
4月にジュネーブで開かれたウオッチズ&ワンダーズ参加ブランドを含む、2026年春の時計の新作リポートは今回で最終回。今回はコンパニー・フィナンシエール・リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)以外の企業による最新時計を五つのトレンドに分類し、時計ジャーナリストの渋谷ヤスヒト=オフィス・ノマド代表が解説する。「エルメス(HERMES)」と「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」の時計責任者には、その中でスケルトンやクロノグラフに注力する理由も聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2026年5月18日号からの抜粋です)
スイスの時計産業、特に高級時計ブランドは今、大きな転機にある。
法外なトランプ関税や戦争などが世界経済を停滞させている。スイスの時計産業を代表するスイス時計協会(FH)が発表した2025年の卸売価格ベースの輸出統計では、スイスから世界への年間の腕時計総輸出額は前年比1.7%減の244億スイスフラン(約4兆8800億円)で、輸出本数は同4.8%(74万本)減の総数1460万本だった。このマイナスは2年連続で、スイスと世界の時計市場は成長から停滞期に入ったといえるだろう。マイナスの最大要因は、コロナ禍以前は市場を成長させる最大のエンジンだった香港・中国市場の需要低迷、つまり以前のように回復しないこと。最近では、香港・中国市場はこれがデフォルトの成熟市場で、これ以上過大な期待を抱くのは誤りだという認識も共有されつつある。また香港・中国の穴を埋めて成長してきた北米市場、底堅かった日本市場もマイナス方向に動いている。
個性や強みを生かした時計
今年は骨太で実直な新作そろう
ラグジュアリー・ブームが起きたこの10年あまり、スイスの大手時計ブランドは製品全体を高価格帯にシフトして大きな利益を上げてきた。だが世界的な景気後退とブームの終焉、1990年代から続いてきた右肩上がりの成長が望めないうえ、金の高騰やスイスフラン高で製品価格を上げざるを得ない厳しい状況だ。その中で時計ブランドは「今、なぜこのモデルを、なぜこの価格で発売するのか」を厳しく問われている。そこでいちばん有効で唯一の正解といえる対応策は、「自分たちのヘリテージ(伝統、遺産、継承物)とポリシー(理念、信念)の再確認」と「その個性や強みを生かした製品作り」だ。
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