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FUTURA × 藤原ヒロシ × KAWS 3人が語る「東京」と「カルチャーの共通認識がなくなる時代」

世界的アーティストのフューチュラ(FUTURA)が11月17日に70歳の誕生日を迎えた。それを記念し、「東京エディション虎ノ門」でトークイベント「FUTURA in Conversation with Hiroshi Fujiwara and KAWS」が11月18日に開催された。

トークイベントにはスペシャルゲストとして藤原ヒロシ、カウズ(KAWS)が参加。東京のカルチャーに精通する「ベドウィン&ザ ハートブレイカーズ(BEDWIN & THE HEARTBREAKERS)」の渡辺真史がモデレーターを務め、70歳のフューチュラ、61歳の藤原ヒロシ、50歳のカウズ(KAWS)という、世界のストリートシーンで影響力を持つ3世代のクリエイターが“東京”について語った。3人が考える東京の魅力とは? 特別な一夜の様子をお届けする。

フューチュラと東京

渡辺真史(以下、渡辺):まずは「なぜ東京に惹かれ続けるのか」をテーマに話を伺えればと思います。フューチュラさんが東京に最初に来た時の思い出や、東京の魅力について教えてください。

フューチュラ:今日ここにいる友人は、自分が70歳、ヒロシが61歳、ブライアン(カウズ)が50歳という、すごく興味深い年齢の並びですね。私が最初に日本に来たのは1975年で、これはブライアンが生まれた年になります。もう50年前、半世紀も前のこととは信じられません。

最初に日本に来るまでは「富士山」といった典型的なイメージを持っていましたが、第一印象は「この街はとてもモダンで、清潔で、素晴らしい」というものでした。季節はおそらく夏だったと思います。短期間の滞在で知り合いは誰もいませんでしたが、その気候や街の雰囲気を大いに楽しんだのを覚えています。

2回目に来日したのが1983年。映画「ワイルド・スタイル」のプロモーションツアーで来ました。それから50回まではいかないけれど、30回以上は日本を訪れていると思います。日本はとてもインスピレーションを与えてくれる場所で、今ではこんなにも素晴らしい友人たちができた。日本は私のお気に入りの場所で、毎回来るのが楽しみです。だから今回、私は日本で70歳を祝いたかったのです。

渡辺:次はヒロシさんとカウズさんにお聞きします。2人がフューチュラさんと初めて出会った時のことを教えてください。

藤原ヒロシ(以下、藤原):僕がフューチュラと初めて会ったのは、彼がさっき言った1983年の「ワイルド・スタイル」ツアーの時。彼は覚えていないと思うんですけど。たしか原宿にあったクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」で、僕がイベントのオープニングDJをしたんですよ。すごい人数が来ていて、その時は話もほとんどしていないですが、そのあと六本木のクラブに行ったのは覚えています。

渡辺:カウズさんはどうでしたか?

カウズ:いつフューチュラと出会ったのか思い出そうとしていたんだけど、なかなか思い出せなくて。多分、共通の友人であるグラフィティーアーティストのスタッシュ(STASH)を通じて1990年代前半に会ったんだと思います。

友達に日本人のグラフィティーアーティストがいて、彼に会いにスタッシュと東京に来たとき、「ヘクティク(HECTIC)」のYOPPI(江川芳文)とか、原宿のアーティスト、クリエイターに会ったのを覚えています。そのつながりで、東京だったか香港だったか、旅行中にフューチュラに会ったんじゃないかな。

今後のプロジェクト

渡辺:では、3人に今後の展開をお伺いしたいと思います。フューチュラさんからお願いします。

フューチュラ:いつも言っているように、私の最高の作品はこれから生まれると信じています。それが常にワクワクする理由です。来年もさまざまなプロジェクトの予定がありますが、時間を大切にしながらアートワークに集中し、スタジオで作品を作り続けたい。それを長い間続けて、いい作品を作り続けられればと思います。

渡辺:ヒロシさんはいかがでしょうか?

藤原:僕は大きなプロジェクトはなく、いつも通り小さな案件をこなし続けている感じですかね。強いていうなら、この前、韓国のインディペンデントレーベル「BANA(Beasts And Natives Alike)」と契約したので、来年はアルバム制作をしようと思っています。

渡辺:カウズさんは?

カウズ:正直なところ、今年の残りはスイッチを切って、1月まではホリデーを楽しむつもりです。それから来年のことを考えようと思っていて。来年はいくつか展覧会も決まっているので、ゆっくり考えながら進めていければと考えています。

デジタル時代のつながり

渡辺:フューチュラさんが1970年代から80年代、90年代、2000年代、そして現在まで東京を見てきて、どの時代の東京が印象に残っていますか?

フューチュラ:私は今を生き、常に未来のことを考えているので、過去を振り返ることはあまりしません。ですが、インターネットのようなテクノロジーが私たちの個人的な空間を支配する前、つまり人間同士の交流がもっとあった70年代、80年代にはロマンチックな感情を抱いています。今では携帯やSNSなどデジタルなものが支配していて、人と人のリアルなつながりが少なくなってきています。それでも私自身は、人と人とのつながりを保とうと努力しています。

渡辺:次はヒロシさんにお伺いします。ヒロシさんが、これからの東京に期待することってありますか。

藤原:先日ジェネレーションのギャップを感じることがあって。この前、大学生に向けて講義をする機会があって、生徒に映画「007」の話をしたくて、観たことある人って手を挙げてもらったら、1人もいなかったんですよ。誰も観ていないので、もうその話もできないような状態だったんです(笑)。若い人は昔のものには興味がなくなってきているのかなっていう感じがしたんですよね。

だから、僕らとはもう全く違うジェネレーションが、僕らでは理解できない違うことをやってる。それによってカッコいいものが生まれれば最高だと思います。

渡辺:僕自身もジェネレーションギャップをリアルに感じるようになってきましたね。

藤原:フューチュラと僕とカウズって世代は違いますが、なんとなく共通言語があって普通に話はできるんですよね。なんとなく同じものに興味をもっている気がします。30歳ぐらいの人まではある程度話せるけど、そこから下はそういう共通認識があまりないのかなって感じています。でもそれは決してネガティブなことじゃなくて、そういう若い人、20歳くらいの人たちが、もう僕らのことを忘れてというか、全く気にせず、違うところで違う面白いものをやっていくのはいいことだと思います。

渡辺:カウズさんは、多くの日本のアーティストと交流がありますが、日本人のアーティストに対して、どういうイメージを持っていますか?

カウズ:日本の若いアーティストにはいつも新しい刺激をもらっていますし、その人たちがこれから何をやっていくのか、どう変わっていくのかに興味があります。ヒロシさんが言ったように、僕らを知らない若い世代だけで新しいコミュニティーが形成され、そこから新しい歴史が生まれているはず。これは日本だけでなく世界中で起きていることで、そうあってほしいと思います。

東京がなぜ魅力的なのか?

渡辺:そろそろ時間がきたので。来場の皆さんから質問を受けたいと思うのですが。

質問者:フューチュラさん、ヒロシさん、カウズさん、ありがとうございました。簡単な質問ですが、なぜ東京が今でも魅力的なのでしょうか?

フューチュラ:日本の友人はニューヨーカーと比べて、とても勤勉で、ハードワーカー。その姿勢には刺激を受けています。新しい若者も出てくるし、絶えず新しいことを学んでいて、来るたびにいろいろな発見がある。混沌としているけれどちゃんとコントロールされていて、非常に平和な街。毎回日本に来ると刺激を受けて、エネルギーがチャージされる感覚になるんです。

渡辺:カウズさんはどうですか?

カウズ:言葉で表すのは難しいけど、東京には他の都市にはない独自の感性を感じます。街を歩いているだけでも、それを感じる。今回の滞在では、驚くほどツーリストもいたけど、やっぱり東京はいつも変わらず刺激的な街。伝統を保ちつつ、一方で変化もしていく。とても構造化された文化だから、日本に来る人には魅力的なんだと思います。

渡辺:ヒロシさんは2人と違って、日本に住んでいますが、東京の魅力については?

藤原:多い時で月2、3回海外に行ってますが、そのたびに日本を出たらすぐホームシックになるんですよ。絶対にすぐ東京に帰りたくなるので、そこには何か魅力があるんじゃないかなと思います。やっぱり海外の街を歩いていても比べてしまったり、「これ東京だったらこうなのにな」とか考えたり。そういう東京の良さっていうのは海外に行くほど気がつきますね。で、何よりやっぱり仕事がやりやすいというか、時間を有効に使える。時間の流れがいいんじゃないですかね。

渡辺:ヒロシさんは東京以外に住むっていう選択肢は今までなかったんですか。

藤原:ないですね。2、3カ月海外に住んだことはあるんですけど、住居をちゃんと移してっていうのはないですね。

渡辺:ありがとうございました。他にもし質問があればこの際聞いていただけたら。あっ!VERBALさん。

VERBAL:VERBALです。質問ですが、皆さんが若かった時代と比べて、今の若い世代はより多くのチャンスはあると思いますか?

フューチュラ:インターネットやSNSなどの普及に伴って、人とつながる手段が増え、イメージやアイデアをやりとりできる機会は増えたと思う。自分の頃は実際に移動してリアルに会うことでしかつながれなかった。例えば、1990年代から日本にたびたび来ていたからこそ、ヒロシさんやスケシン(SK8THNG)さんと友だちになれた。リアルに会って、自分たちのアイデアを交換した時もあり、それはそれですごく素晴らしい体験でした。

でも、今の若い人たちはその時よりもさらにいろんな手段を使って人とつながることができるので、もっともっとチャンスが訪れるのでは、と感じています。ダイレクトメッセージ一つで誰かと連絡を取り、何らかの機会につながる可能性はあります。たとえ物理的に離れていても、みんながずっと近くなったと思いますね。

渡辺:そろそろお時間です。改めてフューチュラさん70歳の誕生日おめでとうございます。

フューチュラ:どうもありがとうございます。私は100歳まで生きるつもりです(笑)。若い皆さん、ぜひ励みにしてください。年を重ねても精神的な鋭敏さを保つことは可能です。全ては心の持ちようだと思います。

20年ほど前、九州の福岡から東京に戻ってくる時に、おそらく熱中症だったと思うんですけど、倒れてしまって。仲間たちに「頭を打ったから病院に行くべきだ」と言われて、病院に行ったんです。そこでMRIだったかCTスキャンだったかで、脳を調べたんです。特に脳には異常はなくて、そのお医者さんに、「あなたの脳はとても若い」と言われて、その言葉に何年も支えられてきました。「自分は若々しい脳を持っているから大丈夫だ」って。

最後に皆さんに伝えたいのは、子供のころに見た素晴らしい映画のことです。「戦場にかける橋」というんですけど。その映画の中で、「仕事に幸せを見出しなさい」といった趣旨のセリフがありました。私も同じように感じています。私は自分の仕事を楽しんでいるし、心を込めて取り組んでいます。だから、これからも仕事を続けていけたらと思います。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

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