2018年もデザインの模倣や労働環境問題など、さまざまトラブルが噴出し、訴訟に発展したケースも多かった。法令遵守の意識が高まる中、国内外でファッションローと呼ばれる法概念が浸透しようとしている。
日本初の解説書「ファッションロー」(勁草書房)によると、ファッションローとは、「ファッションデザイナーやファッション産業に関わる知的財産法、契約法、会社法、商法、不動産法、労働法、広告法、国際取引法、関税法等を含む法領域の総称」を指すという。範囲は広いが、最低限度の法知識を持つことは、職種を問わず円滑なビジネスのために必要だ。
そこで、2018年に「WWD JAPAN.com」の記事の中から、話題となったファッション業界の訴訟をまとめてみた。あわせて、SNSをにぎわせた疑惑の騒動の他、業界人をサポートする弁護士などの活動を紹介する。
【2018年話題になったファッション業界の訴訟まとめ】
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日本発「ザ・リラクス」が巨大SPAブランド「ザラ」に勝訴 「ザラ」がコートの形態を模倣
・「ザラ」が「ザ・リラクス」のコートの形態を模倣、販売
・「継続可能なブランド作りを心掛けないければいけない」
・「非意図的かつ特殊な事例から責任をもって謙虚に学ぶ」
「ルイ・ヴィトン」がパロディ商品を巡って日本の「ジャンクマニア」に勝訴
・訴訟相手は日本の業者
・賠償金額は170万円
・双方のコメントは得られず
「シャネル」がラグジュアリー中古品販売サイトを模倣品販売の疑いで提訴 サイト側は「事実無根」と反論
・訴えられたのはザ・リアルリアル
・「シャネル」は「模倣品を販売している」と主張
・中古品販売サイト側は「傍若無人な訴え」と反論
「ルブタン」のレッドソール商標権侵害訴訟 商標の有効性については「完全勝訴」
・2012年にオランダのシューズチェーンを提訴
・「ルブタン」の商標は有効と判断
・次は商標権を侵害しているかどうかを争う
グッチ対ゲス商標権侵害訴訟 9年にわたる訴訟に終止符
・和解が成立
・伊・仏・中の訴訟は終結
・アメリカではゲスに470万ドルの賠償支払い命令
「プーマ」にロゴ使用を差し止められた「フィリップ プレイン」 デザイナーがSNSで怒りの反論
・2017年9月にドイツで使用差し止めの仮処分
・「プーマ」は友好的解決を模索
・「フィリップ プレイン」デザイナーは徹底抗戦の構え
エディ vs ケリング訴訟は二審もエディに軍配 ケリングに12億円の支払いを命令
・ケリングは不服申し立てを行う予定
・ケリングは「契約破棄はエディからの申し出だった」と主張
・一審もエディの勝訴
人気モデルのアジョア・アボアーが前所属事務所を訴える 約2000万円の賃金未払いを主張
・移籍問題で前事務所と現事務所が訴訟に
・前事務所は支払い義務を否定
・前事務所の代理人のコメントは得られず
ブルース・ウェーバーが新たに男性モデル5人からセクハラで訴えられる ウェーバー側は反訴の準備中か
・モデルらは「性的人身売買や性的虐待の被害にあった」と主張
・ウェーバーの代理人は「事実無根」と反論
・別のモデルともセクハラを巡って係争中
「カルティエ」 vs 米百貨店サックス・フィフス・アベニュー 改装に伴う移設問題で訴訟合戦に
・「カルティエ」が地下フロアの移設に反対
・「リモデルしても『カルティエ』の場所は変わらないと言われた」
・サックスは「『カルティエ』の移設拒否で損害発生」
【SNSから訴訟問題や炎上騒動に発展】
SNSが発端となって訴訟や炎上騒動に発展することも少なくない。最近では、インフルエンサーの「ダイエット プラダ(Diet PRADA)」によるSNS上での指摘が追い討ちをかけ、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」が中国市場を失いかねない事態に追い込まれたように、SNSの影響力は今やあなどれない。
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「ロエベ」ジョナサン vs 「ダイエット プラダ」!? SNSの攻防戦
・事件はインフルエンサーのインスタで判明
・スタイリストが「ロエベ」を糾弾
・ジョナサンの対応に拍手
H&Mのグラフィティ無断使用問題が激化 謝罪後もSNS批判の嵐 カウズも投稿
・H&Mが無断でグラフィティを背に広告を撮影
・当初は「グラフィティは著作権で守られない」などと主張
・SNSで批判相次ぎ、訴訟取り下げ陳謝
「ヴェトモン」が「ヴィーロン」のデザインを盗用? エイサップ・バリが指摘
・問題となっているのは迷彩柄のパンツ
・似ているもののディテールに違いあり?
・「ヴェトモン」からはコメントなし
「ギャルソン」の最新コレクション、増田セバスチャンが自身の作品との類似性を指摘
1月18日付のブログで指摘
SNSで話題に
篠原ともえや大森靖子もコメント
「ヴィヴィアン」が最新コレクションのデザイン無断流用をインスタで謝罪
・4日、公式アカウントにアップ
・「ルイーズ グレイ」のデザインを無断で
・700のコメントは多くが手厳しい
【氾濫する偽物を逆手にとった戦略も】
上で見た通り、ファッション業界における訴訟や疑惑、炎上騒ぎは後を絶たない。一方でブランド側が、コピー商品が蔓延する現状を逆手に取ったマーケティングを行うこともある。“パロディー”も業界ではよく見る手法だ。
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「ジョーダン」と「ユニオン」がフリマで新作コラボ“エア ジョーダン 1”を密かに販売
・全米最大規模のフリマに匿名で出店し、販売
・その模様をおさめた映像を公開
・ショーン・ウェザースプーンは偽物だと疑う
本物?偽物? 「ディーゼル」が「デイゼル」をNYにオープン
・2月8日からオープン
・偽物販売で有名なカナル・ストリートに
・「全て“偽物”っぽく作った“別物”」
「シュプリーム」がロゴをパロディーした養豚企業、問題のアイテムを使用しルックを撮影
・2018-19年秋冬コレクションで登場したキャップ
・1959年創業の米・大手養豚企業がツイッターで反応
・コラボレーションが実現か?
「イケア」バッグのパロディーがバカ売れ パリへの切符を手にしたLA発ストリートブランド「ノーウッド」とは?
カニエやミーゴスらも顧客
日本でもポップアップを開催か
パロディーフーディーは約1万5000円
【ファッション業界をサポートする法律家たち】
複雑な法解釈に頭を悩ませている業界人もいるのではないだろうか。そんな業界人に手を差し伸べるファッションローに精通した法律家を一部紹介したい。彼らは無料の法律相談を設けるなど、門戸を広く開いている。ファッションローを解説するイベントや弁護士らによる講習会など、現在では数多くのファッションロー関連イベントが企画されている。また、「WWDジャパン」は毎月、ファッションローを専門とする法律家を招く「ファッションロー相談所」を連載している。
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ファッションと法律の架け橋 ファッション専門の弁護士集団「ファッション&ロー」に聞く
労働問題や模倣品問題など、ファッション業界を取り巻くトラブルは年々増えている。またトラブル増加に伴い、ファッション業界に関連する法律を総称する“ファッションロー”という概念が日本に浸透し始め、ファッションローに携わる専門家も増えている。弁護士を中心にファッションローに関するセミナーの開催や無料法律相談などを実施する専門家集団「ファッション&ロー(FASHION & LAW)」もその一つだ。彼らは芸術や文化に関するサポート活動を行う非営利団体「アーツ&ロー(ARTS & LAW)」に所属する弁護士たちがファッションローに特化することを目指して結成したチームだ。彼らにファッション業界の現状を聞くと、「あらゆる人が同じようなことで困っていて、まずは弁護士に“相談する”という方法があることを知ってほしい」と口をそろえて語る。
ファッションエディターから弁護士へ 新人弁護士が目指すファッション業界との架け橋
林総合法律事務所の海老澤美幸・弁護士は、国家公務員からファッションエディターに転身し、2016年から新人弁護士として活動する異色の経歴の持ち主だ。「アクションしなければ何も動かないと思っているので、やるだけやってみようと思った。仕事をガラッと変える時もワクワク感しかない」と楽しそうに語る海老澤弁護士はチャレンジすることに前向きで、常に笑顔が絶えない。何人もの弁護士を知る記者から見ても、とても珍しいタイプの弁護士だ。そんな海老澤弁護士のキャリアの変遷の理由や、弁護士としてファッション業界とどう関わっていきたいのかを聞いた。
ファッション関係者のための法律相談窓口 「ファッションロートウキョウ」がオープン
ファッション業界に関するあらゆる問題を相談することができる専門窓口「ファッションロートウキョウ」のウェブサイトが1月4日にオープンした。同サイトはファッション業界に関わるすべての人が直面する法律問題を気軽に相談できる“シェルター”としての機能を果たすことを目指し、具体的な法律相談の問い合わせ窓口としてだけでなく、多くの人が知りたいと感じている問題を取り上げる他、講演会の開催など情報発信も行う予定だ。また、初回の法律相談は無料だという。
弁護士、特許事務所、企業内法務部の立場から解説 ファッションローに関する連続講座を開催
「Fashion Biz Study ファッションローの基礎」の続編として企画された連続セミナー「Fashion Biz Study ファッションローの実務」。全3回の連続講座で、第1回は12月に「ファッション・アパレル企業における法務部」をテーマに講義した。第2回は2019年1月16日に「ファッション・アパレル事業と権利化実務」をテーマに、第3回は2月20日に「ファッションを巡る契約と紛争」をテーマに講義する。
“ファッションロー”を学ぶ スパイラルで全5回の連続講座開催
ファッションに関する講座を企画するファッション スタディーズ(FASHIONSTUDIES)が開催した連続セミナー「Fashion Biz Study ファッションローの基礎」。5~9月の期間、5回にわたって商標法、意匠法・著作権法、特許法などファッションローの基礎について講義した。
【「ファッションロー相談所」掲載号紹介】
・「WWDジャパン」8月6日・13日合併号「ファッションロー相談所 Vol.1 最近はやりの“ブート品”って違法なの?」
・「WWDジャパン」9月3日号「ファッションロー相談所 Vol.2 二次流通”や“転売”って何が問題なの?」
・「WWDジャパン」10月1日号「ファッションロー相談所 Vol.3 モデルへの接し方、何が正解?」
・「WWDジャパン」11月5日号「ファッションロー相談所 Vol.4 コスプレから考える著作権のいろいろ」
・「WWDジャパン」12月3号「ファッションロー相談所 Vol.5 商標登録された“色”は使えなくなるの?」
秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。