
「ティファニー(TIFFANY& CO.)」銀座4階の「Blue Box Cafe by Natsuko Shoji(ブルー ボックス カフェ)」が1周年を迎えた。これを記念し、庄司夏子シェフが手掛ける「1st Anniversary Afternoon Tea」(1万4300円、税込・サービス料別)を8月31日まで提供している。
日本初の「ブルー ボックス カフェ」として2025年8月にオープンした同店。今回のアフタヌーンティーでは、日本の夏野菜や果物を主役に、セイボリーからスイーツまで1つ1つに庄司シェフの繊細な手仕事を落とし込んだ。ティファニー ブルーに包まれた空間とともに、ジュエラーが受け継いできたクラフツマンシップを“食べる”ような体験を提案する。
試食会では庄司シェフ本人に、「ティファニー」との協業に込めた思いや、1周年を機に始める新たなサステナビリティの取り組みについて話を聞いた。
「ファンになってから始めた」庄司夏子シェフが「ティファニー」と組んだ理由
庄司シェフは、現在の関係について「最初から『ティファニー』の熱心なファンだったわけではない」と振り返る。
オファーを受けた後、本国を訪れてジェモロジストや職人たちと交流し、ジュエリーが生まれる現場やブランドの思想への理解を深めていった。その過程で自身がファンになったことが、プロジェクトへ本格的に参加する大きな理由になったという。特に共鳴したのが、「ティファニー」が大切にするクラフツマンシップだ。
庄司シェフ自身も、料理における手仕事や職人技を重視する。一方で、料理業界の担い手不足や労働環境といった課題にも危機感を抱いており、「若い世代が憧れる職業にしたい」という思いを持つ。自身がロールモデルの1人となり、より大きな組織と取り組むことで、食の世界そのものを前進させたいという考えも今回の協業を後押しした。
その姿勢は「監修」という言葉から想像する距離感とは大きく異なる。庄司シェフは自身のレストラン「エテ」を一時休業して立ち上げに携わり、現在も朝から現場に立つことが多いという。ブルー ボックス カフェで味わえるのは、“庄司夏子監修の料理”というよりも、彼女の料理哲学そのものに近い。
目指すは“世界一” キュウリのサンドイッチに宿るクラフツマンシップ

今回のアフタヌーンティーを象徴する一品が、キュウリのサンドイッチだ。一見すると極めてシンプル。しかし、キュウリは薄くスライスしたものを一枚ずつピンセットで重ね、キャビアを添えるなど、ジュエリー制作を思わせるほど細かな手仕事を積み重ねている。
実際に食べると、キャビアの程よい塩味によってキュウリのみずみずしさと甘みが際立つ。「キュウリってこんなにおいしくなるんだ」と驚かされるほど、見慣れた食材の印象が変わる一品だった。
庄司シェフが目指しているのは、ずばり“世界一のキュウリサンドイッチ”。高級食材を並べることでラグジュアリーを表現するのではなく、ありふれた素材に徹底して手をかけ、その価値を引き上げる。その考え方自体が、ティファニーのクラフツマンシップと重なる。

同様に枝豆を使ったタルトも、豆の薄皮を一粒ずつ取り除くことで驚くほどなめらかな口当たりに。タルト生地も二重にするなど、ひと口では気付かないような工程が積み重ねられている。
とうもろこし型のクロックムッシュでは、形を再現するために3Dスキャンから型そのものを制作。マスカルポーネをトマトそっくりに仕立てたカプレーゼや、ガーリックマヨネーズを合わせたヤングコーンなど、スタンドの至るところに遊び心と職人技が忍ばされている。
2時間おいしくあるための“小さな設計”
華やかなビジュアルだけでなく、アフタヌーンティーという食体験そのものを緻密に設計している点も庄司シェフらしい。アフタヌーンティーは、提供された料理を短時間で食べ切るものではない。紅茶を飲み、会話を楽しみながら、およそ2時間をかけてゆっくり味わう。そのため、時間が経っても乾燥しにくいように料理を設計したり、一品のサイズや味の濃淡を調整したりと、提供直後だけではなく“時間が経った後のおいしさ”まで計算しているという。

セイボリーからスイーツへ移るタイミングでいただくシャインマスカットのピクルスもその一つだ。シャインマスカットの甘みを残しながら、ほどよい酸味とハーブの香りが口の中を一気にリセットする。甘いものへ移るための単なる箸休めではなく、コース全体の流れを整える役割を担っている。
とろける抹茶、果汁あふれる桃 庄司夏子シェフらしさはもちろんスイーツにも

スイーツでは、京都産抹茶を使ったバスクチーズケーキが印象に残った。庄司シェフが特にこだわったという口溶けは、驚くほどなめらか。舌の上でとろりとほどけ、後に余計な重さを残さないため、抹茶本来の心地よい苦味と香りに集中できる。金箔を添えた端正なビジュアルも、ティファニー銀座という空間によくなじむ。
「ティファニー」側から「ブルーのものを」とリクエストされて生まれたマカロンは、ティファニー ブルーを象徴する一品。さらに、日本の柑橘を重ねたグラデーションゼリーは、それぞれが持つ酸味、甘味、ほろ苦さの違いを一つのグラスで楽しめ、夏らしい清涼感を演出する。
そして庄司シェフのDNAを最も感じるのが、季節の桃を使ったフルーツタルトだ。自身の代名詞でもある、フルーツを花のように仕立てるケーキの世界観をアフタヌーンティーサイズに落とし込んだ。しっかりと肉厚な桃は、口に含むとみずみずしい果汁があふれ出す。濃厚なクリームと香ばしくサクサクとしたタルト生地がその甘みを受け止め、見た目の繊細さとは対照的に、しっかりとした満足感が残る。
パンの“耳”が華やかなジンに 1周年から始まる新たな循環

今回の1周年で、料理と同じくらい注目したいのが新たなサステナビリティの取り組みだ。
発端となったのは、アフタヌーンティーのサンドイッチを作る際に大量に発生していたパンの端材だった。庄司シェフは廃棄することに疑問を持ち、端材を冷凍して保存。木内酒造に相談したところ、「パンからジンを作れる」ことが分かり、1年以上をかけた開発が始まったという。
パンを発酵・蒸留し、ボタニカルには茨城県産の「福来みかん」を採用した。庄司シェフ自身が製造初日に現地を訪れ、緑茶や山椒、柚子、桜など複数の候補から選んだという。福来みかんは古くから陳皮などに用いられてきた在来の柑橘だが、生産者の高齢化などにより使われずに残るものもある。木内酒造のスタッフが収穫にも携わることで、フードロスから始まった取り組みが地域農業にもつながった。
完成したジンは、パン由来とは想像できないほど華やか。福来みかんの香りが立ち上がり、砂糖を加えていないにもかかわらず、どこか柔らかな甘みまで感じさせる。さらに現在はブルー ボックス カフェだけでなく、ほかのベーカリーから出るパンの耳も回収する仕組みへと拡大。年間1〜2トン規模のパン端材の活用を目指しているという。
そして、このサステナブルジンを1周年のための一杯へと仕上げたのが、「The SG Club」の創設者で、「The World’s / Asia’s / North America’s 50 Best Bars」で世界最多の受賞歴を誇る後閑信吾氏だ。後閑氏は、ティファニー銀座のオープン時に来店客へ振る舞ったカクテルも監修しており、今回はティファニーと庄司シェフが大切にするクラフトマンシップを、カクテルとモクテルで表現した。
アニバーサリーカクテルは、ティファニーを象徴するジュエリーデザイン「Bird on a Rock」から着想。アップサイクルジンをベースに、アールグレイ、イランイラン、グレープフルーツを合わせ、華やかさと爽やかさを併せ持つ一杯に仕上げた。
一方のモクテルは、ティファニーのダイヤモンドの歴史を象徴する「The Diamond Kings」からインスピレーションを得たもの。ノンアルコールのダークラムに、パッションフルーツ、トンカ豆、蜂蜜を合わせ、瑞々しい果実味と上品な甘さを重ねている。
庄司シェフは「ラグジュアリーとサステナビリティは、以前は正反対にあるものだと思っていた」と話す。しかし、影響力を持つブランドだからこそ、仕組みを変えれば大きなインパクトを生み出せる。その考えが、現在のプロジェクトにつながっている。
“映える”だけでは終わらない、「ティファニー」のアフタヌーンティー

ティファニーの洗練された優雅な空間、銀色に輝くスタンド、鮮やかな夏野菜や果物。視覚的な華やかさだけでも十分に非日常を味わえる。しかし実際に食べ進めると、このアフタヌーンティーの魅力は“「ティファニー」らしい見た目”だけではないことが分かる。
キュウリを一枚ずつ並べ、枝豆の薄皮を取り、2時間後までおいしい状態を考える。ジュエリーと料理という異なる分野でありながら、人の手によって細部まで妥協せず完成度を高めるという姿勢は共通している。
さらに、パンの端材から生まれたジンのように、1周年を迎えた現在はクラフツマンシップの先にある社会とのつながりにも挑戦している。「ティファニー」がジュエリーで培ってきたクラフツマンシップと、庄司シェフが料理で磨いてきた手仕事。その二つが重なった、ここでしか味わえないラグジュアリーな午後のひとときだ。