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初心者のためのファッションロー相談所Vol.06 “炎上騒動”から考える企業のリスクマネジメント

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 デザインの“パクリ”問題や口約束で受けてしまった仕事、著作権や商標権など、実はファッション業界と法律は密接に結びついている。法律を知らなかったことでビジネスに大きな影響や損害を与えてしまう可能性もある。一方で、「法律は難しくてよく分からない」と敬遠している業界人も多いのではないだろうか。そこで、弊紙記者が業界を代表してファッション業界に関係する法律(=ファッションロー)を専門とするスペシャリストたちに業界の悩みや疑問を相談していく。なお、「WWDジャパン」12月9日号では、みんなの疑問・不安に4人の弁護士が答えるファッションロー特集を予定している。さて、ここでの今日のお題は?(この記事はWWDジャパン2019年1月7日号からの抜粋です。また12月4〜11日の期間中、連載「初心者のためのファッションロー相談所」は全て無料でお読みいただけます)

このニュースが気になる!
「D&G」デザイナーが
中国を侮辱したとして大炎上

 「ドルチェ&ガッバーナ(以下、D&G)」が11月17日に公開した動画や、ステファノ・ガッバーナ=デザイナーのインスタグラムアカウントから送信されたダイレクトメッセージが中国を侮辱しているとして“炎上騒動”に発展した。

 これを受けて「D&G」は謝罪声明を発表し、ステファノはアカウントがハッキングされたと釈明したが、上海で行われる予定だったショーは開始数時間前に中止に追い込まれた。中国人セレブや女優らが相次いで批判コメントを発表し、中国の主要ECサイトからは製品が削除された。23日にはデザイナーの二人が謝罪動画を公開し、幕引きを図った。

【今日の弁護士】
藤本知哉・弁護士

【今日のお題】
“炎上騒動”から考える
企業のリスクマネジメント

WWDジャパン(以下、WWD):2018年11月17日に問題の動画が公開、21日にダイエット プラダがステファノとのやりとりを公開、同日にブランドが謝罪声明を発表した。初動対応としては正解?

藤本知哉・弁護士(以下、藤本):正解だと思います。問題が発生したらすぐに動くべきです。

WWD:それでも収まらなかったのはどこに問題があった?

藤本:今回はブランドの顔ともいえるデザイナー自身が起こしてしまったことだから解決を難しくしてしまったのでしょう。また、ニュースサイトによれば多くの人が、二人の謝罪は受け入れられない、真摯に謝っていないと感じたようです。一般論として、謝罪会見は広報が台本を書いて法務がチェックします。法務は“会社に責任が降りかからない表現”を考えるのが仕事なので、もしかしたら責任を気にしすぎて表現があいまいな部分が出てしまったのかもしれません。その気持ちは分かるけれど、ブランドやレピュテーションの観点からいうと、そこは謝りきりたいところ。もう少しギリギリのところまでリーガルリスクをとる方向で頑張ってもよかったかもしれません。

WWD:広報も法務に判断を委ねるのではなく、ギリギリの折衝をすべき?

藤本:そうですね。何か問題が発生したときの初動対応の際には、広報と法務が密接に関係してきます。法務は法務だけの観点で話をするのではなくて、例えば「ブランドやレピュテーションを守るためにこれだけは言わないといけない」というポイントを理解した上で、そこから少しだけトーンを落としてあげるくらいがいいのではないでしょうか。ゼロ地点からどのラインまでがセーフかを考えるとどうしても保守的になってしまいます。

WWD:この業界にはいわゆる中小企業と呼ばれる規模の会社や個人運営のブランドも多く、法務担当者がいないことも多い。

藤本:社内に置くか外注するか、方法は複数あると思いますが法務は置くべきです。普段は何も起きなくても、いざというときのために会社のことを分かっている弁護士を右腕の一人としてもっておくといいと思います。法律相談だけでなく、「これやりたいんだけどどう思う?」とか、そういったことも聞けるくらいの人がいるといいですね。

WWD:そのような人材を確保している企業が増えないのはなぜ?

藤本:ビジネスにおいて法務はコストだと考える人が多いんです。でも、法務は単なるコストではなくて、“利益を生むためのコスト”だと考えてもらえるようになるといいですね。そのためには法務が役に立っているところを見せないといけない。

法務もクリエイティブな仕事

WWD:この業界は“弁護士に相談する”というハードルがすごく高い。この業界に携わる弁護士からは、どんなささいなことでもいいから相談してほしい、まずは話をしてほしいと思っているという声を聞くが、伝わっていないのが悩みのようだ。

藤本:だから弁護士が変わらないといけないのかもしれないですね。経済産業省でも法務をもっと活用してもらうために法務がマインドを変えるべきだといったことが議論されています。

WWD:具体的には?

藤本:ビジネスには必ず法務の要素が含まれます。ということは、法務もビジネスを考えられるはず、法務はビジネスパートナーになれるはずなんです。そのためにはリスクを取らないことを考えるだけでなく、リスクを取って何ができるのかを提案する能力を僕らは身につけていかないといけない。そうすることによって法務の重要性に気付いてもらう。そのために僕らは能力を高めていこうよ、というような内容です。

WWD:法務もクリエイティブでなければいけないと。

藤本:ビジネスの流れを見ると、リーガルチェックは大概スケジュールの最後の方に組み込まれているんですよ。ラスト3日間くらいとか(笑)。そのタイミングで法務的にNGですと言うと、これまで進めてきたプロジェクトに変更が生じてなおさら法務に対する印象が悪くなってしまいます。だから最後の最後に大幅な変更が出ないように企画やスキームを考える初期段階からビジネスパートナーとして参加すべきだと考えています。法務はゴールに向かってどう進んだらいいかを示す水先案内人になれるんです。

WWD:企業のリスクマネジメントという観点から、その他にすべきことは?

藤本:ガバナンスをきちんと構築しておくことがリスクを顕在化させないための一つの方法です。そのためにはマネジメントや法務が常日頃からタッグを組んでチームをつくっておくことが大切ではないでしょうか。また、トップがその重要性を理解していることが大切ですね。

WWD:トップの意識改革は一筋縄ではいかないこともあるだろう。ささいなことでもいいが、一人一人が意識することはない?

藤本:企業理念などを従業員に周知徹底することが重要だと思います。そして従業員サイドも企業理念があることを理解することが大切です。ただ単に企業理念が“ある”ということだけではなく、その中身まで理解することが必要ではないでしょうか。例えば「人種差別はしません」という行動規範があってそれが従業員に浸透していれば、広告を作るときに「人種の偏りはないかな?」とか、そういった観点で物事を考えることができると思うんです。なので、企業としてのビジョンと、ビジョンに基づく行動規範。この二つは重要ですね。


記者のおさらいメモ
1、何か問題が発生した場合は初動対応が命
2、法務は単なるコストではなく“利益を生むためのコスト”
3、法務はビジネスをゴールに導く“水先案内人”になれる


藤本知哉・弁護士の
お気に入りアイテムは?

 数年前にビームスで購入したジャケットです。カジュアルな場はもちろんですが、実は、クライアントとの初めての会議や、クライアントにリラックスして話を聞いてもらいたいときに着ています。このジャケットが、クライアントに自分がどんな弁護士かを伝えてくれるように思っています。

YU HIRAKAWA:幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年から「WWDジャパン」の編集記者としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当。同紙におけるファッションローの分野を開拓し、法分野の執筆も行う。19年6月からはフリーランスとしてファッション関連記事の執筆と法律事務所のPRマネージャーを兼務する。「WWDジャパン」で連載「ファッションロー相談所」を担当中