「ギャップ(GAP)」を夫のドナルド・フィッシャー(Donald Fisher)と共に創業したドリス・F・フィッシャー(Doris F. Fisher)が5月2日、アメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコで死去した。94歳だった。ギャップ(GAP INC.)が5月4日に公表し、家族に見守られながら安らかに息を引き取ったことを明らかにした。
創業のきっかけは、ドリスの夫ドナルドが自分に合うジーンズを見つけられないことに不満を抱いたことだった。彼は不動産開発のキャリアを離れ、さまざまなフィットやスタイルの選択肢を買い物客に提供できる店には大きな可能性があると強く信じて、夫婦で小売業に参入した。1969年、6万3000ドル(約1001万円)を元手に、サンフランシスコのオーシャン通り1950番地に「ギャップ」1号店をオープン。当初は主に「リーバイス(LEVI’S)」のジーンズやレコード、カセットテープを販売し、カウンターカルチャーを支持する若者たちに訴求した。好評を博し、70年にはサンノゼに2号店を開いた。
フィッシャー夫妻は数十年にわたる起業家精神とリーダーシップを通して、シンプルさ、手の届きやすさ、社会的責任に焦点を当てながらアメリカのファッションを作り変えるという哲学を持ち続けた。83年には、起業家のメル&パトリシア・ジーグラー(Mel & Patricia Ziegler)夫妻が創業した「バナナ・リパブリック(BANANA REPUBLIC)」を買収。その後、ギャップは94年、ミッキー・ドレクスラー(Mickey Drexler)元最高経営責任者(CEO)の指揮の下で「オールドネイビー(OLD NAVY)」を設立した。同社は現在、「アスレタ(ATHLETA)」も運営している。
リチャード・ディクソン(Richard Dickson)社長兼CEOは社員に向けたメッセージの中で、「ファッション界の偉大なパワーカップルの一組として、ドリスとドン(ドナルド)はファッションの小売を革新する素晴らしい企業を作り上げた」とコメント。「彼らは、デニムやカーキ、白シャツ、サファリジャケットに至るまでに新鮮でエネルギッシュな視点をもたらし、アメリカを最も象徴するいくつものブランドを世界に紹介した。何よりも、彼らはギャップの未来に、成長させていくべき力強いレガシーを与えてくれた」と続けた。また、「ドリスは現状に決して満足することなく、何が可能かを絶えず想像し、それを実現してきた。実際、思っていることを言うことや有言実行、そしてそれを優しさ、率直さ、敬意をもって行うことなどギャップの文化における素晴らしい部分の多くは、ドリスからの影響に由来するものだ」とも述べた。
ドリスの功績と人柄
ドリスは1931年、サンフランシスコ生まれ。事業、文化、社会奉仕という価値観に深く根ざした家庭で育った。スタンフォード大学で経済学を学び、53年に卒業。在学中に鋭いビジネス感覚を培った。ギャップによると、同社における彼女の影響は「ギャップ」のマーチャンダイジングや店舗デザインに及んだ。また、同社の広告や商品開発における文化的なトーンの形成にも関わり、「企業の進化において控えめながらも揺るぎない存在感を保ち、顧客に真剣に焦点を当てるように後押しした」という。ドリスを知る人々は、彼女についてプライベートを重んじる人物であり、表舞台には立たないものの、会社において非常に大きな影響力を持っていたと語っている。また、あらゆる階層の社員に手書きのメモを送る習慣もあった。
彼女は2009年までギャップの取締役を務め、その後は名誉終身取締役となった。さらに現代美術のコレクターでもあり、恵まれない学生に機会を生み出すことを目的としたKIPP(Knowledge Is Power Program)の理事なども務めた。