ファッション

「ファセッタズム」が選んだ異端の道 王道のパリで際立った存在感

 2019年6月にパリで行った「ファセッタズム(FACETASM)」2020年春夏シーズンのランウエイショーは、いつもと雰囲気が少し違った。ここ数シーズンは中規模の会場でショーを行っていたが、今回は一転して小さなイベントスペース。直前に行われた「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」のショーにはセレブリティーが多数来場する華々しい雰囲気だっただけに、異端のムードはより際立った。集客やスケジュールの問題などネガティブな想像も一瞬頭をよぎったが、そんな心配は無要だとすぐにわかった。施設内から顔を一瞬のぞかせた落合宏理デザイナーが、会場前に観客が大勢集ったカオスな様子を前に少し笑ったのが見えたからだ。予定不調和を楽しんでいるのだと、一気に期待感は膨らんだ。ショーでは「リーバイス(LEVI'S)」や「コカ・コーラ(COCA-COLA)」といったメジャーブランドとのコラボレーションが発表されたが、今シーズンもいつも通り、もしくはそれ以上に独特な力を帯びた「ファセッタズム」を見せた。趣向を変えた発表にはどのような狙いがあったのか。また、メジャーブランドとの協業に至った経緯とは?落合宏理デザイナーは今、変化の時を迎えている。

“服の音”を聞いてほしかった

WWD:ショーのやり方を大きく変えた理由は?

落合宏理「ファセッタズム」デザイナー(以下、落合):とても意味のあることができたと思う。パリでのショーも7回目。シーズンごとに客数も増えていき、相応しい会場を選んで規模は拡大していったけれど、そういう戦い方に意味はあるのか、パワーゲームで勝負するのが「ファセッタズム」なのかを、先シーズンのショーの後に立ち止まって考えていた。だから今回は正反対のことをやりたかった。歩いた時の“服の音”まで聞こえるぐらい近くで見てもらいたかったから、小さい会場を選んだ。

WWD:空間を含め、モデルやスタイリング、ヘアメイクも独特だったが?

落合:今回は演出も自分たちで考え、モデルのキャスティングもパリの友達に頼んだ。モデルの顔を隠すようなヘアメイクにして、男性モデルにワンピースを着せたり、女性モデルにライダースを着せたりし、「ファセッタズム」らしい自由な価値観をあらためて表現したかった。ストリートキャスティングしたモデルたちの個性と僕たちの服が融合したときに醸し出されるパワーは、小さな空間だったからこそ感じてもらえたはず。

WWD:会場から場外をのぞいていたときの笑顔が印象的だった。

落合:ただでさえ会場前の道幅が狭いのに、2日前に急に工事が入ってカオス感が増してしまって(笑)。でもビッグメゾンだけがパリじゃないし、発表する方法はたくさんあるなと感じた。今のパリメンズは参加ブランドも来る人も増えて、規模がどんどん大きくなっているからこそ、ほかと同じことをやっても大きな爪痕は残せない。

米メジャー企業とのサプライズコラボ

WWD:会場では「コカ・コーラ」との、ショーでは「リーバイス」とのコラボレーションをサプライズ発表していたが、それぞれの経緯は?

落合:両社ともにオファーをいただいたことがきっかけ。小さい頃からアメリカのカルチャーやワークスタイルから影響を受けてきた自分にとって、アメリカを代表する企業との立て続けのコラボレーションは光栄であり、不思議な感覚。実際に本社まで行ってアーカイブを見せてもらったのも貴重な経験だった。ブランドを立ち上げて12年になるので、自分たちが培った経験や価値が認められたのかなと、一つの節目を迎えている実感がある。

WWD:「リーバイス」はショーピースとして複数のルックで登場したが、当初からその予定で進めていた?

落合:アイテムが完成したときに決めた。しっかりとした舞台で見せたいと思えたので、パリでのショーで見せるのがベストかなと。「リーバイス」は自分にとって特別なブランドであるけれど、僕自身はオタクではない。だからこそ自由な発想で新しい価値や変化を加えられたし、今回ベースにした代表的アイテムの“501”やトラッカージャケット、ウエスタンシャツの膨大な資料をもとに、「リーバイス」からもステッチの配色などのアドバイスをもらいながら一緒に作ることができた。デザイン作業は2〜3カ月だったけれど、とても楽しかった。

WWD:来場者にコカ・コーラを振る舞うことでコラボを発表するという手法も面白かった。

落合:あれも会場が小さかったからこそできたこと。「コカ・コーラ」とのコレクションは、彼らのワークウエアやストライプの色が好きだったのでそこがベース。そこに資料室で見て学んだ彼らのルーツや考え方を盛り込んでクリエイションに生かした。“It’s the real thing”のスローガンをアイテムにプリントしたのも、その影響。昔の広告からしてすでにダイバーシティーを感じさせるもので、今の時代に重要視されていることをいち早く取り入れていた企業だと知ったことが面白かった。大企業であるだけに簡単なことばかりではなかったし彼らにとってもチャレンジだったはずだが、手厚いサポートで最終的には一緒になって面白がってくれた。

WWD:「コカ・コーラ」のアイテムはパリメンズの後すぐに発売したが、反響は?

落合:パリのレクレルール(L'ECLAIREUR)で開いたポップアップもにぎわっていたし、日本でも伊勢丹新宿本店メンズ館のウインドーをジャックしたり、銀座のザ・コンビニで限定アイテムを作ったりして、国内の感度の高い人から外国人までオールジャンルの客層にアピールできた。誰でも知っている「コカ・コーラ」と、さまざまなジャンルを行き来できる「ファセッタズム」の両方のいいところが出せた。

WWD:両社とのコラボレーションは継続する?

落合:今はまだわからない。まずは「リーバイス」とのアイテムはショーから半年後の発売でまだ時間があるので、どんないい見せ方ができるかを考えていきたい。

今のパリメンズに感じた疑問

WWD:16年のパリメンズデビューから3年経つが、以前と今とで変わったことは?

落合:少し前と違い、今のパリメンズは自分が影響を受けてきた裏原カルチャーの焼き直しが主流だ――ブランドのクリエイションにしても、コラボレーションするアーティストにしても。若い人には新鮮なのかもしれないけれど、内容としては何も新しくない。NIGOさんや高橋盾さんをはじめ、日本の先輩たちがやってきた面白いことを僕たちは目の当たりにしてきたから、同じようなことをそのままやっているような外国人のクリエイションを見ても熱い気持ちには全くなれない。何だか時代が戻っているとさえ感じてしまう。だから僕らやその下の世代が新しい価値を生み出さないといけないし、使命だとも感じている。特に日本の若いブランドは、今のパリメンズの主流とは違う戦い方をした方がいいと思う。

WWD:次のシーズンもパリでショーを行う?

落合:パリでやりたい。何をやるかはまだこれからだが、もっと自由にやるべきだなと。「ファセッタズム」は王道の中で戦ってこそ光るブランドなので、逃げずに勝負を挑みたい。各ブランドの表現方法はさまざまだが、メンズモードの最高の舞台であるパリで表現できることはファッションデザイナーにとって幸せなこと。とはいってもほかの国で、例えば東京で発表することもまた一つの正解だし、世界の国々に表現に挑めるような案件があるので、一つ一つにパワーを発揮できるようにやっていきたい。

WWD:現在のビジネスの状況は?

落合:海外のセールスを委託していたショールームのトゥモロー(TOMORROW)との契約が終了したので、これからは自分たちで開拓していかないといけない。卸先は一時期かなり広げ過ぎてしまったが、今は絞って海外は33アカウントで国内は40アカウント。神宮前の店が周辺エリアの開発で取り壊しになったので、面白い店を近々つくりたいと考えている。

WWD:渋谷の新しい商業施設から出店の誘いが届きそうだが?

落合:僕たちはそういう話題性のあるスポットに真っ直ぐ進まなくても、変わった場所を回りに回って自由にやるのが「ファセッタズム」らしい。たとえ渋谷に出店するとしても、すごく変な場所に出すと思う。みんなと同じことはやりたくないし、面白い場所があれば、雑居ビルでもいい。

WWD:バーサタイルとの資本提携から2年以上経ったが、何か変化は?

落合:クリエイションを信じてくれているパートナーなので、いろいろ助けられている。ビジネスとクリエイションというのは役割が違うし、どこかで切り分けないといけない。それを飛び越えて価値をわかってくれている人たちと一緒に仕事ができているのは本当にありがたい。一緒に世界で戦えてよかったなと思えるパートナーだ。

WWD:そこまで信頼できるパートナーとはなかなか出合えないのでは?

落合:本当に、今はポジティブなことしかない。資本が入ったからクリエイションが甘くなったという言い訳だけは絶対にしたくなかったので、新しいチャレンジに対しては結果にこだわり、信頼関係を築いてきた。ただ、自力で海外に挑戦するデザイナーの美学もすごくかっこいいし、応援したい。そういう覚悟を持ったクリエイションはまた別のかっこよさがあるし、引きつけられるものがある。いずれにせよ、たとえクリエイションで壁にぶち当たってもファッションデザイナーをやっている以上は関わってくれる周りの人を幸せにしたいから、「ファセッタズム」はこれからもチャレンジを続けていく。

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