「ティファニー」と日本の新章 アジア最大の旗艦店「ティファニー 銀座」誕生
さらに、館内には65点以上のアーカイブピースも展示。そのうち40点以上は日本初公開で、1912年のタイタニック号沈没時に救助へ携わった船長へ贈られた懐中時計といった貴重なピースも含まれる。歴史と革新が交差する空間は、訪れるたびに新たな発見をもたらしてくれる。
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「ブルー ボックス カフェ」はホームコレクションのフロアとシームレスにつながり、メインダイニングからバー、オープンエアのテラスへと続く開放的な空間が広がる。ティファニー ブルーに彩られたインテリアに囲まれながら、優雅で豊かな時間を過ごすことができる。
メニューは、東京・代々木上原のフレンチレストラン「エテ」のオーナーシェフ、庄司夏子が監修。日本の四季からなる美しく繊細な食材と、和の感性を随所に織り交ぜた料理を提供する。朝食には、キングサーモンとニジマスを交配した、山梨県産“富士の介”のサーモン料理をはじめ、国産フルーツ、ヴィエノワズリー、フレッシュジュースなどをそろえたスペシャリティセットを用意。昼間は、和牛のティーサンドイッチなどのセイボリーと、「ティファニー」の世界観を反映した華やかなスイーツが並ぶアフタヌーンティーを展開する。また、オールデイダイニングでは、季節の食材とニューヨークの感性を重ねたメニューが楽しめる。デザートやペイストリーは、まるでジュエリーのように美しく仕立てられ、視覚の驚きと味覚の余韻を残す。
カクテルメニューには、日本のスピリッツや風味を掛け合わせた独創的なドリンクがそろい、グラスに注がれたその味わいが、食事と会話に彩りを添える。
店内にはプライベートダイニングルームも併設されている。無数のブルー ボックスで構成されたインスタレーションや、空間にアクセントを添える名作アートが、訪れる人をさらなる特別な体験へといざなう。
私はこれまで10年以上にわたり、“食”をアートやファッション、クラフトマンシップと重ね合わせて表現してきた。その過程で、“食”の本質的な力を改めて感じ、業界の未来のために自分ができることを模索し続けてきた。日本の食文化の素晴らしさを世界に広めると同時に、料理人の待遇を見直し、マイスター制度のような仕組みを導入すれば、持続可能な形で次世代へと受け継がれていくはず。今回のカフェ監修は、単なるプロデュースにとどまらず、そうした想いを形にする大きなプロジェクトだと捉えている。
日本との関係において大きな転機となったのは、1972年。東京・日本橋三越本店に日本初の店舗「ティファニー サロン」がオープンする。内装はニューヨーク本店をモデルに設計され、これを機に本格的な絆が築かれていった。さらに74年には、エルサ・ペレッティが「ティファニー」のデザイナーに就任し、その後日本文化との深いつながりを育む。彼女は旅を通じて日本の伝統や職人技に魅了され、漆や絹を用いたジュエリーを制作。代表作である“ビーン”や“オープン ハート”に、漆を何層にも塗り重ねるといった、日本独自の技法を取り入れたデザインを発表した。
また、「ティファニー」は日本の伝統文化の保全にも力を注いでいる。06年からはワールド・モニュメント財団とのパートナーシップのもと、尼門跡寺院の修復プロジェクトに寄付を行った。08年には「ティファニー財団賞―日本の伝統文化の保護と現代社会―」を創設し、地域社会に根ざした活動を継続的に支援してきた。22年、日本上陸50周年を迎えた節目には、ユネスコ無形文化遺産に登録された“金沢縁付金箔製造”の技術を未来へ継承するための職人育成プログラムを始動。日本文化とクラフトマンシップへの深いリスペクトを形にした取り組みとして注目を集めた。
そして25年、銀座6丁目に新たな旗艦店「ティファニー 銀座」が誕生。日本市場における53年の軌跡を象徴すると同時に、ブランドの次なる時代の幕開けを告げる場所となった。開業に先立ち、江戸歌舞伎の名門・音羽屋の襲名披露公演でティファニー ブルーの祝幕を提供したことも、文化的な絆の深さを物語っている。クラフトマンシップ、革新性、そして喜びの提供というフィロソフィーを礎に、「ティファニー」と日本はこれからも時代を超えて共鳴し続けていく。
WWD:銀座に新たなランドマークが完成した。なぜ、アジア最大の旗艦店を銀座に構えようと考えたのか?
アンソニー・ルドリュ=ティファニー社長兼CEO(以下、ルドリュCEO):このような規模の旗艦店オープンは、東京でも、近年類を見ないものだろう。だからこそ“エクスペリエンス(体験)のパイオニア”として、「ティファニー」はぜひ挑戦したいと考えた。新たなストア体験が重要性を増し、その流れは日本のみならずアジア各国で顕著になりつつある中、前代未聞のプロジェクトに挑戦したかった。
銀座は東京、日本、そしてアジアの中心。そして日本は「ティファニー」にとって、母国のアメリカに次ぐ世界第2位のマーケット。50年もの長きにわたり関係性を築き、特に(LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンが買収して)新体制になってからの直近4年でも、表参道の旗艦店に代表される多大な投資を重ねている。おかげさまで昨年開催した展覧会「ティファニー ワンダー(TIFFANY Wonder)」は17万人にご来場いただき、日本との絆は年を追うごとに強くなっている。だからこそ、より長期的な、そして永続的な投資を決めた。
幸い、銀座の中心にある角地で、売り場面積は2000㎡を超え、ゼロから作り上げる「ティファニー」のファサードでビル全体を彩ることができる物件に恵まれ、「こんな機会は滅多にない」と4年前から準備を重ねてきた。商品はもちろん、私たちの日本市場に対する“覚悟”を感じていただけると思う。率直に言って、これほど新しく、広く、多面的・多層的で、印象に残るストアが今、日本に存在しているだろうか? 私たちは、それを目指してこの旗艦店を作ったし、そんな存在に押し上げたいと思っている。
WWD:新旗艦店が担う役割とは?
ルドリュCEO:私たちは、この店をカルチャーのハブにしたいと思っている。青木淳がファサードを、ピーター・マリノがインテリアデザインを手掛けているのも、こうした願いの表れ。そこに比類なきアーカイブ、数々のアート、そして庄司夏子シェフが監修する「ブルー ボックス カフェ」を織り交ぜた。アートは、1点1点にストーリーがあり、「ティファニー」とアメリカ、「ティファニー」と日本、「ティファニー」とアートの親密な関係性を物語っている。
ルドリュCEO:天国に誘いたい。青木淳による空へと伸びるファサードは、そんな思いを体現したものだ(笑)。“ティファニー ブルー”は、人々を幸せにする色。そんな色に包まれた店内では、すべてのフロアで人々を驚かせたいと思っている。もちろんニューヨークの五番街のストアとの共通点は数多いが、すべてが同じではない。特に日本のお客さまはアートへの造詣が深いので、それぞれのフロアを飾るアートは厳選した。アートを見にくるだけでも構わない。私たちも、そのつもりでアートを選んでいる。もちろん最終的にジュエリーを購入いただけたらうれしいが、ゲストが新しい体験、五番街のストアでは得られない体験を楽しんでくれたら、まずは大成功と言えるだろう。
日本独自の「ブルー ボックス カフェ」を構えたことで、店内で数時間を楽しく過ごすことができる空間が完成した。五番街のストアでは、「ブルー ボックス カフェ」で小さな結婚式や誕生日パーティーを催すことがある。銀座でも同じようなイベントを企画して、唯一無二の体験を提供したい。その気になれば、ファッションショーを開くこともできるかもしれない(笑)。デジタルサイネージに彩られた階段は、最高のランウエイになり得るだろう。
ルドリュCEO:まず「ブルー ボックス カフェ」は、「ティファニー」を「ティファニー」たらしめる唯一無二の財産。映画「ティファニーで朝食を」(1961年)は、アメリカの黄金期さえ象徴しており、ハリウッドにとっても大きな転換点となった作品だ。「ブルー ボックス カフェ」は、そんな真髄をポップな空間で楽しみながら、“ティファニー ブルー”が幸せの色であることも体験できる場所。
夏子は、「カフェの天井に吊るしたブルー ボックスは何個あるのか? 正解できた人にはランチをプレゼントしたら?」なんてジョークを笑いながら提案してくれた(笑)。まさに「ブルー ボックス カフェ」の真髄を会得してくれたと思っている。それに対して私は、「じゃあ、いくつかのブルー ボックスの中にはさらに小さなブルー ボックスを入れて、外から数えただけではわからないようにしなくちゃ」と返したけれどね(笑)。
私たちはジュエラー、彼女はシェフだが、双方の哲学には共通点が多い。彼女の素材選びは、まるでストーンハンター。卓越したクリエイティビティーとクラフトマンシップにより、色鮮やかで見るだけでも楽しい料理を次々と生み出している。特にデザートは光り輝き、まさにジュエリーだ。「ブルー ボックス カフェ」は、世界で5つ。銀座やニューヨークの五番街のように来店数が多いストアに構えているが、何より重視しているのは、「ブルー ボックス カフェ」を体現するような人物と組むことができるかだ。夏子はエッジーで、クリエイティブで、明るく、ちょっぴりクレイジー。まるで(映画「ティファニーで朝食を」で主演を務めた)オードリー・ヘップバーンのようだ。
銀座で提供するフードは、ニューヨークらしく、1950~60年代のムードを醸し出しているが、夏子らしくもある。日本人女性による、日本市場のための「ブルー ボックス カフェ」だ。これこそ、私たちが銀座の新旗艦店で発信し続けたい、「ティファニー」の歴史であり、「ティファニー」と日本の絆だ。