokyo」)を出していて、いつも聴いてたから、まさか自分が同じ場所でライブをやることになるとは思わなかったよ(笑)。
実は、僕がエレクトロニック・ミュージックをつくり始めたのは12歳くらいの時なんだ。自分でなんでもできるし、それを自分で聴いて楽しむのが好きで、Deadmau5(デッドマウス)みたいな人たちにも影響を受けていた。それがきっかけでテクノにハマっていったんだよ。ちなみに、僕の隣人はテクノが大好きで、よく遊びに行ってたんだけど、彼はデトロイト・テクノにハマっていてよくかけてた。ジェフ・ミルズやリッチー・ホゥティン、プラスティックマンみたいなね。だから、ファット・ドッグの音楽は、そういう硬質なテクノとはちょっと違う、もっと柔らかい感じなんだ。でも、どちらも面白い音楽だよね。
——プロディジーについては、他のメンバーもみんな大好きだって言いますよね。
ジョー:ああ、彼らの曲はイギリスではすごく人気で、象徴的な存在なんだ。熱狂的なファンがたくさんいて、まるで教祖のような扱いをされている感じというか。僕は、エレクトロニック・ミュージックにライブ・パフォーマンスを組み合わせるのが大好きなんだ。ライブは、音楽をよりダイナミックに楽しめるから。実は彼らのライブは見たことがないんだけど、YouTubeの動画を見た感じだとすごく楽しそうで、素晴らしかったよ。
——かたや、ジェフ・ミルズに代表されるデトロイト・テクノというと、プロディジーとは対照的にシリアスなイメージが強いですよね。
ジョー:彼らはとてもシリアスだよね。もともとエレクトロニック・ミュージックは好きだったんだけど、そういう超真面目な——ほら、ドイツのテクノ・シーンみたいな、すごく厳格な雰囲気の音楽は、僕にはちょっと合わないところも正直あって。いつも黒ずくめで、笑うことすら憚(はばか)られるような感じというか。確かに、音楽に対して真剣に取り組むことは大切だけど、音楽はもっと楽しむものだと思うんだ。ずっと深刻な顔をしてたら楽しくないだろ? 1年12カ月の間、ずっとツアーを回ってるんだから、ジョークを言ったりして、たまにはリラックスして、面白い視点を持つことも大切だと思う。じゃないとつまらないよ。
——その「楽しむ」という部分も含めて、ファット・ドッグのサウンドの狂騒感、“過剰さ”みたいなものはハイパーポップに通じるところもあるように思うのですが、どうですか。
ジョー:ハイパーポップというよりは、東欧のエレクトロニック・ミュージック、特にポーランドやロシアのもの——スラブ・エレクトロニック・ミュージックが好きなんだ。テンポが速くて、音もでかい。そういうのをやりたくてバンドを始めたんだ。だから、個人的にはハイパーポップのファンではない。好きな要素はたくさんあるし、将来的にハイパーポップに影響を受けた音楽をやるようになることもあるかもしれないけどね。
——ちなみに、100gecs(ワンハンドレッドゲックス)とかは聴きますか。
ジョー:100gecsは好きだよ。僕にとってはいい音。キャッチーで覚えやすく、盛り上がる雰囲気がすごく気に入ってる。でも実際、ハイパーポップがどんな音楽で、どんなふうに曲ができているのか、あまりよく分かっていないんだ(笑)。
ファッションのこだわりは?
——ファット・ドッグというと、特に初めのころは、空手着や犬のマスク、修道女の衣装といった奇抜なコスチュームで話題を集めたところもありましたが、そもそもライブでそうした格好をするようになったきっかけは何だったんですか。
ジョー:最初の頃は、ただ酔っ払いをからかいたいみたいな、そんな悪ノリな感じで始めたんだ。でも、やるうちにだんだん派手な衣装だけが目立つ感じになって、本質を見失ってしまった気がしてきて。今は、空手着にカウボーイハットって、一見すると奇抜な組み合わせだけど、そこには自分たちの“決意”があるというか、正面切ってやれば決して仮装のようには見えないと思うんだ。空手の練習から帰ってきたから空手着を着てる、みたいな単純な理由じゃなくて——そういうのも嫌いじゃないんだけど(笑)、もっと深い意味がある。CraigslistやGumtreeのような地域ごとの情報などが掲載されているコミュニティーサイトでたまたま出会った人たちが、今は強い絆で結ばれて一緒に音楽をつくり始めた、みたいな。
——バンドを始めた頃と今とでは、自分たちの中でコスチュームの意味合いが変わった?
ジョー:派手なステージ衣装を着ていると、それが自分の一部だって錯覚してしまうことがある。まるで、その衣装が自分自身を表す仮面であるみたいな。でも冷静に考えれば、それはあくまで演じているだけで、自分の中でつくり上げたペルソナに没頭し過ぎるのは問題だと思う。だからステージの上の自分は、普段の自分とは別の、ちょっとクレイジーでエキセントリックなキャラクターなんだ。それに衣装があれば、これは分身のようなもので、自分自身である必要はないんだと思える。もしステージの上の自分と同じようにいつも生きていたら、きっと精神的に参ってしまうだろうね(笑)。実際の僕はとても冷静なんだ。
——ちなみに、オフのファッション、ワードローブのこだわりは何かありますか。
ジョー:え!? ないよ。見ての通りって感じで(笑)。香港と中国をツアーで回って来たばかりだから、荷物はできるだけ軽くしたかったし。ギターのペダルやラップトップは全て一つのバッグに詰め込んで、着替えも最低限だけ。セブンイレブンで買った靴下もまだ履けるし――ちょっと汚れてしまったけど(笑)、あと1日くらいは大丈夫かな。だけど、もうちょっとおしゃれな服を持ってくればよかったって、少し後悔してるよ(笑)。
ビジュアルコンセプトについて
——ファット・ドッグは、MVやアートワーク周りのビジュアルもとてもユニークです。SFやゲームの影響、サイバーパンク的なセンスを感じますが、その辺りのコンセプトについて教えてください。
ジョー:正直言うと、今までやってきたことの中には、周囲の期待や流行、プレッシャーに振り回されて、自分のやりたいことを諦めてしまうこともあって。例えば、シングルのアートワークはもっとシンプルでよかったのに、クレイジーなことをやろうとし過ぎてしまったり。でも、MVのシナリオは歌詞のストーリーをそのまま表現したものになっていると思う。ファット・ドッグの曲は架空の世界を描いているから、現実の世界に縛られる必要はない。ロンドンのバンドだからといって、必ずしもロンドンの街並みを背景にする必要はない。例えばブルーマン・グループを見ても、アメリカのバンドだって誰も言わないだろ?(笑)。だから現実味のないものにしたかったし、それは音楽にも役立っていると思う。バカなことをやってもいいし、歌詞もいつも気取ったものである必要はない。どんな意味でもいいし、現実を超えた自由な世界を描きたい。そうすることで、もっと遊び心のあるものになるし、リスナーも自由に解釈できる。何か分かった気になるような、そんな鼻につくようなものは書きたくないんだ。
——例えば、新曲の「Peace Song」のMVには巨大化した「犬」が登場しますよね。あれは強迫観念の象徴みたいな?
ジョー:あれはアルバムのアートワークと同じ犬で、僕とキーボーディストのクリス(・ヒューズ)があのMVのストーリーを書いたんだ。僕らの念頭にあったのは、今回はちょっと高めの予算をもらえそうだってことで(笑)。巨大な犬が人間を襲うSFの世界なんて、ちょっとクレイジーだよね。でも、アイデアを膨らませるうちに、犬にこだわり過ぎるのもなんだかなって気がしてきて。僕たちが表現したいのは、犬そのものじゃなくて、もっと普遍的な何かなんだ。巨大な存在、あるいは未知なる力。そういう抽象的な概念を、犬という象徴を使って表現したかったんだ。
ライブ&レコーディング
——そういえば、ジョーさんはデビュー・アルバムの「WOOF.」のプレスリリースで「俺の頭の中にあるアイデアと比べたら洗練され過ぎてる。俺の想定では、もっとめちゃくちゃなサウンドになるはずだった」とコメントしてましたね。
ジョー:アルバムの制作中は、同じ曲を何度も繰り返し聴き込むことになる。特にライブで演奏してきた曲は、ライブならではの熱量や臨場感を再現するのが難しい。ライブは、観客との一体感やその場の空気感が重要だけど、レコードはあくまで録音された音源だからね。だから、ただ音だけを大きくすればいいってもんじゃない。曲の中にエネルギーがあっても、中身が伴わないことがある。そこに感情やストーリーが込められていないと、いくら音に力強さがあっても、空っぽに聞こえてしまうからね。
——つくり直したい箇所も正直ある?
ジョー:そのことは考えないようにしている(笑)。レコーディングではいつもギリギリまで追い込まれるんだけど、今回は特に完成度の高い作品を目指し過ぎて、かなりの部分で修正を繰り返した。で、締め切りが迫っていることに気づいたのは、あと1日しかないという時で。焦りながらもなんとか完成させたものの、A&Rから「あと1時間半で仕上げろ!」と言われた時は、さすがに心が折れそうになったよ(笑)。でも、おかげで無駄な部分を削ぎ落とすことができて、曲の本質が見えてきた。自分ではよいと思っていた部分も、客観的に見ると、ただの自己満足だったのかもしれない。自分が聴いているものが、“誰にも聴こえない”ことに気づいたんだ。もしあのまま制作を続けていたら、最後には気が狂っていたんじゃないかな。おかげで今の自分には心が残っているんだから(笑)、あれでよかったんだと思うよ。
——もしかしてジョーさんの中では、ライブでめちゃくちゃにされることであのアルバムは本当の意味で完成する、という部分があるのかな、と。
ジョー:そうだね(笑)。今回のアルバムでは、ライブの熱気をそのままスタジオに持ち込もうとしたんだ。僕たちはライブ・バンドとして知られているから、ライブでしか味わえないエネルギーを音源に詰め込みたかった。僕たちが初めて「The Windmill」で演奏した時のことを思い出させるような、生々しく、ダイナミックなサウンドを目指してね。だからこのアルバムは、僕たちの音楽を初めて聴く人にもライブ会場にいるような臨場感を感じてもらえると思う。あの時の200人のお客をイメージしてつくった、ある種の“スモール・アルバム”に仕上がったというか。
——ファット・ドッグの生のエネルギーが凝縮されたアルバム。
ジョー:ただ、ライブとレコーディング、どちらがいいかと言われると、一概にどちらとも言えない。ライブは、アドリブや観客の反応によって生まれる予測不能な瞬間が魅力で、会場全体が一つになって大きな呼吸をしているような感覚がある。バンドとしてエネルギーを得る場所でもあり、それが跳ね返ってきて、さらに曲に磨きがかかる。特にボーカルは、ライブで鍛えられた方がより感情を込めて歌えるようになると思う。一方、レコーディングは、細部までこだわってつくり上げることができる。ライブではどうしても拾えない、繊細なニュアンスや音色を表現できる。
だから次のアルバムでは、もっとじっくりと曲づくりに取り組んでみたい。今はメンバー同士お互いに会い過ぎていると思うから、2カ月ぐらい離れて、それからアルバムをつくろうと思っているんだ。メンバーそれぞれが自分の部屋でじっくりと楽曲制作を行い、完成したものを集めてアルバムをつくる。そうすることで、また違ったタイプのアルバムができると思うんだ。
——さっきのエレクトロニック・ミュージックや歌詞の話ともつながるところだと思いますが、メンバーのクリスさんはアルバムのプレスリリースで「今の多くの音楽は知性に訴え過ぎる。(略)僕たちの音楽は、考える音楽とは正反対だ」と発言していますよね。このコメントにジョーさんが補足することはありますか。
ジョー:まあ、彼が言いたいのは、音楽は単に“聴く”ものではなく、“感じる”ものだってことだと思う。歌詞を聴いて「何を意味するのか?」とか、そういうことをリスナーに考えさせる音楽が多いんじゃないか、っていう。ただ、そうしたくないバンドもたくさんいて、僕たちの音楽ではただ純粋に楽しんでほしい。だってプロディジーのライブに行って、「この歌詞にはどんな意味があるんだろう?」なんて真っ先に考えないだろ? 全身で音楽を感じて、踊り狂いたい。歌詞の意味なんてどうでもいい。僕はただ、1時間のパーティーのように、その場の雰囲気を楽しみ、みんなと一緒に最高の時間を過ごしたいんだ。だから僕たちの音楽は、考え込むような暗い曲ではなく、もっとポジティブでエネルギッシュな曲を目指している。エレクトロニック・ミュージックのように、リズムが身体を自然と動かしてしまうような、そんな音楽をつくりたいんだ。今回のアルバムは、まさにその方向性を追求した作品だと言えると思うよ。
音楽制作において、常に「正しいやり方」があるとは限らない
——ちなみに、「The Windmill」のバンド・シーンが脚光を浴び始めた当時、ブラック・ミディやブラック・カントリー・ニュー・ロードのような、音楽の専門的な教育を受けたミュージシャンが多く活躍していたのが印象的だった記憶があります。例えば、そうした彼らと自分たちは違う、みたいな意識や自負があったりしますか。
ジョー:実は、中学生の頃、ブリット・スクールを訪問したことがあるんだ。入学を検討していたんだけど、さまざまな事情で別の学校に進学することになって。その学校はブリット・スクールとは全く異なる雰囲気で、少し荒れていたけど、音楽科だけは素晴らしかった。先日、香港でその時の先生に偶然会ったんだ、昔を思い出して、とてもシュールな感覚だったよ。
その時、もしブリット・スクールで学んでいたら、今の自分はどうなっていたんだろうって、そんなことを考えさせられたよ。ブリット・スクールでは、どうすれば音楽業界で失敗しないかを教えてくれる。でも、僕は音楽理論よりも、実際に楽器を演奏することや曲をつくることが好きだった。音楽業界で成功するためには、莫大な資金が必要になる場合もある。例えば、ギルドホール(音楽演劇学校)のような名門音楽学校に通うには、かなりの学費がかかる。そして、お金持ちの人たちは時間がある。特に家柄の良い人たちはね。でも、多くの労働者階級の人たちは、バンドに参加して必要な時間をかけて、ギャラなしで延々とギグをするような余裕はない。何もかもがあまりに高過ぎるから。
——ええ。
ジョー:だから、僕は自分のペースで好きな音楽を楽しみながら、音楽活動を続けてきたんだ。音楽は、お金をかけなくても誰でも楽しむことができるものだと思う。ブリット・スクールのように、無料で音楽を学べる機会があれば、もっと多くの人が音楽に触れることができるだろうし。音楽を通してさまざまなバックグラウンドを持つ人々が集まり、交流できる。そんな音楽の世界にこれからも関わっていけたらなって思うよ。
それに、エレクトロニック・ミュージックやハイパーポップのようなジャンルでは、技術的なスキルが高くなくても、誰でも音楽制作を楽しむことができる。むしろ、既存のルールにとらわれず、自由に音楽をつくっている人がたくさんいる。だから、彼らは自分で学んでいるし、自分自身の感覚を信じて、ただそれがいい音だと思うからやっているんだ。音楽制作において、常に「正しいやり方」があるとは限らない。大切なのは、自分が心地よいと感じるサウンドを追求すること。周囲から否定的な意見を言われたとしても、自分の音楽を信じるべきだし、自分にとってそれがいい音なら、それでいいんだ。僕はそう思う。
——ところで、ジョーさんのスクール・ライフはどんな感じだったんですか。
ジョー:音楽の授業は僕にとって特別な場所だった。好きなだけ音楽をつくることができたし、先生たちもそれを応援してくれた。でも、イギリスの学校教育全体で見ると、音楽は重視されていないように思う。みんな数学や英語といった科目ばかりに目が向いていて、自分の才能や興味のあることに目を向けることが難しい。僕は昔から数学や英語が苦手だったから、学校ではいつも苦労していたよ。
僕は、一つのことだけを極めるのではなく、さまざまなことに興味を持つのが大切だと思う。音楽もその一つだ。音楽の才能は、必ずしもビジネスの世界で成功するために必要なものではないかもしれない。でも、音楽は僕の人生を豊かにし、心の支えになっている。音楽業界は厳しい世界かもしれないけれど、自分のペースで音楽をつくり続けたいと思っている。
——そういえば、ジョーさんは前にインタビューで「(自分たちの音楽において)盗みはその大部分を占めている。1曲の中で13曲も盗めば、誰も気づかない」って話していましたね。
ジョー:まあ、僕たちは正直者ってことなんだと思う(笑)。逆に、多くの人たちは正直じゃないって話でね。
いい曲に出会うと、「自分もこんな曲をつくりたい!」って心が揺さぶられる。それは自然なことで、とてもいいことだと思う。でも、いざ実際に自分でつくってみると、全然うまくいかないことが多い。そんなテクニックはないから当然だよね。特に、好きなアーティストの曲を意識し過ぎてしまうと、どうしてもオリジナルな作品をつくることが難しくなる。この前もデヴィッド・ボウイの曲を“盗んで”曲を書いたんだけど、聴き比べてみると「どこが?」って感じで(笑)、全然違う曲だってことに気づかされて。
音楽って、どこかで誰かの影響を受けているものだから、完全にオリジナルな作品なんてないのかもしれない。大切なのは、自分の心を動かした音楽からインスピレーションを得て、それを自分なりに表現することだと思う。
PHOTOS:YUKI KAWASHIMA
デビュー・アルバム「WOOF.」
TRACKLISTING:
01. Vigilante
02. Closer to God
03. Wither
04. Clowns
05. King of the Slugs
06. All the Same
07. I am the King
08. Running
09. And so it Came to Pass
10. Land Before Time *Bonus track
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