
1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回はイタリアの名門ファッションスクールである「マランゴーニ学院」上海校の卒業ショーについて。ここから未来のスターデザイナーが誕生するかも。
イタリアのファッション名門校「マランゴーニ学院(ISTITUTO MARANGONI)上海校」が、2026年度卒業ファッションショー「VIA NOMADIS(遊牧の道)」を行った。ファッション、空間、移動映像、光、ライフスタイルを融合した没入型体験で構成。ショーの開幕前、ゲストはまずデジタル体験「MUTATIONS」へと導かれ、その後デジタルクリエイティブ企業テンプル・オブ・ライト(TEMPLE OF LIGHT)が作り上げた「インフィニティ・ルーム」「回廊」「イマーシブ・ルーム」という異なる3つの空間に分かれて、コレクションを鑑賞した。
旅(ショー)は、3面を鏡に囲まれた「インフィニティ・ルーム」から始まる。ここでは、学生が手がけた、ギリシャ神話「ミノタウロス」を着想源に遊牧を「内なる旅」と再解釈したアートフィルムを上映。続くガラス張りの「回廊」では、外の景色と半透明の映像が重なり、衣服と空間の境界を曖昧にする演出を披露。最終地点の「イマーシブ・ルーム」では、壁と床を覆うパノラマ映像によって、学生作品から抽出したテクスチャーや色彩がデジタルな風景へと変化し、本当に旅をしているかのような気分にさせる空間だった。
今年のショーには、敷東縛(アオ・ドンウェイ)、陳芊羽(チェン・チェンユー)、陳鑫炎(チェン・シンイェン)、陳奕錕(チェン・イクン)、儲家鈺(チュー・ジアユー)、劉子琦(リウ・ズーチー)、ナタリー・スン(Natalie Sung)、秦睿洋(チン・ルイイェン)、孫嘉雪(スン・ジアシュエ)、王艶飛(ワン・イェンフェイ)の10名の卒業生デザイナーが参加した。ファッションデザイン学科長のレズリー・デ・フレイタス氏は「単に服を作るだけでなく、その背景にあるコンセプトや批判的思考を重視した。今回の作品群に見られる多様性、思想の深さ、あるいは市場にそのまま出せるクオリティの高さは、学生たちの強靭さの証明である」と評価する。また、ベルギーの高級生地ブランド「スキャバル(SCABAL)」が秦睿洋にファブリックを提供し、上海発のキノコ人工皮革のスタートアップ企業新メタバイオ(SynMetabio、貽如生物)が劉子琦のフルルックをサポートするなど、学校での実験的な試みと実際のビジネスの現場をダイレクトに結びつけた。
続く授賞式では、3名のデザイナーを表彰。劉子琦が「最優秀デザイナー賞」を、秦睿洋が「最優秀企業協力賞」を受賞した。張晗(ジャン・ハン)は上海フランス総領事館から「中仏名誉賞」を得た。張晗のコレクションは中国の伝統哲学「天円地方」をインスピレーションに、ドローストリング構造を活用した再構築を表現。天然顔料を用いたハンドクラフトモチーフと流動的なシルエットの中に、文化の伝承、旅のイメージ、サステナブルな理念を融合させ、新世代の東洋美学への深い思索を感じさせた。
伝統的なデパートのウィンドウから、体験価値を重視した最先端の空間へ。いま、ファッション小売は単なる売買の場を超え、ブランドのナラティブ(物語)を発信する多元的なメディアへと転換している。デザイナーの仕事は単に服を作るだけでなく、空間やコンテンツ、ブランド体験そのものをつくり上げることへ広がっている。
同校の最高執行責任者(COO)の程瑩婷(チェン・インティン)氏は次のように総括した。「ファッション教育の本当の目的は、別の領域でも応用できる『美学的な思考』と『ライフスタイルへの深い理解』を培うこと。この基礎能力こそが、AI時代やこれからの未来の変化に直面したときでも、価値を発揮し続けられるコア能力になるはずだ」。